輪転十一世界のか弱き少女

影木とふ

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【2027J05131530佐川ユウ 1-3 】

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 結局、小テストがないことにも、三原が休みなことにも誰も触れず授業終了。

「なんだよ佐川。予告なし小テストなかったじゃないか。どこでそんなデマ情報拾ってきたんだよ」
 休み時間、高橋が文句を言ってきた。何か朝からおかしいな。どれ……。
「悪い、勘違いだったわ。えーと俺らの英語の担当教師の名前なんだっけ。度忘れした」
「どうした? あんな美人教師の名前を忘れるなんてお前らしくもない。笹井美代子だろ」
 ……やはり三原の名前は出なかった。高橋は当たり前のように俺の知らない先生の名前を出してきた。高橋はそんなに冗談を言うタイプじゃあない。
 こりゃあ、本気でおかしいな。


 昼休み、周囲が驚きの声を上げる速度で弁当を食べ終え、職員室へ向かう。

「失礼しまーす」
 ガララと扉を開け中に入る。三原先生の机があった場所を見るが、そこにはダンベルやプロテインの類はなく、代わりにファンシーなぬいぐるみ達で溢れていた。
 机の名札には「笹井」と書いてある。
「あら、どうしたの佐川君」
 職員室をウロウロしていたら、その「笹井」先生に声をかけられた。
「いえ、なんでもありません。失礼します」
 そう言って俺は職員室を出る。職員名簿も見たが三原先生の名前はどこにもなかった。


「どうなってんだ……」

 近所のコンビニといい、三原先生といい、俺の記憶がやばいのだろうか。
 いや、三原先生は昨日までは確かにいた。だが今日になって消えた。クラスのみんなも覚えていなかった。でも俺は覚えている……くそ。
「ちっ、夢でも見ているのか?」
 掴みきれない現状に俺の回転の鈍い脳では混乱してきたので、頭を冷やそうと屋上へ向かう。

 さすがに昼休みの屋上は賑わっている。
 人のいなかった貯水槽の裏あたりに腰を下ろす。うーんしまったな、飲み物でも買ってくればよかった。昨日のドラマの感想やら、どうでもいい話が周囲から聞こえる。
「………ぃ……はい……三原さんが………そうですか……」
「!」
 三原? 今、三原の名前が聞こえた。どこだ? 声の主を探る。
「はい、わかりました。では」
 ……いた。
 携帯端末で話している彼女の声だ。同じクラスの子だな。確か水野さん、だったか。
 声をかけようと思ったが、水野さんはすぐに屋上から降りて行ってしまった。

 確かに三原と言っていた。この学校に三原という名の先生や生徒は他にはいない。
 でも学校外の知り合いの可能性もあるか。何にせよ、あとで聞いてみよう。
 ……でも何て聞けばいいのだろうか。「三原先生って昨日までいましたよね?」ってか。
 うーん。新手のナンパかと思われそうだな。


 午後の授業の間、俺は斜め前の席の水野さんをボーっと眺めながら思案していた。
 
「水野さんはよしとけ、佐川」
 授業の合間の休み時間に高橋が言ってきた。
「確かに水野さんはかわいいからな、男子人気も高い。でもガードが固いみたいでな、もう何人もの勇者が玉砕してるぞ」
 何言ってんだ、コイツ。と思ったが、ボーっと水野さんを眺めていた俺は、周りからはそう見えるのか。うーん、そういうんじゃないんだが。
「俺もその勇者の一人だった」
 なぜか誇らしげに高橋が言ってきた。
「ステータス値が足りなかったのかなぁ……」
 恋愛SLGじゃねえっての。
 同性の俺が言うのもなんだが、高橋は成績優秀、性格も真面目で他人想い、見た目も結構いい。
 ……負け惜しみじゃあないけど、運動神経は俺がぶっちぎりだ。なんせこの高校に運動神経のみで入学出来たぐらいだしな。言っていて悲しいのは分かってる。
 この高校はちょっと変わっていて、入試にはペーパーテストと実技運動テストがあった。
 学力皆無の俺が入学出来たのはこの運動神経の賜物だ。ありがとう両親。
 でもこの高校、体育系に特化しているわけでもないんだよな。普通に進学校だし。
 そして運動神経で入ったくせに俺、部活やってねーし。
「お前も玉砕して勇者の仲間入りかな」
 なんにせよ、とりあえず誤解を解いておこう。
「あのな、そういうんじゃないって。それに俺には勇者とか似合わないって。いいとこ町の名前言うだけの看板君だって」
「あっははは! お前それハマリ役過ぎるって!」
 爆笑する勇者高橋。
 ……ここはフォローするところだろう……勇者よ。



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