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第19話
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コンコン
クロエが目の前にあるドアを一定のリズムで叩く。すると中から待ってました! いわんばかりの勢いで返事が返ってきた。
「はーい! 今開けるわ! 」
バタン! と扉が壊れてしまいそうな強さで開かれ、中から燃え盛るような赤髪を携えたエルが顔を出した。
その顔は喜々に染まっている。
「遅かったじゃない! ご飯でもおかわりしてたの? 」
「ううん、ルークに抱きついていたよ」
クロエはその質問に首を横に振って答えた。
回答が些か誤解を招きそうなものだったのは、幻聴だと思いたい。この歳でそれは些か問題があるだろうけど。
「そうだったんだ、ふーん……まあ中に入りなさいもう用意は出来ているわよ」
エルの視線が一瞬ルークにむいたが向けられたのと同じく直ぐに逸らされた。
「うん! お邪魔しまーす! 」
「どうぞー」
クロエはエルの向けた視線には気付かずに楽しそうに部屋に入っていった。ルークもそれをおって中に入る。
中はルーク達の部屋と同じ作りらしく、違う点はない。
あるとすれば所々に置かれているぬいぐるみだろうか。熊のぬいぐるみとか馬のぬいぐるみとかとても女の子らしいグッズの数々である。
ルークはエルたちの部屋を見回して、ユリアがいないのに気づいた。
どこを見ても姿形を確認できなかった。
もしかして、どこかに行っているのか? と首を傾げていると突然視界が暗闇に包まれる。
「うわっなんだ!? 」
反射的にそんな言葉が出てきたが、暗闇の中に温かさを感じて落ち着きを取り戻す。
そして典型的ないたずらに苦笑いを浮かべた。
「おいおいユリアがこんないたずらするなんて意外だな」
「あら、ばれましたか。つまんないですね」
ユリアはそう言うと手を離して首に手を回してきた。若干きまっているのは気のせいだよね?
ルークは首のいいところに入り込んでいる腕をどかそうとするが、まったくユリアの腕が動かない。思いっきり力を入れても、なにをしても動かせない腕に戸惑いを隠せない。
「グッ! 」
そんな事をやっているうちにも、徐々に首がしまっていき、息ができなくなってきた。
目の前にいる2人に助けを頼もうと声をだしてみようとしても肺に空気が残っていないのだろう、声が出ない。
しかも間の悪いことに2人は会話をして、楽しそうに笑いあっている。こっちに気づく前に俺がおっ死ぬだろう。
「なぜこんな事を」と聞きたいところだが、その前に空気を吸うことが先決だ。
しかたない、これだけはやりたくなかったが昨日覚えた魔法を……!
「だめですよ、魔法なんて使わせません」
「っ!? 」
いまこいつ、俺が魔法を使おうとしている事ことを!
ルークが顔に驚愕を貼り付けていると、ユリアは基本無表情な顔に冷酷な笑みを浮かべた。
「ふふっ どうしてそれを知っているんだ? って顔をしていますね簡単なことです。だって魔力がだだ漏れなんですもの、綺麗な金色の魔力が」
ちろりと舌を舐め、耳元で囁くイリア声はひどく蠱惑的だ。到底7歳の同世代とは思えない。しかも、気になることを言っていた。魔力が見えると。
ルークは少しだけ緩められた腕の間に指を入れて空気を確保してから、掠れた声で問いかける。
「どうして、こんなことを……というよりなぜ魔力が見える! お前はなにものだ……! 」
「へぇー こんな状況で平静を保てますか、評価を変態から上方修正しなければなりませんね」
「……変態という評価に突っ込んでやりたいがあえて流す、俺の質問に答えろ」
「つれないですね、でもまあいいです。答えて差し上げましょう、私は……」
イリアはそこで言葉を区切り、ルークの耳に口を寄せる。しかし、一向に言葉を発する雰囲気が感じられない。
これはおかしいとルークが思い始めていると、タイミングを見計らったように耳を包み込むように暖かい風が駆け抜けた。
「ただのユリアですよ。何の変哲もないエルの幼馴染でちょっと魔力の扱いに詳しい一般庶民に過ぎません」
「は? からかっているのか? 散々ためといてそれはないだろう」
ルークはてっきり「実は悪の秘密結社の構成員です」とか「転生者だ」とでも言われると思っていた。
そこになんの変哲もないイリアなんて、「怪しい」という言葉しか出てこない。
