23 / 35
【20】29歳の誕生日②
(デートじゃない。デートじゃない。デートじゃない! これは絶対にデートじゃなくて、元シスターと元孤児の単なるお出かけよ)
馬車の中。窓の外に目をやりながら、自分自身に言い聞かせていた。引き返すことができない以上、オロオロしないで堂々と『単なるお出かけ』をやりきるしかないと思った。
ふと、窓ガラスに映り込んだラファエル様の姿に目が留まる。直接見るのは何だか気まずいので、窓ガラスに映った姿を見つめてしまった。
(……さすが侯爵家当主。着こなしが綺麗ね)
彼が身に纏っているのは、深みのあるボルドーのウェストコートとアイボリーのリネンシャツ。色調とデザインからは成熟した男性の風格が漂っていて、一般的には二十代後半以降の男性が好む服装だ――でも、彼はそれらを見事に着こなしていた。軽やかなベージュのジュストコールと色味を押さえたボトムスが、全体の調和を保っている。白手袋越しにも分かるほど指はすらりと長く、動きにまで気品が宿っているようだった。
惜しみない賞賛を送りたくなるくらい、ラファエル様の装いは完璧だ。……なぜか心臓がうるさくて困る。
(それにしても王都で街歩きだなんて、何年ぶりかしら……)
実は私は一度だけ、当時婚約者だったダミアンと王都でデートをしたことがあった。
あれはまだ14歳のときだったから、デートと言っても子どものお遊びみたいなものだけれど。ダミアンが、得意げに王都を案内してくれたのだった。
(……あのデートは、あんまり楽しくなかったわ。ダミアンが一方的に話してばかりだったし、あの人は早足で私を気遣ってもくれなくて、ヒールの靴でついていくのも大変だったな)
などと物思いにふけっていると、馬車は王都の目抜き通りに到着した。
「さあ、着きましたよエルダ。お手をどうぞ」
「ありがとう、レイ。………………?」
ラファエル様のエスコートで街に降り立った次の瞬間。私はふと、馬車のすぐそばに控えていた女性騎士に目を留めた。その女性騎士は二十代前半くらいで背が高く、切れ長の目が美しい人だった。
「……………………!?」
その女性騎士の顔に、私は釘付けになっていた。だって、この人とは遠い昔に会った気がするから……というか彼女は、間違いなく……。
「あなた、もしかして……バーネット!?」
間違いない。ミリュレー修道院で一緒に暮らしていた孤児のひとり、バーネットだ! 彼女は私を見つめ返してニカっと笑った。
「シスター。あたしのこと、覚えててくれたんですね」
「忘れるわけないでしょう!」
彼女の両手をしっかり握り、私は彼女を見上げた。
「バーネット。あなた、いったいどうして……」
「ラファエル様の手引きで、アルシュバーン侯爵家に仕えることになったんですよ。本日の護衛役はあたしが務めさせていただきますので、よろしくお願いします」
思いがけない再会の喜びに、胸が熱くなった。もっとバーネットと話したい。立派になったこの子と、もっと一緒に居たい。そう思って、私は彼女の手をぎゅっと握っていた。
しかしバーネットは、
「シスター。あたしとはまた、いつでもおしゃべりできますから。今日はせっかくのお誕生日なんですから、デートを楽しんでくださいよ」
言いながら、彼女はラファエル様のほうに視線を向けた。ふと見れば、ラファエル様がなぜか不自然な笑みを浮かべている。
(え? なに、その表情)
表向きは笑っているのだけれど、笑顔の奥から不満タラタラな感じが滲み出ている……。今の表情には見覚えがある。これは彼が拗ねているときの顔だ。
子ども時代の彼は、私が他の子ども達と仲良くすると、こういう表情になった。
懐かしくなって、私はクスクス笑ってしまった。
「……エルダ。何がおかしいんですか」
「いいえ? ちょっと懐かしくなってしまっただけ」
