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皆が席に着いたところで、ルーヴァスが茶を淹れ始めた。これ、私が淹れなくてもいいのだろうか。
悶々としていると、ルーヴァスは茶を淹れ終えて、私に差し出してくれる。ありがたいが、少し複雑だ。まぁ、私じゃ特に美味しくも淹れられないだろうけど。
あのあとエルシャスも起き、いまだ眠たげに緩慢な瞬きを繰り返し、たまに目をこすっている。昏倒してもクマのぬいぐるみは手放していない。相当大事なものなのだろうか。
ちなみに一番落ち込んでいるのはおそらく、ノアフェスだった。
無表情ではあるのだが、どことなく不満げに、そしてつまらなそうに茶を見ている。まぁ、肝試しを言い出したのは彼だ、中止になって実際つまらないのだろう。
「なんか、代わりに余興でもやります?」
私が唐突にそういうと、全員がこちらを見てきた。
「余興、っていうと?」
「お姫様が何かしてくれるのー?」
「いやそんな芸はないですけど。トランプとか」
……そういえばトランプなんてこの世界にそもそもあるのだろうか。言ってから後悔したが、どうやらトランプというものは存在するらしい。
「なるほど、悪くないが。皆はどうだ」
「ん、いいんじゃない?」
「賛成賛成! へちっ。やろやろ!! 楽しそう! くしょんっ」
リリツァスはすごく楽しそうに手を挙げて賛成を示してくれる。先ほどまでつまらなそうにしていたノアフェスも心なしか少し嬉しそうだった。
提案は悪くなかったみたいだ。
「具体的には、何を?」
反論するかと思われたシルヴィスも、意外なことにその姿勢を見せることはなく、さらりと話を進ませた。
「だうと」
ぽつんと提案したのはエルシャス。どうも起きていたらしい。
「えー!? へっち、ダウト!? 俺うまくできないよーへっぷち」
リリツァスはこの世の終わりのような顔をして悲痛な叫びをあげる。するとユンファスがにやりと笑い、「じゃあ決まり」と言った。意地が悪いことこの上ない。
「ダウトって大まかなルールはわかりますけど、ちゃんとできるか判んないです」
正直にそういうと、ユンファスがこちらを笑顔で振り返った。
「全員にカードを配るでしょ。で、数字を一ずつ上がるように出していくわけ。裏返しにして、数字を見えないようにしてね。で、自分が出さなければならない数字を口にしながら出すんだけど、当然、全てのカードが自分の手にあるわけじゃないから、出さなきゃいけない時にその数字が手元にない時もある」
「そうですね」
「そしたら何食わぬ顔で「三」とか言いながら違うカードを出す。それを他の人間に嘘と感じられたら「ダウト」って言われる。嘘なら今まで出されてきたカード全てを引き取る。嘘じゃないなら「ダウト」って言った人間がカードをすべて引き取る。その調子で全員進めていって、手元のカード全てがなくなったひとが出てきたらそこでゲーム終了。カード全てを出し切ったそのひとが優勝で、その他は残りのカードが少ない順で順位決定。わかった?」
「わかりました。まぁ……とりあえず手元のカードがなくなるように指定されたカードを出していけばいいわけですね」
「その通り。じゃ、ちょっと僕トランプ取ってくるよ」
ユンファスはひらひらと手を振ると二階に上がっていく。
「久しぶりだね、トランプなんて」
カーチェスが穏やかににこにこと笑いながらそう言った。
「あまり皆さんはそういったことをされないんですか」
「そうだね、あんまりしないかな」
「新入りが来たときは一応してたはしてたんじゃないですか」
カーチェスの答えに、シルヴィスが紅茶をすすりながら言った。性格はともかく容姿はいいから絵になるのが複雑だ。
「新入り? というと」
「初めから七人で住んでいたわけではないからな」
ルーヴァスがそう言った。するとリリツァスが何やら数え始める。
「最初にルーヴァスでしょ。へちゅ、で、次がカーチェスへちちっ。その次誰? エルシャスかなはっくしょん!」
「ぼく」
「やっぱりねー。へちちっそんで次がユンファスでしょ、その次が俺はくしょん! で、シルヴィス、ノアフェスの順にこの家にはちゅっ来てるんだよ」
「はぁ、なるほど」