しかも、魔力が見える事についてなんの説明もなされていない。上手く煙に巻かれた形だ。
実際ルークの顔は不審に満ちていた。
「そんないかにも『不審』なんて顔しないでください。これは本当ですから、そうですねなんなら私の1番大切なものを賭けてもいいですよ」
「大切なもの、ね。因みになにを? 」
「始めてと言えばわかりますか? 」
いたずら気に微笑むイリアの横顔を見てルークは後悔する。ここでちょっとでも反応すればせっかく返上した変態の称号が戻ってきてしまうし、逆に無反応を貫けば逆に意識しているとこれまた変態の称号を得てしまう。
どっちにころがったとしても最悪の結末は避けられない。本来であればそんなことはないと言い切れるのだが、なぜか彼女はやると確信に似た感覚が湧いてきた。つまり今俺はイリアの手の上で転がされているのだ。この幼女侮れない。
しかし、俺もだてに高校生やっていたんじゃない。遥か年下の子供にやり込められてたまるか。
心の奥底からむくむくと負けず嫌いの心が「呼んだか? 」と顔を出す。
「ああ分かる、でも俺とイリアの双方の認識の誤差があっては悪いから、イリアの始めての意味を教えてくれ」
「えぇ、それを言わせるんですか? 結構鬼畜ですね。見た目は人畜無害な子供だと言うのに」
「首を締めながら言っているお前に言われたくないな」
ルークのその言葉を聞くとイリアは目を少し丸めた後、目の前で談笑している2人には聞こえないようにクツクツと笑い声をあげる。
「それもそうですね、実は私エルちゃんを超えるバイオレンスガールなんですよ? まあ、今の状況を2人に見られたとしても新婚さんごっこをしていたと誤魔化すので大丈夫だと思いますが」
「それは俺とイリアの双方の意見があってこそ成り立つ誤魔化し方だろ。俺は首絞められているって言うからな」
「安心してください、言わせますから。ルークさんは首とお別れしたくないでしょう」
イリアは首を締めている腕を少しずらして、代わりに手刀を当てた。
言わなければ首を飛ばすと言いたいのだろう。
「そんなことはできない」と言いたいが、イリアの実力は未知数に加えてこの自信満々な表情。決め付けは早計だ。
「……どこに安心する要素がある。ただの脅しだろうが」
「そうとも言います」
その言い方が通用するんだったらどんなことでもまかり通る気がするんだが、これは俺の気のせいだろうか?
ルークは耳元で聞こえる笑い声にげんなりとする。
「さて、お遊びは置いといて本題に入りましょう。時間がありませんからね」
「本題、だと? 」
「はい。昨日使用していた魔法についてーー警告します、魔法を寮内で使用しないでください」
イリアは底冷えする声で囁いた。ルークは思わず身体を震わせつつも、問い掛ける。
「なぜイリアが俺が魔法を使っていた事を知っている? 」
問いかけたルークの声は体と同じく震えていた。無理もないだろう。
魔力を見ることができるについてなんの説明もなされていないが、それ以前に昨日魔法を使っていたことがばれていることの方がかなり重大な問題だ。
部屋に魔法を練習するための本が置かれていて、部屋に案内される時に魔法の使用の禁止などといった決まりは聞かなかった。
このことから、部屋で魔法を使うことはなんら問題はないと思うのだが、それでも授業開始前から魔法を使うのは異質だろう。
そしてえてして社会で異質は排除される可能性が高い。
ランク分けという名の人間処分制度がまかり通っている元の世界より遥かに命が軽いこの世界でそれは顕著に違いない。
ルークはそのことを考慮して夜遅くのしかも自室で魔法を試そうと思っていたのだが、魔法の使用がダダ漏れと考えるととんだピエロだ。
ああ、俺今日で死んだ。
「ふふ、どうしたんですか? そんなに顔真っ青にさせて……そんなに私の脅しが怖かったのですか。意外と可愛いところがありますね。変態さん」
「……だれのせいだと思ってる」
「まあまあそんなかっかしないで。安心してください、貴方が魔法を使った事に気づいているのは私だけです。溢れ出した魔力は私が押さえ込んでおきましたのであなたの心配していいることは起きないと思いますよ」
「っ!? 押さえ込んだだと? なんでイリアそんなことをする必要がある? 昨日会ったばかりの他人じゃないか」
イリアがなぜそのようなことをするのか全くわからない。イリアとは昨日知り合ったばかりだ。そんな彼女がなぜ俺を助けるようなことしたのだろうか?
