望まぬ結婚をさせられた私のもとに、死んだはずの護衛騎士が帰ってきました~不遇令嬢が世界一幸せな花嫁になるまで

越智屋ノマ

文字の大きさ
1 / 32

【Prologue】愚かな夫と、救国の騎士

「恥ずかしながら、国王陛下に申し上げます! 妻のヴィオラはどうしようもない悪妻でして、1か月半も前に行方をくらませたきり、私のもとへ戻ってこないのです!!」


ここは、王宮内の拝謁の間。
私の夫――ルシウス・クラーヴァル公爵は沈痛な表情を浮かべながら、玉座に座した国王陛下へ訴えていた。

「ふむ、ルシウスよ。詳しく述べてみよ」
「かしこまりました、陛下!」

陛下とルシウス様のやりとりを、私は控え廊下から見守っていた。

「実は……結婚当初から、ヴィオラの素行には問題点が目立っていました」
ルシウス様は声を震わせ、あたかも自分が被害者であるかのように語り始めた。

「ヴィオラはあまりに無教養で不遜……! 夫である私を愛する努力もせず、使用人を道具のように扱い、体調不良を口実に夫人の務めを一切果たそうとしませんでした。それを注意したところ、反発して屋敷から出ていったのです――!」

ルシウス様は有ること無いことを並べ立て、私の悪妻ぶりを国王陛下に説明し続けていた。……有ること無いこと、というか全部『無いこと』ばかりだ。執拗な嫌がらせで私をいたぶり続けていたのは、ルシウス様のほうだというのに。


――初夜の晩に『君のような田舎者を愛する気はない』と突き放してきたのは、あなたでしょ?
――私の黒髪を『カラスのように汚い色だ』と罵ったのも、あなたですよね?
――あなたがそんな態度だから、使用人たちも私を冷遇していた。あなたは使用人をたしなめるどころか、むしろ容認してさえいた!


本当に、最低な人!
怒りと屈辱で、私の肩は震え出していた。……でも。


「大丈夫ですよ、ヴィオラ様」

小さく震える私の肩を、『彼』は優しく引き寄せてくれた。
『彼』の吐息が耳に掛かり、思わずどきりとしてしまう。

「あなたには、俺が付いています」

そう言って、彼は私に微笑みかけた。銀色の髪に白磁の美貌――そんな『彼』の笑顔は、本当に眩しくて。
私の暗い気持ちなんて、あっという間に溶かしてくれる。
「……ありがとう。そうね、あなたがいてくれるんだもの」
『彼』がいれば……私は平気。


一方で、ルシウス様はなおも国王陛下に訴え続けていた。

「国王陛下。妻の捜索を、王家の権限で実施していただけませんでしょうか?」
「ほう? ヴィオラ夫人の捜索を?」
「はい、これまでクラーヴァル公爵家の権限範囲内で捜索を行ってきましたが、何の手掛かりもつかめませんでした。妻の失踪を手助けする、協力者がいるに違いありません!」

「……協力者とな?」
「陛下のお力添えで、ヴィオラの身柄を隠す不届き者を捕えてくださいませ! そして私はヴィオラを連れ戻し、今度こそ公爵家の妻に相応しい女性として厳しい教育を――」

「それは無謀な相談だ」

ぴしゃりと国王陛下に遮られ、夫は驚いているようだった。

「ルシウス・クラーヴァル公爵よ。ヴィオラ夫人の身柄を隠す『協力者』を、そなたが罰することはできん。なぜなら、その協力者はなのだから」


「――は、?」
という間の抜けた声が、夫の口から洩れた。

「そなたの話とヴィオラ夫人から聞いた話には、大きな乖離があるようだ。両者の言い分をこれから存分に聞かせてもらおう。今日は、その為にそなたを呼び出したのだからな。――それではヴィオラ夫人、入って参れ」

国王陛下に呼びかけられて、私は控えの廊下から拝謁の間へと進み出た。そんな私をエスコートするかのように、『彼』も並んで歩いてくれる。

――大丈夫。私はもう、ルシウス様なんて怖くない。
だって、私はひとりぼっちではないんだもの。今の私の隣には、『彼』がいてくれるんだもの。

夫はあんぐりと口を開けて、私と彼を見つめていた。

「なっ……!? ヴィオラ……! そ、それに、お前は…………!?」

国王の御前だというのに、夫は露骨に慌てふためいていた。公爵家の当主ともあろうお方が、みっともないこと。

夫は震える指で『彼』を指さし、まるで亡霊でも見たかのように青ざめている。
「お、お前は、災禍の竜との戦いで死んだはずじゃあないか! なのに、なぜ……」


「生き返ったのさ」
良く通る声音で、『彼』――エデン・アーヴィスは答えた。

「国家の剣にして我が主人ヴィオラ・ノイリス様の忠実なる護衛騎士、このエデン・アーヴィスは、死の淵より舞い戻った! ――ルシウス・クラーヴァル公爵、卿の悪事を私は全て見ていたぞ!!」

