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第1章 牛肉勝負
5 料理を持って行こう
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「なんだい? アンタら3人、一緒なのかい?」
厨房の外に出て、そこに居たのは、屋敷を訪れた時に案内してくれた老婆だった。
「あ、お姐さん。また案内してくれるんっすか?」
気軽な声で呼びかける有希に、老婆は肩をすくめるようにして返す。
「ま、そういうことさ。連いてきな」
一言いうと、振り返ることなくさっさと進む老婆に、皆は後を連いて行く。
「それにしてもアンタら、作るの遅かったねぇ」
歩きながら、老婆は楽しそうに言う。
「他のヤツラは、とっくの昔に作って持って来たってのにさ。もう食べ飽きてると思うよ。審査する連中もさ」
「時間と手間かけた方が、美味いもんが出来るからな」
気楽な声で返したのは五郎。
「待たせちまったのは悪いと思うさ。でもな、それで美味くないもんが出来ちまったら、食材が勿体ないからな。それで不利になるならしょうがないし、向こうに文句があるなら謝るよ」
「まったくですな」
同意するようにアルベルトも続ける。
「速く作れと言われたなら、味を犠牲にしてでも作りますが、今回はそう言われませんでしたからな。でしたら、こちらの流儀で作らせて頂く待てですな」
「……私も、そう思います」
少しだけ弱気を滲ませながら、カリーナも同意した。
「美味しい物を、食べて貰いたいですから。甘いと言われたら、そうかもしれませんけれど……」
なにか経験でもあるのか、実感のこもった声で言った。
そんなカリーナの言葉にはあえて触れず、老婆は3人全員に向かって言った。
「死んだ亭主みたいなこと言うね、アンタら」
「旦那さんも、料理人だったのかい?」
皮肉げな笑みを浮かべ、老婆は五郎の問い掛けに返す。
「はっ、融通の利かない亭主だったよ。美味い物を皆に食べて貰うんだって、意気込むのは好いさ。でもね、それで手間やら何やら掛け過ぎて、ろくに稼げないでねぇ。いっつも貧乏だったよ」
「好きだったんだな。旦那さんのこと」
「……なに言ってんだい」
「声がさっきまでより、やさしかったぜ。昔を、懐かしんでるみたいな声だった」
「……バカ言ってんじゃないよ」
少しだけ言葉を詰まらせるような間を空けた老婆に、
「ツンデレおばあちゃんっすね」
有希がツッコミを入れた。
「つん、なんだい?」
「かわいいおばあちゃんってことっすよ」
「なに言ってんだい坊主が! こっぱずかしいこと言ってんじゃないよ!」
「確かに、かわいらしいですな」
「……うん。そう思います」
「アンタらまでなに言ってんだい!」
微妙に顔を赤らめながら言い返す老婆。そのままズンズンと先に進み、ある扉の前で止まる。
「この先に、アンタらの料理を待ってるのが居るよ。冷めちまう前に、とっとと持ってきな」
そう言って、通るのに邪魔にならないよう横に避けた老婆に、五郎は言った。
「ありがとな。それでさ、部屋に入る前に訊いときたい事があるんだけど」
「なんだい? 手短に言いな」
「住んでる場所、教えてくれねぇか? 美味い物、食べさせるって約束したからな」
これに、アルベルトとカリーナも加わる。
「先を越されましたな。我輩にも、教えて頂きたい」
「私にも、お願いします」
これに老婆は肩をすくめると、
「ここに住んでるよ。そんなに何か食べさせたいってんのなら、今から食べさせて貰うとするかね」
そう言って、ドアを開け部屋の中に。
五郎たちが連いて中に入ると、そこはかなり大きな部屋だった。
入って右側には、先に料理を持って来ていた料理人たちが。
沈んだ様子で、持って来ていた料理を前に佇んでいる。
ワゴンに並べられた料理は、ほとんどがひと口。多くてもふた口かそこらしか食べられていなかった。
「おおっ、最後は御3人一緒に来られましたか。これは、食べ比べが捗りそうです」
部屋に入るなり、大仰な様子でガストロフが3人を迎え入れる。
見れば、ガストロフも含めて、部屋の左側には4人分のテーブルと椅子が。
ガストロフの左隣には、30代後半のがっしりとした体つきの男性が。
その更に左隣には、20歳そこそこの、小麦色の肌をした美女が一人。
「ご紹介がまだでしたな。私の左に居られるのが、アルテアで手広く問屋をなされているグエンさんです。その更に左に居られるのが、ジェイドで海運業を成されているクリスさん。私とこの御2人、そして――」
ガストロフは、右隣の誰も座っていない席に身体を向け続けて言った。
