4 / 35
【3】巡る月日
「シスター……。背中の模様、……どうしたの?」
背中の模様。
私の背には、痣がある。ツルバラの蔦のような、肌を這い回る赤黒い痣が。
これは、いばら病の痣だ。
私は今まで、この痣を人に見られないように気を付けてきた。
でも、まさかレイに見られてしまうなんて……!
レイは真っ青な顔で呆然としている……。怖がらせないためにも、なんとか誤魔化さないと。
「ええと。こ、これは入れ墨なの!」
私は慌ててタオルをたぐり寄せ、体に巻き付けてレイに近寄った。
修道女の背中に入れ墨があるなんて、我ながら苦し紛れが過ぎると思った。でも、仕方ない。
「……入れ墨?」
「ええ。そうよ。でも誰にも言わないで。レイと私だけのひみつにしてほしいの」
「……」
「…………レイ?」
表情が失せていたはずのレイは、いつの間にかひどく暗い顔をしていた。
(ど、どうしたの、レイ……?)
今まで見たことがないような仄暗い表情で、レイは肩を震わせ始めた。恐怖や驚きとは違う、この表情はなんだろう……? 憎悪か、あるいは殺意のような感情が見え隠れして見えた。
(さ、殺意って……いえ、まさかね。きっと、私の背中を見て混乱しているんだわ)
私は焦りを押し隠し、なだめるような声音で言った。
「ごめんね、レイ。こんなものを見せちゃって。怖かったわよね……?」
「っ! ……違う、ぼくはシスターを怖がったりなんてしない!」
ハッとした顔でそう叫ぶと、レイは私の腕を強く掴んだ。
「入れ墨なんて痛かっただろうなって、思っただけだよ。どうしたの、それ。……誰かにむりやり、やられたの?」
「え……?」
「だったら僕は、そいつを殺してやりたい……シスターに、こんなことをするやつを」
(殺す!?)
とんでもない言葉が、かわいらしい唇から零れていた。
「ど、どうしたの、レイ。あなたらしくないわよ、落ち着いて。……ええとね、この入れ墨は、私自身の希望で……」
「シスター。……ぼくには、うそをつかないで」
くしゃっと顔を歪ませて、レイは泣き出しそうな顔になった。
「シスターがうそをついてることくらい、ぼくには分かる。だって、ぼくはいつだってシスターだけを見てるんだから」
「レイ……」
レイは私の腕に触れ、くやしそうに言葉を吐き出した。
「シスターがやりたくてやったことなら、ぼくは気にしない。でも、その入れ墨はちがうでしょう? シスターが痛かったり、苦しかったりするのは、許せないんだ」
こんな挙動を見せるレイは初めてで。私は、どうしたらいいか分からなかった。
私が絶句していると、やがてレイは苦い物を飲み下したような表情をして問いかけてきた。
「でも、シスターは入れ墨の話をするのはいやなんだよね?」
「……ええ」
「だったら、わかった。誰にも言わないし、この話はこれでおしまいにする」
なぜかひどく悔しそうな声で、レイは私に誓ってくれたのだった……。
*
(はぁ。さっきはどうなることかと思ったけれど……)
レイの意外な一面には戸惑ったけれど、なんとかその場を収めることができて良かった。
お風呂から部屋に戻った私は、鏡の前で服を脱いで自分の背中を映してみた。
「……病気の痣。もう、こんなに広がっちゃったんだ」
いばら病を患うと、ある日突然にこの痣が出る。
最初はバラの芽のように、小さな痣がポツンと。
しかし徐々に大きく広がっていき、やがて突然に昏睡状態に陥るそうだ。
……私は、いつ眠ってしまうのだろう?