こういうときの、レイの機嫌の治し方ならよく覚えている。
「もう、レイったら。そんな顔をしないの」
そう言って、私は彼に笑いかけた。
「今日はせっかくのお出かけなんでしょう? 拗ねていないで、楽しみましょうよ」
10年前に戻った気分で私が言うと、レイは一気に機嫌を直した。
「それでは、行きましょう」
「ええ」
私と彼が歩き出すと、少し距離を置いて護衛役のバーネットも付いてきてくれていた。
***
すっかり気持ちがほぐれて、いつの間にやら私も街歩きを楽しむ気分になってきた。
「レイ。今日はどこに行くの?」
「まずはカフェに行きましょう。一番街にツッカークローネという人気店があるんですが、どうです?」
「ツッカークローネ? あのお店、今もあるの? 十代の頃に行ったことがあるけれど、店主のおじいさんが70歳を超えていたし、一番街じゃなくて裏通りでひっそり経営している隠れ家みたいなお店だったはずよ」
「9年前に息子夫婦が継いで、経営規模を広げたそうです。今では国内外に支店を出す超有名店ですよ」
「そうなの!? 行ってみたいわ! 私のはちみつプディングは、あのお店の味を真似した物なの」
「それは興味深いですね。ぜひ堪能したいです」
会話が弾み、気づけばお店に到着していた。
「エルダはお菓子が大好きでしたね。せっかくだからはちみつプディングだけでなく、プレッツェルとフラムクーヘンも頼みましょう。他にも気になるものがあれば」
そう言って、レイは思いついたものをどんどん注文していった。あっという間に、お菓子のお皿がテーブルの上にずらりと並ぶ。「いただきます」と言いながら、私はちょっと困惑していた。
「おいしそう。……でも、こんなに食べきれないわ」
「大丈夫ですよ。エルダが残したら、僕が全部食べるので」
「あら。あなたは少食だと思っていたけれど」
「それは子どもの頃の話です。今はたくさん食べますし、ましてやエルダとの食事ですから。美しい花の咲く席では、食べ物も一段とおいしくなるものです」
お菓子を味わいながら、レイはさらりとそんなことを言ってきた。本当に、すっかり女性の扱いに手慣れたものだ。
「あなたったら本当に、呼吸するみたいに甘い事ばかり言うんだから……。すっかり色男になっちゃったみたいだけれど、ご婦人方を泣かせたりしていないでしょうね」
「プレイボーイ? エルダは僕をそんなふうに思っていたのですか」
レイは、心底びっくりした様子で目を見開いていた。
「あなた以外の女性には、絶対にこんなことは言いません」
(婚約者には言わないの……? もしかして、婚約者には一線引いた態度で接していたりするのかしら)
あり得ない話ではない。相手の家格や派閥なども考慮すれば、マナーを最優先にすべきケースもあるだろう。
「それに、僕が言った言葉はすべて本心ですよ。エルダに対しては、嘘をつかないと昔から決めているんです」
レイの目があまりに真剣だったから、きっと本音なんだなと思った。
「そう。……分かったわ」
紫の瞳で、私をじっと見つめてくる。どきりとしそうになりながら、私は彼とは視線を合わさずお菓子のお皿をじっと見つめた。
(この人は本当に、私を大切に思ってくれているのね……)
私にだけ甘い言葉を囁いてくれるというのも、『かつての絆』を大事にし続けているからに違いない。嬉しくもあるけれど、私の心境は複雑だった。だって婚約者の女性が今の言葉を聞いたら、嫌な気分になるだろうから。
「あ。このプレッツェル、とても美味しいわ……。ほら、レイも食べてみて?」
敢えて話題を変えようと、私は笑ってお菓子を勧めた。
「いただきます。――ああ、本当においしいですね」
レイもそれ以上この話題を続けようとはせず、再びおいしそうに食べ始めた。