「――私の母であるギネヴァが、これから食べ比べ、審査をさせて頂きます」
「そういうこった。美味い物、食べさせるって言ったんだ。期待しているよ」
楽しそうな声で言いながら、3人をここまで案内した老婆、ギネヴァは言った。
厨房の外に出て、そこに居たのは、屋敷を訪れた時に案内してくれた老婆だった。
「あ、お姐さん。また案内してくれるんっすか?」
気軽な声で呼びかける有希に、老婆は肩をすくめるようにして返す。
「ま、そういうことさ。連いてきな」
一言いうと、振り返ることなくさっさと進む老婆に、皆は後を連いて行く。
「それにしてもアンタら、作るの遅かったねぇ」
歩きながら、老婆は楽しそうに言う。
「他のヤツラは、とっくの昔に作って持って来たってのにさ。もう食べ飽きてると思うよ。審査する連中もさ」
「時間と手間かけた方が、美味いもんが出来るからな」
気楽な声で返したのは五郎。
「待たせちまったのは悪いと思うさ。でもな、それで美味くないもんが出来ちまったら、食材が勿体ないからな。それで不利になるならしょうがないし、向こうに文句があるなら謝るよ」
「まったくですな」
同意するようにアルベルトも続ける。
「速く作れと言われたなら、味を犠牲にしてでも作りますが、今回はそう言われませんでしたからな。でしたら、こちらの流儀で作らせて頂く待てですな」
「……私も、そう思います」
少しだけ弱気を滲ませながら、カリーナも同意した。
「美味しい物を、食べて貰いたいですから。甘いと言われたら、そうかもしれませんけれど……」
なにか経験でもあるのか、実感のこもった声で言った。
そんなカリーナの言葉にはあえて触れず、老婆は3人全員に向かって言った。
「死んだ亭主みたいなこと言うね、アンタら」
「旦那さんも、料理人だったのかい?」
皮肉げな笑みを浮かべ、老婆は五郎の問い掛けに返す。
「はっ、融通の利かない亭主だったよ。美味い物を皆に食べて貰うんだって、意気込むのは好いさ。でもね、それで手間やら何やら掛け過ぎて、ろくに稼げないでねぇ。いっつも貧乏だったよ」
「好きだったんだな。旦那さんのこと」
「……なに言ってんだい」
「声がさっきまでより、やさしかったぜ。昔を、懐かしんでるみたいな声だった」
「……バカ言ってんじゃないよ」
少しだけ言葉を詰まらせるような間を空けた老婆に、
「ツンデレおばあちゃんっすね」
有希がツッコミを入れた。
「つん、なんだい?」
「かわいいおばあちゃんってことっすよ」
「なに言ってんだい坊主が! こっぱずかしいこと言ってんじゃないよ!」
「確かに、かわいらしいですな」
「……うん。そう思います」
「アンタらまでなに言ってんだい!」
微妙に顔を赤らめながら言い返す老婆。そのままズンズンと先に進み、ある扉の前で止まる。
「この先に、アンタらの料理を待ってるのが居るよ。冷めちまう前に、とっとと持ってきな」
そう言って、通るのに邪魔にならないよう横に避けた老婆に、五郎は言った。
「ありがとな。それでさ、部屋に入る前に訊いときたい事があるんだけど」
「なんだい? 手短に言いな」
「住んでる場所、教えてくれねぇか? 美味い物、食べさせるって約束したからな」
これに、アルベルトとカリーナも加わる。
「先を越されましたな。我輩にも、教えて頂きたい」
「私にも、お願いします」
これに老婆は肩をすくめると、
「ここに住んでるよ。そんなに何か食べさせたいってんのなら、今から食べさせて貰うとするかね」
そう言って、ドアを開け部屋の中に。
五郎たちが連いて中に入ると、そこはかなり大きな部屋だった。
入って右側には、先に料理を持って来ていた料理人たちが。
沈んだ様子で、持って来ていた料理を前に佇んでいる。
ワゴンに並べられた料理は、ほとんどがひと口。多くてもふた口かそこらしか食べられていなかった。
「おおっ、最後は御3人一緒に来られましたか。これは、食べ比べが捗りそうです」
部屋に入るなり、大仰な様子でガストロフが3人を迎え入れる。
見れば、ガストロフも含めて、部屋の左側には4人分のテーブルと椅子が。
ガストロフの左隣には、30代後半のがっしりとした体つきの男性が。
その更に左隣には、20歳そこそこの、小麦色の肌をした美女が一人。
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ガストロフは、右隣の誰も座っていない席に身体を向け続けて言った。
「――私の母であるギネヴァが、これから食べ比べ、審査をさせて頂きます」
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