1つの可能性としてはその行為が俺の助けになると思っていないがあるが、それはないだろう。
彼女の言葉から考えるに助けになることを認識しているように捉えられた。
本当に一体どうなっているんだ。
「他人なんて悲しいこと言わないでください、と言いたいところですけど確かにその通りです。別に私は貴方のためにやったのではありませんーーすべてはクロエちゃんとエルちゃんのため」
「クロエとエルのためか……」
ルークはイリアの口から出た言葉を聞いて納得した。クロエの持ち前の可愛らしさにイリアはメロメロになっていた。それは昨日の言動を見るだけでも容易に推測できる。
「こいつは俺と同種だ」と思わされたくらいだ。
そしてエルは言葉にするまでもない。イリアにとって彼女は親友に位置することはだれが見ても明らかだ。
しかしここで疑問が湧いてくる。
それは今回のことがとなぜそれを知っているのかとなぜクロエとエルのために繋がるのかという事だ。
ランク分けの事に関しての情報は巧妙とは言えなくとも子供には絶対に分からないレベルで隠されている。イリアは言動から早熟である事が伺えるが、それでも子供だ。限度ってものがある。
誰かに教えて貰わないとしることは不可能に近い。
そしてクロエはともかくエルはイリアと同じく昨日会ったばかりで、しかも出会いは最悪と言えるものだった。
最終的には仲が良くなったが、心の奥底には悪い印象が済んだ池にヘドロが溜まるかの如く沈殿しているだろう。
俺が消えたとして「ふーん」「へー」で片付けられると思うんだが。
ルークがそんなことを考えていると疑問が顔に出ていたようでフッと笑みをこぼした後、答えた。
「クロエちゃんは貴方のことをただの幼馴染以上に好きみたいですし、心の大半を貴方が占めているのは自明の理です。エルも昨日会ったばかりの貴方を気に入っていました。部屋に帰ったあとで『いい友達が出来た』と喜びにあらわにしていましたからね。そんな貴方に居なくなられては困ります。可愛い生物が悲しい顔をするのは我慢できません」
「可愛い生物って……なるほどお前の行動原理はよく分かった。クロエとイリアのことを心配しているって事もな、でもまだ聞いてない事がある。なぜお前がそこまで魔力関連の事に精通しているんだ? ごまかそうとしても無駄だからな」
「……乙女の秘密を知りたければそれ相応の対価を払ってもらいますよ」
イリアはそう言うと首に回していた腕を片方だけ降ろしてルークの手に当てた。これ以上聞こうものなら指をへし折るという事だろう。
殺気がビンビンとルークに届く。だが、ルークもここまできて引き下がれない。
そこで1つの賭けに出る事にした。それは目の前にエルとクロエがいるという事。つまり、2人の悲しい顔を見たくないという行動原理をもつユリアが本当は2人の前で指を折らない、という賭けだ。
ハイリスクハイリターンな賭けだがやる価値はあると思う。とても卑怯な手段だが、しのごの言っている時ではないだろう。
「分かった、いいだろう。折りたければ折ればいいーー2人の悲しい顔を見たいんだったらな」
「っ!? ……ふふっそうきますか。2人を盾に使うとは変態だけではなく、クソ野郎だったんですね。私の辞書に赤文字で書き加えておきます。いいでしょうお答えします、ですがーーどうやら時間がきたようですね。これはまたの機会に」
「おい、それはどういう意味……」
ルークは極寒というまでの冷酷な顔からいつもの無表情に戻ったイリアの横顔を見ながら言いかけるが、すぐに言葉の意味が分かった。
「あっ! ルークくんにイリアちゃんが抱きついている! なにやってるの!? 」
「本当ね、後ろから包み込むように抱きつくなんてまるでお父さんとお母さんみたいだわ」
クロエとエルのふたりは振り返るなり、各々の反応を示した。クロエはルークとイリアの交互を指差して叫び、エルは腕を組んでなぜか頷いている。
