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第一章 街を作る前準備編
11 王都のみんなに会いに行こう その④ 試食という名の実験台
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「龍のひげだ! 龍のひげ! わたがしじゃねぇよ!」
みんなのツッコミに勢い良く反論する五郎。
「違うの? そういや、ふわふわっていうよりは、さらさらって感じだけども」
五郎に言われて、よく見てみれば、確かに綿菓子というには少し違う。綿というよりも絹糸のような感じがする。
「そうだよ。なんだ、良く見りゃ分かんじゃねぇか……って、陽色か。久しぶりだな」
にっと笑う五郎。
本人には言えないけど、物凄く目つきがキツいせいでガラが悪い。
本人は、すごく好いヤツなんだけど。見た目で損するタイプだ。
「久しぶり、五郎。有希に誘って貰って、新作食べに来たんだ。
その、龍のひげってのが、新作なんでしょ?」
「おう! 蜂蜜と水飴を混ぜてな、それに粉にしたもち米を加えて練った物を、麺を伸ばすのと同じ要領で細くしたヤツだ」
「細くって……え? 麺を作るのと同じってことは、練った物を伸ばしたのを2つに折って、更にそれを2つに折って、みたいなのを繰り返して作ったの?」
「おう。そうだけど」
「器用っすね~」
有希が感心したように声を上げる。
「飴なんっすよね、それ。それなのによく髪の毛より細く出来るっすね~」
「よせやい。照れるぜ。咲が用意してくれた材料が良かったお蔭だ」
「そう言って貰えると何より。良いの揃えるの、苦労したんだから」
嬉しさと誇らしさを滲ませながら、ほんわかと笑みを浮かべる咲。
やっぱり、自分たちが作った物が喜ばれるのは嬉しいみたいだ。
そんな咲たちを見ていると、こっちも嬉しい気持ちになれる。
「腕と材料、どっちも良い物が揃って出来たお菓子、って訳だね。
食べるのが楽しみになるよ」
「そうよねぇ。見てるだけじゃお腹もふくれないし、そろそろ味見させて欲しいわねぇ」
俺と薫が口々にねだると、
「おう、そうだな。この料理は特に出来立てが食べごろだからな。すぐに食べてくれ」
五郎はそう言って、龍のひげが載せられた大きなお皿をテーブルに置く。
「それじゃ、いただきます」
五郎に勧められ、俺たちは龍のひげを手に取る。
一口で食べられるほどの大きさのそれは、絹糸の繭みたいな感じもする。
持っただけで崩れてしまいそうなほど、やわらかでふわふわだけど、それと同時にしっかりとした芯があるのが分かる。
「あれ? これ、中に何か入ってるの?」
「おう。こっちの世界の木の実とかを練った物が入ってるぞ。オリジナルだと、ゴマとかアーモンドとか、そういうのを入れるんだけどな」
五郎の説明を聞いて、更に食べるのが楽しみになる。
俺は自分でも分かるぐらい表情をゆるめながら、一口ぱくりと。
(ん……うわっ、美味しい)
舌に乗せ、ふんわりとした食感を感じたかと思えば、すっと溶けて甘みが広がる。
最初にやさしい甘味が、そしてゆっくりと濃厚になっていく。
ほんの少し、爽やかな花の香りがする。蜂蜜の、匂いかもしれない。
甘さを堪能した所で、木の実を練った中身を噛んで味わう。
コクのある香ばしさと、味わい深い旨味。
そしてほんのりとした苦味が味のアクセントになって楽しめる。
それが、まだ舌の上に残っている甘味と合わさり、美味しさを、より感じさせてくれた。
「美味しい。味もだけど、食感も良いね」
思わず感想を口にすると、五郎は嬉しそうに、
「出来てから時間が経ったり、冷やしたヤツだとサクパリって感じの食感なんだが、いまだと口に入れただけでホロホロ崩れる感じだろ?