それは覚めない眠りだという。
昏々と眠り続け、治療法もなく死ぬしかない。
私が次期当主の座を奪われた直接的な原因は、このいばら病だった。
もともと父は私を次期当主にするつもりだったけれど、病を患い余命わずかと判明するや、妹に挿げ替えた。ダミアンとの婚約も、当然のように私から妹へと変更されたのだ。
(前々からダミアンとキャロラインは浮気関係にあったらしいから、私が病気になってさぞや喜んだでしょうね……)
ちなみに、マザー・グレンナにだけは病気のことを話してある。けれど、
『病気なんざ知ったこっちゃないね! 体が動く限り、あくせく働きな。人間、誰だっていつかは死んじまうんだから!』
と言って引き続き容赦なくこき使ってくれている。それくらいのほうが、私としてはむしろうれしい。
あんな実家で飼い殺しにされるより、修道院暮らしのほうが絶対に幸せだ。
だから、病気には感謝したいくらいなのだ。
(……でも今がこんなに幸せだと、死ぬのが怖くなってきちゃうな)
ついつい欲が出てきてしまう。
私は服を着直すと、気合を入れなおすように自分の両頬を叩いた。
「しっかりしなさい、エルダ。今すぐ死ぬわけじゃないんだから!」
院長の言っていた通り、誰だっていつかは天に召されるのだ。
それならば、今日を精いっぱい生きてみせよう。
子どもたちの成長も見守って、この人生をやりきろう。
レイの美しい笑顔を思い出し、健やかに育つ彼を少しでも長く見守るためにも元気に生きようと決意した。
*
月日は巡る。
13歳になったレイは、日中はよく近隣の町や村へ働きに出るようになった。
なんでも、お金を貯めているらしい。
買いたいものがあるようだけれど、「なにが欲しいの?」と尋ねても教えてくれない。「それは内緒です」と、いつもはぐらかされてしまう。
(レイも、いつの間にかしっかりしたわ)
修道院の仕事を手伝ってもお給金は出ないから、お金が欲しい子は外で働きに行っている。これまで外に出ようとしなかったレイが、外に出るようになったのは大きな変化だ。
自分でお金を稼ごうという気持ちは、自立する上で重要だと思う。孤児たちは16歳になると孤児院を出て、町や村で独立した生活を始めるルールになっている。レイの卒業まで、あと3年だ。
「レイならきっと、すてきな大人になってくれるわ」
今はまだ声変わり前で、あどけなさが残っている。でもかなり背が伸びたし読み書きも大人並みにこなせるし、いつのまにか敬語で話すようになって、本当に成長したものだ。孤児院を出る頃には、青年らしい逞しさも出ているに違いない。
「今はまだ逞しくはないけれど。……でも、なんか色気が出てきちゃったのよね」
美しさに磨きがかかり、やましい気持ちがなくてもつい釘付けになってしまう。
「あそこまで美形だと、外で悪い大人にさらわれないか不安だわ。いっそ私が、こっそり見守っていてあげようかしら……って、何考えてるの私! そういうのを過干渉って言うのよ!? レイは一人前になろうとしているんだから、親代わりの私は見守る立場に徹しなくちゃ!」
と、自分の部屋でひとりジタバタしていると。
「「シスター・エルダ」」
ノックののちに、二人の少女が部屋に入ってきた。
「あら。ミモザとバーネット。どうしたの?」
しとやかに輝く栗毛を三つ編みにしているのがミモザで、切れ長の目が美しいボーイッシュな子がバーネットだ。
「シスター。今、ちょっといいですか?」
「シスターに来てほしいんだ」
「分かったわ」
二人は私の手を引いて、嬉しそうに食堂のほうに引っ張っていった。
「どうしたの二人とも。夕食にはまだ早いんじゃない?」
「「いいから、いいから!」」
食堂には、他の子どもたちと院長が集合していた。
そしてなぜかテーブルいっぱいのご馳走と、大きなケーキまで。
「院長、今日は何かのお祝いですか?」
「あ? ボケたこと言ってんじゃないよ、何の日か忘れちまったのかい」
……はて。
今日は何の日だろう? 宗教行事はないはずだ。
子どもたちの誕生日はもちろん必ず覚えているし、院長は先月61歳のお祝いをしたばかりだ。ケーキに刺さった61本のろうそくが轟々と燃え盛るさまは、きれいを通り越して凄まじかった。
「今日19歳になる小娘は、どこのどいつだい?」
「え…………あ!!」
