いじめっこ令息に転生したけど、いじめなかったのに義弟が酷い。

えっしゃー(エミリオ猫)

文字の大きさ
7 / 10

アルフの外出

しおりを挟む
    アルフは、朝食後すぐに、得意武器である剣を腰に挿し、庭へ出て御者に命じた。

「出かける。馬車を出してくれ。」

「どちらへ行かれますか?」

「スライ子爵家へ。僕の親友の家だ。」

   サイラス=スライ子爵令息は、同い年の幼なじみだ。
    アルフが生家デーベ子爵家次男だった頃、同じ子爵家の次男として仲良くなった。

    自分は剣が得意で、彼は弓が得意だった。
二人で良く狩りをしたものだ。
    兄に代替りをして家を出る時が来たら、二人で組んで仕事をするのも良いな、と良く話していた。

    しかしアルフが親戚の伯爵家へ、養子に行く事に決まった時にも、「頑張りが認められて選ばれた」のだと、誰よりも喜んでくれた。

    サイラスは気の良い奴だ。

   馬車が動き出す。
場所的に、スライ領は生家からもアッカー家からも距離がそう変わらない。
   線で結ぶと三角形のような位置関係になる。
昼前には着くだろう。

    アルフは剣を握りしめ、
    ぎりっと奥歯を噛み締めた。


――アルフは預り知らない原作設定になるが、サイラスはアルフの親友にして、右腕となる人物だ。

    物語に良く居る、主人公の相棒ポジションである。
    アルフより背が高く、筋肉の美しく付いた美丈夫だ。



――そのサイラスは今、森で狩りをしていた。

「ハッ!!!」

    弓を引き絞り、獲物を狙う。
    彼の腕前は「女神の祝福を授かりし腕」と称えられている。
    目も鋭くとても良い。


    バシッと獲物に突き刺さり、獣は一発で地に倒れた。

「ありがとな、大事に頂くよ。」

   サイラスは獲物に礼をした。


「サイラス様~!」

   スライ家の使用人がやって来た。

「どうした?」

「アルフ様がいらっしゃいました。
   サイラス様のお部屋にお通ししております。」

「アルフが?!アッカー伯爵家へ行ってから初めて会うな。
   すぐ戻る、獲物を頼むよ。」

「はい。立派な獲物ですね、流石です。」

   サイラスは屋敷に駆ける。
   こんなに早々会いに来るなんて、余程の事があったのだろうか。
   良い話だといいのだが……。



「アルフ!」

   急いでドアを開けると、


ゴゴゴゴゴゴゴゴ……
何やら暗黒の霧が漏れ出てきてぎょっとした。

   据わった目のアルフがこっちをギロッと見て来る。

「…サイラス、協力して欲しい事がある。」

   剣を床に打ちつける。
  余程気が立っているようだ。


「どうした、そこまで怒ってるなんて、初めて見たぞ。
   アッカー家で嫌な事でもあったのか?」

「アッカー家は良い家だ。
そうじゃなくて、゛神力通信機゛だ。」

「神力通信機?」


    神力通信機は文字盤と画面の付いた、据え置き型の生活道具だ。
   山から採掘する、エネルギーを秘めた゛神石゛と呼ばれる石を嵌め込んで使う。

   貴族や金持ちの家に1台以上、
   領民用に領民館に1台以上ある物で、連絡や情報のやり取りが出来る。

「見てほしいスレがある。」

   そう言うので、スライ家の通信機を使わせた。



゛アッカー伯爵家の元使用人だけど質問ある? ゛



…という画面を、アルフは睨み付けていた。


「おい、これは…。」

「この〇〇□とスレ主が許せない。」

   サイラスは嫌な予感がした。

「まさかこの〇〇⑧はお前か?!
    何やってんだよ?!」

「特定と捕縛を手伝ってくれ、サイラス。」

(何だ、こいつは本当にアルフなのか?)


    サイラスは思わずアルフを観察してしまった。
真面目で責任感のある好少年といった風だったアルフ。

    確かに少々皮肉屋で、好戦的な所が無かったとは言わないが、
   今のアルフは迂闊に触れるとすぐ剣を抜いてきそうな狂戦士みたいな匂いがする。

「手伝ってやるよ、親友だからな。
   でも本当にどうしたんだ?一旦落ち着けよ、アルフ。
   血が上りすぎてるぞ。」

「…義兄が大切なだけだ。」

「仲良くなれたんだな?良かったよ。」

    養子に行って、心配していた親友の心など知らず、
    ゲキオコプンプンでの、アルフ=アッカー伯爵令息としての初対面だったのだが、分かってるのかな?