「侍女達への土産に買って帰りましょう。今後の茶菓子には、ぜひこの店をと伝えておきます」
「わぁ、すてきね!」
その後は他愛無い会話で盛り上がり、いつの間にかテーブルいっぱいのお皿が空っぽになっていた。
「……本当に全部食べ切っちゃった。甘いものの摂り過ぎでドクター・ピーナに怒られないかしら」
「1日くらい平気です。せっかくの誕生日ですから、楽しみましょう」
そう言って、彼は私をお店の外へと導いた。
レイは会話のリードがうまくて、エスコートの仕方も洗練されている。だから一緒にいるだけで、ついフワフワと気持ちよくなってしまう。大通りを歩く最中も、さりげなく私を気遣ってくれていた。
ゆっくり歩調を合わせてくれるし、私が疲れていないか、さりげなく見守り続けているのを感じる。こまめに休息を挟んでいるのも、病み上がりの私を気にかけているからだろう。
――優しいな。
こんなに優しい彼だからこそ、絶対に幸せになってほしい。私の存在が足かせになってはいけないし、幸せな結婚をしてほしい。
(……今日だけよ、エルダ。レイとの街歩きを楽しんでいいのは、今日だけ。誕生日が終わったら、いつもみたいに距離を置くの)
私が心の中でそう誓っていると、彼はふと足を止めた。
「この店に寄りませんか」
「え?」
私は顔を上げるまで、何のお店の前にいるのか気づかなかった。
目の前にあったのは、王室御用達の名門ジュエリーサロンだ。なんとなく歩いていただけのつもりだったのに、気づけば、彼に導かれるままこの店の前に立っていた。
「あなたに似合うものが見つかると思うので」
「えっ。いえ……あの……」
さりげなく肩を抱かれて、お店の中へと入ってしまった――いや、ジュエリーサロンって。元シスターと元孤児が行くような場所じゃなくない!?
馬車の中。窓の外に目をやりながら、自分自身に言い聞かせていた。引き返すことができない以上、オロオロしないで堂々と『単なるお出かけ』をやりきるしかないと思った。
ふと、窓ガラスに映り込んだラファエル様の姿に目が留まる。直接見るのは何だか気まずいので、窓ガラスに映った姿を見つめてしまった。
(……さすが侯爵家当主。着こなしが綺麗ね)
彼が身に纏っているのは、深みのあるボルドーのウェストコートとアイボリーのリネンシャツ。色調とデザインからは成熟した男性の風格が漂っていて、一般的には二十代後半以降の男性が好む服装だ――でも、彼はそれらを見事に着こなしていた。軽やかなベージュのジュストコールと色味を押さえたボトムスが、全体の調和を保っている。白手袋越しにも分かるほど指はすらりと長く、動きにまで気品が宿っているようだった。
惜しみない賞賛を送りたくなるくらい、ラファエル様の装いは完璧だ。……なぜか心臓がうるさくて困る。
(それにしても王都で街歩きだなんて、何年ぶりかしら……)
実は私は一度だけ、当時婚約者だったダミアンと王都でデートをしたことがあった。
あれはまだ14歳のときだったから、デートと言っても子どものお遊びみたいなものだけれど。ダミアンが、得意げに王都を案内してくれたのだった。
(……あのデートは、あんまり楽しくなかったわ。ダミアンが一方的に話してばかりだったし、あの人は早足で私を気遣ってもくれなくて、ヒールの靴でついていくのも大変だったな)
などと物思いにふけっていると、馬車は王都の目抜き通りに到着した。
「さあ、着きましたよエルダ。お手をどうぞ」
「ありがとう、レイ。………………?」
ラファエル様のエスコートで街に降り立った次の瞬間。私はふと、馬車のすぐそばに控えていた女性騎士に目を留めた。その女性騎士は二十代前半くらいで背が高く、切れ長の目が美しい人だった。
「……………………!?」
その女性騎士の顔に、私は釘付けになっていた。だって、この人とは遠い昔に会った気がするから……というか彼女は、間違いなく……。