こいつは、出来立てであればあるほど美味いからな。
美味い内に、どんどん食べちゃってくれ」
どんどんみんなに勧めてくれる。
五郎の言葉と、何よりも美味しさに、次々手が伸びる俺たち。
(美味しいなぁ……)
思わず無言になる。見れば、他のみんなも同じだ。
美味しい物を食べてると、食べるのに夢中になって、言葉を無くしちゃうものなのだ。
というわけで、どんどん手が伸びる。
食べるたびに美味しさに嬉しくなって、身体が軽くなって来る気さえする。
(……っていうか、実際体が軽くなってきたような……)
より正確に言うと、身体の底の方に溜まった疲れの塊が解けて消えてなくなったみたいに、調子が良くなってきたというか……。
「ねぇ、ひょっとして、このお菓子って、神与能力使って作ったの?」
「おう」
悪びれもせず応える五郎。
(うぁ……これは、実験台にされてるな、俺たち……)
五郎の神与能力「神の食事」は、自分が作った料理に特殊な効果を付与する能力だ。
使用する食材と調理法によってその効果は変わり、本人でさえも、一度作ってみて誰かに食べさせないと、どんな効果を持っているのかが分からない。
なので、時々不意打ちのようにして、こうして実験台代わりにされる事がある。
「これ、多分、体調不良を回復させる効果があるよ。
ひょっとすると、純粋に体力上昇の効果かもしれないけど」
せっかくなので、食べて自分の体に起った効果を伝えると、薫が横から口を挟んでくる。
「体調回復の効果だけじゃない?
別にアタシ、美味しいだけで、他に何か変わった感じしないもの」
すると、咲や有希も口々に言う。
「俺も、そう思うっすね。俺も疲れが取れた感じっすけど、体調が万全なとき以上の感じはしないっすから」
「私も、同じ意見。最近肩こりしてたけど、それが取れて好い感じだし」
「おう、そうか。ってことなら、疲れた体にガンギマリ菓子、とか言って売り出せるか」
「なんか変な薬が入ってそうだから止めて、その売り文句」
とりあえず五郎にツッコミは入れておく。
「効果は十分だから、食べに来る価値は十分にあると思うけどね、これ。美味しいし」
食べながら、ふと思う。
リリスや、菊野さん達にも食べさせてあげたいな、と。
自分だけが、今ここで食べているのは、なんだか心苦しい。
なので、五郎に頼んでみる。
「ねぇ、五郎。都合が合う時で良いんだけど、このお菓子、屋敷の方でも作りに来てくれないかな?」
「ん? 出前調理か? 別に良いけど、珍しいな」
「いま、みんな忙しくて疲れてるから。特に菊野さん、頑張り過ぎてるから、このお菓子で元気になって貰いたいんだ。
それに、何よりも美味しいからね。リリスや、屋敷のみんなにも、食べさせてあげたいんだ」
「そっか……おう、良いぞ。今日は、夕方の6時にゃ上がるつもりだったし、そのあと直で屋敷に行くよ」
「良いの? そんなに早く上がっちゃって」
「ああ。どのみち、ここ店は弟子のヤツらに任せるつもりだったしな。
ちょうど良い機会だ、しばらく屋敷の方で厄介にさせて貰うぜ」
「助かるよ。でも、お弟子さん達の方は、大丈夫?」
「そんなヤワな鍛え方してねぇよ。そろそろ独り立ちしても良い頃合いだしな。
だいたい、新しい街が出来たら、俺もそっちに行くって言っただろ。少しばかり、弟子離れが早くなるってだけだ」
「そっか……ありがとう。それじゃ、よろしく頼むよ」
「おう、任せとけ。それより、もっと食え。早く食べないと、効果が無くなるぞ」
急かせるように五郎は勧める。
五郎の神与能力で作った料理は、どんな料理だろうと作ってから30分も経てば、食べても何の効果も得られなくなるんだ。
それよりも前であれば、大丈夫だけれど。