「「「「「「「ハッピーバースデー、シスター・エルダ!」」」」」」
ぱぱぱぱぁん、とクラッカーが弾け、みんなが歓声をあげた。
「……そうか。私、今日がお誕生日だったわ」
毎日が充実しすぎて、誕生日なんて数えるのも忘れていた。
「まったく。忘れんぼうだなぁ、シスターは!」
「わたしたちのお誕生日は、いつもはちみつプディングとケーキでお祝いしてくれるのにね!」
「早く席について、今日はシスターがお誕生日席だよ」
わいわいしながら、楽しい時間が始まった。
みんなと一緒に笑って話して、おいしい食事を囲んで。幸せないっぱいな時間を過ごしていると、頬を染めたレイが声をかけてきた。
「シスター。僕から、誕生日プレゼントがあるんです」
「え!?」
みんなが私を立たせて、テーブルの前に連れていく。
その対面で、レイは小箱を手にして立っていた。その小箱は指輪のケースくらいの大きさで、丁寧にラッピングされている。手作りという感じではなかった。
「レイ……もしかして、お店で買ってきたの?」
「はい。あまり稼げなくて、高価なものは買えなかったんですが」
「お金なんて、いつの間に……」
ハッとした。もしかして、最近外に働きに出ていたのは……。
「まさか、私へのプレゼントを買うために働いていたの!? ……そんな。レイががんばって稼いだお金を、私なんかに」
「受け取ってほしいんです。シスター・エルダ」
澄んだ紫の瞳で、まっすぐに私をつめている。
その瞳の美しさに吸い込まれそうになりながら、私は自分の頬が熱くなるのを感じた。
「でも、きっと初めてのプレゼントでしょう? 本当に、私でいいの?」
「あなたしかいません。もらってください」
ありがとう――。目じりに涙をにじませて、私が手を伸ばそうとしたとき。
「………………かはッ」
肺の奥から不快なものがせり上がってきて、私は激しくせき込んだ。口から血を吐く――いや、この赤いものは血ではなかった。
花びらだ。
口から赤バラの花弁のようなものを吐き散らし、私はその場にうずくまった。
「シスター!?」
子どもたちの悲痛な叫びが響き、楽しかったパーティの雰囲気が一転しておそろしいものへ。
「シスター・エルダ! どうしたんですか、シスター・エルダ!!」
レイが私を抱きしめて、必死で私の名を叫び続ける。
(……ああ、『時間切れ』なんだ)
力が入らなくなって、私はレイの腕の中で崩れ落ちた。
終わりの瞬間って、こんなあっけなく来ちゃうんだ。
さみしいな。
レイ、泣いてる。みんなも……ごめんね。
さようなら。
***
こうして私は、天に召された。
……はずだったんだけれど、まさか10年後に目覚めるなんて!!
背中の模様。
私の背には、痣がある。ツルバラの蔦のような、肌を這い回る赤黒い痣が。
これは、いばら病の痣だ。
私は今まで、この痣を人に見られないように気を付けてきた。
でも、まさかレイに見られてしまうなんて……!
レイは真っ青な顔で呆然としている……。怖がらせないためにも、なんとか誤魔化さないと。
「ええと。こ、これは入れ墨なの!」
私は慌ててタオルをたぐり寄せ、体に巻き付けてレイに近寄った。
修道女の背中に入れ墨があるなんて、我ながら苦し紛れが過ぎると思った。でも、仕方ない。
「……入れ墨?」
「ええ。そうよ。でも誰にも言わないで。レイと私だけのひみつにしてほしいの」
「……」
「…………レイ?」
表情が失せていたはずのレイは、いつの間にかひどく暗い顔をしていた。
(ど、どうしたの、レイ……?)
今まで見たことがないような仄暗い表情で、レイは肩を震わせ始めた。恐怖や驚きとは違う、この表情はなんだろう……? 憎悪か、あるいは殺意のような感情が見え隠れして見えた。
(さ、殺意って……いえ、まさかね。きっと、私の背中を見て混乱しているんだわ)
私は焦りを押し隠し、なだめるような声音で言った。
「ごめんね、レイ。こんなものを見せちゃって。怖かったわよね……?」
「っ! ……違う、ぼくはシスターを怖がったりなんてしない!」
ハッとした顔でそう叫ぶと、レイは私の腕を強く掴んだ。
「入れ墨なんて痛かっただろうなって、思っただけだよ。どうしたの、それ。……誰かにむりやり、やられたの?」
「え……?」
「だったら僕は、そいつを殺してやりたい……シスターに、こんなことをするやつを」
(殺す!?)