「あなた、もしかして……バーネット!?」
間違いない。ミリュレー修道院で一緒に暮らしていた孤児のひとり、バーネットだ! 彼女は私を見つめ返してニカっと笑った。
「シスター。あたしのこと、覚えててくれたんですね」
「忘れるわけないでしょう!」
彼女の両手をしっかり握り、私は彼女を見上げた。
「バーネット。あなた、いったいどうして……」
「ラファエル様の手引きで、アルシュバーン侯爵家に仕えることになったんですよ。本日の護衛役はあたしが務めさせていただきますので、よろしくお願いします」
思いがけない再会の喜びに、胸が熱くなった。もっとバーネットと話したい。立派になったこの子と、もっと一緒に居たい。そう思って、私は彼女の手をぎゅっと握っていた。
しかしバーネットは、
「シスター。あたしとはまた、いつでもおしゃべりできますから。今日はせっかくのお誕生日なんですから、デートを楽しんでくださいよ」
言いながら、彼女はラファエル様のほうに視線を向けた。ふと見れば、ラファエル様がなぜか不自然な笑みを浮かべている。
(え? なに、その表情)
表向きは笑っているのだけれど、笑顔の奥から不満タラタラな感じが滲み出ている……。今の表情には見覚えがある。これは彼が拗ねているときの顔だ。
子ども時代の彼は、私が他の子ども達と仲良くすると、こういう表情になった。
懐かしくなって、私はクスクス笑ってしまった。
「……エルダ。何がおかしいんですか」
「いいえ? ちょっと懐かしくなってしまっただけ」
こういうときの、レイの機嫌の治し方ならよく覚えている。
「もう、レイったら。そんな顔をしないの」
そう言って、私は彼に笑いかけた。
「今日はせっかくのお出かけなんでしょう? 拗ねていないで、楽しみましょうよ」
10年前に戻った気分で私が言うと、レイは一気に機嫌を直した。
「それでは、行きましょう」
「ええ」
私と彼が歩き出すと、少し距離を置いて護衛役のバーネットも付いてきてくれていた。
***
すっかり気持ちがほぐれて、いつの間にやら私も街歩きを楽しむ気分になってきた。
「レイ。今日はどこに行くの?」
「まずはカフェに行きましょう。一番街にツッカークローネという人気店があるんですが、どうです?」
「ツッカークローネ? あのお店、今もあるの? 十代の頃に行ったことがあるけれど、店主のおじいさんが70歳を超えていたし、一番街じゃなくて裏通りでひっそり経営している隠れ家みたいなお店だったはずよ」
「9年前に息子夫婦が継いで、経営規模を広げたそうです。今では国内外に支店を出す超有名店ですよ」
「そうなの!? 行ってみたいわ! 私のはちみつプディングは、あのお店の味を真似した物なの」
「それは興味深いですね。ぜひ堪能したいです」
会話が弾み、気づけばお店に到着していた。
「エルダはお菓子が大好きでしたね。せっかくだからはちみつプディングだけでなく、プレッツェルとフラムクーヘンも頼みましょう。他にも気になるものがあれば」
そう言って、レイは思いついたものをどんどん注文していった。あっという間に、お菓子のお皿がテーブルの上にずらりと並ぶ。「いただきます」と言いながら、私はちょっと困惑していた。
「おいしそう。……でも、こんなに食べきれないわ」
「大丈夫ですよ。エルダが残したら、僕が全部食べるので」
「あら。あなたは少食だと思っていたけれど」
「それは子どもの頃の話です。今はたくさん食べますし、ましてやエルダとの食事ですから。美しい花の咲く席では、食べ物も一段とおいしくなるものです」
お菓子を味わいながら、レイはさらりとそんなことを言ってきた。本当に、すっかり女性の扱いに手慣れたものだ。