「ありがとう。でも、もう疲れは取れちゃったから、大丈夫だよ。美味しいから、食べちゃうけど」
美味しいので、どんどん手が伸びる。
「うん、味も良いけど、食感も良いよね」
「そうだろ。それ、出来立てじゃないと味わえないからな。時間が経ったり、冷やしたりすると、口に入れただけでホロホロ溶けるっていうより、サクパリって感じになるからな。それはそれで悪くないんだが、やっぱ出来立ての方が味は良いからな」
「そうなんだ。でも、そうなると中々、色んな人達に食べて貰い辛いね。作るのも大変そうだし」
「まぁな。それ考えると、綿菓子が楽で良いんだけどな」
「そうだね」
綿菓子は、細かな穴の開いた缶にザラメを入れて、それを下からあぶりつつ缶を回し続ければ、缶の穴から融けて糸状になった砂糖が出て来て作れるので、作る機械さえあれば誰でも作れる。
「そろそろ、元居た世界の技術を出して行くつもりなんだろ? だったら、綿菓子ぐらい、良いんじゃねぇか?」
五郎に言われて、ちょっと考える。そこに、咲や有希も1枚噛んでくる。
「良いんじゃない? 材料なら、うちでどうにかできるぐらいの下準備なら、もう済ませてるし。
というか、それならマヨネーズとかトマトケチャップとかカレー粉とか、流通させてくれない?
瓶詰での長期保存方は出来るようになったし、協力してくれてる農家の人達を、もっと楽にさせてあげたいのよ」
「それなら、問屋として1枚噛ませて欲しっすね。信用できる同業者も知ってるっすから、おかしなことはさせないっすよ」
みんなの意見を聞いて、少し考えてから応えを返す。
「そうだね。そろそろ、その辺りは出して行っても良いかも。
ただ、巧く出して行かないと、一部で買占めをして値段が高騰するとか、偽物が氾濫したりするからなぁ……。
こういうのの、出すタイミングの見極めが出来る人が居ると良いんだけど……」
ある程度なら、俺でも出来る。
というよりは、どちらかというと俺は、長期的な流れで見て行く事は得意だけれど、その場その場の投機的な流れを見ていくのは、それほど巧くは無い。
「和真がいれば、その辺の見極めを任せられるんだけどなぁ……」
運命の女神メグスラの勇者である小鳥遊和真は、目先の流れを読むのが物凄く巧い。
ただ、直感でふらふらと好き勝手に動く遊び人気質なので、いまどこに居るのか分からないのが困る。
(どこに居るか分かれば、とっ捕まえるんだけどなぁ)
などと悩んでいると、
「和真なら、王都に戻ってるわよ」
薫が教えてくれる。
「マジか? いつ」
「2、3日前かしらね。博打でスって素寒貧になったから金貸してくれって来たけど、ちょうどその時は囲ってた男に逃げられてイラついてたから叩きだしたわよ」
「……相変わらずだな、あいつ。それで、どこに行ったか分からないか?」
「さぁ? あいつ、真っ当な相手にたかる趣味無いから、その内アンタん所に行くんじゃない?」
「それならいいんだけど。来たら、逃げられないように確保するよ」
基本、ダメ人間みたいな生活してるから、とっ捕まえないといけない。
でないと、すぐに逃げられる。
(まぁ、持ってる神与能力がアレだから、そうなるのも仕方ないけど)
しかも偽悪趣味をこじらせた善人なので、正直言ってめんどくさい性格をしてるのだ。
なんて、色々と考えていると、
「おいおい、飯食ってる時に難しい表情してんじゃねぇよ。そういうのは、飯食ってから考えろ」
五郎に軽く怒られる。
「ごめん。そだね、食事は美味しくとらないと、だね」
苦笑するように謝り、食べるのを再開。
甘味が嬉しい。ほっとする。
「美味しいなぁ」
ひょいぱくひょいぱく食べていく。なのだけど――
「んぐっ!」
不意打ちの辛さに悶絶する。
(なにこれなにこれ辛っ!)
