望まぬ結婚をさせられた私のもとに、死んだはずの護衛騎士が帰ってきました~不遇令嬢が世界一幸せな花嫁になるまで

越智屋ノマ

文字の大きさ
5 / 32

【4】行動開始

しおりを挟む
「あなたの騎士エデン・アーヴィスは、これより行動を開始いたします」

そう言うと、エデンは私の体を操って扉の方へと向かって行った。部屋は先程の乱闘で物が散らばり切っていて、給仕服の男は床で気絶したままだ。

がちゃり。エデンは、勢いよく扉を開け放った。
扉の向こうからカギを開けようとしていたローザ・フラメ女伯爵が、びくりと身をこわばらせた。

「何用だ、フラメ女伯爵閣下」
ぎろりと殺意をたぎらせて、そう問いかけるエデンの姿に、フラメ女伯爵がぎょっとしている。

「え……い、いいえ、休憩室から激しい物音がすると、メイド達が言うものだから……」
フラメ女伯爵はエデンの着衣に乱れがないかジロジロ見ている。それから、エデンの肩越しに部屋の中を覗きこもうとして――。

「物音? あぁ、物音か。それならば」
エデンは悠然と笑いながら、気絶している男を指さした。
「あの給仕係のことだろう?」
「っ!!」

顔を引きつらせる女伯爵の横で、エデンはニヤリと唇を吊り上げた。
「あの給仕係は酒でも飲んでいたらしい――勤務中だというのに妙な話だな。入室した途端に一人でわめいて暴れた挙句、勝手に転んでそのまま眠ってしまった」

男の顔面には殴られた痕がくっきり残っているから、どこをどう見ても『勝手に転んだ』という説明は無理がある。無理があるのは承知の上で、エデンはわざと言っているのだろう。

「…………ヴィ、ヴィオラ奥様は……ご無事だったのかしら?」
「無論だ。私は遠巻きに奴を眺めていただけなので、あの男に
「……っ」
「おや。なにか言いたいことでもありそうな顔だが、何か?」

フラメ女伯爵が、恐怖に顔を引きつらせた。エデンの殺気に気圧されているようだ。

「フラメ女伯爵閣下。私は今この場で、事を荒立てるつもりはない。それは貴殿も同じだと思うが?」

エデンは笑みの形に唇を吊り上げ、殺気に満ちた瞳で彼女を射抜いた。

暴漢に襲わせたのを口外しないでやるから、ヴィオラ・クラーヴァルが正当防衛で反撃したことも不問にしろ――と。鋭い瞳で、エデンはフラメ女伯爵に無言の圧力をかけている。

「私の言いたいことを、あなたは理解できるだろうか」
「ひぃ!」
青ざめてこくこくと頷くフラメ女伯爵を冷たく見やると、エデンは彼女の脇をすり抜けて廊下へ出た。振り向きざまに、もう一度鋭く睨む。

「せっかくをしていただいたのに恐縮だが、私はこれで失礼する。それではフラメ女伯爵閣下、ごきげんよう」


   ◆

廊下を歩いているエデンに向かって、そっと呼びかけてみた。
(ありがとう、エデン。あなたのおかげで何とか切り抜けられたわ)
「この程度の牽制は、造作もありません」

暴行が未遂だったとしても、密室に男性と二人きりで居たという事実だけで『不貞』呼ばわりされる可能性があった。フラメ女伯爵の罠から逃れられたのは、エデンのおかげだ。

「……本当はあの女をこの場で成敗してやりたいところですが、今は我慢しました。白兵戦を仕掛けるなら用意周到に、あるいは奇襲に限ります」

エデンはすっかり臨戦態勢だ。

「それでは、屋敷へ戻りましょう」

エデンは私の体を操ってパーティ会場に戻った。私の夫――ルシウス・クラーヴァル公爵を見つけて、一直線に向かって行く。

「!? ヴィオラ……」
ルシウス様の碧眼には、驚きの色が滲んでいる。平静を装いながら、注意深くエデンを観察していた。
「君の具合が悪くなったと聞いて驚いたよ。君に目を掛けられず、すまなかったね。……大丈夫だったかな?」

外面の良いルシウス様は『良き夫』を演じる方針のようで、気遣わしげな表情でこちらに手を伸ばしてきた。しかし、エデンは一歩退いてそれをかわす。

「ご心配には及びません。しかし、そろそろ屋敷に戻らせていただきます」
「……そうかい? それなら私も一緒に」
「いや、結構」
ぴしゃりと言って、エデンは凄絶な笑みを顔面に刻んだ。