銀の髪が立ち上るほどの気炎を噴き上げ、琥珀の瞳に激しい怒りの色を帯びて、私の護衛騎士エデンは夫を睨み据えている。

そんなエデンを、私は眩しいものを見るような眼差しで見つめた。死んだはずのエデンが、こうして私の隣に立っているなんて……いまだに信じられない。

私は夢を見るような気持ちで、幼少時から今に至るまでの、すべてを思い返していた――。

感想 0

あなたにおすすめの小説

〖完結〗終着駅のパッセージ 

苺 迷音
恋愛
過去、使用人に悪戯をされそうになった事がきっかけとなり、分厚い眼鏡とひっつめた髪を編み帽で覆い、自身の容姿を隠すようになった女性・カレン。 その事情を知りながらも夫ローランは、奇妙で地味な姿の妻を厭い目を逸らし続けた。 婚姻してからわずか三日後の朝。彼は赴任先の北の地へと旅立ちその後、カレンの元へと帰省してきたのは、片手で数えるほどだった。 孤独な結婚生活を送る中。 ある冬の日に、ローランの上官であり北の地を治める領主ハルシオン公爵が、カレン夫妻の邸にやってきた。 始まりは、部下の家族を想う上司としての気遣いだった。 他愛もない会話と、節度を守ったやり取り。ほんの僅かな時間を重ねていく。 そのうちに、お互いに灯り始めた小さな心の想い。 だが二人は、それを決して明かさず語ることはなかった。 それから一年ほどたった冬の夜。 カレンから届いた手紙に、たった一度だけハルシオンは返事を書く。 そこには彼の想いが書かれてあった。 月日は流れ、カレンとローランが婚姻して三年目の冬の日。 カレンはひとつの決意と想いを胸に、北へ向かう汽車に乗った。 ※微さまぁか、もしくはざまぁになっていないかもしれないです。 ※舞台は近世・産業革命初頭を基にした架空世界だと思っていただけましたら有難いです。 稚拙な作品ではありますがご覧くださいましたら凄く嬉しいです。よろしくお願い致します。

初恋の還る路

みん
恋愛
女神によって異世界から2人の男女が召喚された。それによって、魔導師ミューの置き忘れた時間が動き出した。 初めて投稿します。メンタルが木綿豆腐以下なので、暖かい気持ちで読んでもらえるとうれしいです。 毎日更新できるように頑張ります。

白い結婚がバラ色に染まるまで〜30才離れても愛してくれますか〜

雑食ハラミ
恋愛
両親を早くに亡くした貴族令嬢イヴォンヌは、義母娘から虐げられる毎日。そんなある日、義母の差し金で50歳の退役軍人の後妻として嫁ぐ話が浮上する。だが相手のギルバートは「これは白い結婚だから安心してほしい」とイヴォンヌに告げる。亡き父の部下だったギルバートは、忘れ形見の窮状を聞き、便宜上の婚姻関係を結び彼女を保護してくれるというのだ。イヴォンヌはためらいつつも、彼の提案を受け入れた。 死に別れした前妻を今でも愛するギルバート。彼の温かい心根を知り、初めての安らぎを得たイヴォンヌは次第に心を寄せていく。しかし30歳差という現実は、予想以上に大きな壁となって二人の前に立ちはだかった。果たしてイヴォンヌは、白い結婚を本物にできるのだろうか? 本編27話+外伝2話の計29話です。