とんでもない言葉が、かわいらしい唇から零れていた。
「ど、どうしたの、レイ。あなたらしくないわよ、落ち着いて。……ええとね、この入れ墨は、私自身の希望で……」
「シスター。……ぼくには、うそをつかないで」
くしゃっと顔を歪ませて、レイは泣き出しそうな顔になった。
「シスターがうそをついてることくらい、ぼくには分かる。だって、ぼくはいつだってシスターだけを見てるんだから」
「レイ……」
レイは私の腕に触れ、くやしそうに言葉を吐き出した。
「シスターがやりたくてやったことなら、ぼくは気にしない。でも、その入れ墨はちがうでしょう? シスターが痛かったり、苦しかったりするのは、許せないんだ」
こんな挙動を見せるレイは初めてで。私は、どうしたらいいか分からなかった。
私が絶句していると、やがてレイは苦い物を飲み下したような表情をして問いかけてきた。
「でも、シスターは入れ墨の話をするのはいやなんだよね?」
「……ええ」
「だったら、わかった。誰にも言わないし、この話はこれでおしまいにする」
なぜかひどく悔しそうな声で、レイは私に誓ってくれたのだった……。
*
(はぁ。さっきはどうなることかと思ったけれど……)
レイの意外な一面には戸惑ったけれど、なんとかその場を収めることができて良かった。
お風呂から部屋に戻った私は、鏡の前で服を脱いで自分の背中を映してみた。
「……病気の痣。もう、こんなに広がっちゃったんだ」
いばら病を患うと、ある日突然にこの痣が出る。
最初はバラの芽のように、小さな痣がポツンと。
しかし徐々に大きく広がっていき、やがて突然に昏睡状態に陥るそうだ。
……私は、いつ眠ってしまうのだろう?
それは覚めない眠りだという。
昏々と眠り続け、治療法もなく死ぬしかない。
私が次期当主の座を奪われた直接的な原因は、このいばら病だった。
もともと父は私を次期当主にするつもりだったけれど、病を患い余命わずかと判明するや、妹に挿げ替えた。ダミアンとの婚約も、当然のように私から妹へと変更されたのだ。
(前々からダミアンとキャロラインは浮気関係にあったらしいから、私が病気になってさぞや喜んだでしょうね……)
ちなみに、マザー・グレンナにだけは病気のことを話してある。けれど、
『病気なんざ知ったこっちゃないね! 体が動く限り、あくせく働きな。人間、誰だっていつかは死んじまうんだから!』
と言って引き続き容赦なくこき使ってくれている。それくらいのほうが、私としてはむしろうれしい。
あんな実家で飼い殺しにされるより、修道院暮らしのほうが絶対に幸せだ。
だから、病気には感謝したいくらいなのだ。
(……でも今がこんなに幸せだと、死ぬのが怖くなってきちゃうな)
ついつい欲が出てきてしまう。
私は服を着直すと、気合を入れなおすように自分の両頬を叩いた。
「しっかりしなさい、エルダ。今すぐ死ぬわけじゃないんだから!」
院長の言っていた通り、誰だっていつかは天に召されるのだ。
それならば、今日を精いっぱい生きてみせよう。
子どもたちの成長も見守って、この人生をやりきろう。
レイの美しい笑顔を思い出し、健やかに育つ彼を少しでも長く見守るためにも元気に生きようと決意した。
*
月日は巡る。
13歳になったレイは、日中はよく近隣の町や村へ働きに出るようになった。
なんでも、お金を貯めているらしい。
買いたいものがあるようだけれど、「なにが欲しいの?」と尋ねても教えてくれない。「それは内緒です」と、いつもはぐらかされてしまう。
(レイも、いつの間にかしっかりしたわ)
修道院の仕事を手伝ってもお給金は出ないから、お金が欲しい子は外で働きに行っている。これまで外に出ようとしなかったレイが、外に出るようになったのは大きな変化だ。
自分でお金を稼ごうという気持ちは、自立する上で重要だと思う。孤児たちは16歳になると孤児院を出て、町や村で独立した生活を始めるルールになっている。レイの卒業まで、あと3年だ。
「レイならきっと、すてきな大人になってくれるわ」
今はまだ声変わり前で、あどけなさが残っている。でもかなり背が伸びたし読み書きも大人並みにこなせるし、いつのまにか敬語で話すようになって、本当に成長したものだ。孤児院を出る頃には、青年らしい逞しさも出ているに違いない。
