異世界にて料理勝負をする事になりました

笹村

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第1章 牛肉勝負

6 味見役は確かです

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「なんだい。もっと驚いてくれても良いだろうに。ひょっとして、気付いてたのかい?」

 空いていた椅子に座りながら、ギネヴァはポカンとした表情の五郎たちに楽しげに言う。

「いや、気付いた訳じゃねぇよ。ただ、納得したって感じだ」
「は? どういうこったい?」
「貫禄あり過ぎたからな」
「態度がデカいって、言ってくれても良いよ」
「我輩たちを試すために、ああいう態度を取っていたのですかな?」
「違うよ、これが素さ」
「なら、なんでわざわざ素性を隠して、私達を案内したんですか?」

 不思議そうに問い掛けるカリーナに、ギネヴァはクセのある笑顔を浮かべながら返した。

「アンタらの素を、見てみたかっただけだよ。
 最初から、この子の母親だと教えると、下手に出て来る奴らが多いんでね。
 それじゃ、面白くないだろ? それだけのことさ。分かったかい?」
「はい。よく分かりました」

 素直な声で返すカリーナに、ギネヴァは更に笑うと、

「あははははっ。良い子だねぇ。好きだよ、アンタみたいな子はね。
 でもね、だからって手心は加えないよ。覚悟しときなよ」

 茶目っ気を込めて返した。
 これにカリーナが、苦笑するように返そうとする。
 だが、それよりも早く、部屋の片隅に追いやられていた料理人が声を上げた。

「嘘だ! こんなもの、茶番ではないか!」
「はぁ? なに言ってんだい、アンタ」

 つまらなそうに返すギネヴァに、更に料理人は激昂したように声を上げる。

「そいつらを勝たせるために、最初から仕組んでいた事なのだろう!」
「八百長の勝負だってのかい? バカ言ってんじゃないよ。
 ふざけたことを、お言いでないよ」
「ふざけているのはそっちだろう! わ、私の料理を食べもせずに、そんな小娘の作った物を食べようとしてるんだからな!」
「……馬鹿だねぇ、アンタ」

 呆れた声で、ギネヴァは言った。

「食べなかったのは、食べるまでもなかったからだよ」
「ふざけるな! 食べもせずに何が分かる!」
「……そうかい、なら持ってきな。そっちがその気なら、キッチリ食って、評価してやるよ」
「な、なにを……今さら食べるなど、もう冷めてしまっているんだぞ」
「関係ないよ。冷めたからって、それで採点を辛くする気はないんだから。そんな事グダグダ言ってる暇あるなら持ってきな。ちゃんと、食べてやるよ」

 ぎろりと、睨み付けるようにして見詰めるギネヴァに、料理人は一瞬怯んだようにたじろぐが、すぐに叩き付けるようにしてステーキの乗った皿をギネヴァの前に置いた。
 その途端、ギネヴァは言う。

「アンタ、なんのために、この料理作ったんだい」
「は……? なに?」

 ギネヴァの言葉の意図を理解できず聞き返す料理人に、ギネヴァはナイフで肉を切りながら続ける。

「硬いねぇ、この肉」
「それはっ……しかたがないだろう! 牛肉だぞ! そういうものだろうが」
「だったら、やわらかくする努力をしな」

 切り分けた肉を噛み締め、じっくりと味わってから口を開く。

「肉の処理自体、なんもしてないだろ。叩いたり、食べ易いよう切ったりしてない。食べてもらう工夫を、怠ってるじゃないか」
「……っ、別に、それは……」
「アンタらは勝負の前に、うちの子から聞かされてる筈だ。
 この子の母親が、審査に加わるって。
 この子を見てみなよ。そんなに若い年かい?
 その母親なら、もっと年が行ってんのが分かんだろ。
 だったら、硬い肉だされて喜ぶかどうか、少しは考えないのかい?
 考えたなら、何か工夫をするもんだろ」

 肉を切り分けながら淡々と言うギネヴァに、料理人は段々と黙り込む。
 その前で肉を食べながら、ギネヴァは続けた。

「言っとくけど、この肉が硬いのは、前処理が何もしてないのもあるけど、焼き方にも問題があるよ。火の通しがキツイ。肉汁も何もかも出てパサパサじゃないか。
 大方、少しでも早く作って持って来ようとして、火の調整も何もせず掛けっぱなしだったんだろ。折角の肉が、台無しだよ」
「そんな、ことはっ……そもそも、牛肉なんぞで――」
「馬鹿言ってんじゃないよ。この牛肉育てるのにどれだけ手間と金掛かったと思ってんだい」

 ため息をつくようにギネヴァは言った。

「この牛肉はね、食べるために育てた牛の肉なんだよ。
 うちの子の道楽で、良い穀物を食わせて、時間も手間も掛けたもんだ。
 豚や羊なら、掛かった手間と時間と金で何十頭育てられたか分かりゃしないよ」
「き、聞いてないぞ、そんなことは!」
「そこまで説明しなきゃならないのかい。
 料理人だって言うなら、見て触って、質の良し悪しは分かんだろ。
 だいたいね、それで分からないってんなら、少しは味見して確かめりゃよかったんだ。
 アンタ、どんな肉かも分かんない物を、アタシらに食べさせようとしたってのかい?」
「……っ」

