白雪姫の継母に転生しました。

天音 神珀

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「もう、ほんっと、いい加減にしてください……っ」

 私がそういうと、ケラケラとユンファスが笑った。

「あのですね! もういい加減終わってもいいと思うんですよ! そろそろ疲れてきたしね手とか方とか思考とかその他もろもろね! だからもうこの際私が最下位で全然かまいませんので誰か手札ゼロにしてそれで終了しましょうよ!!」
「だめだめー。ちゃんと真面目に真摯に勝負をしないとー」

 現在、深夜、零時である。

 恐ろしい。なぜダウトでこんな時間になっているのだろうか。

「はいルーヴァスダウトー」
「……っ……あなたは大方のカードを持っているな……」
「そりゃーそうでしょー。さっきシルヴィスに大負けさせられたおかげでカードは死ぬほど持ってるし今回シルヴィスだけには一位にさせたくないし、そうなると他のひと巻き込んででもシルヴィス引きずりおろしたいじゃん?」
「はっ、下らぬ滑稽な意地ですね。哀れな」
「あーそう、くだらない意地でゴメンネー。でも絶対君にはもう勝たせないからねー」
「そうだよ次は俺がっ、へちちっ、俺が一位になる! 今度こそ……!」
「リリツァス六位か七位しかとってない……」
「うわぁあんそれを言わないでぇえええひちちっへちゅっはちちっはっちょん!!」
「あの、あんまり勝ち負けに固執しなくても……」
「それはお前が上位三位のいずれかしかとってないからだ。……俺も、次こそは」

 散々である。なんなのだ、みんなは一体何を目指しているんだ。

「あの、私このゲーム終わったら寝ようかと思っ」
「はぁ? 何を寝ぼけたことを言ってるんですか、逃げたら許しませんよ」
「アッハイ」

 シルヴィスが射殺さんばかりの目で私を見てからそう言ったので、もう淡白な肯定の言葉を返すほかになかった。辛いです。

「六……」
「はーい姫ダウトー」
「ねぇもう終わらせる気ありませんよね!?」

 泣く泣く自分の出したカードを持って帰る。絢爛な扇の如く凄まじい数のカードを誇るユンファスに勝てるものはいない。

「もう、ほんと終わりにしましょう……ね……深夜ですよ……深夜……目がしょぼしょぼする気がしますよ……私あんまり夜更かししないので……本気でつらいんですよ……」
「この家は朝より夜の方が起きている輩が多いぞ」

 ノアフェスがさらっとそう言ってきた。
 うん薄々気づいてた。
 朝早く起きてもさして人いないしね、仕事の時以外結構みんな寝てるよね、私知ってる。

 でもだからって早々に私がそれに合わせられるわけじゃないんですよ。

「もし良ければホットタオルを作ろう」

 ルーヴァスが軽く席を立って私に対して首をかしげてきた。
 なるほど、あなたにも寝るという選択肢がない。よくわかりました。

「自分で……作ってみます……」
「いや、いい。あなたは少し休んでいるといい」
「いえもうちょっとあの、ほんと、トランプ見たくないんで……」
「えー? 姫から提案してくれたのにー」

 ユンファスが少し不満そうに唇を尖らせた。

「あの、物には限度というものがございましてですね」
「僕はまだ全然いけるよ?」
「私の話をしてるんです察して」

 眠気と疲労と脱力からか、敬語がだんだん崩れてきた。これはよろしくない。

「もう、ほんとね……思うんですよ……無理強い、ダメ絶対」
「姫、キャラ崩壊してない?」
「よし、昆布の味噌汁を作ってやろう」
「いえ今食事の話してないんで……」
「昆布はうまいぞ」
「知ってますけど食事の話じゃないんで……」
「……うまいんだぞ……」
「そんな顔されても本気で困ります……」