「今はまだ逞しくはないけれど。……でも、なんか色気が出てきちゃったのよね」
美しさに磨きがかかり、やましい気持ちがなくてもつい釘付けになってしまう。
「あそこまで美形だと、外で悪い大人にさらわれないか不安だわ。いっそ私が、こっそり見守っていてあげようかしら……って、何考えてるの私! そういうのを過干渉って言うのよ!? レイは一人前になろうとしているんだから、親代わりの私は見守る立場に徹しなくちゃ!」
と、自分の部屋でひとりジタバタしていると。
「「シスター・エルダ」」
ノックののちに、二人の少女が部屋に入ってきた。
「あら。ミモザとバーネット。どうしたの?」
しとやかに輝く栗毛を三つ編みにしているのがミモザで、切れ長の目が美しいボーイッシュな子がバーネットだ。
「シスター。今、ちょっといいですか?」
「シスターに来てほしいんだ」
「分かったわ」
二人は私の手を引いて、嬉しそうに食堂のほうに引っ張っていった。
「どうしたの二人とも。夕食にはまだ早いんじゃない?」
「「いいから、いいから!」」
食堂には、他の子どもたちと院長が集合していた。
そしてなぜかテーブルいっぱいのご馳走と、大きなケーキまで。
「院長、今日は何かのお祝いですか?」
「あ? ボケたこと言ってんじゃないよ、何の日か忘れちまったのかい」
……はて。
今日は何の日だろう? 宗教行事はないはずだ。
子どもたちの誕生日はもちろん必ず覚えているし、院長は先月61歳のお祝いをしたばかりだ。ケーキに刺さった61本のろうそくが轟々と燃え盛るさまは、きれいを通り越して凄まじかった。
「今日19歳になる小娘は、どこのどいつだい?」
「え…………あ!!」
「「「「「「「ハッピーバースデー、シスター・エルダ!」」」」」」
ぱぱぱぱぁん、とクラッカーが弾け、みんなが歓声をあげた。
「……そうか。私、今日がお誕生日だったわ」
毎日が充実しすぎて、誕生日なんて数えるのも忘れていた。
「まったく。忘れんぼうだなぁ、シスターは!」
「わたしたちのお誕生日は、いつもはちみつプディングとケーキでお祝いしてくれるのにね!」
「早く席について、今日はシスターがお誕生日席だよ」
わいわいしながら、楽しい時間が始まった。
みんなと一緒に笑って話して、おいしい食事を囲んで。幸せないっぱいな時間を過ごしていると、頬を染めたレイが声をかけてきた。
「シスター。僕から、誕生日プレゼントがあるんです」
「え!?」
みんなが私を立たせて、テーブルの前に連れていく。
その対面で、レイは小箱を手にして立っていた。その小箱は指輪のケースくらいの大きさで、丁寧にラッピングされている。手作りという感じではなかった。
「レイ……もしかして、お店で買ってきたの?」
「はい。あまり稼げなくて、高価なものは買えなかったんですが」
「お金なんて、いつの間に……」
ハッとした。もしかして、最近外に働きに出ていたのは……。
「まさか、私へのプレゼントを買うために働いていたの!? ……そんな。レイががんばって稼いだお金を、私なんかに」
「受け取ってほしいんです。シスター・エルダ」
澄んだ紫の瞳で、まっすぐに私をつめている。
その瞳の美しさに吸い込まれそうになりながら、私は自分の頬が熱くなるのを感じた。
「でも、きっと初めてのプレゼントでしょう? 本当に、私でいいの?」
「あなたしかいません。もらってください」
ありがとう――。目じりに涙をにじませて、私が手を伸ばそうとしたとき。
「………………かはッ」
肺の奥から不快なものがせり上がってきて、私は激しくせき込んだ。口から血を吐く――いや、この赤いものは血ではなかった。
花びらだ。
口から赤バラの花弁のようなものを吐き散らし、私はその場にうずくまった。
「シスター!?」
子どもたちの悲痛な叫びが響き、楽しかったパーティの雰囲気が一転しておそろしいものへ。
「シスター・エルダ! どうしたんですか、シスター・エルダ!!」
レイが私を抱きしめて、必死で私の名を叫び続ける。
(……ああ、『時間切れ』なんだ)
力が入らなくなって、私はレイの腕の中で崩れ落ちた。
終わりの瞬間って、こんなあっけなく来ちゃうんだ。
さみしいな。
レイ、泣いてる。みんなも……ごめんね。
さようなら。
***
こうして私は、天に召された。
……はずだったんだけれど、まさか10年後に目覚めるなんて!!
