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【3】巡る月日
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「シスター……。背中の模様、……どうしたの?」
背中の模様。
私の背には、痣がある。ツルバラの蔦のような、肌を這い回る赤黒い痣が。
これは、いばら病の痣だ。
私は今まで、この痣を人に見られないように気を付けてきた。
でも、まさかレイに見られてしまうなんて……!
レイは真っ青な顔で呆然としている……。怖がらせないためにも、なんとか誤魔化さないと。
「ええと。こ、これは入れ墨なの!」
私は慌ててタオルをたぐり寄せ、体に巻き付けてレイに近寄った。
修道女の背中に入れ墨があるなんて、我ながら苦し紛れが過ぎると思った。でも、仕方ない。
「……入れ墨?」
「ええ。そうよ。でも誰にも言わないで。レイと私だけのひみつにしてほしいの」
「……」
「…………レイ?」
表情が失せていたはずのレイは、いつの間にかひどく暗い顔をしていた。
(ど、どうしたの、レイ……?)
今まで見たことがないような仄暗い表情で、レイは肩を震わせ始めた。恐怖や驚きとは違う、この表情はなんだろう……? 憎悪か、あるいは殺意のような感情が見え隠れして見えた。
(さ、殺意って……いえ、まさかね。きっと、私の背中を見て混乱しているんだわ)
私は焦りを押し隠し、なだめるような声音で言った。
「ごめんね、レイ。こんなものを見せちゃって。怖かったわよね……?」
「っ! ……違う、ぼくはシスターを怖がったりなんてしない!」
ハッとした顔でそう叫ぶと、レイは私の腕を強く掴んだ。
「入れ墨なんて痛かっただろうなって、思っただけだよ。どうしたの、それ。……誰かにむりやり、やられたの?」
「え……?」
「だったら僕は、そいつを殺してやりたい……シスターに、こんなことをするやつを」
(殺す!?)
とんでもない言葉が、かわいらしい唇から零れていた。
「ど、どうしたの、レイ。あなたらしくないわよ、落ち着いて。……ええとね、この入れ墨は、私自身の希望で……」
「シスター。……ぼくには、うそをつかないで」
くしゃっと顔を歪ませて、レイは泣き出しそうな顔になった。
「シスターがうそをついてることくらい、ぼくには分かる。だって、ぼくはいつだってシスターだけを見てるんだから」
「レイ……」
レイは私の腕に触れ、くやしそうに言葉を吐き出した。
「シスターがやりたくてやったことなら、ぼくは気にしない。でも、その入れ墨はちがうでしょう? シスターが痛かったり、苦しかったりするのは、許せないんだ」
こんな挙動を見せるレイは初めてで。私は、どうしたらいいか分からなかった。
私が絶句していると、やがてレイは苦い物を飲み下したような表情をして問いかけてきた。
「でも、シスターは入れ墨の話をするのはいやなんだよね?」
「……ええ」
「だったら、わかった。誰にも言わないし、この話はこれでおしまいにする」
なぜかひどく悔しそうな声で、レイは私に誓ってくれたのだった……。
*
(はぁ。さっきはどうなることかと思ったけれど……)
レイの意外な一面には戸惑ったけれど、なんとかその場を収めることができて良かった。
お風呂から部屋に戻った私は、鏡の前で服を脱いで自分の背中を映してみた。
「……病気の痣。もう、こんなに広がっちゃったんだ」
いばら病を患うと、ある日突然にこの痣が出る。
最初はバラの芽のように、小さな痣がポツンと。
しかし徐々に大きく広がっていき、やがて突然に昏睡状態に陥るそうだ。
……私は、いつ眠ってしまうのだろう?
