転生して10年経ったので街を作ることにしました

笹村

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第二章 街予定地の問題を解決しよう編

1 蒸気機関車が出来ました その①

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「おお、これは……すごいな。すごいものだな、リリスの勇者よ」

 猫車に乗りながら窓の外を見てはしゃぐ神に、俺は苦笑をこらえながら返していった。

「楽しんで貰えたなら、俺も嬉しいですよ、デミウルゴス」

 いま俺の前に居るのは、造形神デミウルゴス。本来なら、現世に訪れることが出来ない彼も、俺の女神であるリリスの力を借りてここに居る。

(その代償に、リリスが現世に出て来れなくなったのは、寂しいけど)

 ちくりと、胸を刺すようにそんな事を思ったりするけれど、デミウルゴスの喜びようを見てると、そういった気持ちも薄らぐ。
 彼がいま見ているのは、王都で暮らす人々だ。
 猫車で揺られながら、道を歩き、あるいは露店で笑い合いながら売り買いする、そんな普通の人々を見て目を輝かしていた。

 どうという事のない日常。そこに生きる人々に、喜びを浮かべている。

「始めてみる、人の日常はどうですか? デミウルゴス」
「すごい……あぁ、いや、他にもっと良い言葉があるのだろうが……すまぬ、表すべき言葉が浮かばないのだ」

 どこか夢を語るように、デミウルゴスは言う。
 それも仕方ない。それほど、神々が本来いるべき神の座は、何も無いのだ。

 神の力が満ち、神の思い通りの物を創り出せる世界。
 だからこそ、そこには何もない。
 思い通りにしかならない世界に驚きはなく、自己の延長しか存在しない。

 神々以外の他人が、誰一人としていない寂しい世界。
 そこに生まれてからずっと居たのだ。今みたいにはしゃいでしまうのも仕方がない。

(人口が数十人しか居ない田舎から都会に出てきたおのぼりさん……っていうのは、ちょっと違うかな?)

 当たらずとも遠からず、という気持ちもするけれど、きっとデミウルゴスにとっては、それ以上の気持ちで外の人々を見ているんだろう。

(そういえばリリスも、最初の頃は、そんな感じだったなぁ)

 当時を思い出して、くすぐったい気持ちになっていると、

「リリスの勇者よ。それで、これはあとどのくらいで、出雲と八雲達の所に着くのだ?」

 わくわくとドキドキを隠しきれずに、デミウルゴスが訊いてくる。
 自分の勇者達に、現世で逢えるのが嬉しくて嬉しくてたまらない。それが見ているだけで伝わってくる。

「あと30分ほどで着きますよ。この猫車のミークンは足が速いですから」

 いま俺たちが乗っているのは、全高2m以上の大きさを誇る猫型の魔獣、ミークンがひく車だ。
 馬よりもパワーも持久力もあり、頑丈で人懐っこいミークンは、こういう所でも良く使われていた。

「そうか……まだ30分もあるのか」

 俺の答えに、デミウルゴスは、気落ちしたようにしゅんとする。
 見た目が40代前後の、白髪蒼眼をした渋いオッチャンに見えるので、こう思うのは変かもしれないけど、なんかかわいい。

 俺は苦笑しそうになる自分を抑え、慰めるように言う。

「あと、たった30分ですよ、デミウルゴス。それだけ待ったら、逢えるんですから。それに、2人には貴方が現世に来ている事を伝えてないんです。どうやって驚かすように逢うか? 考えるには、短いですよ」

 実は、出雲と八雲の2人には、今デミウルゴスが現世に居ることを伝えてない。
 魔術協会で、資材の提供と共に、若い魔術師たちの派遣を頼んでからわずか2週間足らずで、あろうことか2人は工房の人達の力も借りて蒸気機関車を完成させていた。
 若い魔術師たちの協力もあって、一気に進んだらしい。
 それで驚かされた俺は、驚かせ返すのと一緒に礼も兼ねて、2人がデミウルゴスに逢えるようにリリスに頼んだんだ。

 元々リリスも、そろそろ誰かを現世に訪れさせようと思っていたので、話はとんとん拍子に進み、俺が2人に蒸気機関車を見せて貰いに行くのに合せて、デミウルゴスには連いて来て貰っているのだ。

 そんなデミウルゴスは、俺の問い掛けに、 

「分からん。逢えると分かってから、ずっと考えていたのだが、どうにもな。嬉しさばかりが浮かんできて、それ以上、考えられんのだよ」

 喜びを表情かおに浮かべ返してきた。

「そうですか……でしたら、深く考えない方が良いですよ。自分の気持ちのままに、逢えば好いんです」
「そうか……そういうものなのか、リリスの勇者よ」
「はい」

 俺の答えに、デミウルゴスは期待を浮かべ窓の外をまた眺め始めた。すると、

「ふむ……リリスの勇者よ。この車は、他の車とは違うのだな」

 横切った猫車を見てデミウルゴスは訊いてくる。

「車輪の形が違うな。それに車体下の機構も違う……」

 造形神として、発明や製造に関する奇跡を起こす神だけあるのか、興味深げだ。それに俺は答える。

「いま俺たちが乗っている車には、俺たちが元居た世界の技術が使われていますから」

 車輪はゴム製のタイヤを使い、車体にはサスペンションを備え付けている。これで車体の跳ね上げはかなり押さえられ、乗り心地はかなり好い。

(……思った以上に、跳ねてお尻が痛かったからな、元々こちらにあった車……)

 下手に普及させると、ゴムの需要とかがとんでもない事になるので表に出すのは隠してたんだけど、最近になって、こちらの世界のゴムの木に当たる植物の大量生産が可能になったので、技術を解禁して、まずは自分達専用に作ったのだ。
 俺達だけじゃなく、ウチに派遣されて来てくれた若い魔術師たちの移動にも使って貰っているのだけど、かなり評判は上々だ。

 といいうより、感激してるけど。
 ウチに来てくれた以上、もうウチの子なので、その辺はキッチリしてあげている。

 食事は五郎が作る、俺達が元居た世界並の食事に、上下水道お風呂完備。
 ワンルームマンション型の個室を支給し、週休2日で残業はして貰うけど残業代はしっかり出す。
 などという待遇で居て貰っている。幸い、今の所みんなに合っているのか、不満の声も無く万々歳だ。

 というか、気のせいかむせび泣いてる子まで居たような気もしたんだけど……どんだけブラックな職場だったんだろう、魔術協会。

 などということを思いながら、途中途中でデミウルゴスの問い掛けに答えている内に、俺達は八雲と出雲の工房に辿り着いた。
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