転生して10年経ったので街を作ることにしました

笹村

文字の大きさ
109 / 115
第二章 街予定地の問題を解決しよう編

12 ひとまず勝利です。でも―― その②

しおりを挟む
「やっぱり、そう思う?」

 俺は五十鈴と向かい合わせになる椅子に座りながら問い掛ける。

「50人ぐらいは、再起不能になっといても、おかしゅうは無かったやろねぇ」
「それって、俺達が率いた部隊の方でってこと?」
「んや、そっちやのぅて、エリートさんな名門魔術師の方やね。うちの方でも、そうなる可能性は考えて、和花たち3人は、自由に動ける遊撃部隊にしとったけど、予想以上に無茶しよったねぇ」
「うん……報告聞いた限りじゃ、連携が取れてなかったみたいだし」
「指揮する頭が何人もおるからねぇ。うちらとは、基本別系統やし」
「それが、頭の痛い所だよね……他に、まずかった所は無い?」
「拠点の維持が出来へんかったのが痛かったわ」

 軽く眉を寄せる五十鈴に、俺は持って来ていたバスケットに入っていたものを取り出す。

「確かに痛いよね、それって……と、それはそれとしてお茶飲むんだけど、苦みがあるのと甘みがあるの、どっちが良い?」
「甘いのがええわ~。あ、でも砂糖が入っとるようなんは、今は要らへんかな~」
「それは大丈夫。花びらから煮出したお茶で、ほんのりとした甘味だよ。しつこさとか、そんなのは全然ないから」

 お茶の入った水筒からカップに入れて、五十鈴に渡す。清涼な香りを楽しんでから、静かに一口。

「……ん。ええねぇ、これ。美味しいわぁ。まさかとは思うけど、陽色が淹れたん?」
「いや、ミリィが。俺達の部隊で、魔術師の子達の指揮役の子がいるでしょ? あの子のメイドさんに淹れて貰ったんだ」
「あーっ、あの子。ええ子やよねぇ。強いし。ってぇか、あの子って、アレなん? 主人の子のこと――」
「多分好きだと思うよ。相手の子も、そうだと思うし」
「わーっ、やっぱそうなん? も~、見とったら甘酸っぱい言うか、お互い意識しとるクセに、付かず離れずで居るいうんか、そんなんやない? アレ見てもう、きゃーみたいな?」
「うんうん、分かる分かる。でも、なんか色々あるみたいでさ、お互い一歩踏み出せないみたいで」
「えーっ、なんなんそれーっ。気になるわーっ」
「そこはまぁ、いまの所は、外野が下手に口を挟むことじゃないし……っと、五郎にサンドイッチ作って貰ったんだけど、食べる?」
「たべるーっ!」

 五十鈴は、俺の差し出したポテトサンドと卵サンドを一度に取ると、2つ一緒にかぶりつく。

「……んっ、はぁ。やっぱええわぁ。味気ない戦闘糧食なんやのうて、こういう手軽でも料理されとるん食べられるんは、格別やねぇ」
「それも込みで、戦闘車両は設計したからね。やっぱ、長期戦を考えたら、戦う人のこういうケアは絶対必要だからね」
「その通りやわ~。うちらが元居た世界の最強国家やと、出先の前線基地に街まで作って福利厚生させるぐらいやったからねぇ。戦争中に。それぐらい、余裕ある戦いが出来るようにしたいわぁ。死人を出さんようにするんが、前提やったら」
「うん、そうだね」

 俺は五十鈴の言葉に頷く。犠牲が前提だの、尊い犠牲だの、そんなクソ舐め腐った言葉が出ない戦いが、俺達の目標だからだ。
 一歩間違えたら、魔王相手の尊い犠牲にされていた俺たち勇者だからこそ、それは譲れない。

 お綺麗な言葉は、自分は戦わないで命令を出すだけの生き残りが垂れ流す物だと、こっちは実感してるのだ。
 そう言うことを言う奴は、言う前に実践して死ね。その上でこっちは生き残るから。
 実際に、魔王相手の鉄砲玉として送り込まれたこっちとしては、そんな気持ちにしかならない。

「ま、こっちの目的は、戦うことやないからねぇ。あくまでも、街の奪還やし」

 サンドイッチを食べ終わり、お茶を飲み干した五十鈴は、一息つくような間を空けて続ける。

「やから、話を戻すんやけど、拠点になるここを、一時とはいえ完全に無人にしたんは痛かったわ」

 いま五十鈴が言っているのは、和花たちが新種の魔物に奇襲を受けた時に、俺達が助けに向かった時のことだ。
 あの時は、全ての人員を蒸気機関車に乗せて、和花たちの応援に向かった。
 それは下手に戦力を分断するよりも、全戦力で対応して、場合によっては全員を蒸気機関車に乗せて撤退できるようにするためだったんだけど、それでいま居るここを無人にしたのは事実だ。

「誰も居らん時に、ここが魔物に襲われんかったんは、単に運が良かっただけやね。それこそ魔物の気紛れで、ここは更地になっとっても、おかしゅうは無かったわ」
「うん、分かってる。でも、あの時の対応は、あれがベストだったと思ってる。他の方法があれば、そっちをとったけど」
「あらへんね。陽色が全員で和花の助けに向かったんは、最善やと思うわ。無駄に戦力を分断して、個別に襲われたら目も当てられへんもの」
「つまり、最善のやり方をしても、運が悪ければダメな状況ってのが、今の状況ってことだよね?」
「そやね。それぐらい、不安定な状況やわ」
「そっか……」

 五十鈴の言葉を受けて、俺は手札を思い浮かべる。
 それは手の内の者だけでなく、可能性も込みで考える。

 出来得る限り全てを考慮に入れながら、俺は五十鈴に尋ねた。

「今の状況がダメなのは分かったよ。その上で訊きたいんだけど、このままで、どうにかなると思う?」

 これに五十鈴は、茶目っ気のある笑みを浮かべながら応えてくれた。

「どうにかなるんやのぅて、どうにかするんよ。その為の苦労は、してくれるんやろ? 陽色」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】

Lynx🐈‍⬛
恋愛
 ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。  それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。  14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。 皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。 この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。 ※Hシーンは終盤しかありません。 ※この話は4部作で予定しています。 【私が欲しいのはこの皇子】 【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】 【放浪の花嫁】 本編は99話迄です。 番外編1話アリ。 ※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。

処理中です...