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第1章 牛肉勝負
4 第一の料理勝負 食材 牛肉 その⑥ ライバルたちは何作る?
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(牛肉で作るハンバーグっすか。いいっすね~。こっち来て、食べてないっすよ)
有希が見ている中、カリーナが作っているのはハンバーグと思しき料理だった。
肉の旨味が強いネックやミスジを、食感が悪くなる筋を丁寧に取った上で、魔術で造り出した包丁で叩いている。
一回振っただけで細かくバラバラになっているので、それがあの魔術包丁の効果の1つなのだろうが、それを何度も繰り返してミンチ状にしていた。
その間に、助手であるレティシアは細切りにしたバラ肉を、火の加減に気を付けながら炒め、脂と肉汁をしっかりと出させていた。
十分に出た所でバラ肉を取り出し、残っているのは旨味たっぷりの脂と肉汁。
そこに味わいが玉ねぎに似たシャロスをすりおろした物を入れ、火を通していく。
段々と亜麻色になりながら、出汁として取り出した脂と肉汁と混ざり合い、その味わいを閉じ込めていく。
(うあ~、あれだけでも食べたいっすね~)
有希が食欲をそそられる中、火を通し終ったのかフライパンをかまどから離すと、カリーナに声を掛ける。
「リナ、終わったよ」
「ありがと、レティ。ちょっと待ってね」
カリーナは肉を叩くのをいったん止めると、フライパンを持ったレティの元に。そして魔術を使った。
「精霊よ、在れ。いまこの時、喚ぶは奪うモノ。我が意のままに、舞い踊れ」
詠唱を終らせると同時に、フライパンから立ち昇っていた湯気が消え去る。
炒めたばかりのシャロスは、熱を奪われ消えて固まっていた。
(消熱魔術っすか。話には聞いてたっすけど、実際使う所を見るのは初めてっすね~)
元々、温度を下げる魔術を使える者自体が少ない。
その中でも、熱を他の場所に移動させるのではなく、消し去ってしまう消熱魔術の使い手は希少だ。
魔術は、持って生まれた才能に左右される所が大きく、遺伝的に受け継ぐ率も大きい。
稀に、魔術師とは何の縁も無い家系に、そういった才能を持った者が現れることはあるが、大抵は血筋的に受け継いで生まれて来るものだ。
あの若さで、魔術で包丁を造り出したり出来る所を見れば、恐らくは魔術師の家系に連なる生まれなのだろう。
魔術師が、魔術師以外の在り様を選ぶ事自体が珍しいので、カリーナにも何かあったのだろうが、そんなことは料理の美味さとは何の関係もないので、有希の意識からはスコンっと抜け落ちる。
それよりも気になるのは、ハンバーグの美味さだ。
(ハンバーグに使う肉自体は、赤みで脂が少ないから、バラ肉から取った油で旨味をアップってところっすね~。中に入れる繋ぎは他には使わないみたいっすし、肉々しいハンバーグになりそうっす。うぅ、食べてみたいっすね~)
気のせいか、見ているだけで胃が動いている気がする。
それぐらい、カリーナが作っているハンバーグは美味しそうだった。
(好いっすね~。単純にステーキばっかかと思ったっすけど、他にも色々と作る人いるんすね)
そう思ってよくよく見れば、ステーキ以外にカツレツにしたりしている料理人もいる。
その分、手間が掛かるので出来上がりに時間が掛かりそうだが、そういったものの方が旨そうだった。
そうした手間のかかる料理を後目に、手早くステーキを作り終えた料理人は、我先に審査に持って行こうと、ワゴンに乗せて部屋を出る。
(慌て過ぎっすねぇ。早さ勝負じゃなくて、味勝負の筈なんっすけどね)
ガストロフは確かに、急いだ方が良いかもとは言ったが、それが採点に反映されるとは一言も言っていない。
有希が伝え聞いているガストロフの性格からして、速さを尊びはするが、それで質が下がる理由にはしないタイプだ。
(まぁ、ご愁傷様っすね)
なんて事を思いながら、有希は他の料理人に視線を向ける。
幾つか見て回り、アルベルトの所で目が留まる。
(なんの魔術使ってるんすかね? アレ)
見たことも無い魔術を使っているアルベルトに、有希は興味が湧く。魔術の効果もだが、詠唱内容が特にアレだった。
「肉肉肉肉、おいしくな~れ。旨味を増し増し手を借りて。うま~い肉になりたまえ~」
(どういう詠唱なんっすか、アレ……)
あまりにも胡散臭い詠唱に、胡乱な目で見つめる有希。
(詠唱内容は、使い手ごとにまちまちっすから、あれで魔術が発動するならそれでも良いんだろうっすけど……)
実際のところ、詠唱の内容自体には決まった定型が存在しない。
使い手が使用する魔術の効果を認識する強化に、言葉による意識の誘導を行っているのに過ぎない。
なので、それこそどんな内容でも構わないのだが、普通は認識がズレるのでもうちょっと普通の詠唱内容になったりする。
(中には吠えたり叫んだりする事で詠唱にしてる人も居るらしいっすから、まだ普通なんかもしれないっすけど……まぁ、それよりも大事なのは魔術の効果っすかね)
気を取り直すようにして、有希はアルベルトの使っている魔術を意識する。
魔術の使い手なら、使っている所を見ているだけで、おおよその効果が感覚として分かるのだ。
だから、魔術師として見ていた有希は、その効果をおぼろげながら実感する。
(なんか、回復魔術に近いような……でも、牛肉とか生きてないっすからねぇ……ひょっとすると、生理的反応の促進じゃなくて、生理的物質の促進をしてるってことっすかね?)