「新しく人が来るとこの家では何故か歓迎会と称して妙なことをしていたようですからね。まぁもっとも、わたくしはかなり遅いほうだったので何度も経験しているわけではありませんが」
シルヴィスが何とも言えない顔でそう言う。しかしその顔は嫌そうなものではなく、嬉しさが若干混じったような、それを素直に出せないような複雑な表情だった。
「妙なこと?」
「誰かが新しく来たらその日はね。食事が豪華だったり、お酒飲んだりとか、あと、楽器を弾いたり、それこそトランプとかね。そういうことをして歓迎するのがこの家の住人の習慣なんだ」
カーチェスがはにかみながらそう言った時、「なになに、何の話ー?」と、ユンファスが下りてきた。片手にはきちんとトランプを持っている。
「歓迎会の話だよ」
「あぁ、あれね。結構楽しいけど、新入りが来たとき限定だしねー」
なかなかやんないよね、とユンファスが席に座って、トランプをシャッフルし始めた。かなり手慣れているようだった。トランプそのものもかなり古く見える。結構使い込まれているらしい。
「なに、お姫様の歓迎会でもやるの?」
「えっ楽しそう! はくちゅっ」
リリツァスが顔を輝かせたが、シルヴィスが首を振った。
「彼女はこの家の住人ではないでしょう」
ふとその言葉に、自分がここにいる理由を思い出した。
そうだ。
私はこの家の住人じゃない。
だから。
もしもこの“賭け”が終わったら。
生き残ることができたら。
私はこの家を、去らなければならない。
「……」
私が黙り込むと、シルヴィスが少し慌てた様子で声をかけてきた。
「な、何ですか。何を本気で落ち込んで」
「いえ。その通りだなって、思って。落ち込んでません、大丈夫です。さ、ダウトやりましょう!」
私がなるべく明るくそう言って笑ってみせると、シルヴィスはバツが悪そうに視線をそらした。
「……別に、貴女が……」
シルヴィスがごにょごにょと何やら呟いているが、後半は聞こえなかった。
聞き直しても彼のことだから答えてくれないだろうけれど。
「ねー今からでもはくしょん! 他のにしようよーババ抜きとかさ……へくちっ。あ、ババ抜きも駄目だ、俺、何かあれへっちょん苦手だった!」
リリツァスがうんうん唸りだすと、ユンファスが「はいはいもうカード配るから」とさらさらカードを配りだした。
「んじゃ始めるよー」
「待ってくださいちょっとカード並べさせてください」
私が言うと、ユンファスは「ふぅん?」と片眉を吊り上げて笑った。
「まぁいいけどー」
他の妖精もそれなりに並べているように見えるのに、ユンファスは並べる様子がない。いいのかそれで。
「ハートは……へくちっ。あ、こっち」
リリツァスが声に出しながらカードを並べている。ちょっとこれは間抜けじゃなかろうか。失礼だから言わないけど。
「みんな並べ終わったー?」
ユンファスの問いにみんなが頷くと、じゃんけんを始める。勝ったひとから時計回りだそうだ。じゃんけんなんてあるんですね。
「……勝ちだ」
ちょっと嬉しそうにノアフェスがチョキを高々と掲げる。
「うわ、ドヤ顔してる」
ユンファスが面白そうにそういうと、彼はしれっとカードを突き出して「一」と言った。
「ダウト」
ルーヴァスがいきなりそう言った。何でいきなりなんですか……。
突然文句をつけられた方のノアフェスはと言えば若干むっとした表情でカードを持ち帰っていった。
「嘘っへちっ、ルーヴァスすごい!」
リリツァスに褒められたルーヴァスは曖昧に微笑んで見せた。
「二」
はしゃぐリリツァスを無視して、シルヴィスがカードを出す。
冷淡そうなこの人にダウトなんて冗談でも言いたくないなと思った。
「三」
カーチェスがおずおずとカードを出す。
「四か、えーとひっくちゅ、どこだろ、あ、これだ。四!」
リリツァスが元気そうに出す。
「んーと……あ、あった。五」
ユンファスがちょっと迷ってから出した。だから並べておけばいいのに。
「六」
エルシャスが今にも寝そうな声で言いながらカードを出す。この子はいつの間にか寝落ちしていそうだな……
「七」
手持ちに七があったので安心して出す。その途端、シルヴィスから「ダウト」と声がかかった。
「ちゃんと七ですよ?」
私がカードをひっくり返せば、シルヴィスは苦虫をかみつぶしたような表情で卓に出されたすべてのカードを持ち帰っていく。