それは覚めない眠りだという。
昏々と眠り続け、治療法もなく死ぬしかない。
私が次期当主の座を奪われた直接的な原因は、このいばら病だった。
もともと父は私を次期当主にするつもりだったけれど、病を患い余命わずかと判明するや、妹に挿げ替えた。ダミアンとの婚約も、当然のように私から妹へと変更されたのだ。
(前々からダミアンとキャロラインは浮気関係にあったらしいから、私が病気になってさぞや喜んだでしょうね……)
ちなみに、マザー・グレンナにだけは病気のことを話してある。けれど、
『病気なんざ知ったこっちゃないね! 体が動く限り、あくせく働きな。人間、誰だっていつかは死んじまうんだから!』
と言って引き続き容赦なくこき使ってくれている。それくらいのほうが、私としてはむしろうれしい。
あんな実家で飼い殺しにされるより、修道院暮らしのほうが絶対に幸せだ。
だから、病気には感謝したいくらいなのだ。
(……でも今がこんなに幸せだと、死ぬのが怖くなってきちゃうな)
ついつい欲が出てきてしまう。
私は服を着直すと、気合を入れなおすように自分の両頬を叩いた。
「しっかりしなさい、エルダ。今すぐ死ぬわけじゃないんだから!」
院長の言っていた通り、誰だっていつかは天に召されるのだ。
それならば、今日を精いっぱい生きてみせよう。
子どもたちの成長も見守って、この人生をやりきろう。
レイの美しい笑顔を思い出し、健やかに育つ彼を少しでも長く見守るためにも元気に生きようと決意した。
*
月日は巡る。
13歳になったレイは、日中はよく近隣の町や村へ働きに出るようになった。
なんでも、お金を貯めているらしい。
買いたいものがあるようだけれど、「なにが欲しいの?」と尋ねても教えてくれない。「それは内緒です」と、いつもはぐらかされてしまう。
(レイも、いつの間にかしっかりしたわ)
修道院の仕事を手伝ってもお給金は出ないから、お金が欲しい子は外で働きに行っている。これまで外に出ようとしなかったレイが、外に出るようになったのは大きな変化だ。
自分でお金を稼ごうという気持ちは、自立する上で重要だと思う。孤児たちは16歳になると孤児院を出て、町や村で独立した生活を始めるルールになっている。レイの卒業まで、あと3年だ。
「レイならきっと、すてきな大人になってくれるわ」
今はまだ声変わり前で、あどけなさが残っている。でもかなり背が伸びたし読み書きも大人並みにこなせるし、いつのまにか敬語で話すようになって、本当に成長したものだ。孤児院を出る頃には、青年らしい逞しさも出ているに違いない。
「今はまだ逞しくはないけれど。……でも、なんか色気が出てきちゃったのよね」
美しさに磨きがかかり、やましい気持ちがなくてもつい釘付けになってしまう。
「あそこまで美形だと、外で悪い大人にさらわれないか不安だわ。いっそ私が、こっそり見守っていてあげようかしら……って、何考えてるの私! そういうのを過干渉って言うのよ!? レイは一人前になろうとしているんだから、親代わりの私は見守る立場に徹しなくちゃ!」
と、自分の部屋でひとりジタバタしていると。
「「シスター・エルダ」」
ノックののちに、二人の少女が部屋に入ってきた。
「あら。ミモザとバーネット。どうしたの?」
しとやかに輝く栗毛を三つ編みにしているのがミモザで、切れ長の目が美しいボーイッシュな子がバーネットだ。
「シスター。今、ちょっといいですか?」
「シスターに来てほしいんだ」
「分かったわ」
二人は私の手を引いて、嬉しそうに食堂のほうに引っ張っていった。
「どうしたの二人とも。夕食にはまだ早いんじゃない?」
「「いいから、いいから!」」
食堂には、他の子どもたちと院長が集合していた。
そしてなぜかテーブルいっぱいのご馳走と、大きなケーキまで。
「院長、今日は何かのお祝いですか?」
「あ? ボケたこと言ってんじゃないよ、何の日か忘れちまったのかい」
……はて。
今日は何の日だろう? 宗教行事はないはずだ。
子どもたちの誕生日はもちろん必ず覚えているし、院長は先月61歳のお祝いをしたばかりだ。ケーキに刺さった61本のろうそくが轟々と燃え盛るさまは、きれいを通り越して凄まじかった。
「今日19歳になる小娘は、どこのどいつだい?」
「え…………あ!!」
