白雪姫の継母に転生しました。

天音 神珀

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「はぁ?」

 一斉に不可解そうな声が返される。

「いえ、あのですね、今の私って結構っていうかかなり邪魔じゃないですか。洗濯と掃除と料理しかできてないしお金はないし食事はするし部屋もとるしほんと、居候もいいとこじゃないですか。皆さんのお仕事を手伝えるわけでもなし。だとしたら何らかの形で恩を返させてもらわないと私、ここにいる資格がないような気がして」

 私がそう言って皆を見渡すと、皆が皆、一様にぽかんとしていた。

 やがて我に返ると、口々に反対意見を喋り出す。

「いや、そう言った気遣いは無用だ、あなたが気にすることはない。あなた一人養うくらいならそんなに金もかからない。だから、その必要はない」
「というか我々が貴女を外に手放しで放り出すわけがないでしょう。その小さくて回転の遅い頭ではそんなこともわかりませんか」
「出稼ぎ……仮にも一国の女王がするものか……?」
「ええとその、そんなこと、気にしなくて大丈夫だよ?」
「姫が人さらいに遭っちゃうよぉおおおおひちちっへちゅっはっくしょん!!」
「ま、僕も同意見。君を外に出すのはいただけないかなー。っていうか、姫は追われてる立場でしょ。街に行くのはまずいんじゃない?」
「ひめ……いなくなっちゃうの……やだ」

 朝から大騒ぎである。そんな御大層なことを言ったつもりもなかったのだが。

 ただ、ユンファスの言ったことは概ね賛同できる。今私が安易に街をうろつくのは当然、得策ではない。本来であればこの家に閉じこもっているべきなのだろう。
 でも人通りの多い場所なら白雪姫も殺そうとはしないのではないか。そう思わなくもない。

「ええと、全員反対って感じですかね……? これ」
「申し訳ないが、その通りだ。あなたを一人で街へやるわけにはいかない」

 ルーヴァスは眉根を寄せて言った。

「君が脱走しないとも限らないしねぇ」

 ユンファスがにこにこと笑いながらそう言う。が、今のところ私は脱走する必要性がないのではないだろうか。

「ええと、脱走云々はどこからきた話ですか?」
「えー? 町に行ってそのまま行方くらませる可能性だって無きにしも非ずでしょ」
「……。……? なんだかよくわかりませんが、街に行くのがだめなら何か内職とかそのあたりで、とにかく現状より皆さんの役に立つお仕事を頂けたらと思うのですが」
「え、なに、そんなにお金稼ぎたいの」
「稼ぎたいかと言われれば……」

 微妙、なところだ。

 個人的に欲しいものは今のところ特にない。
 衣食住については申し分ないほど、ここではよくしてもらっている。

 ただ単に働いてそう多くはないだろうが生活の足しになるだけのお金を持って来ようと思った。それだけだ。

「私一人でただ飯喰らいじゃないですか。今のところ。だから少しでも助けになればと、そう思ったのですが」
「女王の割りに言葉遣いが大変汚いですね」

 ただ飯喰らいと一番最初に表したのはあなたですからね、シルヴィス。私、初日のあの凄まじく薄情な態度とキッツい言葉、忘れていませんから。
 まぁ私は口には出しませんけど。

「いいよいいよそんなこと気にしないで! 姫は十分頑張ってるじゃん! もう少し気を抜こうよ! ひくちっ」
「でも、申し訳ないじゃないですか」
「……あなたはどこまで律儀なんだ」

 少し呆れたような苦笑が、ルーヴァスが口の端に刻まれる。

「いいのだ、そこまで気にしてくれなくて。我々七人の稼ぎは裕福とはいいがたいかもしれないが、悲観するほど少なくもない。あなたは気楽にしてくれていて構わない」
「でも、私が来たことでかなり皆さんの負担が増えたことは確かじゃないですか?」
「……臨時の手伝い」

 私の返しにルーヴァスが何か答えようとしたところで、ぼそりとノアフェスがつぶやいた。

「……はい?」
「七人の、臨時の手伝いをしたらどうだ」

 意味が分からず私が瞬きを繰り返していると、ぱんっ、とリリツァスが手をたたいた。

「それすっっごくいいよ! へちゅっ」
「えっと、どういうことでしょうか」
「俺たちがお前に、仕事を頼むことがある、ということだ」
「……へぇ。悪くないんじゃないですか」
「いっしょにおひるね……できる?」
「なーるほどー。それ、僕も賛成かも」
「えーと……と言いますと?」

 みんながうんうんとうなずくが、私自身が全くついていけていない。

 助けを求めてルーヴァスを見ると、彼は少し難しい顔で私に答えてくれた。

「つまり我々が、自分の作業などでの手伝いをあなたに頼む、ということだな」

 何か段々話がつかめてきた。
 つまりあれだ。
 子供が親にお使い頼まれる的なアレだ。まぁお使いではないだろうけど。

「そしたら皆さんの負担を少しでも減らせますか?」
「無論、そのための手伝いだ。だが……いいのか。あなたは仮にも一国の女王だろう」

 ルーヴァスは首をかしげて私にそう問うてくれる。

 まぁ本来女王って多分気位が高いものだろうし、こんな雑用みたいな事とか、絶対しないんだろうね。
 でも私は全然女王の自覚ないので。

「やります。ぜひやらせてください!」

 少し喰い気味に返答すると、ルーヴァスは驚いたように少し身を引いて、「あ、ああ」と返事をした。

「よーし、じゃあじゃんじゃん姫にお手伝いを頼んじゃおうっかな! ひちっ」
「任せてください、頑張ります!」
「せいぜい体に気を付けてくださいよ。怪我をしても手当などしませんからね」
「はい、大丈夫です!」

 何やかんやで少しは役に立つことが出来そうだ。これで追い出される心配が少しだけ減った。

 相変わらず不安しかないが、何にせよ今は自分にできることをしなければ。

 少しだけ前進したんじゃないだろうかという達成感で、私は少しだけ気分が高揚するのを感じていた。
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