なんで早々に噛みつかれたんだ私。
「貴女なら嘘を平気で言うかと思ったんですけどね」
「シルヴィスってどこまで私のこと毛嫌いすれば気が済むんですか?」
そりゃあさして役に立たない居候ですけれども。
「八」
ルーヴァスはさらりとカードを出す。
この人はこの人でわかりにくい人だなぁ。
「九」
「十」
「一一」
「一二!」
「はいリリツァスダウト」
「えー!!」
順調に進んだかと思った途端ユンファスがリリツァスにダウトを出した。リリツァスは不満げな顔でカードを持ち帰っていく。
「何でわかるわけ!? ひちっ」
「リリツァスわかりやすいし。一三」
「いち……」
「二」
良かった、あった。
「三」
「四」
「五だよね」
「六ひちっ」
「七ー」
「はち」
「九」
「十だな」
「十一」
「十二」
「十三」
「一」
……やがて。
「はい、あがり」
カーチェスが笑顔で最後の一枚を出した途端、ノアフェスが「ダウト」と言った。しかしカーチェスが困ったように笑ってカードをひっくり返せば、ノアフェスの顔が固まってかなりの量のカードを引き取った後に撃沈した。
「はいゲーム終了」
ユンファスがそういうと、全員カードを手放した。
「見てみようよへちちっ」
リリツァスはそういうなり、ノアフェスが引き取った、今まで出されてきたカードをひっくり返した。
「うわ、めちゃめちゃ」
私は思わずそう言ってしまった。
かなり違う数字ばかり出されている。何でコレで通ってきたんだ。
「順位はどうなったんでしょうね。優勝と最下位は明白ですけど」
さらっとそう言ってのけてからシルヴィスは数えだし、ノアフェスはそれを恨めしそうににらんだ。
「一位がカーチェス、二位ルーヴァス、三位ユンファス、四位は姫、五位が私、六位がエルシャス、七位がリリツァス、八位がノアフェス……といったところですか」
「やった、最下位は免れた! へちちっ。うわ、小突かないでよひちゅっノアフェス!」
ノアフェスは不満げに眉根を寄せてリリツァスにちょっかいをかける。卓上では見えないが、斜めになっているノアフェスの姿勢からするとおそらくリリツァスを蹴っているのではなかろうか。
「っていうかこれユンファスの出したカードですよね。これも。嘘ばっかりじゃないですか……」
私がノアフェスの引き取ったカードを見ると、とんでもない数字ばかりが並んでいる。なかでもおそらくユンファスが出したのであろうカードはどうしてこうなったと言いたいくらいには滅茶苦茶なものばかりだった。
「あは。嘘つくの楽しいからねぇ」
「あとユンファスダウト出すの多すぎじゃないですか」
「そうだそうだー! ひちっ」
「君たちが分かりやすいのが悪いんだよ。リリツァスとかさぁ、いかにも嘘ついてます当ててねって言ってるような感じだし」
「酷い! ひちっ」
「最下位……」
「の、ノアフェス、元気出そう?」
「そうだな。こういったことで一喜一憂するものではない」
「……一位二位には言われたくない」
でしょうね。
「ねむい……くまさん」
「エルシャス、もう寝ますか?」
聞いてみると、エルシャスは意外なことに首を振った。
「もう一回、やる」
「ちょっと待ってください、もう一回ですか」
そんなこと、どう考えても許さないだろう。シルヴィスとかシルヴィスとかシルヴィスとか。
そう思って恐る恐るシルヴィスを見ると、彼は片眉を吊り上げて「何でそこでわたくしを見るんです」と不機嫌そうに言った。
「いえ、シルヴィスは嫌がりそうだなと……」
「なぜそうなるんです。付き合えというならばまぁ付き合いますよ」
「えっ」
「は?」
「いや、その……意外です……こう……「嫌に決まってるじゃないですか。こんな女がいる時点でわたくしはご免です、もう寝ますよ」とか言いそうだなと」
「貴女こそわたくしを何だと思っているんですか。現に今までゲームに参加していたではありませんか」
「そうでした」
「貴女がわたくしを何だと思っているのか小一時間ほど問い詰めたいですね」
「絶対嫌です」
おかしいよおかしいよおかしいよこれ好感度上げるイベントじゃなかったんですかスジェルク怖いよこの人怖いよ。
訳の分からないイベントを投げつけてくれたスジェルクに心の中で八つ当たりしながら、私はゲームの第二回が始まるのを何とも言えない気分で見つめていた。