外側の甘い部分が溶け、中身を噛んだ瞬間に汗が噴き出すような辛さが。
今まで甘い物が続いたので、余計に辛い。なので思わず、
「辛っ!」
声を上げ、ついでに炎も出ました。
「なにこれ!」
喋るたびに火が噴き出る。
「お、そんな効果が出たか。カラシ入りは火吹き効果っと」
のんびりとメモを取る五郎。ツッコミの一つも言いたいけれど、喋るとまた火を噴きそうなので黙ってる。
そうしていると、悲鳴が一つ。
「キャーッ! なにこれなにこれ! イヤーッ!」
金切声をあげる薫に視線を向ければ、髪が伸びて、ついでに胸も生えた薫の姿が。
「キモいーっ! なによこれーっ! なんでこんな無駄肉付いちゃってんのよぉっ!」
「牛脂入りは女体化でもするのか? おい、下は付いてるか?」
「付いてるわよっ! 取れて堪るもんですかっ!」
冷静にメモを取る五郎に叫ぶ薫。それを見ていた咲と有希は、
「落ち着きなさいよ。どうせすぐに戻るんんだから」
「食べる量で効果時間変わってくるっすからね。いま食べた量なら、30分もしない内に戻るっすよ」
今まで何度も五郎の実験台になっているからなのか、余裕で声を掛ける。
頭から、ねこ耳生やしてるのに。そして、
「ミルク入りは、ケモ耳効果っと」
そんな中でも変わらず冷静にメモを取り続ける五郎だった。
みんなのツッコミに勢い良く反論する五郎。
「違うの? そういや、ふわふわっていうよりは、さらさらって感じだけども」
五郎に言われて、よく見てみれば、確かに綿菓子というには少し違う。綿というよりも絹糸のような感じがする。
「そうだよ。なんだ、良く見りゃ分かんじゃねぇか……って、陽色か。久しぶりだな」
にっと笑う五郎。
本人には言えないけど、物凄く目つきがキツいせいでガラが悪い。
本人は、すごく好いヤツなんだけど。見た目で損するタイプだ。
「久しぶり、五郎。有希に誘って貰って、新作食べに来たんだ。
その、龍のひげってのが、新作なんでしょ?」
「おう! 蜂蜜と水飴を混ぜてな、それに粉にしたもち米を加えて練った物を、麺を伸ばすのと同じ要領で細くしたヤツだ」
「細くって……え? 麺を作るのと同じってことは、練った物を伸ばしたのを2つに折って、更にそれを2つに折って、みたいなのを繰り返して作ったの?」
「おう。そうだけど」
「器用っすね~」
有希が感心したように声を上げる。
「飴なんっすよね、それ。それなのによく髪の毛より細く出来るっすね~」
「よせやい。照れるぜ。咲が用意してくれた材料が良かったお蔭だ」
「そう言って貰えると何より。良いの揃えるの、苦労したんだから」
嬉しさと誇らしさを滲ませながら、ほんわかと笑みを浮かべる咲。
やっぱり、自分たちが作った物が喜ばれるのは嬉しいみたいだ。
そんな咲たちを見ていると、こっちも嬉しい気持ちになれる。
「腕と材料、どっちも良い物が揃って出来たお菓子、って訳だね。
食べるのが楽しみになるよ」
「そうよねぇ。見てるだけじゃお腹もふくれないし、そろそろ味見させて欲しいわねぇ」
俺と薫が口々にねだると、