「あなたったら本当に、呼吸するみたいに甘い事ばかり言うんだから……。すっかり色男になっちゃったみたいだけれど、ご婦人方を泣かせたりしていないでしょうね」
「プレイボーイ? エルダは僕をそんなふうに思っていたのですか」
レイは、心底びっくりした様子で目を見開いていた。
「あなた以外の女性には、絶対にこんなことは言いません」
(婚約者には言わないの……? もしかして、婚約者には一線引いた態度で接していたりするのかしら)
あり得ない話ではない。相手の家格や派閥なども考慮すれば、マナーを最優先にすべきケースもあるだろう。
「それに、僕が言った言葉はすべて本心ですよ。エルダに対しては、嘘をつかないと昔から決めているんです」
レイの目があまりに真剣だったから、きっと本音なんだなと思った。
「そう。……分かったわ」
紫の瞳で、私をじっと見つめてくる。どきりとしそうになりながら、私は彼とは視線を合わさずお菓子のお皿をじっと見つめた。
(この人は本当に、私を大切に思ってくれているのね……)
私にだけ甘い言葉を囁いてくれるというのも、『かつての絆』を大事にし続けているからに違いない。嬉しくもあるけれど、私の心境は複雑だった。だって婚約者の女性が今の言葉を聞いたら、嫌な気分になるだろうから。
「あ。このプレッツェル、とても美味しいわ……。ほら、レイも食べてみて?」
敢えて話題を変えようと、私は笑ってお菓子を勧めた。
「いただきます。――ああ、本当においしいですね」
レイもそれ以上この話題を続けようとはせず、再びおいしそうに食べ始めた。
「侍女達への土産に買って帰りましょう。今後の茶菓子には、ぜひこの店をと伝えておきます」
「わぁ、すてきね!」
その後は他愛無い会話で盛り上がり、いつの間にかテーブルいっぱいのお皿が空っぽになっていた。
「……本当に全部食べ切っちゃった。甘いものの摂り過ぎでドクター・ピーナに怒られないかしら」
「1日くらい平気です。せっかくの誕生日ですから、楽しみましょう」
そう言って、彼は私をお店の外へと導いた。
レイは会話のリードがうまくて、エスコートの仕方も洗練されている。だから一緒にいるだけで、ついフワフワと気持ちよくなってしまう。大通りを歩く最中も、さりげなく私を気遣ってくれていた。
ゆっくり歩調を合わせてくれるし、私が疲れていないか、さりげなく見守り続けているのを感じる。こまめに休息を挟んでいるのも、病み上がりの私を気にかけているからだろう。
――優しいな。
こんなに優しい彼だからこそ、絶対に幸せになってほしい。私の存在が足かせになってはいけないし、幸せな結婚をしてほしい。
(……今日だけよ、エルダ。レイとの街歩きを楽しんでいいのは、今日だけ。誕生日が終わったら、いつもみたいに距離を置くの)
私が心の中でそう誓っていると、彼はふと足を止めた。
「この店に寄りませんか」
「え?」
私は顔を上げるまで、何のお店の前にいるのか気づかなかった。
目の前にあったのは、王室御用達の名門ジュエリーサロンだ。なんとなく歩いていただけのつもりだったのに、気づけば、彼に導かれるままこの店の前に立っていた。
「あなたに似合うものが見つかると思うので」
「えっ。いえ……あの……」
さりげなく肩を抱かれて、お店の中へと入ってしまった――いや、ジュエリーサロンって。元シスターと元孤児が行くような場所じゃなくない!?
あなたにおすすめの小説
モブで可哀相? いえ、幸せです!
みけの
ファンタジー
私のお姉さんは“恋愛ゲームのヒロイン”で、私はゲームの中で“モブ”だそうだ。
“あんたはモブで可哀相”。
お姉さんはそう、思ってくれているけど……私、可哀相なの?
婚約破棄されたトリノは、継母や姉たちや使用人からもいじめられているので、前世の記憶を思い出し、家から脱走して旅にでる!