悶々としていると、ルーヴァスは茶を淹れ終えて、私に差し出してくれる。ありがたいが、少し複雑だ。まぁ、私じゃ特に美味しくも淹れられないだろうけど。
あのあとエルシャスも起き、いまだ眠たげに緩慢な瞬きを繰り返し、たまに目をこすっている。昏倒してもクマのぬいぐるみは手放していない。相当大事なものなのだろうか。
ちなみに一番落ち込んでいるのはおそらく、ノアフェスだった。
無表情ではあるのだが、どことなく不満げに、そしてつまらなそうに茶を見ている。まぁ、肝試しを言い出したのは彼だ、中止になって実際つまらないのだろう。
「なんか、代わりに余興でもやります?」
私が唐突にそういうと、全員がこちらを見てきた。
「余興、っていうと?」
「お姫様が何かしてくれるのー?」
「いやそんな芸はないですけど。トランプとか」
……そういえばトランプなんてこの世界にそもそもあるのだろうか。言ってから後悔したが、どうやらトランプというものは存在するらしい。
「なるほど、悪くないが。皆はどうだ」
「ん、いいんじゃない?」
「賛成賛成! へちっ。やろやろ!! 楽しそう! くしょんっ」
リリツァスはすごく楽しそうに手を挙げて賛成を示してくれる。先ほどまでつまらなそうにしていたノアフェスも心なしか少し嬉しそうだった。
提案は悪くなかったみたいだ。
「具体的には、何を?」
反論するかと思われたシルヴィスも、意外なことにその姿勢を見せることはなく、さらりと話を進ませた。
「だうと」
ぽつんと提案したのはエルシャス。どうも起きていたらしい。
「えー!? へっち、ダウト!? 俺うまくできないよーへっぷち」
リリツァスはこの世の終わりのような顔をして悲痛な叫びをあげる。するとユンファスがにやりと笑い、「じゃあ決まり」と言った。意地が悪いことこの上ない。
「ダウトって大まかなルールはわかりますけど、ちゃんとできるか判んないです」
正直にそういうと、ユンファスがこちらを笑顔で振り返った。
「全員にカードを配るでしょ。で、数字を一ずつ上がるように出していくわけ。裏返しにして、数字を見えないようにしてね。で、自分が出さなければならない数字を口にしながら出すんだけど、当然、全てのカードが自分の手にあるわけじゃないから、出さなきゃいけない時にその数字が手元にない時もある」
「そうですね」
「そしたら何食わぬ顔で「三」とか言いながら違うカードを出す。それを他の人間に嘘と感じられたら「ダウト」って言われる。嘘なら今まで出されてきたカード全てを引き取る。嘘じゃないなら「ダウト」って言った人間がカードをすべて引き取る。その調子で全員進めていって、手元のカード全てがなくなったひとが出てきたらそこでゲーム終了。カード全てを出し切ったそのひとが優勝で、その他は残りのカードが少ない順で順位決定。わかった?」
「わかりました。まぁ……とりあえず手元のカードがなくなるように指定されたカードを出していけばいいわけですね」
「その通り。じゃ、ちょっと僕トランプ取ってくるよ」
ユンファスはひらひらと手を振ると二階に上がっていく。
「久しぶりだね、トランプなんて」
カーチェスが穏やかににこにこと笑いながらそう言った。
「あまり皆さんはそういったことをされないんですか」
「そうだね、あんまりしないかな」
「新入りが来たときは一応してたはしてたんじゃないですか」
カーチェスの答えに、シルヴィスが紅茶をすすりながら言った。性格はともかく容姿はいいから絵になるのが複雑だ。
「新入り? というと」
「初めから七人で住んでいたわけではないからな」
ルーヴァスがそう言った。するとリリツァスが何やら数え始める。
「最初にルーヴァスでしょ。へちゅ、で、次がカーチェスへちちっ。その次誰? エルシャスかなはっくしょん!」
「ぼく」
「やっぱりねー。へちちっそんで次がユンファスでしょ、その次が俺はくしょん! で、シルヴィス、ノアフェスの順にこの家にはちゅっ来てるんだよ」
「はぁ、なるほど」
「新しく人が来るとこの家では何故か歓迎会と称して妙なことをしていたようですからね。まぁもっとも、わたくしはかなり遅いほうだったので何度も経験しているわけではありませんが」
