悪役令嬢ですが、ヒロインを愛でたい

唯野ましろ

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悪役令嬢の可愛い婚約者

6  悪役令嬢ですが、婚約者より義姉様と仲良くしたい(?)

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  「リリちゃん!!5歳のお誕生日おめでとう!!」


  「「「「「おめでとう!!!」」」」」


  私は5歳になった。前世の記憶を思い出して以降、ルカとの婚約やアニエス様の体質改善、お勉強やマナー教育やらであっという間に約2年の歳月が過ぎた。

  今日は私の為にお母様がお友達や貴族のご令嬢やご子息を呼び、アルマニャック家ではお誕生日会という名のお茶会が開かれていた。

  お茶会が始まると、それぞれ挨拶や談笑している。

  ノルマンディー家からは今ではすっかり元気になりゲームの設定を覆したアニエス様と、一応現時点では婚約者のルカが招かれていた。

  ルカは到着早々ご令嬢やご子息に囲まれて戸惑いながらも受け答えしていた。



  そんなルカを横目で眺めていると、後ろから爽やかな声がかかる。


  「リリ嬢、ローズレッドのドレスがとても似合っているね。
ヘアアレンジもいつもより大人っぽくで素敵だ」

  今日は誕生日ということもあり、いつもよりも着飾っていた。

  「そ、そうですか……?変じゃないですか…………?」

  私はそっと掛けられた甘い言葉に、体をねじらせ顔を逸らしながら返答した。

  「可愛いよ」

  キラキラと星が舞うような笑顔を私に向ける。

  ポッ

 この私をリリ嬢と呼ぶお方は、栗色の少し癖があるショートヘアーに健康的なきめ細かいお肌。立ち姿はスッとしていてまるで小さな紳士のようなコンベール家のご子息。
  ではなく、クリスティーヌ・コンベールさん。ご令嬢だ。
  コンベール家は私の家と同じ伯爵家なのだが、優秀な騎士を代々輩出している名家だ。


 そして、クリステーヌさんは乙女ゲームの世界にも登場する人物なのである。実はあのシスコンのエリックの婚約者で、ヒロインがエリックルートに入るとヒロインのエリックへの愛を試すのである。エリックの好感度が高いとクリスティーヌさんは身を引き、二人を祝福するのだ。なんともできた方なのである。


  ——くそ、エリックには勿体無い!!


  でも今はエリックとクリス様はとても仲がいい友人だと聞いている。
  なんでも、エリックは剣の稽古や武術をコンベール家の先代の当主に習っているようで、クリスさんも一緒に稽古しているうちに友情が芽生えたらしい。


  「まあ、俺のリリが可愛いのは当然だな!!」


  「エリック兄様…………。
私、エリック兄様のものになった覚えはありませんわ…………」


  「クリスに言われた時と態度が違うではないかっ」


  「クリス様は特別なのですわっ!私クリス様のようなお姉さまが欲しいですわ」


  「ははっ、私もリリ嬢のような妹が欲しいよ。私には兄達しかいないからね」


  「リリ…………兄様は…………」




  「リリちゃん、クリスちゃんお姉様になるかもしれないわよっ」


  お母様がいきなり爆弾を投下した。

  「お母様、それは本当ですか!?」

  「確か、お父様方が婚約を約束してるようよ。
  コンベール伯爵様とお父様は戦友ですし、昔から仲が良かったのよ。
 あなたたちが生まれた頃から婚約の話は出てたのだけれど、リリちゃんは公にはしてないけれどルカくんと婚約しちゃったからきっとエリックとクリスちゃんにお話が来ると思うわ」

  私たちの親しい間柄しか知らない。一般的には婚約が結ばれるのが7歳以降で、私の傷のこともある為今はまだ公にせずにいる。

  それにしても、エリックの婚約時期は設定になかったけど、私の婚約が原因だったとは…………。


  「なんだか勝手に決められちゃってるみたいだけど、リリ嬢みたいな可愛い妹ができるのは光栄だな」

  ——きゅんっ
  素敵過ぎますお姉様!