「おう、そうだな。この料理は特に出来立てが食べごろだからな。すぐに食べてくれ」
五郎はそう言って、龍のひげが載せられた大きなお皿をテーブルに置く。
「それじゃ、いただきます」
五郎に勧められ、俺たちは龍のひげを手に取る。
一口で食べられるほどの大きさのそれは、絹糸の繭みたいな感じもする。
持っただけで崩れてしまいそうなほど、やわらかでふわふわだけど、それと同時にしっかりとした芯があるのが分かる。
「あれ? これ、中に何か入ってるの?」
「おう。こっちの世界の木の実とかを練った物が入ってるぞ。オリジナルだと、ゴマとかアーモンドとか、そういうのを入れるんだけどな」
五郎の説明を聞いて、更に食べるのが楽しみになる。
俺は自分でも分かるぐらい表情をゆるめながら、一口ぱくりと。
(ん……うわっ、美味しい)
舌に乗せ、ふんわりとした食感を感じたかと思えば、すっと溶けて甘みが広がる。
最初にやさしい甘味が、そしてゆっくりと濃厚になっていく。
ほんの少し、爽やかな花の香りがする。蜂蜜の、匂いかもしれない。
甘さを堪能した所で、木の実を練った中身を噛んで味わう。
コクのある香ばしさと、味わい深い旨味。
そしてほんのりとした苦味が味のアクセントになって楽しめる。
それが、まだ舌の上に残っている甘味と合わさり、美味しさを、より感じさせてくれた。
「美味しい。味もだけど、食感も良いね」
思わず感想を口にすると、五郎は嬉しそうに、
「出来てから時間が経ったり、冷やしたヤツだとサクパリって感じの食感なんだが、いまだと口に入れただけでホロホロ崩れる感じだろ?
こいつは、出来立てであればあるほど美味いからな。
美味い内に、どんどん食べちゃってくれ」
どんどんみんなに勧めてくれる。
五郎の言葉と、何よりも美味しさに、次々手が伸びる俺たち。
(美味しいなぁ……)
思わず無言になる。見れば、他のみんなも同じだ。
美味しい物を食べてると、食べるのに夢中になって、言葉を無くしちゃうものなのだ。
というわけで、どんどん手が伸びる。
食べるたびに美味しさに嬉しくなって、身体が軽くなって来る気さえする。
(……っていうか、実際体が軽くなってきたような……)
より正確に言うと、身体の底の方に溜まった疲れの塊が解けて消えてなくなったみたいに、調子が良くなってきたというか……。
「ねぇ、ひょっとして、このお菓子って、神与能力使って作ったの?」
「おう」
悪びれもせず応える五郎。
(うぁ……これは、実験台にされてるな、俺たち……)
五郎の神与能力「神の食事」は、自分が作った料理に特殊な効果を付与する能力だ。
使用する食材と調理法によってその効果は変わり、本人でさえも、一度作ってみて誰かに食べさせないと、どんな効果を持っているのかが分からない。
なので、時々不意打ちのようにして、こうして実験台代わりにされる事がある。
「これ、多分、体調不良を回復させる効果があるよ。
ひょっとすると、純粋に体力上昇の効果かもしれないけど」
せっかくなので、食べて自分の体に起った効果を伝えると、薫が横から口を挟んでくる。
「体調回復の効果だけじゃない?