シルヴィスが何とも言えない顔でそう言う。しかしその顔は嫌そうなものではなく、嬉しさが若干混じったような、それを素直に出せないような複雑な表情だった。
「妙なこと?」
「誰かが新しく来たらその日はね。食事が豪華だったり、お酒飲んだりとか、あと、楽器を弾いたり、それこそトランプとかね。そういうことをして歓迎するのがこの家の住人の習慣なんだ」
カーチェスがはにかみながらそう言った時、「なになに、何の話ー?」と、ユンファスが下りてきた。片手にはきちんとトランプを持っている。
「歓迎会の話だよ」
「あぁ、あれね。結構楽しいけど、新入りが来たとき限定だしねー」
なかなかやんないよね、とユンファスが席に座って、トランプをシャッフルし始めた。かなり手慣れているようだった。トランプそのものもかなり古く見える。結構使い込まれているらしい。
「なに、お姫様の歓迎会でもやるの?」
「えっ楽しそう! はくちゅっ」
リリツァスが顔を輝かせたが、シルヴィスが首を振った。
「彼女はこの家の住人ではないでしょう」
ふとその言葉に、自分がここにいる理由を思い出した。
そうだ。
私はこの家の住人じゃない。
だから。
もしもこの“賭け”が終わったら。
生き残ることができたら。
私はこの家を、去らなければならない。
「……」
私が黙り込むと、シルヴィスが少し慌てた様子で声をかけてきた。
「な、何ですか。何を本気で落ち込んで」
「いえ。その通りだなって、思って。落ち込んでません、大丈夫です。さ、ダウトやりましょう!」
私がなるべく明るくそう言って笑ってみせると、シルヴィスはバツが悪そうに視線をそらした。
「……別に、貴女が……」
シルヴィスがごにょごにょと何やら呟いているが、後半は聞こえなかった。
聞き直しても彼のことだから答えてくれないだろうけれど。
「ねー今からでもはくしょん! 他のにしようよーババ抜きとかさ……へくちっ。あ、ババ抜きも駄目だ、俺、何かあれへっちょん苦手だった!」
リリツァスがうんうん唸りだすと、ユンファスが「はいはいもうカード配るから」とさらさらカードを配りだした。
「んじゃ始めるよー」
「待ってくださいちょっとカード並べさせてください」
私が言うと、ユンファスは「ふぅん?」と片眉を吊り上げて笑った。
「まぁいいけどー」
他の妖精もそれなりに並べているように見えるのに、ユンファスは並べる様子がない。いいのかそれで。
「ハートは……へくちっ。あ、こっち」
リリツァスが声に出しながらカードを並べている。ちょっとこれは間抜けじゃなかろうか。失礼だから言わないけど。
「みんな並べ終わったー?」
ユンファスの問いにみんなが頷くと、じゃんけんを始める。勝ったひとから時計回りだそうだ。じゃんけんなんてあるんですね。
「……勝ちだ」
ちょっと嬉しそうにノアフェスがチョキを高々と掲げる。
「うわ、ドヤ顔してる」
ユンファスが面白そうにそういうと、彼はしれっとカードを突き出して「一」と言った。
「ダウト」
ルーヴァスがいきなりそう言った。何でいきなりなんですか……。
突然文句をつけられた方のノアフェスはと言えば若干むっとした表情でカードを持ち帰っていった。
「嘘っへちっ、ルーヴァスすごい!」
リリツァスに褒められたルーヴァスは曖昧に微笑んで見せた。
「二」
はしゃぐリリツァスを無視して、シルヴィスがカードを出す。
冷淡そうなこの人にダウトなんて冗談でも言いたくないなと思った。
「三」
カーチェスがおずおずとカードを出す。
「四か、えーとひっくちゅ、どこだろ、あ、これだ。四!」
リリツァスが元気そうに出す。
「んーと……あ、あった。五」
ユンファスがちょっと迷ってから出した。だから並べておけばいいのに。
「六」
エルシャスが今にも寝そうな声で言いながらカードを出す。この子はいつの間にか寝落ちしていそうだな……
「七」
手持ちに七があったので安心して出す。その途端、シルヴィスから「ダウト」と声がかかった。
「ちゃんと七ですよ?」
私がカードをひっくり返せば、シルヴィスは苦虫をかみつぶしたような表情で卓に出されたすべてのカードを持ち帰っていく。
なんで早々に噛みつかれたんだ私。
「貴女なら嘘を平気で言うかと思ったんですけどね」
「シルヴィスってどこまで私のこと毛嫌いすれば気が済むんですか?」