「「「「「「「ハッピーバースデー、シスター・エルダ!」」」」」」
ぱぱぱぱぁん、とクラッカーが弾け、みんなが歓声をあげた。
「……そうか。私、今日がお誕生日だったわ」
毎日が充実しすぎて、誕生日なんて数えるのも忘れていた。
「まったく。忘れんぼうだなぁ、シスターは!」
「わたしたちのお誕生日は、いつもはちみつプディングとケーキでお祝いしてくれるのにね!」
「早く席について、今日はシスターがお誕生日席だよ」
わいわいしながら、楽しい時間が始まった。
みんなと一緒に笑って話して、おいしい食事を囲んで。幸せないっぱいな時間を過ごしていると、頬を染めたレイが声をかけてきた。
「シスター。僕から、誕生日プレゼントがあるんです」
「え!?」
みんなが私を立たせて、テーブルの前に連れていく。
その対面で、レイは小箱を手にして立っていた。その小箱は指輪のケースくらいの大きさで、丁寧にラッピングされている。手作りという感じではなかった。
「レイ……もしかして、お店で買ってきたの?」
「はい。あまり稼げなくて、高価なものは買えなかったんですが」
「お金なんて、いつの間に……」
ハッとした。もしかして、最近外に働きに出ていたのは……。
「まさか、私へのプレゼントを買うために働いていたの!? ……そんな。レイががんばって稼いだお金を、私なんかに」
「受け取ってほしいんです。シスター・エルダ」
澄んだ紫の瞳で、まっすぐに私をつめている。
その瞳の美しさに吸い込まれそうになりながら、私は自分の頬が熱くなるのを感じた。
「でも、きっと初めてのプレゼントでしょう? 本当に、私でいいの?」
「あなたしかいません。もらってください」
ありがとう――。目じりに涙をにじませて、私が手を伸ばそうとしたとき。
「………………かはッ」
肺の奥から不快なものがせり上がってきて、私は激しくせき込んだ。口から血を吐く――いや、この赤いものは血ではなかった。
花びらだ。
口から赤バラの花弁のようなものを吐き散らし、私はその場にうずくまった。
「シスター!?」
子どもたちの悲痛な叫びが響き、楽しかったパーティの雰囲気が一転しておそろしいものへ。
「シスター・エルダ! どうしたんですか、シスター・エルダ!!」
レイが私を抱きしめて、必死で私の名を叫び続ける。
(……ああ、『時間切れ』なんだ)
力が入らなくなって、私はレイの腕の中で崩れ落ちた。
終わりの瞬間って、こんなあっけなく来ちゃうんだ。
さみしいな。
レイ、泣いてる。みんなも……ごめんね。
さようなら。
***
こうして私は、天に召された。
……はずだったんだけれど、まさか10年後に目覚めるなんて!!
背中の模様。
私の背には、痣がある。ツルバラの蔦のような、肌を這い回る赤黒い痣が。
これは、いばら病の痣だ。
私は今まで、この痣を人に見られないように気を付けてきた。
でも、まさかレイに見られてしまうなんて……!
レイは真っ青な顔で呆然としている……。怖がらせないためにも、なんとか誤魔化さないと。
「ええと。こ、これは入れ墨なの!」
私は慌ててタオルをたぐり寄せ、体に巻き付けてレイに近寄った。
修道女の背中に入れ墨があるなんて、我ながら苦し紛れが過ぎると思った。でも、仕方ない。
「……入れ墨?」
「ええ。そうよ。でも誰にも言わないで。レイと私だけのひみつにしてほしいの」
「……」
「…………レイ?」
表情が失せていたはずのレイは、いつの間にかひどく暗い顔をしていた。
(ど、どうしたの、レイ……?)
今まで見たことがないような仄暗い表情で、レイは肩を震わせ始めた。恐怖や驚きとは違う、この表情はなんだろう……? 憎悪か、あるいは殺意のような感情が見え隠れして見えた。
(さ、殺意って……いえ、まさかね。きっと、私の背中を見て混乱しているんだわ)
私は焦りを押し隠し、なだめるような声音で言った。
「ごめんね、レイ。こんなものを見せちゃって。怖かったわよね……?」
「っ! ……違う、ぼくはシスターを怖がったりなんてしない!」
ハッとした顔でそう叫ぶと、レイは私の腕を強く掴んだ。
「入れ墨なんて痛かっただろうなって、思っただけだよ。どうしたの、それ。……誰かにむりやり、やられたの?」
「え……?」
「だったら僕は、そいつを殺してやりたい……シスターに、こんなことをするやつを」
(殺す!?)
