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第一章 街を作る前準備編
12 秘密な会談 その①
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夜。人気のない道を、俺は1人で歩いていた。
頼りになる灯りは星の光ぐらいしかないけれど、勇者なので普通の人達より夜目は利くので問題は無い。
「それにしても、美味しかったなぁ」
五郎のお店での食事会を思い出し、ちょっと表情が緩んでしまう。
(こっちの世界で、満漢全席が食べられるとは思わなかったなぁ)
材料は、こちらの世界の物だったので、微妙に見た目が違っていたのはご愛嬌だけど。
(リリス達も、喜んでくれてるかな?)
お店をあがった五郎に頼んで、食事会の料理を屋敷に持って行って貰えるよう頼んだんだけど、みんなが美味しそうに食べるのを見れないのは残念だ。
「しょうがないか。これから仕事だし」
向かう先にある、こじんまりとした屋敷に視線を向けながら思う。
鬼が出るか蛇が出るか、楽しみだな、と。
いま向かっているのは、魔術協会から帰り際に、内密に会うことを求めてきたカルナの屋敷だ。
あの時、受け取ったメモ書きには住所しか書いてなかったけれど、五郎の食事会に来ていた勇者のみんなから情報を集めたことで、そこがカルナの住居だというのは分かっている。
(元が貴族の別邸としては小さいけど、2人で住むには広すぎるよな)
みんなの話では、あの屋敷にはカルナとミリィの2人しか住んでいないらしい。
(2人っきりかぁ……普通に考えたら、デキてるとしか思えないんだけど……)
カルナとミリィの2人を思い出し、少し考える。
(お互いがお互いに踏み込んでるくせに気付けてないというか、筒抜けなのに壁があるって感じだったんだよな、あの2人)
どういうつもりで俺と秘密裏に会いたいのかは気になるけれど、あの2人の仲も気になる。
そんなことを考えている内に、俺は目的の屋敷に辿り着いた。
玄関前に立ち、周囲の気配を探る。
幾つかの探知用の魔術が設置されている以外では、人の気配はしない。
(監視カメラで視られてる気分だな)
簡素な状況把握を終らせて、扉を叩く。
間を空けず、扉は開けられた。
「ようこそ、おいで下さいました」
ミリィを背後に連れたカルナが、俺を迎え入れる。
「お招き有難うございます。どんな歓迎を受けるのか、楽しみにしてきたんですよ」
含みを込めて返せば、
「期待して頂けたのは嬉しいですね。ご期待に沿えるよう、頑張ります。
さぁ、どうぞ」
カルナは笑顔のまま俺を招く。
「お邪魔します」
屋敷に足を踏み入れれば、中はしっかりと明るかった。
見れば、蝋燭やランプではなく、照明用の魔導具が、要所要所に設置されているのが分かる。
照明用の魔導具は、大気中の魔力を使って明かりを灯すのだけど、作るために必要な材料が希少なので、他の魔導具と同様に非常に高い。
なのに、これだけ設置されているという事は、それだけ財力がある証明になる。
のではあるけれど、ちょっと違和感が。
気になって、よく見ていると、今まで見てきた照明用の魔導具とは形が違う。
それに、魔術が実行されている時に感じる気配も、どうにも変だ。
(見た事が無い形だな……新型かな?)
「気になりますか?」
足を止めてまで見ている俺に、カルナは問い掛ける。
「ええ。今まで見た事も無い魔導具ですから。貴方が作ったのですか?」
情報収集も兼ねて訊いてみると、
「はい。コストを抑えて作った新型です。耐用年数は短いですが、大量生産できる体制さえ整えられれば、気軽に買える物に出来る筈です」
「それはすごい!」
思わず声が出る。
「それって、巧くやれば誰でも明かりを手に入れられるって事じゃないですか!」
明かりを手に入れる。それは、ある種の革命的なことだ。
だって明かりが無く、暗闇のせいで使う事の出来なかった時間を、自分のために使うことが出来るようになるんだから。
「すごいですよ! うん、すごい!」
心から感嘆する。この情報を知ることが出来ただけで、今日ここに来た甲斐があった。
そうして感心しながら、バレないようにミリィの様子を見る。
変わらず無表情に見えて、隠しきれない誇らしげな感情が表情に滲んでいる。
好きな相手が褒められて嬉しいんだって、見ているだけで伝わって来た。
なんだか、ほっこりする。かわいいな、この子。
だというのに、
「大した物ではありませんよ」
謙遜でも、傲慢ですらなく、どこか後ろ向きな響きを滲ませカルナは言う。
「上の評判は、とても悪いですから。あのような出来の悪い中途半端な物など作るなと、よく怒られますよ」
そんなことを言ったせいで、しゅんと気落ちしてしまうミリィ。
(違うだろおぉぉぉっ! なにそこで卑屈になってんだよ! 彼女の前でなに言っちゃってんの!)