そりゃあさして役に立たない居候ですけれども。
「八」
ルーヴァスはさらりとカードを出す。
この人はこの人でわかりにくい人だなぁ。
「九」
「十」
「一一」
「一二!」
「はいリリツァスダウト」
「えー!!」
順調に進んだかと思った途端ユンファスがリリツァスにダウトを出した。リリツァスは不満げな顔でカードを持ち帰っていく。
「何でわかるわけ!? ひちっ」
「リリツァスわかりやすいし。一三」
「いち……」
「二」
良かった、あった。
「三」
「四」
「五だよね」
「六ひちっ」
「七ー」
「はち」
「九」
「十だな」
「十一」
「十二」
「十三」
「一」
……やがて。
「はい、あがり」
カーチェスが笑顔で最後の一枚を出した途端、ノアフェスが「ダウト」と言った。しかしカーチェスが困ったように笑ってカードをひっくり返せば、ノアフェスの顔が固まってかなりの量のカードを引き取った後に撃沈した。
「はいゲーム終了」
ユンファスがそういうと、全員カードを手放した。
「見てみようよへちちっ」
リリツァスはそういうなり、ノアフェスが引き取った、今まで出されてきたカードをひっくり返した。
「うわ、めちゃめちゃ」
私は思わずそう言ってしまった。
かなり違う数字ばかり出されている。何でコレで通ってきたんだ。
「順位はどうなったんでしょうね。優勝と最下位は明白ですけど」
さらっとそう言ってのけてからシルヴィスは数えだし、ノアフェスはそれを恨めしそうににらんだ。
「一位がカーチェス、二位ルーヴァス、三位ユンファス、四位は姫、五位が私、六位がエルシャス、七位がリリツァス、八位がノアフェス……といったところですか」
「やった、最下位は免れた! へちちっ。うわ、小突かないでよひちゅっノアフェス!」
ノアフェスは不満げに眉根を寄せてリリツァスにちょっかいをかける。卓上では見えないが、斜めになっているノアフェスの姿勢からするとおそらくリリツァスを蹴っているのではなかろうか。
「っていうかこれユンファスの出したカードですよね。これも。嘘ばっかりじゃないですか……」
私がノアフェスの引き取ったカードを見ると、とんでもない数字ばかりが並んでいる。なかでもおそらくユンファスが出したのであろうカードはどうしてこうなったと言いたいくらいには滅茶苦茶なものばかりだった。
「あは。嘘つくの楽しいからねぇ」
「あとユンファスダウト出すの多すぎじゃないですか」
「そうだそうだー! ひちっ」
「君たちが分かりやすいのが悪いんだよ。リリツァスとかさぁ、いかにも嘘ついてます当ててねって言ってるような感じだし」
「酷い! ひちっ」
「最下位……」
「の、ノアフェス、元気出そう?」
「そうだな。こういったことで一喜一憂するものではない」
「……一位二位には言われたくない」
でしょうね。
「ねむい……くまさん」
「エルシャス、もう寝ますか?」
聞いてみると、エルシャスは意外なことに首を振った。
「もう一回、やる」
「ちょっと待ってください、もう一回ですか」
そんなこと、どう考えても許さないだろう。シルヴィスとかシルヴィスとかシルヴィスとか。
そう思って恐る恐るシルヴィスを見ると、彼は片眉を吊り上げて「何でそこでわたくしを見るんです」と不機嫌そうに言った。
「いえ、シルヴィスは嫌がりそうだなと……」
「なぜそうなるんです。付き合えというならばまぁ付き合いますよ」
「えっ」
「は?」
「いや、その……意外です……こう……「嫌に決まってるじゃないですか。こんな女がいる時点でわたくしはご免です、もう寝ますよ」とか言いそうだなと」
「貴女こそわたくしを何だと思っているんですか。現に今までゲームに参加していたではありませんか」
「そうでした」
「貴女がわたくしを何だと思っているのか小一時間ほど問い詰めたいですね」
「絶対嫌です」
おかしいよおかしいよおかしいよこれ好感度上げるイベントじゃなかったんですかスジェルク怖いよこの人怖いよ。
訳の分からないイベントを投げつけてくれたスジェルクに心の中で八つ当たりしながら、私はゲームの第二回が始まるのを何とも言えない気分で見つめていた。
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