イリアはこの2人が会話を終えて振り向く事を予め察知し、いつのも表情に戻ったに違いない。物凄い察知能力だ。
「これは新婚さんごっこですよ。設定としては6年の交際期間を経て、旦那様からプロポーズし、その3ヶ月後に親友親戚を呼んだ質素ながらも幸せな結婚式あげ、順風満帆な結婚生活を送り始めて2ヶ月目の現実の残酷さに気づきだしたのを愛で誤魔化そうとしている訳ありのアツアツな時期というところですね。ね? ルークさん」
細っ! それになにその設定、もの凄い重いんですけど。
ルークは顔を引きつらせながらも、イリアの話を聞いて誤魔化す方向に舵を切ったらしく、「そうなの? 」と問いかけてくるクロエとエルのふたりに答える。
「あ、ああそうだ。これは新婚さんごっこだ。しかし、初めてやったから慣れないな」
「えー! それならどうして2人で始めちゃうのー クロエも混ぜて欲しかったなー」
「そうよそうよ、私たちが話している間に始めちゃうなんて水臭いわ。罰としてルークは座席犬役ね」
クロエとエルのふたりはルークの言葉に納得したのか、疑惑の眼差しは無くなった。
しかし今度は自分達を除いて始めていた事に大層ご立腹のようで、ブーブーと文句を垂れる。
エルに至っては座席犬役という訳のわからない罰を提示しているくらいだ。ーー名前からしていったいどんな事をやらされるのかは目に見えているが……。
「エ、エルさん聞きたいんですけど因みに座席犬の役割を教えて頂けませんか? 」
「ん? 喜んで椅子になる駄犬を演じるだけでいいわ。簡単でしょ? 」
おかしい、「簡単でしょ? 」の使い所が間違っている気がするんだが。
喜んで椅子になる駄犬なんてそうそう演じられるものではないと思う。どんな名俳優でもやれと言われたら戸惑いを隠せないに違いないだろう。
ああ、これがカルチャーショックという奴なのか。……日本に帰りたい。
ルークは楽しそうにサムズアップしてくるエルを見て、この世界生まれ変わってから数え切れないほど吐いてきたため息を歴代最高レベルで深く、それは深く吐いたのだった。
クロエが目の前にあるドアを一定のリズムで叩く。すると中から待ってました! いわんばかりの勢いで返事が返ってきた。
「はーい! 今開けるわ! 」
バタン! と扉が壊れてしまいそうな強さで開かれ、中から燃え盛るような赤髪を携えたエルが顔を出した。
その顔は喜々に染まっている。
「遅かったじゃない! ご飯でもおかわりしてたの? 」
「ううん、ルークに抱きついていたよ」
クロエはその質問に首を横に振って答えた。
回答が些か誤解を招きそうなものだったのは、幻聴だと思いたい。この歳でそれは些か問題があるだろうけど。
「そうだったんだ、ふーん……まあ中に入りなさいもう用意は出来ているわよ」
エルの視線が一瞬ルークにむいたが向けられたのと同じく直ぐに逸らされた。
「うん! お邪魔しまーす! 」
「どうぞー」
クロエはエルの向けた視線には気付かずに楽しそうに部屋に入っていった。ルークもそれをおって中に入る。
中はルーク達の部屋と同じ作りらしく、違う点はない。
あるとすれば所々に置かれているぬいぐるみだろうか。熊のぬいぐるみとか馬のぬいぐるみとかとても女の子らしいグッズの数々である。
ルークはエルたちの部屋を見回して、ユリアがいないのに気づいた。
どこを見ても姿形を確認できなかった。
もしかして、どこかに行っているのか? と首を傾げていると突然視界が暗闇に包まれる。
「うわっなんだ!? 」
反射的にそんな言葉が出てきたが、暗闇の中に温かさを感じて落ち着きを取り戻す。
そして典型的ないたずらに苦笑いを浮かべた。
「おいおいユリアがこんないたずらするなんて意外だな」
「あら、ばれましたか。つまんないですね」
ユリアはそう言うと手を離して首に手を回してきた。若干きまっているのは気のせいだよね?