山田 バルス
恋愛
この屋敷は、わたしの居場所じゃない。
薄明かりの差し込む天窓の下、トリノは古びた石床に敷かれた毛布の中で、静かに目を覚ました。肌寒さに身をすくめながら、昨日と変わらぬ粗末な日常が始まる。
かつては伯爵家の令嬢として、それなりに贅沢に暮らしていたはずだった。だけど、実の母が亡くなり、父が再婚してから、すべてが変わった。
「おい、灰かぶり。いつまで寝てんのよ、あんたは召使いのつもり?」
「ごめんなさい、すぐに……」
「ふーん、また寝癖ついてる。魔獣みたいな髪。鏡って知ってる?」
「……すみません」
トリノはペコリと頭を下げる。反論なんて、とうにあきらめた。
この世界は、魔法と剣が支配する王国《エルデラン》の北方領。名門リドグレイ伯爵家の屋敷には、魔道具や召使い、そして“偽りの家族”がそろっている。
彼女――トリノ・リドグレイは、この家の“戸籍上は三女”。けれど実態は、召使い以下の扱いだった。
「キッチン、昨日の灰がそのままだったわよ? ご主人様の食事を用意する手も、まるで泥人形ね」
「今朝の朝食、あなたの分はなし。ねえ、ミレイア? “灰かぶり令嬢”には、灰でも食べさせればいいのよ」
「賛成♪ ちょうど暖炉の掃除があるし、役立ててあげる」
三人がくすくすと笑うなか、トリノはただ小さくうなずいた。
夜。屋敷が静まり、誰もいない納戸で、トリノはひとり、こっそり木箱を開いた。中には小さな布包み。亡き母の形見――古びた銀のペンダントが眠っていた。
それだけが、彼女の“世界でただ一つの宝物”。
「……お母さま。わたし、がんばってるよ。ちゃんと、ひとりでも……」
声が震える。けれど、涙は流さなかった。
屋敷の誰にも必要とされない“灰かぶり令嬢”。
だけど、彼女の心だけは、まだ折れていない。
いつか、この冷たい塔を抜け出して、空の広い場所へ行くんだ。
そう、小さく、けれど確かに誓った。
【完結】私はいてもいなくても同じなのですね ~三人姉妹の中でハズレの私~
紺青
恋愛
マルティナはスコールズ伯爵家の三姉妹の中でハズレの存在だ。才媛で美人な姉と愛嬌があり可愛い妹に挟まれた地味で不器用な次女として、家族の世話やフォローに振り回される生活を送っている。そんな自分を諦めて受け入れているマルティナの前に、マルティナの思い込みや常識を覆す存在が現れて―――家族にめぐまれなかったマルティナが、強引だけど優しいブラッドリーと出会って、少しずつ成長し、別離を経て、再生していく物語。
※三章まで上げて落とされる鬱展開続きます。
※因果応報はありますが、痛快爽快なざまぁはありません。
※なろうにも掲載しています。
アンジェリーヌは一人じゃない
れもんぴーる
恋愛
義母からひどい扱いされても我慢をしているアンジェリーヌ。
メイドにも冷遇され、昔は仲が良かった婚約者にも冷たい態度をとられ居場所も逃げ場所もなくしていた。
そんな時、アルコール入りのチョコレートを口にしたアンジェリーヌの性格が激変した。
まるで別人になったように、言いたいことを言い、これまで自分に冷たかった家族や婚約者をこぎみよく切り捨てていく。
実は、アンジェリーヌの中にずっといた魂と入れ替わったのだ。
それはアンジェリーヌと一緒に生まれたが、この世に誕生できなかったアンジェリーヌの双子の魂だった。
新生アンジェリーヌはアンジェリーヌのため自由を求め、家を出る。
アンジェリーヌは満ち足りた生活を送り、愛する人にも出会うが、この身体は自分の物ではない。出来る事なら消えてしまった可哀そうな自分の半身に幸せになってもらいたい。でもそれは自分が消え、愛する人との別れの時。
果たしてアンジェリーヌの魂は戻ってくるのか。そしてその時もう一人の魂は・・・。
*タグに「平成の歌もあります」を追加しました。思っていたより歌に注目していただいたので(*´▽`*)
(なろうさま、カクヨムさまにも投稿予定です)
夫に用無しと捨てられたので薬師になって幸せになります。
光子
恋愛
この世界には、魔力病という、まだ治療法の見つかっていない未知の病が存在する。私の両親も、義理の母親も、その病によって亡くなった。
最後まで私の幸せを祈って死んで行った家族のために、私は絶対、幸せになってみせる。
