転生して10年経ったので街を作ることにしました

笹村

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第二章 街予定地の問題を解決しよう編

2 街予定地に到着するまで車内販売試食会 その⑧ 豚の照り焼きサンドとプリンを食べて現地到着

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 五郎の料理を待つ間、手持ち無沙汰になった俺は、懐中時計型の魔力計を取り出して確かめる。

(段々と、魔力が濃くなってきたな)

 目的地である、かつての魔王都市シュオルに近付くにつれ上がっていく数値を見ながら、俺は思う。
 懐中時計型の魔力計は、今は4時を示している。
 王都だと、大体3時の辺りを示していたから、1、3倍ぐらいの濃度だ。
 これがシュオルにまで着くと、2倍にまで跳ね上がる。

(魔力が上がると、その分、魔物の発生率が上がるからな。結構、居るだろうな)

 目的地に着くと同時に、対処しなきゃいけない問題に今から頭が痛い。
 俺達が魔王を倒した後、魔王都市の管理は王政府がする事になったので、幾らか魔物を駆除している筈だけど、それでも数は少ないとは思えない。

 なにしろ、魔物の発生率が違う。
 魔力が2倍になったんだから魔物の発生率も2倍、とはならないのが怖い所だ。
 基本的に、魔力の倍数ではなく乗数で魔物の発生確率は上がっていくので、王都の4倍は魔物が発生するのだ。

 それでも、その先の魔界に比べればマシだけれど。
 シュオルの先にある大樹海ゾニス、その最奥になると魔力濃度は10倍。
 その更に先にある、元居た世界で言えばエベレスト級の大山脈、大天山グランディア以降に到っては、最低でも20倍以上である。
 
 なので、場合によっては王都の数百倍ぐらいの勢いで魔物が発生する場所に隣接した上で、領地経営していかないといけないのだ。

(魔物の対処を、どうにかしなきゃいけないんだよな。戦える人を確保しなきゃいけないんだけど、どこから引っ張って来れば良いかな~)

 俺達、勇者が戦うっていう手もあるんだけど、それだと他のことが出来なくなる。

(さて、どうするかな~)

 なんて悩んでいると、ふんわりと焼き立てパンの匂いが。美味しそうな匂いに、気持ちがほっこりする。
 という訳で、今だけは気持ちを切り替えて、美味しい物に集中する。
 楽しめる時に楽しまないと、先は続かないもんだし。

「好いね、美味しそうな匂い。やっぱり、出来立てって、匂いも美味しいよね」
「香りも味の内ってな。ほいよ、食べてくれ」

 俺の言葉に嬉しそうに返してくれながら、五郎は俺のテーブルに料理の入った皿を2枚乗せる。
 豚サンドとプリンだ。

 豚サンドのパンは、形はお饅頭みたいに真ん丸で、色が濃い。きっとこれは、小麦粉じゃなくライ麦をメインに置いたパンだ。
 ライ麦がメインのパンだと、作り方によっては硬くなっちゃうけど、これはそんなことはない。
 小麦粉だけの物よりしっかりしてるけど、ほどよいやわらかさだ。
 それを横に2つに切って、間に厚みのある照り焼き風の豚肉が挟まれている。
 
 口元に持って行く。するとより強く、焼き立てパンの香りが。
 味の前に香りを楽しんで、勢い良くかぶりつく。

 やわらか過ぎない、ほど良い噛み応えを味わった後に、しっかりと噛み締めれば、ライ麦パンの濃い味が楽しめた。
 ほんのりと甘い。それ以上に、味がしっかりしてる。パン自体の旨味が濃い。

 パンだけでも、十二分に美味しいと思える味だ。
 でもそれは、豚肉を味わうと更に倍増する。

 分厚いのに硬くなく、けれど噛む楽しみは味わえるほど、弾力がある。
 食べてて「肉だ!」と主張してくるほど、肉々しい味わい。
 それをパンと一緒に食べることで、お互いの濃い味が競い合い、更なる美味しさを楽しませてくれる。

 その上スパイシーな中にも甘味があるタレが、パンと肉の個性の強い味をまとめ上げ、1つの料理として味わえる。
 タレの甘味は砂糖じゃない。多分、林檎だと思う。爽やかな、すっきりとした甘味が、全体の味に丸みを感じさせてくれた。

(旨い。それに、お腹にずっしり来る感じだなぁ。お昼とかで時間がなくて、でもガッツリ食べたい、てな時に良いなぁ)

 止まらず一気に食べる。これは、それが一番美味しい食べ方だ、きっと。

「ふぅ……美味しかったぁ」

 気付けばぺろりと食べ終わる。1個しか食べてないけれど、十二分に満足感が得られる豚サンドだった。

 その満足感の余韻に浸りながら、残されたもう一つの皿に目が向かう。

 カラメルソースの掛けられた、ふるふるのプリン。
 黄味の色が強い、見ているだけで味が濃ゆそうなプリンだった。

 スプーンを手に、すくい取る。
 やわらかい。すっと一口切り取って、舌にのせる。

 その途端、ほっと息を抜くような心地好い甘さが広がる。
 舌だけで形を崩すと、とろりとした食感と、まったりとした甘味が味わえた。

 濃い味わいなのに後を引かない、旨味のある甘さが美味しい。

 ひとさじ食べただけでも、満足感がすごい。
 だからゆっくりと、一口ずつ堪能して味わうことが出来た。

「ごちそうさま……」

 食べ終わると、満足感で少し言葉が出ない。それぐらい美味しくて、楽しめる食事だった。

「五郎、ありがとう。すっごく美味しかったよ」

 素直な気持ちで言うと、

「そりゃなによりだ。それ以上の褒め言葉はねぇな」

 五郎も、満足そうな笑顔を浮かべてくれた。

 そうして楽しい食事をとって、少し休んだ頃、目的地となるシュオルが見えてくる。

 見渡す限りの廃墟。それがシュオルだ。
 俺達と魔王の戦いで、そうなってしまった。
 殺伐とした場所ではあるけど、

(懐かしいな……)

 死闘を繰り広げた場所として、忘れられないほどには思い入れのある場所。
 そしてこれから、みんなの街になる場所へ、俺達は辿り着いた。
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