異世界にて料理勝負をする事になりました

笹村

文字の大きさ
10 / 28
第1章 牛肉勝負

4 第一の料理勝負 食材 牛肉 その⑦ カルパッチョ風しゃぶしゃぶ

しおりを挟む
「そろそろ良いかな」

 大鍋で出汁を取っていた五郎は、かまどから外しテーブルに持って行く。
 ふんわりと、海藻と野菜で取った、ほんのりと甘い匂いが立ち昇って来る。

「よし。好い感じに出来たみたいだな」

 味見をするまでもなく、香りで五郎は判断するが、念のためスプーンで1掬い味を見る。
 さらりとした野菜のすっきりとした甘味と、海藻から取ったほんのりと塩気のある旨味がほど良く味わえた。
 これだけでも、少し具材を足せば、立派なお吸い物になりそうな味わいだ。

 けれど今回の料理は牛肉料理。主役を際立たせるために、更に手間をかけていく。

 鍋から野菜を全て取り出す。あとに残るのは、透明感のある出汁。
 それを一先ず置いておき、今度は小さな鍋を使う。

 焼酎をとぷとぷ入れて、かまどの火にかける。揺らめきながら温まっていくのを慎重に見守っていった。
 アルコールを飛ばすために温めてはいるが、火が強すぎて香りまで飛んでしまっては勿体ない。

 ギリギリの火加減を見極め、ちょうど良い所で火から離し、出汁の入った大鍋の元に。
 大鍋から出汁をお玉で取ると、アルコールを飛ばした焼酎の入った小鍋に注いでいく。
 混ざり合い、更に美味しそうな香りがふんわりと漂う。

「それだけでも美味しそうな匂いっすね~」

 香りに誘われたのか、いつの間にかやって来ていた有希が声を掛けてくる。

「それにしても、なんの料理を作るんすか? 牛肉メインで、鍋料理じゃないんすよねぇ。それで、こういう出汁を取るってことは……」

 少し考えて、有希は閃いた。

「分かった。しゃぶしゃぶっすね!」
「半分当たり、だな」
「どういうことっすか?」
「最初は、しゃぶしゃぶにしようかと思ったんだけど、目の前で温める物が無いだろ?」
「カセットコンロみたいなの、用意してないっすからねぇ」
「それに、こっちだと箸使わねぇし。しゃぶしゃぶ用の肉をそのまま出したんじゃ、食べ辛いと思ってな」
「そうっすよねぇ。だいたい手掴みかスプーン。お金がある所だと、ナイフとフォークを使ってるっすからねぇ」
「だから、食べ易いサイズにしようと思ってな。そういうこと考えてたら、ちょっと手を加えようと思ってな」
「手を加えるって、どんなのっすか?」

 楽しげに聞いてくる有希に、五郎は笑顔を浮かべ返す。

「手を加えるっていうか、他の料理のやり方ブチ込む感じだけどな。その辺は、出来上がってのお楽しみって事で。それで、悪ぃんだけどな、追加で氷を用意してくれるか?」
「オッケーっすよ」

 気軽に返し、木箱から氷を取出しボウルに入れていく有希。
 五郎は礼を返すと、調理に戻る。

 出汁が残る大鍋から、小さな鍋に出汁を移す。なみなみと入れ、そこで魔術を使った。

「水の精霊よ。我が声に応えよ。コップ2杯ほど、鍋から移れ」

 詠唱が終わると同時に、ふるりと出汁の水面が震える。
 すると、透明まっさらな水だけが出汁から別れ、手の平サイズの人型になり、鍋の外に跳び出した。
 それを五郎は手に取ると、流しに置いた。その途端、ばしゃりとただの水に戻り排水溝に流れていく。

 いま五郎が使った魔術は、物質操作の魔術だ。
 元々は、水質改善を目的に作られた魔術だが、これは液体の中に混ざった水だけを取り出す効果がある。
 それを利用して、出汁の水分を減らし、味を濃くしたのだ。

 そうして味を濃くした出汁の入った小さな鍋を、今度は氷を使って冷やしていく。
 氷の入ったボウルに鍋を乗せ、木べらで出汁を掻き回し冷やす。
 しっかり冷やした所で、調理前の最後の下準備、肉を切っていく。

 薄く、それでいて均等に。魔術で造り出した包丁だからこその切れ味で、最適の厚さで切り分けた。
 それを皿に乗せ、用意は万端。

 まずはアルコールを飛ばした焼酎割りの出汁が入った小さな鍋を、再び火に掛ける。
 沸騰しきるほどには温め過ぎず、ほど良い所で火から離す。 
 そこで、肉を投入。硬くなり過ぎないよう、肉の旨味が熱で逃げないよう、細心の注意を払い、火を通す。

 すっと色が変わり、それでいて、肉の赤みがほんのりと残る。
 肉が硬くなるギリギリを見極め取り出すと、すぐに冷やした出汁の入った鍋に入れる。
 単なる氷水では味が薄まる所を、出汁に付けることで防いでいた。

 それを繰り返す。火を通す鍋の温度が下がり過ぎたら、即座に温め直し、適度な温度で牛肉を次々しゃぶしゃぶにしていく。
 そうして、全ての肉をしゃぶしゃぶにし終ると、今度は漬け込んでいた出汁から取り出し、ナイフとフォークで食べやすいよう、一口サイズに切り分ける。

