異世界にて料理勝負をする事になりました

笹村

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第2章 沿岸地帯ジェイドの海産物勝負

3 海辺の街を散策して料理のアイデア探し その②

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 海に近付くにつれ、賑やかさは増していった。

「うわぁ、前に来た時と同じ。賑やかだ」

 五郎達を案内するように前を歩いていたレティシアが、楽しそうに声を上げる。
 お祭りのような特別な日とは違う、日常の中での喧噪。
 それはどこまでも、活気を内包している。

 港へと通じる大通りは、巨大な猫型の魔獣、ミークンに引かせた荷車が忙しそうに通る。
 積んでいるのは、海で獲れた大量の魚を塩漬けにして干した物。樽一杯に入れられて、山盛りになっている。
 他にも、海の中で取れる果物コプラに、ジェイドの港を経由して他の辺境領へと運ばれる、穀類に香辛料などなど、数え切れないほど種類は多い。

 ジェイドは、内陸から始まった王国の中で、初めて沿岸部に作られた辺境領として歴史は古い。
 そのため、他の沿岸部の辺境領との中継港湾都市としての機能を果たしていた。

 それだけに、人は多い。多種多様な辺境領の人間が忙しげに行き交っている。
 人が多いということは、それだけ腹を満たすお店が多いということでもある。

 いま五郎たちが歩いている大通りも、道の端に幾つもの屋台が並んでいた。
 その分、呼び込みも騒がしい。

「おう! どうだい嬢ちゃん! うちの煮込み食べてきなよ! 安いよ!」
「バカ言うねぃ! 俺んところの方が安いよ!」
「安さばっか言ってんじゃねぇよ! その点うちのは美味さが違う!
 採れたてのとうもろこしをこんがり焼いてな、塩振って!
 一本二本じゃ足りゃしねぇぐらいうめぇぞ!」

 次から次に、先頭を歩くレティシアに、屋台のオヤジが呼び込みを掛ける。

「ありがと~。安いのも美味しいのも良いよね~。でもどうせなら、両方が良いな~」

 甘えたような声で、ねだるようにレティシアが返すと、

「おうおう、良いぜ良いぜ。嬢ちゃんかわいいからまけたるよ! 連れの人達もどうだい!」

 素早くオヤジの1人が、木のお碗に魚の煮込みを入れて渡す。

「そいつはタダで良いぜ! 美味かったら、後ろの嬢ちゃんとにぃさん達にもよろしくな!」
「わ~い、ありがとーっ。オジサン気前が良いね!」

 素直に喜ぶレティシアに、若い娘に褒められて気分が良いのか、オヤジは笑顔になっている。
 それを楽しげに見ていた五郎は、自分も食べてみたくなったので頼んでみる。

「俺らにも一杯ずつ貰えるか? 代金は、俺がまとめて払うから」
「ほいよ! 今すぐ用意するから、ちょっと待ってくんな!」

 手早く屋台のオヤジは木の碗を用意して、次々魚の煮込みを入れると、

「はいよっ、御待ち!」

 五郎に、木のスプーンと一緒に渡してくれる。
 手に取ると、ほど良い温かさ。片手で収まるほどのお碗の中に、赤身と白身の魚の切り身が一口サイズでゴロゴロ入っている。
 具材はそれだけでなく、透き通るような色合いの、鮮やかな緑色の野菜がザックリ角切りになって入っていた。

「いただきます」

 まずは、スープを一口。潮の香りが力強く、魚の旨味に支えられた塩味がしっかりと味わえる。
 繊細な味わいというには無理があるが、野性味のある力強い味わいだった。
 飲んでいると力が湧いて出る。そんな気持ちになる味わいでもある。

(臭みがあるかと思ったけど、そんなに感じられないな)

 今のところ冷蔵技術が無いこちらの世界では、魚は傷むのが早い。
 けれど、港からすぐに手に入れた物を使っているのか、嫌な臭いは気になるほどではない。
 人によっては、味わいの1つとして喜ばれそうなほどだ。

(これ、匂い消しの香辛料が入ってるのもあるけど、それ以上にこの野菜が良いんだな)

 煮込まれて、とろっとした角切り野菜をスプーンに乗せて口に入れる。
 歯で噛むまでもなく、口の中に入れただけで崩れそうなほどやわらかい。
 かと言って、やわらか過ぎるという事も無く。ほど良い舌触りが楽しめる。

 味はほんのりと甘みがあり、魚から出た旨味を活かすような控えめさがある。
 それでいて埋もれることは決してなく、美味しさを楽しませてくれた。

「この野菜、美味いな。食ったことないんだけど、この辺の特産かい?」

 美味しさに思わず五郎が訊くと、屋台のオヤジは自慢げに返す。

「美味いかい? そりゃ好かった!
 コプラの実と一緒で、海の中に生える野菜でよ。ラティーユってんだ。
 うちのカミさんが、朝早くに海に潜って取って来てくれたんだぜ!」
「へ~、そんなのあるんだな。他所で見たことなかったけど、美味いなこれ」
「そりゃしょうがねぇよ。日持ちがしねぇからな、これ。
 この辺じゃ、みんなよく食べるけど、他所じゃ食べる前に腐っちまうわな」
「なるほどね、そういうことか。にしても美味いな、これ」

 五郎と同じように思ったのは、カリーナとアルベルトも同様なようで、

「本当に。これ、魚の臭みとかも取ってくれてますね」
「組み合わせ次第で、肉料理にも使えそうですな」

 しっかりと味わいながら、料理に行かせないかどうかを考えていた。

「おいおい、アンタらラティーユばっかじゃなくて、魚の方も食べなって。主役はそっちなんだからよ」

 苦笑するように言う屋台のオヤジに、五郎たちは魚も食べていく。
 それは、予想した通りの味だった。

(パサパサで旨味が無いな。スープの方に全部出ちまってる)

 野菜のラティーユがとろとろになるぐらいに込まれているせいで、魚は身がぱさぱさしている上に、味があまりない。

(出汁とか取って、それぞれ手順を踏んで料理して、って訳にはいかないからだろうからな。屋台でそこまでしてたら、赤字になっちまう)

 料理人として店を持っている五郎としては、単純な味だけで無く、その他の要素も加味して評価する。

「ごっそさん! 美味かったよ」

 にかっと笑いながら返した五郎に、屋台のオヤジは嬉しそうに笑顔で碗とスプーンを受け取る。
 それを見ていた、とうもろこし焼きのオヤジは、

「美味そうに食うな! にぃさん! せっかくだから、うちのも食ってくれよ!」

 良いお客になりそうだと思ったのか、積極的に売り込みをかけてくる。
 塩だけで味付けされ焼かれるとうもろこしを見ていた五郎は、

「なぁ、ちょっと俺の味付けで焼いてみても良いか?」
 
 料理人の血が騒ぐのか、逆に売り込みを掛けた。

「味付けって、砂糖か酢でも掛けんのかい?」
「いや、俺の故郷の味で、焼いてみたくなってな。おーい、有希」

 五郎は、一緒に付いて来てくれていた、ひもを通した木箱を肩でかるっている有希に呼び掛ける。
 有希は、食べていた魚の煮込みを一気に食べ終わると、気楽な声で返す。

「なんっすか?」
「悪ぃけど、用意して欲しい物があるんだ」
「良いっすけど、なにが欲しいんっす?」
「醤油と、塗る用の刷毛をたのむ。焼きとうもろこし、作ろうかと思ってな」

 楽しげに五郎は、そう言った。
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