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prologue
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評議会、などという仰々しいものが、よもや自分一人のために開かれる日が来ようなどとは、夢にも思わなかった。
……いや、正確には、「彼女一人のため」だろうか。
ずらりと並ぶ教師の面々と、生徒会の高嶺の花と呼ばれているらしいイケメン男子数人、そして「彼」と、極めつけにぐすぐす鼻を鳴らす女子生徒一人にずらりと囲まれ、私はさながら――というより明確に「加害者」として裁かれるために、そこにいた。
「彼女の言い分に、反論はあるか?」
教師の質問に、私はゆっくりと目を瞬かせた。
反論は、あるか。
そう聞かれたらもう、答えは一つだ。
反論しかない。
「とりあえず、罪状に、一つも心当たりがないです」
私が正直に答えると、評議会の場は一瞬にしてざわついた。
なんてふてぶてしい女だ、とか、あいつの神経はどうかしている、とか。
いや、一人の女子生徒を囲んで糾弾するあなた方の神経の方がどうかしていると、私は思う。
よくそれで教師だの生徒会だの、責任ある職務を果たしてこられたな、今日まで。
いや、というかあれだ。思い出せば「彼女」がここに来てから、職務は果たされていないのだった。
「えー、こほん。つまり、何かね。君は、あくまで自分は無実だと?」
「端からそう申し上げております」
私が淡々とそう言うと、再びのざわめき。いちいち騒がないでいただきたい。
「白百合さん。彼女はああ言っているが?」
「う、嘘です……。わた、私、あの人に……何度も……っ、死ねとか、早く消えろとか、言われました……っ。もちろん、私も耐えました……転校してきたよそ者はいじめられやすいってききますもの……でも、でも! あんな……、あんな、何度も悪口を言わなくたって……っ」
美少女、というのは何をしても許されるらしい。
この場面で私が泣いたところで「化けの皮が剥がれたな」とかなんとか言われるだけなのは目に見えているのに、理解不能な濡れ衣を着せようとしてくる少女は泣いたら慰められるようだ。
白百合さん、と呼ばれた少女は生徒会メンバーのイケメンどもに慰められ、涙に濡れる。
そんな異様な様に、しかし私は興味がなかった。
私はただ。
「……」
先ほどから張り付いたような笑顔をうっすらと浮かべている「彼」だけに関心を向けていた。
「彼女は酷く傷ついている……先日は病院にも行ったらしい。かなり精神的なダメージを受けたようだ。それを知ってなお、君は彼女を苛んだ自覚がないというのか?」
「……一つ申し上げておきたいんですけど」
私はぶっきらぼうに言葉を紡いだ。
「私を最初から加害者として決定しているのは教育者としてどうなんですか? 私の言い分も聞かず、確たる証拠もないまま糾弾する。生徒会の方々もそうですが、一般的な一生徒の声にも耳を傾けられずに、よくもまぁ人の上に立とうだなんて思えるものですね。尊敬いたします」
「慎め!」
いきり立ったのは白百合さんにべったりしていた学年主任の教師。
「彼女をここまで追い詰めておきながらよくもいけしゃあしゃあと! 聞けば他の女子生徒もけしかけて彼女を虐めたらしいじゃないか! これは立派な犯罪だぞ!」
「はぁ。犯罪。……警察でも入れて捜査しますか? ……困るのは白百合さんの方じゃないんですかね?」
「この……っ、黙って言わせておけば……っ、警察沙汰にしてくれる!」
「待ってください先生!」
そこで悲劇のヒロインさながらに、白百合さんが立ち上がった。涙で赤くなった瞳は、白い肌と相まって愛らしいウサギを連想させる。
「彼女も、きっと本当は反省していらっしゃると思うんです……だから……。警察沙汰にしたら、きっと経歴に傷がついてしまいます。それよりは、穏便な方法に、しませんか?」
なんて優しいんだ、さすが白百合さん、だのなんだの、気色の悪い賛美の声がそこかしこから上がった。
「しかし反省の色は見えないが?」
「きっと、言い出せないだけなんです」
白百合さんは私を庇うようにそう言う。けれどそれは確実な制裁を求める声でもあった。……当たり前だ。最初から、それが彼女の狙いなのだから。
「だから、もっと穏便な方法にしましょう? ……ね、先生」
上目遣いで彼女は品良く微笑んだ。
「君がそこまで言うのなら……」
「待ってください」
緩やかに。
場違いなまでに穏やかな声が、教師の声を遮った。
私は、声の主をにらんだ。
しかし「彼」は私には目もくれず小さく吐息をつく。
「確たる証拠、があれば、この場は収まるのではないでしょうか?」
落ち着いていて凛とした声は、さして大きくもないのにその場に響き渡る。
「何だ……君が、解決してくれるのか?」
「はい。きちんと、決着をつけますよ」
美しい仮面を張り付けた「彼」は、静かにそう告げる。
それに、白百合さんが目を輝かせた。……多分、これは白百合さんの差し金じゃなく、「彼」が独断で作った「証拠」なのだろう。
「証拠を……持っているんですね……?」
「安心してください。これがあれば、ご期待に沿えるかと」
そう言って、初めて彼は私を見た。
私は彼をにらんだまま、微動だにしない。
それを白百合さんがほんの少しだけ、愉快そうに笑ったが、すぐにそれは被害者の顔で塗り固められる。