ルークは首のいいところに入り込んでいる腕をどかそうとするが、まったくユリアの腕が動かない。思いっきり力を入れても、なにをしても動かせない腕に戸惑いを隠せない。
「グッ! 」
そんな事をやっているうちにも、徐々に首がしまっていき、息ができなくなってきた。
目の前にいる2人に助けを頼もうと声をだしてみようとしても肺に空気が残っていないのだろう、声が出ない。
しかも間の悪いことに2人は会話をして、楽しそうに笑いあっている。こっちに気づく前に俺がおっ死ぬだろう。
「なぜこんな事を」と聞きたいところだが、その前に空気を吸うことが先決だ。
しかたない、これだけはやりたくなかったが昨日覚えた魔法を……!
「だめですよ、魔法なんて使わせません」
「っ!? 」
いまこいつ、俺が魔法を使おうとしている事ことを!
ルークが顔に驚愕を貼り付けていると、ユリアは基本無表情な顔に冷酷な笑みを浮かべた。
「ふふっ どうしてそれを知っているんだ? って顔をしていますね簡単なことです。だって魔力がだだ漏れなんですもの、綺麗な金色の魔力が」
ちろりと舌を舐め、耳元で囁くイリア声はひどく蠱惑的だ。到底7歳の同世代とは思えない。しかも、気になることを言っていた。魔力が見えると。
ルークは少しだけ緩められた腕の間に指を入れて空気を確保してから、掠れた声で問いかける。
「どうして、こんなことを……というよりなぜ魔力が見える! お前はなにものだ……! 」
「へぇー こんな状況で平静を保てますか、評価を変態から上方修正しなければなりませんね」
「……変態という評価に突っ込んでやりたいがあえて流す、俺の質問に答えろ」
「つれないですね、でもまあいいです。答えて差し上げましょう、私は……」
イリアはそこで言葉を区切り、ルークの耳に口を寄せる。しかし、一向に言葉を発する雰囲気が感じられない。
これはおかしいとルークが思い始めていると、タイミングを見計らったように耳を包み込むように暖かい風が駆け抜けた。
「ただのユリアですよ。何の変哲もないエルの幼馴染でちょっと魔力の扱いに詳しい一般庶民に過ぎません」
「は? からかっているのか? 散々ためといてそれはないだろう」
ルークはてっきり「実は悪の秘密結社の構成員です」とか「転生者だ」とでも言われると思っていた。
そこになんの変哲もないイリアなんて、「怪しい」という言葉しか出てこない。
しかも、魔力が見える事についてなんの説明もなされていない。上手く煙に巻かれた形だ。
実際ルークの顔は不審に満ちていた。
「そんないかにも『不審』なんて顔しないでください。これは本当ですから、そうですねなんなら私の1番大切なものを賭けてもいいですよ」
「大切なもの、ね。因みになにを? 」
「始めてと言えばわかりますか? 」
いたずら気に微笑むイリアの横顔を見てルークは後悔する。ここでちょっとでも反応すればせっかく返上した変態の称号が戻ってきてしまうし、逆に無反応を貫けば逆に意識しているとこれまた変態の称号を得てしまう。
どっちにころがったとしても最悪の結末は避けられない。本来であればそんなことはないと言い切れるのだが、なぜか彼女はやると確信に似た感覚が湧いてきた。つまり今俺はイリアの手の上で転がされているのだ。この幼女侮れない。
しかし、俺もだてに高校生やっていたんじゃない。遥か年下の子供にやり込められてたまるか。
心の奥底からむくむくと負けず嫌いの心が「呼んだか? 」と顔を出す。
「ああ分かる、でも俺とイリアの双方の認識の誤差があっては悪いから、イリアの始めての意味を教えてくれ」
「えぇ、それを言わせるんですか? 結構鬼畜ですね。見た目は人畜無害な子供だと言うのに」
「首を締めながら言っているお前に言われたくないな」
ルークのその言葉を聞くとイリアは目を少し丸めた後、目の前で談笑している2人には聞こえないようにクツクツと笑い声をあげる。
「それもそうですね、実は私エルちゃんを超えるバイオレンスガールなんですよ? まあ、今の状況を2人に見られたとしても新婚さんごっこをしていたと誤魔化すので大丈夫だと思いますが」
「それは俺とイリアの双方の意見があってこそ成り立つ誤魔化し方だろ。俺は首絞められているって言うからな」
「安心してください、言わせますから。ルークさんは首とお別れしたくないでしょう」
イリアは首を締めている腕を少しずらして、代わりに手刀を当てた。
言わなければ首を飛ばすと言いたいのだろう。
「そんなことはできない」と言いたいが、イリアの実力は未知数に加えてこの自信満々な表情。決め付けは早計だ。
「……どこに安心する要素がある。ただの脅しだろうが」
「そうとも言います」
その言い方が通用するんだったらどんなことでもまかり通る気がするんだが、これは俺の気のせいだろうか?
