望まぬ結婚をさせられた私のもとに、死んだはずの護衛騎士が帰ってきました~不遇令嬢が世界一幸せな花嫁になるまで

越智屋ノマ

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【Epilogue】真の英雄は――?

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――半年後。


私は今、王都の夜会に出席している。

出席――ではなく正確には、私は主催者側の立ち位置だ。
今日の夜会の主催者は私の父と、『六領同盟』を構成する南部各領の領主たち。魔塩の産地である六領の代表者たちが、国中の貴族を招いて大規模な夜会を催している。

離婚後の私はノイリス伯爵家の籍へ戻り、いわゆる『バツイチ』の出戻り娘という状態だ。けれど私を嘲る者はおらず、もちろん実家のノイリス伯爵家も他家からそしりを受けることはなかった。

夜会の参加者たちへの応対で、父は忙しそうにしている――だけれど、とても幸せそうだ。私は弟のノアと一緒に、今日の夜会では父の補佐役を務めている。

長い冬を抜けて春を迎えたこの季節、夜会の参加者たちもどこかうきうきとした様子だ。イノベーションのカギを握る魔力資源・魔塩の価値と可能性に誰もが明るい未来を思い描いているのかもしれない。

今日の夜会には大半の貴族が参加しているけれど、クラーヴァル公爵家は来ていない。国王陛下から『お叱り』を受けた後、何かとゴタゴタしているらしい。

私のもと夫――ルシウス・クラーヴァルは、陛下の命令により当主の座から退くこととなった。
爵位は彼の弟へと譲渡され、ルシウス本人は領内で隠居生活をしているらしい。
隠居というとのんびりと聞こえるかもしれないけれど、実際は軟禁生活のような状態だと聞いた。なんでも、地位を失ったショックで正気を保てなくなってしまったとか。

まぁ、どのみち、二度と会うことのない人だ。

思い出す必要のない人のことを、つい思い出してしまった……。
なんとなく苦い気分になっていたそのとき、ひとりの男性がこちらに歩み寄ってきた。

白銀の髪に白磁の肌、すらりと細く引き締まった長身。透き通るような彼の美貌はとても目を引く。周囲の女性達が、甘いため息を漏らしていた。

「ごきげんよう、エデン様」

くすりと笑いながら私が言うと、エデンは気恥ずかしそうに眉を寄せた。
「やめてください、ヴィオラ様。これまで通りエデンと呼んでくだれば」
「いいえ、婚約相手の男性を呼び捨てになんて、そんな非礼はできません。……人前では、ね」
最後の「人前では、ね」のところだけ、囁き声で伝えた。

今の彼は、エデン・アーヴィス『伯爵閣下』。

先月エデンは国王陛下から、爵位と領地を賜った。領地の管理で本当に忙しそうにしていたから、最近はなかなか彼に会えずにいた。だから今日会えるのを、私はとても楽しみにしていたのだ。

私たちは無事に婚約を結び、秋のはじめには籍を入れることになっている。

エデンと話をしていると、父が気を利かせて私に「席を外して良いぞ」と言ってくれた。ふたりで連れ立って、バルコニーに出る。春の夜風が心地いい。並んで夜風に吹かれていると、

「やっぱり、あなたは綺麗ですね」
幸せを噛みしめるように、彼はそんなことを言ってきた。

「……恥ずかしいからおだてないで。でも嬉しいわ」

「俺は思ったことしか言いません。あなたは誰より綺麗です。あなたの中で生きていたときより、こうして並び合っているほうが、しっかりあなたを見られて幸せです」

……恥ずかしくて、くすぐったい。はぐらかすように、私はエデンに尋ねた。

「そういえば、領地の管理はどう?」
「正直を言うと、俺に政治は難しいです。ご存じかと思いますが、俺は頭より体を動かすほうが性に合っているので」

エデンはあいかわらずの正直者だ。

この実直さが私は大好きなのだけど、『腹に一物』が常套手段の貴族社会ではちょっと心配でもある。
彼は演技が下手なのだ。一緒の体で過ごしたときも、あれでよく周囲にばれなかったものだと驚いていた……。

「でもミュラーさんにしごかれて、少しずつ慣れてきましたよ」
「まぁ」

エデンの言う『ミュラーさん』というのは、リサの父親のことだ。
リサの父親は何十年もノイリス家で家令を務め、去年隠居してリサの兄に役職を譲った。そして今ではアーヴィス伯爵家の家令となり、エデンの臣下兼『鬼教師』のような立ち位置で辣腕をふるっているらしい。

「陛下に賜った地位ですから、責任をもって果たします。あなたを花嫁として迎えるためにも」

そう言って、彼は私の頬に手を伸ばした。
胸が高鳴り、頬が熱くなる。

「『救国の英雄』の妻になれるなんて、私は世界一幸せな花嫁ね」
恥ずかしくて堪らなくなりながら、私は言った。すると――。

「……俺は本当に救国の英雄なんでしょうか」

エデンが、突然そんなことを言い出した。
いまさら、何を言っているのだろう?

「実を言うと俺は、救国の英雄はヴィオラ様だったんじゃないかと思っています」
「え!? 私が……!?」

いくらなんでも無茶苦茶だ。
「どうして、私が?」

「子供のころからずっと感じていたんですが……ヴィオラ様はいつも、俺にふしぎな力を与えてくれるんです。応援されると力が湧くし、助けを求められればあなたの居場所を感じ取れました。魔法の力に目覚めたときも、あなたを守るためでした」

エデンは、真剣な顔で続けた。

「竜伐隊で王都に召集されるときもです。ヴィオラ様は、「必ず帰ってきて」「待っている」と言ってくれました。あのとき体の中に不思議な熱が宿った気がしたんですが。……あれは、何かの魔法なんじゃありませんか?」

「まさか。私は魔法なんて使えないわ」
「加護の魔法じゃないかと、俺は思っています」

加護の魔法……? 
そんなの、私は聞いたことがない。

「前にレオに聞いたんですが、加護の魔法は他者に能力や精霊を付与する、古代の魔法形態らしいです。……古い文献によると、千年前に災禍の竜からオロラニア王国を救った聖女も『加護』の使い手だったそうで。その聖女は、霊を自身に憑依させたりもしていたそうです」

ぽかんとしながら、私は話を聞いていた。

「俺が結晶に封じられたとき、魂だけ異国に飛ばされたのも。結果として魔塩の製法を持ち帰ることができたのも。あなたに憑依できたのも。竜に二度目の戦いを挑めたのも。全部あなたの加護によるに導きだったんじゃないかと……ヴィオラ様は聖女なんじゃないかと、俺は本気で思っています」

「私が……聖女!?」

思わず、あははと笑ってしまった。
「そんなの、ありえないわ。私にはなんの力もないもの!」

エデンったら、たまにおかしなことを言うんだから。そういうところも、昔から変わらない。
目に涙をにじませて笑い転げる私のことを、エデンは優しい目で見ていた。

「エデンは、私がただの女ではイヤ?」
「そんなはずがありません。俺にとってのあなたは、あなただ」
そう言って、彼は私を抱きしめてくれた。



――これは望まぬ結婚をさせられた伯爵令嬢と、亡くなったはずの護衛騎士との物語。
そしてこれからは、最愛の人の妻となる私と、生きて戻ったあなたの物語。


幸せをかみしめるような笑顔で、彼は私に言った。
「あなたを世界一幸せな花嫁にします。……ヴィオラ」

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