「……では、ご覧に入れますよ」
私は綺麗な仮面をかぶった裏切者に、心の中でつぶやいた。
――私の前から消えて。
大好きだった、大嫌いなひと。
……いや、正確には、「彼女一人のため」だろうか。
ずらりと並ぶ教師の面々と、生徒会の高嶺の花と呼ばれているらしいイケメン男子数人、そして「彼」と、極めつけにぐすぐす鼻を鳴らす女子生徒一人にずらりと囲まれ、私はさながら――というより明確に「加害者」として裁かれるために、そこにいた。
「彼女の言い分に、反論はあるか?」
教師の質問に、私はゆっくりと目を瞬かせた。
反論は、あるか。
そう聞かれたらもう、答えは一つだ。
反論しかない。
「とりあえず、罪状に、一つも心当たりがないです」
私が正直に答えると、評議会の場は一瞬にしてざわついた。
なんてふてぶてしい女だ、とか、あいつの神経はどうかしている、とか。
いや、一人の女子生徒を囲んで糾弾するあなた方の神経の方がどうかしていると、私は思う。
よくそれで教師だの生徒会だの、責任ある職務を果たしてこられたな、今日まで。
いや、というかあれだ。思い出せば「彼女」がここに来てから、職務は果たされていないのだった。
「えー、こほん。つまり、何かね。君は、あくまで自分は無実だと?」
「端からそう申し上げております」
私が淡々とそう言うと、再びのざわめき。いちいち騒がないでいただきたい。
「白百合さん。彼女はああ言っているが?」
「う、嘘です……。わた、私、あの人に……何度も……っ、死ねとか、早く消えろとか、言われました……っ。もちろん、私も耐えました……転校してきたよそ者はいじめられやすいってききますもの……でも、でも! あんな……、あんな、何度も悪口を言わなくたって……っ」
美少女、というのは何をしても許されるらしい。
この場面で私が泣いたところで「化けの皮が剥がれたな」とかなんとか言われるだけなのは目に見えているのに、理解不能な濡れ衣を着せようとしてくる少女は泣いたら慰められるようだ。
白百合さん、と呼ばれた少女は生徒会メンバーのイケメンどもに慰められ、涙に濡れる。
そんな異様な様に、しかし私は興味がなかった。
私はただ。
「……」
先ほどから張り付いたような笑顔をうっすらと浮かべている「彼」だけに関心を向けていた。
「彼女は酷く傷ついている……先日は病院にも行ったらしい。かなり精神的なダメージを受けたようだ。それを知ってなお、君は彼女を苛んだ自覚がないというのか?」
「……一つ申し上げておきたいんですけど」
私はぶっきらぼうに言葉を紡いだ。
「私を最初から加害者として決定しているのは教育者としてどうなんですか? 私の言い分も聞かず、確たる証拠もないまま糾弾する。生徒会の方々もそうですが、一般的な一生徒の声にも耳を傾けられずに、よくもまぁ人の上に立とうだなんて思えるものですね。尊敬いたします」
「慎め!」
いきり立ったのは白百合さんにべったりしていた学年主任の教師。
「彼女をここまで追い詰めておきながらよくもいけしゃあしゃあと! 聞けば他の女子生徒もけしかけて彼女を虐めたらしいじゃないか! これは立派な犯罪だぞ!」
「はぁ。犯罪。……警察でも入れて捜査しますか? ……困るのは白百合さんの方じゃないんですかね?」
「この……っ、黙って言わせておけば……っ、警察沙汰にしてくれる!」
「待ってください先生!」
そこで悲劇のヒロインさながらに、白百合さんが立ち上がった。涙で赤くなった瞳は、白い肌と相まって愛らしいウサギを連想させる。
「彼女も、きっと本当は反省していらっしゃると思うんです……だから……。警察沙汰にしたら、きっと経歴に傷がついてしまいます。それよりは、穏便な方法に、しませんか?」
なんて優しいんだ、さすが白百合さん、だのなんだの、気色の悪い賛美の声がそこかしこから上がった。
「しかし反省の色は見えないが?」
「きっと、言い出せないだけなんです」
白百合さんは私を庇うようにそう言う。けれどそれは確実な制裁を求める声でもあった。……当たり前だ。最初から、それが彼女の狙いなのだから。
「だから、もっと穏便な方法にしましょう? ……ね、先生」
上目遣いで彼女は品良く微笑んだ。
「君がそこまで言うのなら……」
「待ってください」
緩やかに。
場違いなまでに穏やかな声が、教師の声を遮った。
私は、声の主をにらんだ。
しかし「彼」は私には目もくれず小さく吐息をつく。
「確たる証拠、があれば、この場は収まるのではないでしょうか?」
落ち着いていて凛とした声は、さして大きくもないのにその場に響き渡る。
「何だ……君が、解決してくれるのか?」
「はい。きちんと、決着をつけますよ」
美しい仮面を張り付けた「彼」は、静かにそう告げる。
それに、白百合さんが目を輝かせた。……多分、これは白百合さんの差し金じゃなく、「彼」が独断で作った「証拠」なのだろう。
「証拠を……持っているんですね……?」
「安心してください。これがあれば、ご期待に沿えるかと」
そう言って、初めて彼は私を見た。
私は彼をにらんだまま、微動だにしない。
それを白百合さんがほんの少しだけ、愉快そうに笑ったが、すぐにそれは被害者の顔で塗り固められる。
「……では、ご覧に入れますよ」
私は綺麗な仮面をかぶった裏切者に、心の中でつぶやいた。
――私の前から消えて。
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