謙虚なら良いんだけど、単なる卑屈だとミリィが心配するだけだろうに。
「なにか?」
笑顔のまま急に黙った俺に、探るようにカルナは問い掛けてくる。
「いえ。魔術協会のお偉方は完ぺき主義の方達が多いですから、大変でしょう」
「……ええ、そうですね。私のような若輩には、難しい問題です」
カルナは、言葉を選ぶようにして返す。
こちらの言葉を否定はしないけれど、積極的に肯定しないってことは、魔術協会と俺のどちらにも気を遣っている感じだ。
バランス感覚があるって言えば良いかもしれないけど、どっちつかずの中途半端にも思える。
(割と、おっかなびっくりで動くタイプなのかな? でも、俺をここに呼んだりしてるのを考えると、大胆な気もするし……)
正直、まだカルナの性格が掴みきれない。
それだけに、この先なんの話をこちらに仕掛けてるのかが非常に楽しみだし気になる。
ミリィとの仲がどうなってるのかを、聞きたくなるのと同じぐらい。
だから俺は、催促をするように話を向ける。
「大変なようですね、貴方も。可能なら、それについても話を聞かせて頂きたいです。もっとも、私をここに呼んだ理由を、聞かせて頂く方が先ですが」
「もちろんです。ここでは落ち着いて話も出来ませんし、応接室までご案内します」
そう言って案内するように歩き出したカルナの後を、俺は付いて行く。
しばし歩き、屋敷の1階、最奥の部屋の前まで来ると、
「どうぞ、お入りください」
カルナは部屋の扉を開け、入るよう勧めてくる。
勧められ部屋の中に入った瞬間、僅かに気圧が変化するような感じが。
防音系の魔術を使ってある部屋に入ると、こういう感覚になるから、きっとこの部屋にも使っているんだろう。
他にも何かないか探ってみるけど、特に何も感じられない。
ゆったりとした広さのある応接間、といった感じだ。
部屋の中央には、テーブルを挟んで向かい合わせでソファが備え付けられていた。
そうして部屋を調べている間に、カルナとミリィも部屋に入り、カルナは俺にソファの一つを勧め、ミリィは扉の前に待機している。
(ん……あくまでも、メイドと主人で通すんだ、この2人……一緒に居りゃ良いのに)
一緒に居る2人の反応を楽しみたかったので、
「彼女は、傍に居なくても良いんですか? 護衛でしょう? 貴方の」
本音を隠して言ってみる。
2人が一緒に居て、もどかしい雰囲気を堪能したい、などとはさすがに言えないし。
するとカルナは一瞬だけ、けれど葛藤するように悩んだ後、
「ミリィ。こっちに来て」
カルナはミリィを呼んだ。
するとミリィは、迷うような気配を見せたけど、やがて無言でカルナのすぐ後ろに近付く。
これから俺と舌戦を繰り広げるであろう、カルナを心配そうに見つめながら。
そしてカルナと言えば、より一層気合が入ったように見えた。
「どうぞ、お座りください」
「……ええ」
2人の、どこか初々しい感じを堪能していたせいで返事を遅らせながら、俺はソファに腰を下ろす。
そしてカルナが腰を降ろした所で、まずは俺から口を開いた。
「さて早速ですが、貴方からの伝言の真意を教えて頂きたいですね。
蒸気機関に関して話したい事があるとの事ですが、何のことでしょう?」
俺の問い掛けに、
「そうですね。まずは、これを見て頂けませんか?」
カルナは、ゆったりとした口調で応えると、自分が据わっているソファの足元に置いておいた箱を開け、中身をテーブルに置く。
ゴトリっと、重い音をさせ置かれたのは、小型の蒸気機関だった。
頼りになる灯りは星の光ぐらいしかないけれど、勇者なので普通の人達より夜目は利くので問題は無い。
「それにしても、美味しかったなぁ」
五郎のお店での食事会を思い出し、ちょっと表情が緩んでしまう。
(こっちの世界で、満漢全席が食べられるとは思わなかったなぁ)
材料は、こちらの世界の物だったので、微妙に見た目が違っていたのはご愛嬌だけど。
(リリス達も、喜んでくれてるかな?)