辺境伯へ嫁ぎます。

アズやっこ
恋愛
私の父、国王陛下から、辺境伯へ嫁げと言われました。 隣国の王子の次は辺境伯ですか… 分かりました。 私は第二王女。所詮国の為の駒でしかないのです。 例え父であっても国王陛下には逆らえません。 辺境伯様… 若くして家督を継がれ、辺境の地を護っています。 本来ならば第一王女のお姉様が嫁ぐはずでした。 辺境伯様も10歳も年下の私を妻として娶らなければいけないなんて可哀想です。 辺境伯様、大丈夫です。私はご迷惑はおかけしません。 それでも、もし、私でも良いのなら…こんな小娘でも良いのなら…貴方を愛しても良いですか?貴方も私を愛してくれますか? そんな望みを抱いてしまいます。  ❈ 作者独自の世界観です。  ❈ 設定はゆるいです。  (言葉使いなど、優しい目で読んで頂けると幸いです)  ❈ 誤字脱字等教えて頂けると幸いです。  (出来れば望ましいと思う字、文章を教えて頂けると嬉しいです)

【完結】偽物聖女は冷血騎士団長様と白い結婚をしたはずでした。

雨宮羽那
恋愛
 聖女補佐官であるレティノアは、補佐官であるにも関わらず、祈りをささげる日々を送っていた。  というのも、本来聖女であるはずの妹が、役目を放棄して遊び歩いていたからだ。  そんなある日、妹が「真実の愛に気づいたの」と言って恋人と駆け落ちしてしまう。  残されたのは、聖女の役目と――王命によって決められた聖騎士団長様との婚姻!?  レティノアは、妹の代わりとして聖女の立場と聖騎士団長との結婚を押し付けられることに。  相手のクラウスは、「血も涙もない冷血な悪魔」と噂される聖騎士団長。クラウスから「俺はあなたに触れるつもりはない」と言い放たれたレティノアは、「これは白い結婚なのだ」と理解する。  しかし、クラウスの態度は噂とは異なり、レティノアを愛しているようにしか思えなくて……?  これは、今まで妹の代わりの「偽物」として扱われてきた令嬢が「本物」として幸せをつかむ物語。 ◇◇◇◇ お気に入り登録、♡、感想などいただければ、作者が大変喜びます! モチベになるので良ければ応援していただければ嬉しいです♪ ※いつも通りざまぁ要素は中盤以降。 ※完結まで執筆済み ※表紙はAIイラストです ※小説内容にはAI不使用です。 ※「小説家になろう」「エブリスタ」「カクヨム」様にも掲載しております。

「お前を愛するつもりはない」な仮面の騎士様と結婚しました~でも白い結婚のはずなのに溺愛してきます!~

卯月ミント
恋愛
「お前を愛するつもりはない」 絵を描くのが趣味の侯爵令嬢ソールーナは、仮面の英雄騎士リュクレスと結婚した。 だが初夜で「お前を愛するつもりはない」なんて言われてしまい……。 ソールーナだって好きでもないのにした結婚である。二人はお互いカタチだけの夫婦となろう、とその夜は取り決めたのだが。 なのに「キスしないと出られない部屋」に閉じ込められて!? 「目を閉じてくれるか?」「えっ?」「仮面とるから……」 書き溜めがある内は、1日1~話更新します それ以降の更新は、ある程度書き溜めてからの投稿となります *仮面の俺様ナルシスト騎士×絵描き熱中令嬢の溺愛ラブコメです。 *ゆるふわ異世界ファンタジー設定です。 *コメディ強めです。 *hotランキング14位行きました!お読みいただき&お気に入り登録していただきまして、本当にありがとうございます!

【完結】孤高の皇帝は冷酷なはずなのに、王妃には甘過ぎです。

朝日みらい
恋愛
異国からやってきた第3王女のアリシアは、帝国の冷徹な皇帝カイゼルの元に王妃として迎えられた。しかし、冷酷な皇帝と呼ばれるカイゼルは周囲に心を許さず、心を閉ざしていた。しかし、アリシアのひたむきさと笑顔が、次第にカイゼルの心を溶かしていき――。

【完結】幼な妻は年上夫を落としたい ~妹のように溺愛されても足りないの~

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢
恋愛
この人が私の夫……政略結婚だけど、一目惚れです! 12歳にして、戦争回避のために隣国の王弟に嫁ぐことになった末っ子姫アンジェル。15歳も年上の夫に会うなり、一目惚れした。彼のすべてが大好きなのに、私は年の離れた妹のように甘やかされるばかり。溺愛もいいけれど、妻として愛してほしいわ。  両片思いの擦れ違い夫婦が、本物の愛に届くまで。ハッピーエンド確定です♪  ハッピーエンド確定 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/07/06……完結 2024/06/29……本編完結 2024/04/02……エブリスタ、トレンド恋愛 76位 2024/04/02……アルファポリス、女性向けHOT 77位 2024/04/01……連載開始