 料理人は返せない。そこに容赦なく、ギネヴァは続けた。

「どんな肉で、どんな味なのかも分かってないから、味付けもメチャクチャだ。高い香辛料をこれ見よがしに使ってるから、肉の味が塗り潰されてるじゃないか」

 酷評しながら、それでもすべての肉を食べ終わり、ギネヴァは言い切った。

「美味くないよ、アンタの料理は。そもそも、なんのために作られてるのか、分りゃしない」
「そ、そんなものはっ……」
「アタシらのためとか、おためごかしは、よしとくれ。
 誰かのために作った料理なら、もっと味の方向性がハッキリしてるもんだ。
 何も無いじゃないか、この料理。
 誰かに食べて貰いたいって欲もなけりゃ、自分が美味いって確信を持って作られたもんでさえない。
 ただただ、高い香辛料で味を誤魔化して、気に入られようとしてるだけの料理だ。
 違うかい? 違うってんなら、反論してみな。聞いてやるよ」

 返事は無い。ただ打ち沈んだ表情で、料理人は無言でいる。
 そこに、軽やかな声が響いた。

「キツイですわねぇ、お義母さま」
「誰が、お義母さまだよ」

 ため息をつくような声で、ギネヴァは小麦色の肌をした美女、クリスに返す。

「うちの子を狙ってんのは好きにすりゃ好いけどね。アタシを、お義母さま呼ばわりしたけりゃ、キッチリうちの子を落としてから言っとくれ」
「そのつもりで迫ってるのに、まったく手を出してくれないんですもの」

 拗ねたように言うクリスに、

「私のようなオジさんよりも、貴女なら好い人が見つかりますよ」

 ガストロフは平然とした声で返す。けれど同様に、クリスも返した。

「年の差なんて、お金の前には無意味ですわよ」
「貴方なら、私の価値以上の物を、お独りでも稼げますよ」
「あん、もう。いけずなんですから~。ま、それよりも、今は料理の事ですわね」

 クリスは、無言のままうなだれる料理人に、やんわりとした声を向けた。

「御苦労さまですわ。ギネヴァさまは、ああ仰られましたけど、別に悪い味ではありませんでしたわよ。ただ、ある程度の腕をした料理人なら、の話ですけども」

 そこまで言うと、この場に居る料理人全員に向け続けた。

「今回は、料理勝負ですもの。それも私たち、商人が主催しているのですわ。この意味を、理解して欲しかったのも事実ですの」

 この言葉に続けたのは、がっしりとした体つきのジェイドだった。

「儲けの種がどこかにないか、常に考えているのが我々商人だ。
 今回の勝負でも、あわよくば何か商売のネタになる物がないか、探していた。
 だから、あまり凡庸な物を出されては困る。むしろ失敗してでも良い。
 なにか新しい、金を賭けるにふさわしい物を期待していた。それが、この体たらくではな」
「どういうこった? 蒸気機関車の食堂車で出すメニューを決める、料理勝負じゃなかったのか? あと、それに投資する相手を選ぶ為とかも聞いてたけど」

 疑問の声を上げた五郎に、ガストロフが返す。

「ええ、そのつもりです。ですが、どうせなら、喰いつけそうな物があれば何でも喰いつきたいと思うものなのですよ、我々商人というものは。
 今回ご参加頂いた料理人の皆さまに対しても、折角集まって頂いておきながら、単純な勝負の勝ち負けでさようならという訳にもいきません。
 ですから、作って頂いたメニューによっては、他の場所で提供するなど、考えていたのです」
「それならそうと、最初から言っても良いんじゃねぇか?」
「小さな子供じゃないんだから、それぐらい考えな」

 ぱたぱたと手を振りながら、ギネヴァが言う。

「言っとくけどねぇ、うちの子やら、向こうのじゃじゃ馬娘やら、むっつり坊主やら、本来なら売り込む機会なんて無いんだよ。
 それを不意にしちまうような、勿体ないことされてもね。
 目の前にぶら下げられた機会にも気付けず、掴もうとする意気込みも無いんじゃ、どうしようもないよ。
 そんなのに金を出して、一緒に沈むのはごめんだからね」

 ギネヴァの言葉に、誰も返せない。その沈んた沈黙を払うように、ギネヴァは景気の好い声を上げた。

「しみったれた空気を出してんじゃないよ。
 言っとくけどね、それはそれ、これはこれ。
 いま居る三人も含めて、全員の中から勝負に勝った料理人はちゃんと出すよ。
 そこをズルする気はないさ。
 人の好き嫌いと、金の掛かった勝負は別だからね。
 3人の料理が美味くなかったら、選ばれるのは、残りのアンタらだよ」

 にっと、クセのある笑顔を浮かべ、ギネヴァは五郎たちに言った。

「それじゃ、食べさせて貰おうかね。美味いもん、期待してるよ」

 これに真っ先に応えたのは、五郎だった。
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