たとえ、離婚した元夫であるクレオパス子爵が、市民に落ち、幸せに暮らしている私を連れ戻そうとしていても、私は、あんな地獄になんか戻らない。
地獄に連れ戻されそうになった私を救ってくれた、同じ薬師であるフォルク様と一緒に、私はいつか必ず、魔力病を治す薬を作ってみせる。
天国から見守っているお義母様達に、いつか立派な薬師になった姿を見てもらうの。そうしたら、きっと、私のことを褒めてくれるよね。自慢の娘だって、思ってくれるよね――――
不定期更新。
この世界は私の考えた世界の話です。設定ゆるゆるです。よろしくお願いします。
家族から冷遇されていた過去を持つ家政ギルドの令嬢は、旦那様に人のぬくもりを教えたい~自分に自信のない旦那様は、とても素敵な男性でした~
チカフジ ユキ
恋愛
叔父から使用人のように扱われ、冷遇されていた子爵令嬢シルヴィアは、十五歳の頃家政ギルドのギルド長オリヴィアに助けられる。
そして家政ギルドで様々な事を教えてもらい、二年半で大きく成長した。
ある日、オリヴィアから破格の料金が提示してある依頼書を渡される。
なにやら裏がありそうな値段設定だったが、半年後の成人を迎えるまでにできるだけお金をためたかったシルヴィアは、その依頼を受けることに。
やってきた屋敷は気持ちが憂鬱になるような雰囲気の、古い建物。
シルヴィアが扉をノックすると、出てきたのは長い前髪で目が隠れた、横にも縦にも大きい貴族男性。
彼は肩や背を丸め全身で自分に自信が無いと語っている、引きこもり男性だった。
その姿をみて、自信がなくいつ叱られるかビクビクしていた過去を思い出したシルヴィアは、自分自身と重ねてしまった。
家政ギルドのギルド員として、余計なことは詮索しない、そう思っても気になってしまう。
そんなある日、ある人物から叱責され、酷く傷ついていた雇い主の旦那様に、シルヴィアは言った。
わたしはあなたの側にいます、と。
このお話はお互いの強さや弱さを知りながら、ちょっとずつ立ち直っていく旦那様と、シルヴィアの恋の話。
*** ***
※この話には第五章に少しだけ「ざまぁ」展開が入りますが、味付け程度です。
※設定などいろいろとご都合主義です。
※小説家になろう様にも掲載しています。
特殊能力を持つ妹に婚約者を取られた姉、義兄になるはずだった第一王子と新たに婚約する
下菊みこと
恋愛
妹のために尽くしてきた姉、妹の裏切りで幸せになる。
ナタリアはルリアに婚約者を取られる。しかしそのおかげで力を遺憾なく発揮できるようになる。周りはルリアから手のひらを返してナタリアを歓迎するようになる。
小説家になろう様でも投稿しています。
【完結】私のことを愛さないと仰ったはずなのに 〜家族に虐げれ、妹のワガママで婚約破棄をされた令嬢は、新しい婚約者に溺愛される〜
ゆうき
恋愛
とある子爵家の長女であるエルミーユは、家長の父と使用人の母から生まれたことと、常人離れした記憶力を持っているせいで、幼い頃から家族に嫌われ、酷い暴言を言われたり、酷い扱いをされる生活を送っていた。
エルミーユには、十歳の時に決められた婚約者がおり、十八歳になったら家を出て嫁ぐことが決められていた。
地獄のような家を出るために、なにをされても気丈に振舞う生活を送り続け、無事に十八歳を迎える。
しかし、まだ婚約者がおらず、エルミーユだけ結婚するのが面白くないと思った、ワガママな異母妹の策略で騙されてしまった婚約者に、婚約破棄を突き付けられてしまう。
突然結婚の話が無くなり、落胆するエルミーユは、とあるパーティーで伯爵家の若き家長、ブラハルトと出会う。
社交界では彼の恐ろしい噂が流れており、彼は孤立してしまっていたが、少し話をしたエルミーユは、彼が噂のような恐ろしい人ではないと気づき、一緒にいてとても居心地が良いと感じる。
そんなブラハルトと、互いの結婚事情について話した後、互いに利益があるから、婚約しようと持ち出される。
喜んで婚約を受けるエルミーユに、ブラハルトは思わぬことを口にした。それは、エルミーユのことは愛さないというものだった。
それでも全然構わないと思い、ブラハルトとの生活が始まったが、愛さないという話だったのに、なぜか溺愛されてしまい……?
⭐︎全56話、最終話まで予約投稿済みです。小説家になろう様にも投稿しております。2/16女性HOTランキング1位ありがとうございます!⭐︎