ルークは耳元で聞こえる笑い声にげんなりとする。
「さて、お遊びは置いといて本題に入りましょう。時間がありませんからね」
「本題、だと? 」
「はい。昨日使用していた魔法についてーー警告します、魔法を寮内で使用しないでください」
イリアは底冷えする声で囁いた。ルークは思わず身体を震わせつつも、問い掛ける。
「なぜイリアが俺が魔法を使っていた事を知っている? 」
問いかけたルークの声は体と同じく震えていた。無理もないだろう。
魔力を見ることができるについてなんの説明もなされていないが、それ以前に昨日魔法を使っていたことがばれていることの方がかなり重大な問題だ。
部屋に魔法を練習するための本が置かれていて、部屋に案内される時に魔法の使用の禁止などといった決まりは聞かなかった。
このことから、部屋で魔法を使うことはなんら問題はないと思うのだが、それでも授業開始前から魔法を使うのは異質だろう。
そしてえてして社会で異質は排除される可能性が高い。
ランク分けという名の人間処分制度がまかり通っている元の世界より遥かに命が軽いこの世界でそれは顕著に違いない。
ルークはそのことを考慮して夜遅くのしかも自室で魔法を試そうと思っていたのだが、魔法の使用がダダ漏れと考えるととんだピエロだ。
ああ、俺今日で死んだ。
「ふふ、どうしたんですか? そんなに顔真っ青にさせて……そんなに私の脅しが怖かったのですか。意外と可愛いところがありますね。変態さん」
「……だれのせいだと思ってる」
「まあまあそんなかっかしないで。安心してください、貴方が魔法を使った事に気づいているのは私だけです。溢れ出した魔力は私が押さえ込んでおきましたのであなたの心配していいることは起きないと思いますよ」
「っ!? 押さえ込んだだと? なんでイリアそんなことをする必要がある? 昨日会ったばかりの他人じゃないか」
イリアがなぜそのようなことをするのか全くわからない。イリアとは昨日知り合ったばかりだ。そんな彼女がなぜ俺を助けるようなことしたのだろうか?
1つの可能性としてはその行為が俺の助けになると思っていないがあるが、それはないだろう。
彼女の言葉から考えるに助けになることを認識しているように捉えられた。
本当に一体どうなっているんだ。
「他人なんて悲しいこと言わないでください、と言いたいところですけど確かにその通りです。別に私は貴方のためにやったのではありませんーーすべてはクロエちゃんとエルちゃんのため」
「クロエとエルのためか……」
ルークはイリアの口から出た言葉を聞いて納得した。クロエの持ち前の可愛らしさにイリアはメロメロになっていた。それは昨日の言動を見るだけでも容易に推測できる。
「こいつは俺と同種だ」と思わされたくらいだ。
そしてエルは言葉にするまでもない。イリアにとって彼女は親友に位置することはだれが見ても明らかだ。
しかしここで疑問が湧いてくる。
それは今回のことがとなぜそれを知っているのかとなぜクロエとエルのために繋がるのかという事だ。
ランク分けの事に関しての情報は巧妙とは言えなくとも子供には絶対に分からないレベルで隠されている。イリアは言動から早熟である事が伺えるが、それでも子供だ。限度ってものがある。
誰かに教えて貰わないとしることは不可能に近い。
そしてクロエはともかくエルはイリアと同じく昨日会ったばかりで、しかも出会いは最悪と言えるものだった。
最終的には仲が良くなったが、心の奥底には悪い印象が済んだ池にヘドロが溜まるかの如く沈殿しているだろう。
俺が消えたとして「ふーん」「へー」で片付けられると思うんだが。
ルークがそんなことを考えていると疑問が顔に出ていたようでフッと笑みをこぼした後、答えた。
「クロエちゃんは貴方のことをただの幼馴染以上に好きみたいですし、心の大半を貴方が占めているのは自明の理です。エルも昨日会ったばかりの貴方を気に入っていました。部屋に帰ったあとで『いい友達が出来た』と喜びにあらわにしていましたからね。そんな貴方に居なくなられては困ります。可愛い生物が悲しい顔をするのは我慢できません」
