望まぬ結婚をさせられた私のもとに、死んだはずの護衛騎士が帰ってきました~不遇令嬢が世界一幸せな花嫁になるまで

越智屋ノマ

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【Prologue】愚かな夫と、救国の騎士

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「恥ずかしながら、国王陛下に申し上げます! 妻のヴィオラはどうしようもない悪妻でして、1か月半も前に行方をくらませたきり、私のもとへ戻ってこないのです!!」


ここは、王宮内の拝謁の間。
私の夫――ルシウス・クラーヴァル公爵は沈痛な表情を浮かべながら、玉座に座した国王陛下へ訴えていた。

「ふむ、ルシウスよ。詳しく述べてみよ」
「かしこまりました、陛下!」

陛下とルシウス様のやりとりを、私は控え廊下から見守っていた。

「実は……結婚当初から、ヴィオラの素行には問題点が目立っていました」
ルシウス様は声を震わせ、あたかも自分が被害者であるかのように語り始めた。

「ヴィオラはあまりに無教養で不遜……! 夫である私を愛する努力もせず、使用人を道具のように扱い、体調不良を口実に夫人の務めを一切果たそうとしませんでした。それを注意したところ、反発して屋敷から出ていったのです――!」

ルシウス様は有ること無いことを並べ立て、私の悪妻ぶりを国王陛下に説明し続けていた。……有ること無いこと、というか全部『無いこと』ばかりだ。執拗な嫌がらせで私をいたぶり続けていたのは、ルシウス様のほうだというのに。


――初夜の晩に『君のような田舎者を愛する気はない』と突き放してきたのは、あなたでしょ?
――私の黒髪を『カラスのように汚い色だ』と罵ったのも、あなたですよね?
――あなたがそんな態度だから、使用人たちも私を冷遇していた。あなたは使用人をたしなめるどころか、むしろ容認してさえいた!


本当に、最低な人!
怒りと屈辱で、私の肩は震え出していた。……でも。


「大丈夫ですよ、ヴィオラ様」

小さく震える私の肩を、『彼』は優しく引き寄せてくれた。
『彼』の吐息が耳に掛かり、思わずどきりとしてしまう。

「あなたには、俺が付いています」

そう言って、彼は私に微笑みかけた。銀色の髪に白磁の美貌――そんな『彼』の笑顔は、本当に眩しくて。
私の暗い気持ちなんて、あっという間に溶かしてくれる。
「……ありがとう。そうね、あなたがいてくれるんだもの」
『彼』がいれば……私は平気。


一方で、ルシウス様はなおも国王陛下に訴え続けていた。

「国王陛下。妻の捜索を、王家の権限で実施していただけませんでしょうか?」
「ほう? ヴィオラ夫人の捜索を?」
「はい、これまでクラーヴァル公爵家の権限範囲内で捜索を行ってきましたが、何の手掛かりもつかめませんでした。妻の失踪を手助けする、協力者がいるに違いありません!」

「……協力者とな?」
「陛下のお力添えで、ヴィオラの身柄を隠す不届き者を捕えてくださいませ! そして私はヴィオラを連れ戻し、今度こそ公爵家の妻に相応しい女性として厳しい教育を――」

「それは無謀な相談だ」

ぴしゃりと国王陛下に遮られ、夫は驚いているようだった。

「ルシウス・クラーヴァル公爵よ。ヴィオラ夫人の身柄を隠す『協力者』を、そなたが罰することはできん。なぜなら、その協力者はなのだから」


「――は、?」
という間の抜けた声が、夫の口から洩れた。

「そなたの話とヴィオラ夫人から聞いた話には、大きな乖離があるようだ。両者の言い分をこれから存分に聞かせてもらおう。今日は、その為にそなたを呼び出したのだからな。――それではヴィオラ夫人、入って参れ」

国王陛下に呼びかけられて、私は控えの廊下から拝謁の間へと進み出た。そんな私をエスコートするかのように、『彼』も並んで歩いてくれる。

――大丈夫。私はもう、ルシウス様なんて怖くない。
だって、私はひとりぼっちではないんだもの。今の私の隣には、『彼』がいてくれるんだもの。

夫はあんぐりと口を開けて、私と彼を見つめていた。

「なっ……!? ヴィオラ……! そ、それに、お前は…………!?」

国王の御前だというのに、夫は露骨に慌てふためいていた。公爵家の当主ともあろうお方が、みっともないこと。

夫は震える指で『彼』を指さし、まるで亡霊でも見たかのように青ざめている。
「お、お前は、災禍の竜との戦いで死んだはずじゃあないか! なのに、なぜ……」


「生き返ったのさ」
良く通る声音で、『彼』――エデン・アーヴィスは答えた。

「国家の剣にして我が主人ヴィオラ・ノイリス様の忠実なる護衛騎士、このエデン・アーヴィスは、死の淵より舞い戻った! ――ルシウス・クラーヴァル公爵、卿の悪事を私は全て見ていたぞ!!」

銀の髪が立ち上るほどの気炎を噴き上げ、琥珀の瞳に激しい怒りの色を帯びて、私の護衛騎士エデンは夫を睨み据えている。

そんなエデンを、私は眩しいものを見るような眼差しで見つめた。死んだはずのエデンが、こうして私の隣に立っているなんて……いまだに信じられない。

私は夢を見るような気持ちで、幼少時から今に至るまでの、すべてを思い返していた――。

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