 切り分けた物を、白の皿に綺麗に盛り付けていく。
 皿の端を縁取るように、クセの無い葉物野菜を、箸休めと見た目の華やかさも兼ねて盛り付ける。

 そこから味付けは2つ。
 1つは、シンプルに肉の味を楽しめるよう、厳選した岩塩を振り付ける。
 もう1つは、さっぱり風味。しょうゆをベースに、カラムと呼ばれる柑橘類を絞った物を混ぜ合わせた、ポン酢風味の調味料で味付けする。

 その気になれば、木の実をペースト状にした物に、出汁と植物油で作ったドレッシング調の物も作れたが、あえて止める。
 食べてくれる相手の好みが分からない以上、折角だから牛肉本来の旨味をより強く味わえるような、そんな味付けを五郎は選んだのだ。

「カルパッチョ風しゃぶしゃぶの出来上がりだ!」

 人数分を作り終わり、五郎は満足げに笑顔を浮かべる。

「カルパッチョ風っすか? 確かカルパッチョって、生肉料理っすよね」
「ああ。生で出す料理も考えたんだけどな、ちょっと食中毒とか怖いんで、火を通す料理にしてみた」
「確かに、それはあるっすね。ん~、それにしても、美味しそうっす。食べてみたくなるっすね」
「そう言って貰えるのは嬉しいな。あとで、みんなを集めての食事会で作ってやるよ」
「好いっすね! 楽しみっすよ。それじゃま、味見はその時までのお楽しみって事で。早速勝負しに、持って行くっすよ」

 そう言って、有希が出来上がった料理をワゴンに乗せていくと、

「おおっ、これは奇遇。そちらもこれから持って行くのですな。我輩もそうなので、一緒にどうですかな?」

 焼き立てのステーキをワゴンに乗せたアルフレッドに声を掛けられ、

「あの、私も一緒で良いですか?」

 同じように、出来立てのハンバーグをワゴンに乗せたカリーナにも声を掛けられる。
 それに五郎は笑顔で返す。

「おう。折角だから一緒に行こうぜ。向こうがダメって言わなきゃ、審査員がお互いの料理を食べて、どんな反応するのか見たいしな。出来れば、その後レシピとかの交換会もしたいしな」
「ほほう。好いですな。賛成ですぞ」
「はいっ。その、私も賛成です!」

 勝負のライバルだけど、どこか和やかな雰囲気の中、3人の料理人は一緒になって、厨房を出ることにしたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】平凡な魔法使いですが、国一番の騎士に溺愛されています

空月
ファンタジー
この世界には『善い魔法使い』と『悪い魔法使い』がいる。 『悪い魔法使い』の根絶を掲げるシュターメイア王国の魔法使いフィオラ・クローチェは、ある日魔法の暴発で幼少時の姿になってしまう。こんな姿では仕事もできない――というわけで有給休暇を得たフィオラだったが、一番の友人を自称するルカ=セト騎士団長に、何故かなにくれとなく世話をされることに。 「……おまえがこんなに子ども好きだとは思わなかった」 「いや、俺は子どもが好きなんじゃないよ。君が好きだから、子どもの君もかわいく思うし好きなだけだ」 そんなことを大真面目に言う国一番の騎士に溺愛される、平々凡々な魔法使いのフィオラが、元の姿に戻るまでと、それから。 ◆三部完結しました。お付き合いありがとうございました。(2024/4/4)

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
ファンタジー
 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  二月から週二回更新になります。お気に入り・感想、宜しくお願いします。

 社畜のおじさん過労で死に、異世界でダンジョンマスターと なり自由に行動し、それを脅かす人間には容赦しません。

本条蒼依
ファンタジー
 山本優(やまもとまさる)45歳はブラック企業に勤め、 残業、休日出勤は当たり前で、連続出勤30日目にして 遂に過労死をしてしまい、女神に異世界転移をはたす。  そして、あまりな強大な力を得て、貴族達にその身柄を 拘束させられ、地球のように束縛をされそうになり、 町から逃げ出すところから始まる。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

企業再生のプロ、倒産寸前の貧乏伯爵に転生する 

namisan
ファンタジー
数々の倒産寸前の企業を立て直してきた敏腕コンサルタントの男は、過労の末に命を落とし、異世界で目を覚ます。  転生先は、帝国北部の辺境にあるアインハルト伯爵家の若き当主、アレク。  しかし、そこは「帝国の重荷」と蔑まれる、借金まみれで領民が飢える極貧領地だった。  凍える屋敷、迫りくる借金取り、絶望する家臣たち。  詰みかけた状況の中で、アレクは独自のユニーク魔法【構造解析(アナライズ)】に目覚める。  それは、物体の構造のみならず、組織の欠陥や魔法術式の不備さえも見抜き、再構築(クラフト)するチート能力だった。  「問題ない。この程度の赤字、前世の案件に比べれば可愛いものだ」  前世の経営知識と規格外の魔法で、アレクは領地の大改革に乗り出す。  痩せた土地を改良し、特産品を生み出し、隣国の経済さえも掌握していくアレク。  そんな彼の手腕に惹かれ、集まってくるのは一癖も二癖もある高貴な美女たち。 これは、底辺から這い上がった若き伯爵が、最強の布陣で自領を帝国一の都市へと発展させ、栄華を極める物語。

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

処理中です...