「可愛い生物って……なるほどお前の行動原理はよく分かった。クロエとイリアのことを心配しているって事もな、でもまだ聞いてない事がある。なぜお前がそこまで魔力関連の事に精通しているんだ? ごまかそうとしても無駄だからな」
「……乙女の秘密を知りたければそれ相応の対価を払ってもらいますよ」
イリアはそう言うと首に回していた腕を片方だけ降ろしてルークの手に当てた。これ以上聞こうものなら指をへし折るという事だろう。
殺気がビンビンとルークに届く。だが、ルークもここまできて引き下がれない。
そこで1つの賭けに出る事にした。それは目の前にエルとクロエがいるという事。つまり、2人の悲しい顔を見たくないという行動原理をもつユリアが本当は2人の前で指を折らない、という賭けだ。
ハイリスクハイリターンな賭けだがやる価値はあると思う。とても卑怯な手段だが、しのごの言っている時ではないだろう。
「分かった、いいだろう。折りたければ折ればいいーー2人の悲しい顔を見たいんだったらな」
「っ!? ……ふふっそうきますか。2人を盾に使うとは変態だけではなく、クソ野郎だったんですね。私の辞書に赤文字で書き加えておきます。いいでしょうお答えします、ですがーーどうやら時間がきたようですね。これはまたの機会に」
「おい、それはどういう意味……」
ルークは極寒というまでの冷酷な顔からいつもの無表情に戻ったイリアの横顔を見ながら言いかけるが、すぐに言葉の意味が分かった。
「あっ! ルークくんにイリアちゃんが抱きついている! なにやってるの!? 」
「本当ね、後ろから包み込むように抱きつくなんてまるでお父さんとお母さんみたいだわ」
クロエとエルのふたりは振り返るなり、各々の反応を示した。クロエはルークとイリアの交互を指差して叫び、エルは腕を組んでなぜか頷いている。
イリアはこの2人が会話を終えて振り向く事を予め察知し、いつのも表情に戻ったに違いない。物凄い察知能力だ。
「これは新婚さんごっこですよ。設定としては6年の交際期間を経て、旦那様からプロポーズし、その3ヶ月後に親友親戚を呼んだ質素ながらも幸せな結婚式あげ、順風満帆な結婚生活を送り始めて2ヶ月目の現実の残酷さに気づきだしたのを愛で誤魔化そうとしている訳ありのアツアツな時期というところですね。ね? ルークさん」
細っ! それになにその設定、もの凄い重いんですけど。
ルークは顔を引きつらせながらも、イリアの話を聞いて誤魔化す方向に舵を切ったらしく、「そうなの? 」と問いかけてくるクロエとエルのふたりに答える。
「あ、ああそうだ。これは新婚さんごっこだ。しかし、初めてやったから慣れないな」
「えー! それならどうして2人で始めちゃうのー クロエも混ぜて欲しかったなー」
「そうよそうよ、私たちが話している間に始めちゃうなんて水臭いわ。罰としてルークは座席犬役ね」
クロエとエルのふたりはルークの言葉に納得したのか、疑惑の眼差しは無くなった。
しかし今度は自分達を除いて始めていた事に大層ご立腹のようで、ブーブーと文句を垂れる。
エルに至っては座席犬役という訳のわからない罰を提示しているくらいだ。ーー名前からしていったいどんな事をやらされるのかは目に見えているが……。
「エ、エルさん聞きたいんですけど因みに座席犬の役割を教えて頂けませんか? 」
「ん? 喜んで椅子になる駄犬を演じるだけでいいわ。簡単でしょ? 」
おかしい、「簡単でしょ? 」の使い所が間違っている気がするんだが。
喜んで椅子になる駄犬なんてそうそう演じられるものではないと思う。どんな名俳優でもやれと言われたら戸惑いを隠せないに違いないだろう。
ああ、これがカルチャーショックという奴なのか。……日本に帰りたい。
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「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
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