通常の回復魔術は、生物の機能を一時的に促進する事で、回復力を促進して癒している。
それに対して今アルベルトが使っている魔術は、生物が作り出した物質の効果を促進しているように見えた。
(もしかすると、酵素とか、そういった物の反応を強化してるんすかね? なんかに漬け込んでたみたいっすし、それの効果を促進してるってことっすかね?)
有希の目利き通り、いまアルベルトが行っているのは、肉を柔らかくし旨味を上げる効果の促進だ。
本来なら時間のかかるそれを、魔術を使うことで短縮している。
実際、効果は有った。
(うわっ、表面とろけてるっすよ)
アルベルトが漬け込んだ肉を取り出したのを見れば、表面が確かに溶けている。
(あれ、美味いんかもしれないっすけど、見た目が悪いっすねぇ……)
などと有希が見ている前で、アルベルトは表面の溶けた所だけ綺麗に薄く切り取る。
そして、あらかじめ作っておいた、甘味の強い赤ワインをベースに作っておいた調味液に、軽く漬け込んだ。
(なるほど。表面の見た目の悪い所は、切り取るんすね。そういや、分厚かったし、それをあらかじめ計算してたってことっすか……ん? 切り落とした所は、捨てないんすね)
見れば、アルベルトは切り取った表面を捨てることなく、小さく切り分けると、フライパンで焼いていく。
半ばとろけていたので、火を通すとすぐに崩れ、旨味の汁を出して行く。
ある程度火を通した所で、表面を切った肉を漬けこんでいる調味料を追加で加える。
火の加減を見ながら焦げないよう、ふつふつと煮込んでいき、どこか甘い、そして牛肉の旨味を予感させる美味しそうな匂いが広がっていく。
(あれって、ソースなんっすかね? 匂いからすると、すっげえ旨そうなんっすけど。カリーナちゃんのハンバーグも美味そうだったすけど、こっちも美味そうっす。これは、うかうかしてると負けちゃうっすよ)
予想していたよりも美味しそうな料理に、有希が五郎の心配をする。
けれど五郎は、そんな心配なんて微塵も感じずに、楽しく料理を作っていた。
有希が見ている中、カリーナが作っているのはハンバーグと思しき料理だった。
肉の旨味が強いネックやミスジを、食感が悪くなる筋を丁寧に取った上で、魔術で造り出した包丁で叩いている。
一回振っただけで細かくバラバラになっているので、それがあの魔術包丁の効果の1つなのだろうが、それを何度も繰り返してミンチ状にしていた。
その間に、助手であるレティシアは細切りにしたバラ肉を、火の加減に気を付けながら炒め、脂と肉汁をしっかりと出させていた。
十分に出た所でバラ肉を取り出し、残っているのは旨味たっぷりの脂と肉汁。
そこに味わいが玉ねぎに似たシャロスをすりおろした物を入れ、火を通していく。
段々と亜麻色になりながら、出汁として取り出した脂と肉汁と混ざり合い、その味わいを閉じ込めていく。
(うあ~、あれだけでも食べたいっすね~)
有希が食欲をそそられる中、火を通し終ったのかフライパンをかまどから離すと、カリーナに声を掛ける。
「リナ、終わったよ」
「ありがと、レティ。ちょっと待ってね」
カリーナは肉を叩くのをいったん止めると、フライパンを持ったレティの元に。そして魔術を使った。
「精霊よ、在れ。いまこの時、喚ぶは奪うモノ。我が意のままに、舞い踊れ」
詠唱を終らせると同時に、フライパンから立ち昇っていた湯気が消え去る。
炒めたばかりのシャロスは、熱を奪われ消えて固まっていた。
(消熱魔術っすか。話には聞いてたっすけど、実際使う所を見るのは初めてっすね~)
元々、温度を下げる魔術を使える者自体が少ない。
その中でも、熱を他の場所に移動させるのではなく、消し去ってしまう消熱魔術の使い手は希少だ。
魔術は、持って生まれた才能に左右される所が大きく、遺伝的に受け継ぐ率も大きい。
稀に、魔術師とは何の縁も無い家系に、そういった才能を持った者が現れることはあるが、大抵は血筋的に受け継いで生まれて来るものだ。
あの若さで、魔術で包丁を造り出したり出来る所を見れば、恐らくは魔術師の家系に連なる生まれなのだろう。
魔術師が、魔術師以外の在り様を選ぶ事自体が珍しいので、カリーナにも何かあったのだろうが、そんなことは料理の美味さとは何の関係もないので、有希の意識からはスコンっと抜け落ちる。
それよりも気になるのは、ハンバーグの美味さだ。
(ハンバーグに使う肉自体は、赤みで脂が少ないから、バラ肉から取った油で旨味をアップってところっすね~。中に入れる繋ぎは他には使わないみたいっすし、肉々しいハンバーグになりそうっす。うぅ、食べてみたいっすね~)