お店をあがった五郎に頼んで、食事会の料理を屋敷に持って行って貰えるよう頼んだんだけど、みんなが美味しそうに食べるのを見れないのは残念だ。
「しょうがないか。これから仕事だし」
向かう先にある、こじんまりとした屋敷に視線を向けながら思う。
鬼が出るか蛇が出るか、楽しみだな、と。
いま向かっているのは、魔術協会から帰り際に、内密に会うことを求めてきたカルナの屋敷だ。
あの時、受け取ったメモ書きには住所しか書いてなかったけれど、五郎の食事会に来ていた勇者のみんなから情報を集めたことで、そこがカルナの住居だというのは分かっている。
(元が貴族の別邸としては小さいけど、2人で住むには広すぎるよな)
みんなの話では、あの屋敷にはカルナとミリィの2人しか住んでいないらしい。
(2人っきりかぁ……普通に考えたら、デキてるとしか思えないんだけど……)
カルナとミリィの2人を思い出し、少し考える。
(お互いがお互いに踏み込んでるくせに気付けてないというか、筒抜けなのに壁があるって感じだったんだよな、あの2人)
どういうつもりで俺と秘密裏に会いたいのかは気になるけれど、あの2人の仲も気になる。
そんなことを考えている内に、俺は目的の屋敷に辿り着いた。
玄関前に立ち、周囲の気配を探る。
幾つかの探知用の魔術が設置されている以外では、人の気配はしない。
(監視カメラで視られてる気分だな)
簡素な状況把握を終らせて、扉を叩く。
間を空けず、扉は開けられた。
「ようこそ、おいで下さいました」
ミリィを背後に連れたカルナが、俺を迎え入れる。
「お招き有難うございます。どんな歓迎を受けるのか、楽しみにしてきたんですよ」
含みを込めて返せば、
「期待して頂けたのは嬉しいですね。ご期待に沿えるよう、頑張ります。
さぁ、どうぞ」
カルナは笑顔のまま俺を招く。
「お邪魔します」
屋敷に足を踏み入れれば、中はしっかりと明るかった。
見れば、蝋燭やランプではなく、照明用の魔導具が、要所要所に設置されているのが分かる。
照明用の魔導具は、大気中の魔力を使って明かりを灯すのだけど、作るために必要な材料が希少なので、他の魔導具と同様に非常に高い。
なのに、これだけ設置されているという事は、それだけ財力がある証明になる。
のではあるけれど、ちょっと違和感が。
気になって、よく見ていると、今まで見てきた照明用の魔導具とは形が違う。
それに、魔術が実行されている時に感じる気配も、どうにも変だ。
(見た事が無い形だな……新型かな?)
「気になりますか?」
足を止めてまで見ている俺に、カルナは問い掛ける。
「ええ。今まで見た事も無い魔導具ですから。貴方が作ったのですか?」
情報収集も兼ねて訊いてみると、
「はい。コストを抑えて作った新型です。耐用年数は短いですが、大量生産できる体制さえ整えられれば、気軽に買える物に出来る筈です」
「それはすごい!」
思わず声が出る。
「それって、巧くやれば誰でも明かりを手に入れられるって事じゃないですか!」
明かりを手に入れる。それは、ある種の革命的なことだ。
だって明かりが無く、暗闇のせいで使う事の出来なかった時間を、自分のために使うことが出来るようになるんだから。
「すごいですよ! うん、すごい!」
心から感嘆する。この情報を知ることが出来ただけで、今日ここに来た甲斐があった。
そうして感心しながら、バレないようにミリィの様子を見る。
変わらず無表情に見えて、隠しきれない誇らしげな感情が表情に滲んでいる。
好きな相手が褒められて嬉しいんだって、見ているだけで伝わって来た。
なんだか、ほっこりする。かわいいな、この子。
だというのに、
「大した物ではありませんよ」
謙遜でも、傲慢ですらなく、どこか後ろ向きな響きを滲ませカルナは言う。
「上の評判は、とても悪いですから。あのような出来の悪い中途半端な物など作るなと、よく怒られますよ」
そんなことを言ったせいで、しゅんと気落ちしてしまうミリィ。
(違うだろおぉぉぉっ! なにそこで卑屈になってんだよ! 彼女の前でなに言っちゃってんの!)