あなたにおすすめの小説
姉の忘れ形見を育てたいだけなのに、公爵閣下の執着が重いんですが!?~まっすぐ突き進み系令嬢の公爵家再建計画
及川えり
ファンタジー
突然届いた双子の姉からの手紙。
【これをあなたが読んでいるころにはわたしはもう死んでいることでしょう。わたしのことは探さないでね。双子を引き取ってもらえないかしら?】
姉の遺言通り双子を育てようと姉の嫁ぎ先へと突入する。
双子を顧みなかったという元夫のウィルバート公爵に何とか双子を引き取れるよう掛け合うが、話の流れからそのまま公爵家に滞在して双子を育てる羽目に。
だが、この公爵家、何かおかしい?
異常に気付いたハンナは公爵家に巣くう膿をとりのぞくべく、奮闘しはじめる。
一方ハンナを最初は適当にあしらっていたウィルバートだったが、ハンナの魅力に気付き始め……。
2026.4.6 完結しました。
感想たくさんいただきとても嬉しく拝見しています。
ブックマーク登録、いいね❤️、エール📣、感想などたくさんいただきありがとうございます。
とてもとてもとても励みになります。
なろうにも掲載しています。
※続編書く予定です。
【本編完結】ただの平凡令嬢なので、姉に婚約者を取られました。
138ネコ@書籍化&コミカライズしました
ファンタジー
「誰にも出来ないような事は求めないから、せめて人並みになってくれ」
お父様にそう言われ、平凡になるためにたゆまぬ努力をしたつもりです。
賢者様が使ったとされる神級魔法を会得し、復活した魔王をかつての勇者様のように倒し、領民に慕われた名領主のように領地を治めました。
誰にも出来ないような事は、私には出来ません。私に出来るのは、誰かがやれる事を平凡に努めてきただけ。
そんな平凡な私だから、非凡な姉に婚約者を奪われてしまうのは、仕方がない事なのです。
諦めきれない私は、せめて平凡なりに仕返しをしてみようと思います。
「何の取り柄もない姉より、妹をよこせ」と婚約破棄されましたが、妹を守るためなら私は「国一番の淑女」にでも這い上がってみせます
放浪人
恋愛
「何の取り柄もない姉はいらない。代わりに美しい妹をよこせ」
没落伯爵令嬢のアリアは、婚約者からそう告げられ、借金のカタに最愛の妹を奪われそうになる。 絶望の中、彼女が頼ったのは『氷の公爵』と恐れられる冷徹な男、クラウスだった。
「私の命、能力、生涯すべてを差し上げます。だから金を貸してください!」
妹を守るため、悪魔のような公爵と契約を結んだアリア。 彼女に課せられたのは、地獄のような淑女教育と、危険な陰謀が渦巻く社交界への潜入だった。 しかし、アリアは持ち前の『瞬間記憶能力』と『度胸』を武器に覚醒する。
自分を捨てた元婚約者を論破して地獄へ叩き落とし、意地悪なライバル令嬢を返り討ちにし、やがては国の危機さえも救う『国一番の淑女』へと駆け上がっていく!
一方、冷酷だと思われていた公爵は、泥の中でも強く咲くアリアの姿に心を奪われ――? 「お前がいない世界など不要だ」 契約から始まった関係が、やがて国中を巻き込む極上の溺愛へと変わる。
地味で無能と呼ばれた令嬢が、最強の旦那様と幸せを掴み取る、痛快・大逆転シンデレラストーリー!