「一人で帰ります。閣下はどうぞ、ごゆっくり」


   ◆


タウンハウスに戻る途中の、馬車の中。
エデンは溜息をついて、頭痛を抑えるような表情で眉間を押さえた。

「はぁ。体を動かす感覚は3年ぶりですが……それにしても、異様にだるい。頭痛と吐き気もしますが、ヴィオラ様はいつもこんな体調だったんですか?」
(……ええ)

エデンは平然と振る舞っていたけれど、実際は体の不調を感じていたらしい。私の体は、ずっとこんな調子なのだ。クラーヴァル家に嫁いでしばらくしたころから、だるさや吐き気に悩まされていた。

(でも、お医者様に診てもらっても異常はないと言われていたの。ただのストレスから来る不調に過ぎないって)
「これがただのストレス? あり得ません」
不服そうに、エデンは首を振っている。

「ヴィオラ様がつらそうにしている姿を、毎日見てはいましたが……ここまでだったとは」
(……ごめんなさい、エデン)
「なぜヴィオラ様が謝るんですか?」
(あなたが体を扱ってくれているおかげか、私自身は今あまり苦しくないの。不調をあなたに押し付けてしまって、本当にごめんなさい)

「ヴィオラ様が穏やかに過ごせているなら、俺は嬉しいです。不調なんていくらでも引き受けますよ」

馬車の座面に背中をもたれて、エデンは小さく笑っていた。

(ねぇ、これは夢じゃないのよね? 目が覚めたらあなたがいなくなっていたり……しないわよね?)
「これは現実です、ヴィオラ様」

嬉しかった。
これからは、誰よりも近い距離でエデンが一緒に居てくれる。
どんなつらい日々だって、エデンがいるなら耐えられると思った。
(ありがとう、エデン)

声を震わせてそう伝えると、エデンはくすぐったそうに笑っていた。

「俺は必ず、あなたを自由にしてみせます」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】偽物聖女は冷血騎士団長様と白い結婚をしたはずでした。

雨宮羽那
恋愛
 聖女補佐官であるレティノアは、補佐官であるにも関わらず、祈りをささげる日々を送っていた。  というのも、本来聖女であるはずの妹が、役目を放棄して遊び歩いていたからだ。  そんなある日、妹が「真実の愛に気づいたの」と言って恋人と駆け落ちしてしまう。  残されたのは、聖女の役目と――王命によって決められた聖騎士団長様との婚姻!?  レティノアは、妹の代わりとして聖女の立場と聖騎士団長との結婚を押し付けられることに。  相手のクラウスは、「血も涙もない冷血な悪魔」と噂される聖騎士団長。クラウスから「俺はあなたに触れるつもりはない」と言い放たれたレティノアは、「これは白い結婚なのだ」と理解する。  しかし、クラウスの態度は噂とは異なり、レティノアを愛しているようにしか思えなくて……?  これは、今まで妹の代わりの「偽物」として扱われてきた令嬢が「本物」として幸せをつかむ物語。 ◇◇◇◇ お気に入り登録、♡、感想などいただければ、作者が大変喜びます! モチベになるので良ければ応援していただければ嬉しいです♪ ※いつも通りざまぁ要素は中盤以降。 ※完結まで執筆済み ※表紙はAIイラストです ※アルファポリス先行投稿(他投稿サイトにも掲載予定です)

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

若い頃に婚約破棄されたけど、不惑の年になってようやく幸せになれそうです。

長岡更紗
恋愛
侯爵令嬢だったユリアーナは、第一王子のディートフリートと十歳で婚約した。 仲睦まじく過ごしていたある日、父親の死をきっかけにどん底まで落ちたユリアーナは婚約破棄されてしまう。 愛し合う二人は、離れ離れとなってしまったのだった。 ディートフリートを待ち続けるユリアーナ。 ユリアーナを迎えに行こうと奮闘するディートフリート。 二人に巻き込まれてしまった、男装の王弟。 時に笑い、時に泣き、諦めそうになり、奮闘し…… 全ては、愛する人と幸せになるために。 他サイトと重複投稿しています。 全面改稿して投稿中です。

数多の令嬢を弄んだ公爵令息が夫となりましたが、溺愛することにいたしました

鈴元 香奈
恋愛
伯爵家の一人娘エルナは第三王子の婚約者だったが、王子の病気療養を理由に婚約解消となった。そして、次の婚約者に選ばれたのは公爵家長男のリクハルド。何人もの女性を誑かせ弄び、ぼろ布のように捨てた女性の一人に背中を刺され殺されそうになった。そんな醜聞にまみれた男だった。 エルナが最も軽蔑する男。それでも、夫となったリクハルドを妻として支えていく決意をしたエルナだったが。 小説家になろうさんにも投稿しています。