別にアタシ、美味しいだけで、他に何か変わった感じしないもの」
すると、咲や有希も口々に言う。
「俺も、そう思うっすね。俺も疲れが取れた感じっすけど、体調が万全なとき以上の感じはしないっすから」
「私も、同じ意見。最近肩こりしてたけど、それが取れて好い感じだし」
「おう、そうか。ってことなら、疲れた体にガンギマリ菓子、とか言って売り出せるか」
「なんか変な薬が入ってそうだから止めて、その売り文句」
とりあえず五郎にツッコミは入れておく。
「効果は十分だから、食べに来る価値は十分にあると思うけどね、これ。美味しいし」
食べながら、ふと思う。
リリスや、菊野さん達にも食べさせてあげたいな、と。
自分だけが、今ここで食べているのは、なんだか心苦しい。
なので、五郎に頼んでみる。
「ねぇ、五郎。都合が合う時で良いんだけど、このお菓子、屋敷の方でも作りに来てくれないかな?」
「ん? 出前調理か? 別に良いけど、珍しいな」
「いま、みんな忙しくて疲れてるから。特に菊野さん、頑張り過ぎてるから、このお菓子で元気になって貰いたいんだ。
それに、何よりも美味しいからね。リリスや、屋敷のみんなにも、食べさせてあげたいんだ」
「そっか……おう、良いぞ。今日は、夕方の6時にゃ上がるつもりだったし、そのあと直で屋敷に行くよ」
「良いの? そんなに早く上がっちゃって」
「ああ。どのみち、ここ店は弟子のヤツらに任せるつもりだったしな。
ちょうど良い機会だ、しばらく屋敷の方で厄介にさせて貰うぜ」
「助かるよ。でも、お弟子さん達の方は、大丈夫?」
「そんなヤワな鍛え方してねぇよ。そろそろ独り立ちしても良い頃合いだしな。
だいたい、新しい街が出来たら、俺もそっちに行くって言っただろ。少しばかり、弟子離れが早くなるってだけだ」
「そっか……ありがとう。それじゃ、よろしく頼むよ」
「おう、任せとけ。それより、もっと食え。早く食べないと、効果が無くなるぞ」
急かせるように五郎は勧める。
五郎の神与能力で作った料理は、どんな料理だろうと作ってから30分も経てば、食べても何の効果も得られなくなるんだ。
それよりも前であれば、大丈夫だけれど。
「ありがとう。でも、もう疲れは取れちゃったから、大丈夫だよ。美味しいから、食べちゃうけど」
美味しいので、どんどん手が伸びる。
「うん、味も良いけど、食感も良いよね」
「そうだろ。それ、出来立てじゃないと味わえないからな。時間が経ったり、冷やしたりすると、口に入れただけでホロホロ溶けるっていうより、サクパリって感じになるからな。それはそれで悪くないんだが、やっぱ出来立ての方が味は良いからな」
「そうなんだ。でも、そうなると中々、色んな人達に食べて貰い辛いね。作るのも大変そうだし」
「まぁな。それ考えると、綿菓子が楽で良いんだけどな」
「そうだね」
綿菓子は、細かな穴の開いた缶にザラメを入れて、それを下からあぶりつつ缶を回し続ければ、缶の穴から融けて糸状になった砂糖が出て来て作れるので、作る機械さえあれば誰でも作れる。
「そろそろ、元居た世界の技術を出して行くつもりなんだろ? だったら、綿菓子ぐらい、良いんじゃねぇか?」
五郎に言われて、ちょっと考える。そこに、咲や有希も1枚噛んでくる。
「良いんじゃない? 材料なら、うちでどうにかできるぐらいの下準備なら、もう済ませてるし。
というか、それならマヨネーズとかトマトケチャップとかカレー粉とか、流通させてくれない?
