異世界にて料理勝負をする事になりました

笹村

文字の大きさ
20 / 28
第2章 沿岸地帯ジェイドの海産物勝負

3 海辺の街を散策して料理のアイデア探し その①

しおりを挟む
 時刻は、まだお昼には時間のある頃。
 さんさんとした陽が降り注ぐ中、五郎たちはジェイドの街を散策していた。

「あっ、コプラの実が売ってる! リナ、一緒に飲もう!」

 潮風が香る中、レティシアは屋台を見つけ、カリーナの手を引っ張って連れていく。

「ちょ、待って、レティ!」

 五郎達のことを気にしながらカリーナは引っ張られると、

「コプラの実、2つ下さい!」

 屋台の店主から、コプラの実を2つ受け取ったレティシアに、一つを渡される。

「もう。私達だけじゃないんだから、勝手に行っちゃダメだよ」
「ん~? 別に気にしなくても。でしょ、ごろ~さん?」

 苦笑しながら追い付いた五郎に、レティシアは甘えるような声を上げる。

「ああ、気にするこたねぇよ。料理の種探しに来てるとはいえ、折角なんだから、楽しまねぇとな。旅行気分で見て回ろうぜ」
「いいっすね~。だったらオレっちも、コプラの実を一つ。本場の採れたて、飲んでみたかったんっすよね~」
「では我輩も。一つ貰えますかな?」

 男連中も、コプラの実を頼む。
 コプラの実は、五郎たちの元居た世界のヤシの実に似た木の実なのだが、ジェイドでは砂浜付近の海の中で山ほど生える。
 採れすぎるほど採れるので、内陸部の王都に輸出するほどだ。

「んっ……あ、やっぱ、王都で出回ってるのとは違ぇな」

 鉈で硬い殻を割り切られたコプラの実に、一杯に詰まった果汁を飲んで、五郎は思わず声を上げる。
 陸路で何日もかけて運ばれて来た、王都で流通している物は、すっきりとした甘味にほんのりとした酸味が特徴なのだが、いま飲んでいる物は、それより甘みが強い。
 けれど、クドいということは無く、後を引かない爽やかな甘さである。

「ジェイドの方が熱いから、甘味が強いこっちの方が受けが良いだろうな」

 熱湯で煮たあと天日で干された麦わらをストロー代わりに使い、しっかりと五郎は味わう。

「どうでしょう? 前に、こちらの料理を食べた事がありますけど、割と薄味ベースでした」
「へぇ? そりゃ、ますますこっちの料理、食べてみねぇと駄目だな」

 カリーナの言葉に、にかっと笑う五郎。
 見た目がごついので、結構迫力がある。

 それにカリーナは、ふいっと視線を逸らすと、

「そうですね。色々と、食べてみないと」

 レティシアの背中に隠れるようにして移動する。微妙に、その頬は赤らんでいた。
 そんなカリーナに、レティシアは肩をすくめるようにして、

「うんうん、そうだよね。食べてみないことには始まらないけど、それには先立つものが。
 あいにくと、いま手元にないのです」

 残念そうに言った。これに五郎は、笑顔を浮かべたまま返す。

「だったら奢るぜ。なに、俺の所のスポンサーから、軍資金はたっぷり貰ってるからな。全員で、食べに行こうぜ」
「えっ、で、でもそんなの……」

 慌てて断ろうとするカリーナに、

「そう言わないでくれよ。俺は独りで食うより、大勢で食うのが好きなんだ。ここは、こっちの顔を立てると思って。頼むよ、な?」

 五郎は茶目っ気を込めて返した。
 これにカリーナは顔を赤らめると、それを見られまいとするかのように下を向き、

「それは、その……私も1人より、みんなで食べる方が好きですけど、だからって、その……奢って貰うというのも……」

 もごもごと言い訳するように言った。
 それに五郎が何か返すよりも早く、レティシアは元気一杯に言った。

「だったら、私達がここの料理を案内します。前に滞在した事があって、幾つか食べてみた事があるんです」
「ほう、それは良いですな。楽しみですぞ。ちなみに我輩は、ただ飯ほど好きな物は無いので、ありがたく奢られるがままに頂きますぞ」

 アルベルトの言葉に五郎は笑いながら、

「ああ、そりゃ、俺も同じ意見だ。ただ飯は、美味いからなぁ。
 でもそれ以上に、誰かに勧めて貰えた料理を食べるのは好きなんだ。
 自分だけじゃ、出会えなかった味に出会えたりするからな。
 だから、案内してくれると助かるんだ」

 カリーナに手を差し出すようにして声を掛けた。
 これにカリーナは、うつむいたまま、小さな声で、

「……はい。その……頑張ります」

 どこか生真面目に返した。そんなカリーナに皆が苦笑する中、

「それじゃ、まずは屋台巡りしてみませんか? 色々あって、楽しいですよ」

 レティシアの言葉に連れられて、皆は食べ歩きをしていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。 ご都合主義のハッピーエンドのSSです。 でも周りは全くハッピーじゃないです。 小説家になろう様でも投稿しています。

オバちゃんだからこそ ~45歳の異世界珍道中~

鉄 主水
ファンタジー
子育ても一段落した40過ぎの訳あり主婦、里子。 そんなオバちゃん主人公が、突然……異世界へ――。 そこで里子を待ち構えていたのは……今まで見たことのない奇抜な珍獣であった。  「何がどうして、なぜこうなった! でも……せっかくの異世界だ! 思いっ切り楽しんじゃうぞ!」 オバちゃんパワーとオタクパワーを武器に、オバちゃんは我が道を行く! ラブはないけど……笑いあり、涙ありの異世界ドタバタ珍道中。 いざ……はじまり、はじまり……。 ※この作品は、エブリスタ様、小説家になろう様でも投稿しています。

田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした

月神世一
ファンタジー
​「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」 ​ ​ブラック企業で過労死した日本人、カイト。 彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。 ​女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。 ​孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった! ​しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。 ​ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!? ​ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!? ​世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる! ​「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。 これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

処理中です...