  「おい!!クリスこっちへこい!」

  エリックがクリス様の腕を掴み席を外そうとする。

  「ははっ、私の婚約者様は大胆だな~」

  「はあ!?お、おまっ」


  焦るエリックを揶揄うようにクリス様はホールの隅に連れていかれた。


  「リリィ!」

  クリス様を見つめているとルカから呼ばれた為、声をかける。

  「ルカ様、ご令嬢に囲まれていたようで羨ましいですわ」

  ぽろっと本音がでる。

  「大変だったんだよ?
  僕のことじゃなくて、僕のお家の事しか聞かれなかったし、きっと僕が公爵家だから…………
  婚約したことが公になればいいのに…………」


  「そんな事を思っていらして?ルカ様はお顔も整っていて可愛いですし、お勉強もできると伺ってますし、最近では武術も習い始めたとか!ルカ様にはいいところがたくさんありますし、ご令嬢方もルカ様の事が知りたかったのではありませんか?」



  確かに公爵家だからっていう計算は少しばかりはあるとしても、こんな将来麗しい見た目になる事間違いない子を放っておくわけがない…………

  それに婚約もできればまだ公にしたくない…………


  「そうかな?
リリィは僕が公爵家じゃなくても、仲よくしてくれる?」


  「もちろんですわ!!ルカ様が公爵家だからお付き合いしているのではありませんもの!!」

  公爵家というよりその外見によって来る女の子目——
  いえいえ、お友達だから!そう!お友達だから!

  「そっか」

  ルカの顔が赤くなる。
  ご令嬢に囲まれてのぼせたのだろうか??


  そんなことを考えているとエリックたちが戻ってきた。

  「リリ嬢、悪いけど父に話しを聞こうと思うから今日はもう帰るね」


  「俺、ちょっとクリス送りに行って来る」


  「じゃあ、またね」

  私の頭をポンポンとすると、颯爽と帰って行かれた。
  クリス様に触られた頭に手を当てるようにして余韻に浸る。

  「クリス様…………かっこいいですわ…………」


  クリス様はまるで王子様のようだった。



  「リリィは…………僕の………者…………なのに」


  「え?ルカ様何かおっしゃいましたか?」


  「リリィはあの王子様みたいな人が好きなの…………?」


  「王子様!?あ、クリス様のことですか?



  ええ、好きですわ。でもクリス様は女せ————


  「リリィのばか!!浮気者!!もう知らない」


  「ちょっ!!ルカ様!!」

  ルカは大声で叫ぶと玄関ホールの方へ走って行った。


  「リリちゃん、ルカくんどうしたの?」

  「クリス様が好きかと聞かれたので好きですとお答えしたら、走り去ってしまいました」


  「あらあら、

  もしかしたらクリスちゃんのこときちんとご紹介していなかったし、クリスちゃんったら王子様みたいな見た目だから男の子と勘違いしたのではないかしら?だとしたら追いかけて誤解を解かないといけないわね、小さな婚約者さん?」


  お母様は私の肩に両手をのせると諭すように言葉を返した。



  「私、ルカ様のところへ行ってきます!!」


  玄関ホールを抜けると花壇があり、噴水の向こう側にうっすらと影が見える。
  そっと噴水に近づくと、ルカは下を向き腕で足を抱えるようにしてベンチに座っていた。


  「ルカ様!こちらにいらしたんですね」

  「リリィ…………何しにきたの?」


  「ルカ様が私の話を遮り走り去ってしまったので追いかけてきたのですわ」

  私は母から諭されたことは言わなかった。

  「話って?」

  「クリス様を好きと言いましたが、クリス様は女性ですしお兄様の婚約者になる予定ですわ」

  「え?そうなの?」

  「そうです」


  「僕…………勘違い…………恥かしい…………」

  ルカはまた俯いてしまった。




  沈黙が流れる…………


  「リリィはどんな人が好きなの?」

  「え?」


  ——好き…………
  好きってなんなんだろう…………


  私は前世でも恋愛感情というものを抱いたことがない…………
  女の子は大好きだけど、可愛いから好きというか、存在自体が好きなのである。


  「リリィは、やっぱり王子様みたいな人が好きなの?」



  「…………王子様ですか?」






  《王子様》と単語を聞き、遠い昔の光景が頭の中に浮かんだ。


  それは梨々香だった時の記憶。

  私は小学校の時から男子には意地悪をされたり、中学の頃は誘拐されかけたり、高校から大学では最寄り駅からつけられたりと男運が全くと言っていいほどなかった。


  だが、いつも3つ上の兄が助けに来てくれた。

  「梨々がピンチの時は俺が必ず助けに行くからな」

  かなり妹バカの兄だったがその時だけは兄が王子様に見えたものだった。




  「お兄ちゃん…………みたいな人かな…………?」



  「お兄ちゃん?」


  「いえいえ!!!なんでもないです!!
  好きって一体なんなのでしょう!?

  そんなことより、外は冷えますし中に入りましょう!!!!」



  私は話題を変えるようにして家の中に入ろうと急かす。
  家の中ではお母様とエリックが待っていたので、駆け寄っていく。




  「リリィ、僕が教えてあげるよ」


  「おいルカ!リリとなに話してたんだ!?教えるってなんだよ!?」


  「エリックには教えない」



  「なんだーーー!?!?」


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