とんでもない言葉が、かわいらしい唇から零れていた。
「ど、どうしたの、レイ。あなたらしくないわよ、落ち着いて。……ええとね、この入れ墨は、私自身の希望で……」
「シスター。……ぼくには、うそをつかないで」
くしゃっと顔を歪ませて、レイは泣き出しそうな顔になった。
「シスターがうそをついてることくらい、ぼくには分かる。だって、ぼくはいつだってシスターだけを見てるんだから」
「レイ……」
レイは私の腕に触れ、くやしそうに言葉を吐き出した。
「シスターがやりたくてやったことなら、ぼくは気にしない。でも、その入れ墨はちがうでしょう? シスターが痛かったり、苦しかったりするのは、許せないんだ」
こんな挙動を見せるレイは初めてで。私は、どうしたらいいか分からなかった。
私が絶句していると、やがてレイは苦い物を飲み下したような表情をして問いかけてきた。
「でも、シスターは入れ墨の話をするのはいやなんだよね?」
「……ええ」
「だったら、わかった。誰にも言わないし、この話はこれでおしまいにする」
なぜかひどく悔しそうな声で、レイは私に誓ってくれたのだった……。
*
(はぁ。さっきはどうなることかと思ったけれど……)
レイの意外な一面には戸惑ったけれど、なんとかその場を収めることができて良かった。
お風呂から部屋に戻った私は、鏡の前で服を脱いで自分の背中を映してみた。
「……病気の痣。もう、こんなに広がっちゃったんだ」
いばら病を患うと、ある日突然にこの痣が出る。
最初はバラの芽のように、小さな痣がポツンと。
しかし徐々に大きく広がっていき、やがて突然に昏睡状態に陥るそうだ。
……私は、いつ眠ってしまうのだろう?
それは覚めない眠りだという。
昏々と眠り続け、治療法もなく死ぬしかない。
私が次期当主の座を奪われた直接的な原因は、このいばら病だった。
もともと父は私を次期当主にするつもりだったけれど、病を患い余命わずかと判明するや、妹に挿げ替えた。ダミアンとの婚約も、当然のように私から妹へと変更されたのだ。
(前々からダミアンとキャロラインは浮気関係にあったらしいから、私が病気になってさぞや喜んだでしょうね……)
ちなみに、マザー・グレンナにだけは病気のことを話してある。けれど、
『病気なんざ知ったこっちゃないね! 体が動く限り、あくせく働きな。人間、誰だっていつかは死んじまうんだから!』
と言って引き続き容赦なくこき使ってくれている。それくらいのほうが、私としてはむしろうれしい。
あんな実家で飼い殺しにされるより、修道院暮らしのほうが絶対に幸せだ。
だから、病気には感謝したいくらいなのだ。
(……でも今がこんなに幸せだと、死ぬのが怖くなってきちゃうな)
ついつい欲が出てきてしまう。
私は服を着直すと、気合を入れなおすように自分の両頬を叩いた。
「しっかりしなさい、エルダ。今すぐ死ぬわけじゃないんだから!」
院長の言っていた通り、誰だっていつかは天に召されるのだ。
それならば、今日を精いっぱい生きてみせよう。
子どもたちの成長も見守って、この人生をやりきろう。
レイの美しい笑顔を思い出し、健やかに育つ彼を少しでも長く見守るためにも元気に生きようと決意した。
*
月日は巡る。
13歳になったレイは、日中はよく近隣の町や村へ働きに出るようになった。
なんでも、お金を貯めているらしい。
買いたいものがあるようだけれど、「なにが欲しいの?」と尋ねても教えてくれない。「それは内緒です」と、いつもはぐらかされてしまう。
(レイも、いつの間にかしっかりしたわ)
修道院の仕事を手伝ってもお給金は出ないから、お金が欲しい子は外で働きに行っている。これまで外に出ようとしなかったレイが、外に出るようになったのは大きな変化だ。
自分でお金を稼ごうという気持ちは、自立する上で重要だと思う。孤児たちは16歳になると孤児院を出て、町や村で独立した生活を始めるルールになっている。レイの卒業まで、あと3年だ。
「レイならきっと、すてきな大人になってくれるわ」
今はまだ声変わり前で、あどけなさが残っている。でもかなり背が伸びたし読み書きも大人並みにこなせるし、いつのまにか敬語で話すようになって、本当に成長したものだ。孤児院を出る頃には、青年らしい逞しさも出ているに違いない。