気のせいか、見ているだけで胃が動いている気がする。
それぐらい、カリーナが作っているハンバーグは美味しそうだった。
(好いっすね~。単純にステーキばっかかと思ったっすけど、他にも色々と作る人いるんすね)
そう思ってよくよく見れば、ステーキ以外にカツレツにしたりしている料理人もいる。
その分、手間が掛かるので出来上がりに時間が掛かりそうだが、そういったものの方が旨そうだった。
そうした手間のかかる料理を後目に、手早くステーキを作り終えた料理人は、我先に審査に持って行こうと、ワゴンに乗せて部屋を出る。
(慌て過ぎっすねぇ。早さ勝負じゃなくて、味勝負の筈なんっすけどね)
ガストロフは確かに、急いだ方が良いかもとは言ったが、それが採点に反映されるとは一言も言っていない。
有希が伝え聞いているガストロフの性格からして、速さを尊びはするが、それで質が下がる理由にはしないタイプだ。
(まぁ、ご愁傷様っすね)
なんて事を思いながら、有希は他の料理人に視線を向ける。
幾つか見て回り、アルベルトの所で目が留まる。
(なんの魔術使ってるんすかね? アレ)
見たことも無い魔術を使っているアルベルトに、有希は興味が湧く。魔術の効果もだが、詠唱内容が特にアレだった。
「肉肉肉肉、おいしくな~れ。旨味を増し増し手を借りて。うま~い肉になりたまえ~」
(どういう詠唱なんっすか、アレ……)
あまりにも胡散臭い詠唱に、胡乱な目で見つめる有希。
(詠唱内容は、使い手ごとにまちまちっすから、あれで魔術が発動するならそれでも良いんだろうっすけど……)
実際のところ、詠唱の内容自体には決まった定型が存在しない。
使い手が使用する魔術の効果を認識する強化に、言葉による意識の誘導を行っているのに過ぎない。
なので、それこそどんな内容でも構わないのだが、普通は認識がズレるのでもうちょっと普通の詠唱内容になったりする。
(中には吠えたり叫んだりする事で詠唱にしてる人も居るらしいっすから、まだ普通なんかもしれないっすけど……まぁ、それよりも大事なのは魔術の効果っすかね)
気を取り直すようにして、有希はアルベルトの使っている魔術を意識する。
魔術の使い手なら、使っている所を見ているだけで、おおよその効果が感覚として分かるのだ。
だから、魔術師として見ていた有希は、その効果をおぼろげながら実感する。
(なんか、回復魔術に近いような……でも、牛肉とか生きてないっすからねぇ……ひょっとすると、生理的反応の促進じゃなくて、生理的物質の促進をしてるってことっすかね?)
通常の回復魔術は、生物の機能を一時的に促進する事で、回復力を促進して癒している。
それに対して今アルベルトが使っている魔術は、生物が作り出した物質の効果を促進しているように見えた。
(もしかすると、酵素とか、そういった物の反応を強化してるんすかね? なんかに漬け込んでたみたいっすし、それの効果を促進してるってことっすかね?)
有希の目利き通り、いまアルベルトが行っているのは、肉を柔らかくし旨味を上げる効果の促進だ。
本来なら時間のかかるそれを、魔術を使うことで短縮している。
実際、効果は有った。
(うわっ、表面とろけてるっすよ)
アルベルトが漬け込んだ肉を取り出したのを見れば、表面が確かに溶けている。
(あれ、美味いんかもしれないっすけど、見た目が悪いっすねぇ……)
などと有希が見ている前で、アルベルトは表面の溶けた所だけ綺麗に薄く切り取る。
そして、あらかじめ作っておいた、甘味の強い赤ワインをベースに作っておいた調味液に、軽く漬け込んだ。
(なるほど。表面の見た目の悪い所は、切り取るんすね。そういや、分厚かったし、それをあらかじめ計算してたってことっすか……ん? 切り落とした所は、捨てないんすね)
見れば、アルベルトは切り取った表面を捨てることなく、小さく切り分けると、フライパンで焼いていく。
半ばとろけていたので、火を通すとすぐに崩れ、旨味の汁を出して行く。
ある程度火を通した所で、表面を切った肉を漬けこんでいる調味料を追加で加える。
火の加減を見ながら焦げないよう、ふつふつと煮込んでいき、どこか甘い、そして牛肉の旨味を予感させる美味しそうな匂いが広がっていく。
(あれって、ソースなんっすかね? 匂いからすると、すっげえ旨そうなんっすけど。カリーナちゃんのハンバーグも美味そうだったすけど、こっちも美味そうっす。これは、うかうかしてると負けちゃうっすよ)
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