    まあ、こんなに怒ってしまう程、親友の新しい家族が良い人みたいで安心した。


   サイラスはニカッと笑った。

「じゃ、犯人探しに行くか!」

「頼んだ。」

目を合わせて拳を合わせた。




しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

巻き戻りした悪役令息は最愛の人から離れて生きていく

藍沢真啓/庚あき
BL
11月にアンダルシュノベルズ様から出版されます! 婚約者ユリウスから断罪をされたアリステルは、ボロボロになった状態で廃教会で命を終えた……はずだった。 目覚めた時はユリウスと婚約したばかりの頃で、それならばとアリステルは自らユリウスと距離を置くことに決める。だが、なぜかユリウスはアリステルに構うようになり…… 巻き戻りから人生をやり直す悪役令息の物語。 【感想のお返事について】 感想をくださりありがとうございます。 執筆を最優先させていただきますので、お返事についてはご容赦願います。 大切に読ませていただいてます。執筆の活力になっていますので、今後も感想いただければ幸いです。 他サイトでも公開中

【完結】悪役令息の役目は終わりました

谷絵 ちぐり
BL
悪役令息の役目は終わりました。 断罪された令息のその後のお話。 ※全四話+後日談

悪役令嬢のモブ兄に転生したら、攻略対象から溺愛されてしまいました

藍沢真啓/庚あき
BL
俺──ルシアン・イベリスは学園の卒業パーティで起こった、妹ルシアが我が国の王子で婚約者で友人でもあるジュリアンから断罪される光景を見て思い出す。 (あ、これ乙女ゲームの悪役令嬢断罪シーンだ)と。 ちなみに、普通だったら攻略対象の立ち位置にあるべき筈なのに、予算の関係かモブ兄の俺。 しかし、うちの可愛い妹は、ゲームとは別の展開をして、会場から立ち去るのを追いかけようとしたら、攻略対象の一人で親友のリュカ・チューベローズに引き止められ、そして……。 気づけば、親友にでろっでろに溺愛されてしまったモブ兄の運命は── 異世界転生ラブラブコメディです。 ご都合主義な展開が多いので、苦手な方はお気を付けください。

ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました

あと
BL
「お兄ちゃん!人肌脱ぎます!」 完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け 可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…? 攻め:ヴィクター・ローレンツ 受け:リアム・グレイソン 弟:リチャード・グレイソン  pixivにも投稿しています。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。

批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。

従者は知らない間に外堀を埋められていた

SEKISUI
BL
新作ゲーム胸にルンルン気分で家に帰る途中事故にあってそのゲームの中転生してしまったOL 転生先は悪役令息の従者でした でも内容は宣伝で流れたプロモーション程度しか知りません だから知らんけど精神で人生歩みます

ざこてん〜初期雑魚モンスターに転生した俺は、勇者にテイムしてもらう〜

キノア9g
BL
「俺の血を啜るとは……それほど俺を愛しているのか?」 (いえ、ただの生存戦略です!!) 【元社畜の雑魚モンスター(うさぎ)】×【勘違い独占欲勇者】 生き残るために媚びを売ったら、最強の勇者に溺愛されました。 ブラック企業で過労死した俺が転生したのは、RPGの最弱モンスター『ダーク・ラビット(黒うさぎ)』だった。 のんびり草を食んでいたある日、目の前に現れたのはゲーム最強の勇者・アレクセイ。 「経験値」として狩られる!と焦った俺は、生き残るために咄嗟の機転で彼と『従魔契約』を結ぶことに成功する。 「殺さないでくれ!」という一心で、傷口を舐めて契約しただけなのに……。 「魔物の分際で、俺にこれほど情熱的な求愛をするとは」 なぜか勇者様、俺のことを「自分に惚れ込んでいる健気な相棒」だと盛大に勘違い!? 勘違いされたまま、勇者の膝の上で可愛がられる日々。 捨てられないために必死で「有能なペット」を演じていたら、勇者の魔力を受けすぎて、なんと人間の姿に進化してしまい――!? 「もう使い魔の枠には収まらない。俺のすべてはお前のものだ」 ま、待ってください勇者様、愛が重すぎます! 元社畜の生存本能が生んだ、すれ違いと溺愛の異世界BLファンタジー!

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

俺は北国の王子の失脚を狙う悪の側近に転生したらしいが、寒いのは苦手なのでトンズラします

椿谷あずる
BL
ここはとある北の国。綺麗な金髪碧眼のイケメン王子様の側近に転生した俺は、どうやら彼を失脚させようと陰謀を張り巡らせていたらしい……。いやいや一切興味がないし!寒いところ嫌いだし!よし、やめよう! こうして俺は逃亡することに決めた。

処理中です...