「今はまだ逞しくはないけれど。……でも、なんか色気が出てきちゃったのよね」
美しさに磨きがかかり、やましい気持ちがなくてもつい釘付けになってしまう。
「あそこまで美形だと、外で悪い大人にさらわれないか不安だわ。いっそ私が、こっそり見守っていてあげようかしら……って、何考えてるの私! そういうのを過干渉って言うのよ!? レイは一人前になろうとしているんだから、親代わりの私は見守る立場に徹しなくちゃ!」
と、自分の部屋でひとりジタバタしていると。
「「シスター・エルダ」」
ノックののちに、二人の少女が部屋に入ってきた。
「あら。ミモザとバーネット。どうしたの?」
しとやかに輝く栗毛を三つ編みにしているのがミモザで、切れ長の目が美しいボーイッシュな子がバーネットだ。
「シスター。今、ちょっといいですか?」
「シスターに来てほしいんだ」
「分かったわ」
二人は私の手を引いて、嬉しそうに食堂のほうに引っ張っていった。
「どうしたの二人とも。夕食にはまだ早いんじゃない?」
「「いいから、いいから!」」
食堂には、他の子どもたちと院長が集合していた。
そしてなぜかテーブルいっぱいのご馳走と、大きなケーキまで。
「院長、今日は何かのお祝いですか?」
「あ? ボケたこと言ってんじゃないよ、何の日か忘れちまったのかい」
……はて。
今日は何の日だろう? 宗教行事はないはずだ。
子どもたちの誕生日はもちろん必ず覚えているし、院長は先月61歳のお祝いをしたばかりだ。ケーキに刺さった61本のろうそくが轟々と燃え盛るさまは、きれいを通り越して凄まじかった。
「今日19歳になる小娘は、どこのどいつだい?」
「え…………あ!!」
「「「「「「「ハッピーバースデー、シスター・エルダ!」」」」」」
ぱぱぱぱぁん、とクラッカーが弾け、みんなが歓声をあげた。
「……そうか。私、今日がお誕生日だったわ」
毎日が充実しすぎて、誕生日なんて数えるのも忘れていた。
「まったく。忘れんぼうだなぁ、シスターは!」
「わたしたちのお誕生日は、いつもはちみつプディングとケーキでお祝いしてくれるのにね!」
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わいわいしながら、楽しい時間が始まった。
みんなと一緒に笑って話して、おいしい食事を囲んで。幸せないっぱいな時間を過ごしていると、頬を染めたレイが声をかけてきた。
「シスター。僕から、誕生日プレゼントがあるんです」
「え!?」
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「お金なんて、いつの間に……」
ハッとした。もしかして、最近外に働きに出ていたのは……。
「まさか、私へのプレゼントを買うために働いていたの!? ……そんな。レイががんばって稼いだお金を、私なんかに」
「受け取ってほしいんです。シスター・エルダ」
澄んだ紫の瞳で、まっすぐに私をつめている。
その瞳の美しさに吸い込まれそうになりながら、私は自分の頬が熱くなるのを感じた。
「でも、きっと初めてのプレゼントでしょう? 本当に、私でいいの?」
「あなたしかいません。もらってください」
ありがとう――。目じりに涙をにじませて、私が手を伸ばそうとしたとき。
「………………かはッ」
肺の奥から不快なものがせり上がってきて、私は激しくせき込んだ。口から血を吐く――いや、この赤いものは血ではなかった。
花びらだ。
口から赤バラの花弁のようなものを吐き散らし、私はその場にうずくまった。
「シスター!?」
子どもたちの悲痛な叫びが響き、楽しかったパーティの雰囲気が一転しておそろしいものへ。
「シスター・エルダ! どうしたんですか、シスター・エルダ!!」
レイが私を抱きしめて、必死で私の名を叫び続ける。
(……ああ、『時間切れ』なんだ)
力が入らなくなって、私はレイの腕の中で崩れ落ちた。
終わりの瞬間って、こんなあっけなく来ちゃうんだ。
さみしいな。
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