転生して10年経ったので街を作ることにしました

笹村

文字の大きさ
113 / 115
第二章 街予定地の問題を解決しよう編

13 ひとまず帰宅したけれど―― その①

しおりを挟む
「おかえりなさい、陽色さん」

 勇者の館に帰り、菊野さんに出迎えられた。

「ただいま、菊野さん。なにか、変わったことは無かった?」
「いえ、特に何も。王都近郊も問題はありませんし、私が視ている範囲でも問題はありません」

 菊野さんには、神与能力チートスキルを使って、関係先や近しい人達の様子を見て貰っている。
 離れた場所も見れるので頼んでいるんだけど、複数を同時に見るのは神経を使うみたいなので、苦労をさせている。

「お疲れさま。ごめんね、無理をさせちゃって」
「大丈夫ですよ。出来る範囲でしかしていませんから。それよりも、そちらの方が大変でしょう? 向こうは、どうなっているんですか?」

 ほとんど表情は変わらないけど、僅かに後ろめたそうな響きを、菊野さんは声に滲ませる。 
 防衛の要なので、下手に前線に出せないだけだから気にしなくても良いんだけど、他のみんなが危険な場所に居るのは気になるみたいだ。
 だから俺は、出来る限り明るい声で返す。

「心配しなくても大丈夫。魔術師の人達も優秀だし、みんなも無理せず頑張ってるから。勇者のみんなも、交代制で向こうには出張ってくれてるから、今の規模を維持するだけなら問題ないよ」

 俺達の街になるシュオル。そこを占拠している魔物を排除するために、魔術協会の協力も借りて、勇者のみんなと一緒に頑張っている。
 戦力的に、街の全てを奪還するのは難しいので、それは今のところ捨てて出来ることだけしている。
 半径500メートル程度の半円状の範囲を、ぐるっと壁で覆って、更にその外側に、2重の壁を作って拠点にしてるんだ。
 
 その中で、街の玄関口になる宿泊施設と商業施設、あと序でに慰問も兼ねてのスーパー銭湯まで作ったのを確認してから、俺は王都に戻っていた。

「割と、馴染んでくれてるみたいだよ、魔術師の人達も」

 休みなく戦いの場に出ずっぱりだと、精神的にやられるので、それが一番の懸念だったんだけど、帰る時に見た限りだと大丈夫そうだった。
 とはいえそれでも、自由に王都にも戻れずにシュオルに縛り付けている事には変わりがない。
 それを、菊野さんも分かっているんだろう。心配するように言った。

「魔術師の人達も、今の所は問題ないのですね。でも、このままの状況が続いたら」
「うん、それは俺も気になってるよ。だから余裕を持って、勢力範囲を拡大するためにも、追加の人手は要るね」
「ええ、分かっています。その件で陽色さんが戻ったら、すぐに連絡が欲しいと、石動さんから連絡を貰っています」
「壮真が? 良い返事だったら良いんだけど……」
「ええ。魔導具で向こうとは、いつでも音声でやり取りできるように繋いであります。戻られて直ぐで大変でしょうが、連絡を取って貰えますか?」

 地方で、魔物や魔獣の害から村を守る活動をしている壮真は、それもあって冒険者の人達との縁を繋いでいる。
 俺がシュオルに居る間に、壮真には連絡を取って貰って、シュオルに冒険者の人達を斡旋して貰えないか頼んでいたので、それに関して何らかの応えをしてくれるんだろう。

 俺は、気遣ってくれる菊野さんに笑顔を向けて返す。

「ありがとう、気を遣ってくれて。大丈夫だよ。こっちに戻る間に、蒸気機関車の中で軽く寝たから。皆も頑張ってくれてるんだから、俺も頑張らないとね」
「……そうですか。でも、無理はしないで下さい」

 気遣うように声を掛けてくれた菊野さんと一緒に、俺は通信用の魔導具がある部屋に向かう。
 道中、少し長いので、言葉を交わす。

「そういえば、アルゴスは、どう? こっちの世界を、気に入ってくれた?」

 菊野さんを転生召喚した神、アルゴスは今、現世こちらに来ている。
 俺たち勇者は、転生召喚した神が現世に居ると、どうも神与能力チートスキルが強化されたり、新たな能力に目覚めたりするらしい。
 それを利用して、菊野さんの仕事が楽にならないかと思い、来て貰っていたんだ。

 もっとも菊野さんの場合、今まであった能力が強化されるというよりは、新しい能力に目覚めるタイプだったらしく、見回り仕事が楽になる効果は無かったみたいだ。
 それはそれとして、折角現世に来て貰ったのだから、しばらく滞在して貰っている。

「……非常に気に入ったみたいです。色々な場所に、行きたがりますから」

 ため息をつくように、菊野さんは返す。

現世こちらに来たばかりの頃のように、私に四六時中べったりなのも困りますけど、勝手にふらつかれるのも困ったものです」
「ははっ、楽しんでるみたいだね。じゃ、今は、どこに居るの?」
「外に出ています。陽色さんが戻られる少し前に、

 お客さんが来るみたいだから、迎えに行って来よう。菊野は待っていなさい。

 とか言って、出ていったきり、まだ戻りませんから」
「お客さん? なにかが、見えたのかな?」

 神々は、それぞれ得意とする能力があり、アルゴスの場合は『視る』ことに特化している。

「ひょっとすると、未来でも視えたのかな?」

 菊野さんもそうだけど、アルゴスも未来視が出来るらしい。
 もっとも本人でもコントロール出来ず、突発的に視えたりするみたいなんだけど。

「……言われてみれば、そうかもしれません。単純に、遊びに出ただけの可能性も、ありますけど」

 ため息をつくように、菊野さんは言った。

 そうしてお喋りをする内に、部屋に辿り着く。
 中に入り、すぐに通信用の魔導具を起動する。

「これって留守番電話みたいに、こちらからの言葉を、向こうに残せるんだよね?」
「ええ。向こうからの連絡記録は……今のところないみたいですね」

 菊野さんがそう言った、まさにその時だった。

『もしもーし。陽色、居る?』

 こちらから連絡を取るつもりだった、壮真の声が魔導具から聞こえてきた。

「ひさしぶり、壮真。ちょうど、今こっちに戻って来た所だよ」
『うわっ! びっくりした! こういうの、ドンピシャってヤツかな?』
「ははっ、きっとそうだよ。それで、壮真。どうかしたの?」

 俺の問い掛けに、一瞬言いよどむような間を空けて、

『ごめん。俺の方から冒険者の斡旋をするの、ちょっと無理っぽい』

 気遣うような、声が聞こえてきた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】

Lynx🐈‍⬛
恋愛
 ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。  それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。  14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。 皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。 この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。 ※Hシーンは終盤しかありません。 ※この話は4部作で予定しています。 【私が欲しいのはこの皇子】 【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】 【放浪の花嫁】 本編は99話迄です。 番外編1話アリ。 ※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。

処理中です...