 そうこうするうちにルーヴァスが私のそばまで来て、どうやら作ってくれたらしいホットタオルを手渡してくれた。

「目に当てるといい。少しは落ち着くだろう」
「ありがとうございます……」

 ホットタオルを目に当てると、じんわりと瞼に熱が染みた。思わずため息が漏れる。

「……本当につらいなら、寝ていいよ……?」

 気づかわしげな声はカーチェスのものだ。
 私はホットタオルを目から離すと、彼に微笑みかけた。

「すみません、心配させてしまって。これを頂いたので、もう少しなら、頑張れます」

 そう言って私がホットタオルを見せて笑うと、カーチェスは照れたように頬を掻く。

「うん……無理はしないようにね?」
「ありがとうございます」

 私は軽く頭を下げた。
 それにカーチェスはどことなく眩しげに目を細めるばかりだった。



 結論から言うと、私はこの時に「はい、寝ましょう、皆さん、解散!」とでも言っておくのが賢明だったのではないか、と正直思う。

 いつもは寝るはずのエルシャスもかろうじて起きてゲームに参加していたのでなかなか抜け出せず、結局私は深夜の三時までゲームに付き合わせられたのだった。








 部屋に帰って早々に、私はベッドに身を投げ出した。

 いったい何だったのだろうか。

 あれは本当に好感度アップのためのイベントだったのだろうか。

 だとしたら私の態度はゼロをぶち抜いてマイナスを特急で走っていたようなものではなかろうか。

「うん……死亡決定。はは」

 私はそう呟きながら、乾いた笑いをこぼして、やがて眠りに落ちる。

 気づかわしげに私をうかがうリオリムにお休みの挨拶もろくにできないほど、夜更かしはてきめんに効いたらしかった。
























 誰かに滔々とうとう語りかける自分の声が聞こえた。


 ――うそつき。

 私のことを、大事に思ってるって。幸せにしたいって。

 そう、言ってくれたのに。

 どうしておいていくの。

 どうして私をひとりにするの?

 いなくなるというのなら、いっそのこと優しさなんかくれなければ辛くなんてなかったのに。

 どうしてあなたはいつも私に優しくしてくれたの?
 どうしてあなたはいつも悲しい顔をしていたの?

 教えてよ。

 ねぇ、“     ”。 

 ねぇ――














 ゆっくりと意識が浮上してきて、目元が冷たいことに気づいた。

 そっと指先を滑らせると、ひんやりとしたものが触れた。

 また、泣いていたらしい。

「……これで三度目?」

 寝ながら泣くのがこうも続くのも変な話だ。
 よほど悲しい夢でも見ていたのだろうか。

「……まぁいいや」

 夢の内容も思い出せないほどおぼろげだし、それにただの夢である。
 さして気にする必要もないだろう。

 ……というか、

「私、昨日、風呂に入ってない……」

 超特急で朝風呂をすることにした。











「おそようございます……ほんっと遅くてすみません……」

 急いで一階に上がってみれば、珍しく私以外の全員がそろっていた。

「珍しいな、あなたが遅いのは。おはよう」

 そう言ったのはルーヴァスだった。

「すみません……おはようございます……」
「いや、謝らずとも良い。付き合わせたのは我々だからな。よく眠れただろうか」
「はいそれはもうぐっすりと」

 私の即答に、ルーヴァスはふわりと笑った。

「あーあー仕事来ないなー」

 ユンファスがつまらなそうにそう言ったので、私は首を傾げた。

「そういえば狩人って依頼されてするお仕事なんですね。ものを知らないのでここに来て驚いたんですけど」
「え? あ、あー……うん。まぁ」

 ユンファスは頭を軽く掻く。静かにノアフェスがユンファスを肘で小突くのが見えた。ぐぅ、とユンファスの口から小さな奇声が漏れた。よほど痛かったのだろうか。少し顔を引きつらせて小突かれた横腹をさすっている。

「我々の仕事は特殊なのでな。凶暴な対象、あるいはそうなりえる危険な対象のみを狙う。依頼されない限りは仕事はほとんどない」
「えっ」

 そんなものなのか。仕事の話に踏み込むべきではないのは今頃思い出したが、それにしたって狩人はそんな仕事なのだろうか。何だかイメージと違う。個人的に狩人というのは適当に獣を狩って町で売りさばく印象だったのだけれど。

 凶暴な獣だけを狙って狩るなんて、ちょっと大げさかもしれないが軍みたいだ。いや、警察なんかの方が近いだろうか。

「でも、もらえるお金はそんなに多くないから、大体食費とかに回ってしまうんだよね……だから自分自身のお金が欲しい場合は自分でなんか内職したりする必要があるんだ」
「そ、そうなんですか」

 びっくりだ。
 この家がとても裕福な方だ、とは思わないけれど、そんなカツカツな生活とも思っていなかった。確かに狩人がそんなに儲かるとは思えないが、それなりの生活をさせてもらっているためかあまり貧乏という印象がなかった。
 しかし仕事で入ったお金が大抵食費に回るというのなら、私の存在は相当厄介なのではないだろうか。

「……」
「姫?」

 黙り込んだ私に不思議そうな目を向けられ、思わずぽろっと考えていたことがこぼれた。

「そしたら私、やっぱりかなり邪魔ですよね……」

 仕事をしてお金を持ってくるわけでもない。料理も毎日というわけではなく当番制で、ほとんどはしない。するのは掃除、洗濯くらいのもので、ほんとに何の役にも立っていない。これはまずい。いずれ放り出される気がする。というか放り出される自信がある。

 それだけは、避けなければ。

「あの、私出稼ぎすべきでしょうか」
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