転生して10年経ったので街を作ることにしました

笹村

文字の大きさ
98 / 115
第二章 街予定地の問題を解決しよう編

9 進撃開始 その④

しおりを挟む
「3班は2班と入れ替わりで遠距離攻撃魔術! 攻撃の隙間は作るな! 途切れず攻撃を続け、2班はその間に後退しろ!」

 カルナが自分の受け持つ部隊に指示を出す。カルナ達の元に向かった魔物は2体。
 盾を持つ巨大な魔物と、何本もの触腕を手甲のような武器で覆った魔物。

 最初、同時に突進して来たそれを分断するために、カルナが巨大な雷の塊を叩き付け動きを止めると部隊に指示を飛ばし、その場に釘付けにしたのだ。
 一撃の威力よりも攻撃速度に重点を置いて、絶え間ない飽和攻撃を与えている。

 それは全て、もう1体の魔物を倒そうと奮闘する、近接戦闘部隊を援護する為だ。
 
「ギイュイイイン」

 魔物が鳴き声を上げながら、触腕を振るう。
 頭部に当たる球状の黒の塊に無数の目玉を生やし、周囲全てを見詰めながら魔術師たちを襲っていた。

「ひっ!」

 恐怖にひきつった声を上げながら、魔術師の1人が触腕を辛うじて避ける。
 魔物の腕は、それぞれ両肩に4本ずつの合計8本。
 それが不規則な動きで襲い掛かってくる。

 人間の腕のような動きじゃない。まるでゴムか何かのようにうねり、地面を抉る威力を叩き込もうとして来る。
 それを受ける魔術師たちの動きは悪い。

 魔術で防御できるとはいえ、生き死にの掛かった戦いを生身で初めてしているのだ。
 恐怖で動きが鈍るのも仕方がない。

 しかも、それ意外にも理由がある。
 魔術で強化した肉体の感覚に意識が連いて行けてないんだ。
 魔術師の人達の大半は、何らかの戦闘訓練をした事の無い素人なので、体の動かし方自体が分かってない。
 
 強化した自分の体に振り回されるようにして、避けるのが精いっぱいだった。
 けれどそれも、少しずつ慣れていっている。
 時間さえあれば、どうにかなったかもしれない。

 でも、魔物がそれを許さない。
 鞭のように腕をしならせ、規則性の無いデタラメな動きを見せる。

 地面を抉りながら、攻撃範囲を少しずつ広げていき、魔術師たちを追い詰める。
 反撃するどころか、攻撃するために踏み込む事すら出来ず、魔術師たちは距離を取ることしか出来ない。

 そこに、腕を振り回しながら魔物が突っ込んでくる。
 あまりの速さに避け切ることが出来ず、それどころかこけてしまった魔術師の1人に、魔物の腕が迫る。

 まさに一瞬。魔術師を抉るように跳んできた魔物の腕が当たろうとしたその時、ミリィの拳が殴りつけ粉砕した。

 鋼が砕けるような激音と共に、魔物の腕が跡形もなく砕け散る。
 僅かに、魔物は動きが鈍る。その猶予を、ミリィは魔術師への言葉に費やした。

「怪我はありませんか?」

 やさしい、穏やかな声。戦いの中にあって余裕を見せるようなその声に、助けられた魔術師の少年は息を飲むようにして小さく頷く。

「好かった」

 安心するような笑顔を一瞬だけ見せ、ミリィは魔物と対峙する。

「待って、1人じゃ、危ないです!」

 恐怖と戦いながら立ち上がり、ミリィを心配する魔術師の少年に、

「大丈夫です。独りじゃ、ありませんから。みなさんが、います」

 ミリィは力強く返し、魔物に立ち向かう。 
 まっすぐに踏み込む。魔物の腕を一つ破壊したとはいえ、まだ7つが健在。
 しかも破壊された腕すら、瞬く間に再生している。

 それでもミリィは恐れずに踏み込む。
 魔物は迎撃せんと、健在な7つの腕全てを解き放った。

 それぞれがタイミングをずらし襲い掛かる7つの腕は、しかし1つたりともミリィに触れることすら出来ない。

 右から襲い掛かった一撃は、踏み込みの速さに追い付けず空振りし、左から襲いくる一撃は、殴りつけられ弾かれる。
 そこから間髪入れず続けざまの5連撃を、ミリィは軽やかな足さばきで全てを避け切った。

 まるで舞い踊るかのような流麗な動きで、魔物の攻撃を捌き切ったミリィは、さらに一歩前に。
 引き絞られる拳が狙うは、がら空きの胴体。
 詠唱と共に、撃ち放つ。

「我が拳は刃なり、我が敵を断ち切るものなり。斬り裂け、刃拳!」

 弧を描いて放たれた拳は、半月状の衝撃波を撃ち出す。
 至近距離で放たれたそれを、魔物は避け切れない。
 横一文字に、上半身と下半身を断ち切られた。
 だが、その瞬間――

「ギイイイイイッ!」

 叫び声を上げながら魔物は自分の腕を伸ばし、切り離された上半身と下半身を掴み無理やり合わせると、傷口を握り潰すようにして無理やり塞ぐ。
 その途端、斬り口が蠢き身体を繋げる。

 ふざけた再生力を見せた魔物は、即座に大きく後ろに跳び退き、ミリィから距離を取った。
 ミリィを脅威と見たのか、その後の魔物は戦法を変える。

 間断なく拳を撃ち出しながら、絶えずミリィに踏み込まれないよう動き続ける。
 ミリィは即座に追うも、放たれる拳を叩き落し、あるいは砕く間に距離を離されてしまう。

 追い付くことが出来ない。そんなミリィをあざ笑うかのように、

「ヒイキキキキキキッ!」

 魔物は鳴き声を上げながら拳を放ち続けた。 

 けれど、そんな物はミリィの勢いを止める邪魔になんてならない。
 どれだけ逃げられようが追い続け、その拳を届かせようと踏み込み続ける。

 果敢に戦う一人の少女。魔術師ではない、それどころか自分達よりも年が低いかもしれない彼女の勇敢さ。
 それを目の当たりにした魔術師たちに、闘志が灯る。

 それは魔術師としての意地であり、ミリィを助けねばという勇気。
 戦う意志で恐怖を飲み込み、魔術師たちは一歩踏み出した。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】

Lynx🐈‍⬛
恋愛
 ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。  それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。  14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。 皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。 この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。 ※Hシーンは終盤しかありません。 ※この話は4部作で予定しています。 【私が欲しいのはこの皇子】 【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】 【放浪の花嫁】 本編は99話迄です。 番外編1話アリ。 ※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。

処理中です...