瓶詰での長期保存方は出来るようになったし、協力してくれてる農家の人達を、もっと楽にさせてあげたいのよ」
「それなら、問屋として1枚噛ませて欲しっすね。信用できる同業者も知ってるっすから、おかしなことはさせないっすよ」
みんなの意見を聞いて、少し考えてから応えを返す。
「そうだね。そろそろ、その辺りは出して行っても良いかも。
ただ、巧く出して行かないと、一部で買占めをして値段が高騰するとか、偽物が氾濫したりするからなぁ……。
こういうのの、出すタイミングの見極めが出来る人が居ると良いんだけど……」
ある程度なら、俺でも出来る。
というよりは、どちらかというと俺は、長期的な流れで見て行く事は得意だけれど、その場その場の投機的な流れを見ていくのは、それほど巧くは無い。
「和真がいれば、その辺の見極めを任せられるんだけどなぁ……」
運命の女神メグスラの勇者である小鳥遊和真は、目先の流れを読むのが物凄く巧い。
ただ、直感でふらふらと好き勝手に動く遊び人気質なので、いまどこに居るのか分からないのが困る。
(どこに居るか分かれば、とっ捕まえるんだけどなぁ)
などと悩んでいると、
「和真なら、王都に戻ってるわよ」
薫が教えてくれる。
「マジか? いつ」
「2、3日前かしらね。博打でスって素寒貧になったから金貸してくれって来たけど、ちょうどその時は囲ってた男に逃げられてイラついてたから叩きだしたわよ」
「……相変わらずだな、あいつ。それで、どこに行ったか分からないか?」
「さぁ? あいつ、真っ当な相手にたかる趣味無いから、その内アンタん所に行くんじゃない?」
「それならいいんだけど。来たら、逃げられないように確保するよ」
基本、ダメ人間みたいな生活してるから、とっ捕まえないといけない。
でないと、すぐに逃げられる。
(まぁ、持ってる神与能力がアレだから、そうなるのも仕方ないけど)
しかも偽悪趣味をこじらせた善人なので、正直言ってめんどくさい性格をしてるのだ。
なんて、色々と考えていると、
「おいおい、飯食ってる時に難しい表情してんじゃねぇよ。そういうのは、飯食ってから考えろ」
五郎に軽く怒られる。
「ごめん。そだね、食事は美味しくとらないと、だね」
苦笑するように謝り、食べるのを再開。
甘味が嬉しい。ほっとする。
「美味しいなぁ」
ひょいぱくひょいぱく食べていく。なのだけど――
「んぐっ!」
不意打ちの辛さに悶絶する。
(なにこれなにこれ辛っ!)
外側の甘い部分が溶け、中身を噛んだ瞬間に汗が噴き出すような辛さが。
今まで甘い物が続いたので、余計に辛い。なので思わず、
「辛っ!」
声を上げ、ついでに炎も出ました。
「なにこれ!」
喋るたびに火が噴き出る。
「お、そんな効果が出たか。カラシ入りは火吹き効果っと」
のんびりとメモを取る五郎。ツッコミの一つも言いたいけれど、喋るとまた火を噴きそうなので黙ってる。
そうしていると、悲鳴が一つ。
「キャーッ! なにこれなにこれ! イヤーッ!」
金切声をあげる薫に視線を向ければ、髪が伸びて、ついでに胸も生えた薫の姿が。
「キモいーっ! なによこれーっ! なんでこんな無駄肉付いちゃってんのよぉっ!」
「牛脂入りは女体化でもするのか? おい、下は付いてるか?」
「付いてるわよっ! 取れて堪るもんですかっ!」
冷静にメモを取る五郎に叫ぶ薫。それを見ていた咲と有希は、
「落ち着きなさいよ。どうせすぐに戻るんんだから」
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今まで何度も五郎の実験台になっているからなのか、余裕で声を掛ける。
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しかし、そこは「帝国の重荷」と蔑まれる、借金まみれで領民が飢える極貧領地だった。
凍える屋敷、迫りくる借金取り、絶望する家臣たち。
詰みかけた状況の中で、アレクは独自のユニーク魔法【構造解析(アナライズ)】に目覚める。
それは、物体の構造のみならず、組織の欠陥や魔法術式の不備さえも見抜き、再構築(クラフト)するチート能力だった。
「問題ない。この程度の赤字、前世の案件に比べれば可愛いものだ」
前世の経営知識と規格外の魔法で、アレクは領地の大改革に乗り出す。
痩せた土地を改良し、特産品を生み出し、隣国の経済さえも掌握していくアレク。
そんな彼の手腕に惹かれ、集まってくるのは一癖も二癖もある高貴な美女たち。
これは、底辺から這い上がった若き伯爵が、最強の布陣で自領を帝国一の都市へと発展させ、栄華を極める物語。
出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜
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実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。
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絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。
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当作品は過去作品の改稿版です。情景描写等を厚くしております。
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