謙虚なら良いんだけど、単なる卑屈だとミリィが心配するだけだろうに。
「なにか?」
笑顔のまま急に黙った俺に、探るようにカルナは問い掛けてくる。
「いえ。魔術協会のお偉方は完ぺき主義の方達が多いですから、大変でしょう」
「……ええ、そうですね。私のような若輩には、難しい問題です」
カルナは、言葉を選ぶようにして返す。
こちらの言葉を否定はしないけれど、積極的に肯定しないってことは、魔術協会と俺のどちらにも気を遣っている感じだ。
バランス感覚があるって言えば良いかもしれないけど、どっちつかずの中途半端にも思える。
(割と、おっかなびっくりで動くタイプなのかな? でも、俺をここに呼んだりしてるのを考えると、大胆な気もするし……)
正直、まだカルナの性格が掴みきれない。
それだけに、この先なんの話をこちらに仕掛けてるのかが非常に楽しみだし気になる。
ミリィとの仲がどうなってるのかを、聞きたくなるのと同じぐらい。
だから俺は、催促をするように話を向ける。
「大変なようですね、貴方も。可能なら、それについても話を聞かせて頂きたいです。もっとも、私をここに呼んだ理由を、聞かせて頂く方が先ですが」
「もちろんです。ここでは落ち着いて話も出来ませんし、応接室までご案内します」
そう言って案内するように歩き出したカルナの後を、俺は付いて行く。
しばし歩き、屋敷の1階、最奥の部屋の前まで来ると、
「どうぞ、お入りください」
カルナは部屋の扉を開け、入るよう勧めてくる。
勧められ部屋の中に入った瞬間、僅かに気圧が変化するような感じが。
防音系の魔術を使ってある部屋に入ると、こういう感覚になるから、きっとこの部屋にも使っているんだろう。
他にも何かないか探ってみるけど、特に何も感じられない。
ゆったりとした広さのある応接間、といった感じだ。
部屋の中央には、テーブルを挟んで向かい合わせでソファが備え付けられていた。
そうして部屋を調べている間に、カルナとミリィも部屋に入り、カルナは俺にソファの一つを勧め、ミリィは扉の前に待機している。
(ん……あくまでも、メイドと主人で通すんだ、この2人……一緒に居りゃ良いのに)
一緒に居る2人の反応を楽しみたかったので、
「彼女は、傍に居なくても良いんですか? 護衛でしょう? 貴方の」
本音を隠して言ってみる。
2人が一緒に居て、もどかしい雰囲気を堪能したい、などとはさすがに言えないし。
するとカルナは一瞬だけ、けれど葛藤するように悩んだ後、
「ミリィ。こっちに来て」
カルナはミリィを呼んだ。
するとミリィは、迷うような気配を見せたけど、やがて無言でカルナのすぐ後ろに近付く。
これから俺と舌戦を繰り広げるであろう、カルナを心配そうに見つめながら。
そしてカルナと言えば、より一層気合が入ったように見えた。
「どうぞ、お座りください」
「……ええ」
2人の、どこか初々しい感じを堪能していたせいで返事を遅らせながら、俺はソファに腰を下ろす。
そしてカルナが腰を降ろした所で、まずは俺から口を開いた。
「さて早速ですが、貴方からの伝言の真意を教えて頂きたいですね。
蒸気機関に関して話したい事があるとの事ですが、何のことでしょう?」
俺の問い掛けに、
「そうですね。まずは、これを見て頂けませんか?」
カルナは、ゆったりとした口調で応えると、自分が据わっているソファの足元に置いておいた箱を開け、中身をテーブルに置く。
ゴトリっと、重い音をさせ置かれたのは、小型の蒸気機関だった。
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