人質王女の婚約者生活(仮)〜「君を愛することはない」と言われたのでひとときの自由を満喫していたら、皇太子殿下との秘密ができました〜

清川和泉
恋愛
幼い頃に半ば騙し討ちの形で人質としてブラウ帝国に連れて来られた、隣国ユーリ王国の王女クレア。 クレアは皇女宮で毎日皇女らに下女として過ごすように強要されていたが、ある日属国で暮らしていた皇太子であるアーサーから「彼から愛されないこと」を条件に婚約を申し込まれる。 (過去に、婚約するはずの女性がいたと聞いたことはあるけれど…) そう考えたクレアは、彼らの仲が公になるまでの繋ぎの婚約者を演じることにした。 移住先では夢のような好待遇、自由な時間をもつことができ、仮初めの婚約者生活を満喫する。 また、ある出来事がきっかけでクレア自身に秘められた力が解放され、それはアーサーとクレアの二人だけの秘密に。行動を共にすることも増え徐々にアーサーとの距離も縮まっていく。 「俺は君を愛する資格を得たい」 (皇太子殿下には想い人がいたのでは。もしかして、私を愛せないのは別のことが理由だった…?) これは、不遇な人質王女のクレアが不思議な力で周囲の人々を幸せにし、クレア自身も幸せになっていく物語。

捨てられ聖女は、王太子殿下の契約花嫁。彼の呪いを解けるのは、わたしだけでした。

鷹凪きら
恋愛
「力を失いかけた聖女を、いつまでも生かしておくと思ったか?」 聖女の力を使い果たしたヴェータ国の王女シェラは、王となった兄から廃棄宣告を受ける。 死を覚悟したが、一人の男によって強引に連れ去られたことにより、命を繋ぎとめた。 シェラをさらったのは、敵国であるアレストリアの王太子ルディオ。 「君が生きたいと願うなら、ひとつだけ方法がある」 それは彼と結婚し、敵国アレストリアの王太子妃となること。 生き延びるために、シェラは提案を受け入れる。 これは互いの利益のための契約結婚。 初めから分かっていたはずなのに、彼の優しさに惹かれていってしまう。 しかしある事件をきっかけに、ルディオはシェラと距離をとり始めて……? ……分かりました。 この際ですから、いっそあたって砕けてみましょう。 夫を好きになったっていいですよね? シェラはひっそりと決意を固める。 彼が恐ろしい呪いを抱えているとも知らずに…… ※『ネコ科王子の手なずけ方』シリーズの三作目、王太子編となります。 主人公が変わっているので、単体で読めます。

病弱令嬢ですが愛されなくとも生き抜きます〜そう思ってたのに甘い日々?〜

白川
恋愛
病弱に生まれてきたことで数多くのことを諦めてきたアイリスは、無慈悲と噂される騎士イザークの元に政略結婚で嫁ぐこととなる。 たとえ私のことを愛してくださらなくても、この世に生まれたのだから生き抜くのよ────。 そう意気込んで嫁いだが、果たして本当のイザークは…? 傷ついた不器用な二人がすれ違いながらも恋をして、溺愛されるまでのお話。

【コミカライズ決定】魔力ゼロの子爵令嬢は王太子殿下のキス係

ayame@コミカライズ決定
恋愛
【ネトコン12受賞&コミカライズ決定です!】私、ユーファミア・リブレは、魔力が溢れるこの世界で、子爵家という貴族の一員でありながら魔力を持たずに生まれた。平民でも貴族でも、程度の差はあれど、誰もが有しているはずの魔力がゼロ。けれど優しい両親と歳の離れた後継ぎの弟に囲まれ、贅沢ではないものの、それなりに幸せな暮らしを送っていた。そんなささやかな生活も、12歳のとき父が災害に巻き込まれて亡くなったことで一変する。領地を復興させるにも先立つものがなく、没落を覚悟したそのとき、王家から思わぬ打診を受けた。高すぎる魔力のせいで身体に異常をきたしているカーティス王太子殿下の治療に協力してほしいというものだ。魔力ゼロの自分は役立たずでこのまま穀潰し生活を送るか修道院にでも入るしかない立場。家族と領民を守れるならと申し出を受け、王宮に伺候した私。そして告げられた仕事内容は、カーティス王太子殿下の体内で暴走する魔力をキスを通して吸収する役目だったーーー。_______________

処理中です...