善人ぶった姉に奪われ続けてきましたが、逃げた先で溺愛されて私のスキルで領地は豊作です
しろこねこ
ファンタジー
「あなたのためを思って」という一見優しい伯爵家の姉ジュリナに虐げられている妹セリナ。醜いセリナの言うことを家族は誰も聞いてくれない。そんな中、唯一差別しない家庭教師に貴族子女にははしたないとされる魔法を教わるが、親切ぶってセリナを孤立させる姉。植物魔法に目覚めたセリナはペット?のヴィリオをともに家を出て南の辺境を目指す。
学園首席の私は魔力を奪われて婚約破棄されたけど、借り物の魔力でいつまで調子に乗っているつもり?
今川幸乃
ファンタジー
下級貴族の生まれながら魔法の練習に励み、貴族の子女が集まるデルフィーラ学園に首席入学を果たしたレミリア。
しかし進級試験の際に彼女の実力を嫉妬したシルヴィアの呪いで魔力を奪われ、婚約者であったオルクには婚約破棄されてしまう。
が、そんな彼女を助けてくれたのはアルフというミステリアスなクラスメイトであった。
レミリアはアルフとともに呪いを解き、シルヴィアへの復讐を行うことを決意する。
レミリアの魔力を奪ったシルヴィアは調子に乗っていたが、全校生徒の前で魔法を披露する際に魔力を奪い返され、醜態を晒すことになってしまう。
※3/6~ プチ改稿中
兄にいらないと言われたので勝手に幸せになります
毒島醜女
恋愛
モラハラ兄に追い出された先で待っていたのは、甘く幸せな生活でした。
侯爵令嬢ライラ・コーデルは、実家が平民出の聖女ミミを養子に迎えてから実の兄デイヴィッドから冷遇されていた。
家でも学園でも、デビュタントでも、兄はいつもミミを最優先する。
友人である王太子たちと一緒にミミを持ち上げてはライラを貶めている始末だ。
「ミミみたいな可愛い妹が欲しかった」
挙句の果てには兄が婚約を破棄した辺境伯家の元へ代わりに嫁がされることになった。
ベミリオン辺境伯の一家はそんなライラを温かく迎えてくれた。
「あなたの笑顔は、どんな宝石や星よりも綺麗に輝いています!」
兄の元婚約者の弟、ヒューゴは不器用ながらも優しい愛情をライラに与え、甘いお菓子で癒してくれた。
ライラは次第に笑顔を取り戻し、ベミリオン家で幸せになっていく。
王都で聖女が起こした騒動も知らずに……
婚約破棄をされ、父に追放まで言われた私は、むしろ喜んで出て行きます! ~家を出る時に一緒に来てくれた執事の溺愛が始まりました~
ゆうき
恋愛
男爵家の次女として生まれたシエルは、姉と妹に比べて平凡だからという理由で、父親や姉妹からバカにされ、虐げられる生活を送っていた。
そんな生活に嫌気がさしたシエルは、とある計画を考えつく。それは、婚約者に社交界で婚約を破棄してもらい、その責任を取って家を出て、自由を手に入れるというものだった。
シエルの専属の執事であるラルフや、幼い頃から実の兄のように親しくしてくれていた婚約者の協力の元、シエルは無事に婚約を破棄され、父親に見捨てられて家を出ることになった。
ラルフも一緒に来てくれることとなり、これで念願の自由を手に入れたシエル。しかし、シエルにはどこにも行くあてはなかった。
それをラルフに伝えると、隣の国にあるラルフの故郷に行こうと提案される。
それを承諾したシエルは、これからの自由で幸せな日々を手に入れられると胸を躍らせていたが、その幸せは家族によって邪魔をされてしまう。
なんと、家族はシエルとラルフを広大な湖に捨て、自らの手を汚さずに二人を亡き者にしようとしていた――
☆誤字脱字が多いですが、見つけ次第直しますのでご了承ください☆
☆全文字はだいたい14万文字になっています☆
☆完結まで予約済みなので、エタることはありません!☆
妹なんだから助けて? お断りします
たくわん
恋愛
美しく聡明な令嬢エリーゼ。だが、母の死後に迎えられた継母マルグリットによって、彼女の人生は一変する。実母が残した財産は継母に奪われ、華やかなドレスは義姉たちに着られ、エリーゼ自身は使用人同然の扱いを受ける。そんなある日――。