悪役令嬢ですが、ヒロインを愛でたい

唯野ましろ

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悪役令嬢のシスコンすぎる兄

7 悪役令嬢の私(妹)ですが、兄に追いつきたい

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 「父様!!なぜ今月の支出がこんなにあるのですか!?」


 私が勉強のためにお父様の書斎に足を踏み入れた瞬間、
 エリックの怒号が響き渡った。

 「エリック兄様何かあったのですか?」

 「リリ…………」

 「リリアンヌ!!助けてくれ~」

 「リリに助けを求めても無駄ですよ!それで?何に使ったのですか?この大金は…………」


 お父様は私に隠れるようにして恐る恐るルカを見ると、申し訳なさそうに呟いた。


 「王都からこの間商人が来たであろう…………。それでだな…………

 「なんですか?」


 「エリックが頑張ってくれたおかげで最近は領地も活気が出てきたから私も領民のために何かをしなければと思ったのだ…………。だから、もしもの時の為の備蓄の食料を商人から破格で買ったのだよ…………。」



 「そうですか…………その食料はどこに?」


 「商人もなんせ大量の食料だから代金を先に払ったのだがな…………なかなか届かないんだよ…………。
 代金を払って以来、商人とも連絡がつかなくてね…………」

 お父様が頭を掻きながら困ったように話す。



 「父様、買い物をするときは私に相談してくださいと言っているではありませんか…………
 残りの予算だと今年の冬を越せるかどうか…………」


 エリック兄様が呆れたようなため息交じりの言葉を発する。


 そう、お父様はいわゆる脳筋という人で、武術や魔法に関しては超がつくエリートなのだが、人を疑うことを知らず今日みたいに騙されることも一度や二度ではない…………。いわゆる領地経営や内政というものにはめっぽう弱い…………。領民思いであり頑張っているのはわかるのだが…………。

 ゲームでもリリアンヌの父のアデルは空回りに空回りを重ねて、しまいには没落の運命を辿ってしまう。そしてリリアンヌの父であるアデルは病んでしまい母と一緒に心中してしまう。兄のエリックは自分の力で上級騎士まで上り詰めるのだが、リリアンヌは婚約破棄後は修道院へ送られることになる。


 私としては修道院送りになることは全然いいのだが、両親が亡くなってしまうことは絶対に避けたい。お父様は騙されやすくて、内政に関しては頼りないけど優しくて私を無条件に可愛がってくれるし、お母様は少し厳しいところもあるけれど美人でとても素敵な人だ。今年で6歳になり、記憶が戻ってから3年間になるが私はこの両親がとても大好きで大切にしたいと思っている。


 「エリック~どうしよ~う」

 父がエリックにすがるようにエリックの服の裾を掴む。

 エリック兄様は私が3歳の時には神童と呼ばれるくらいの才能を持っていた。若干6歳にしてこの世の全ての読み書きをマスターし書斎の本を読み尽くしさらには領地の内政にも手をだしその手腕を発揮している。


 私は異世界に転生したからと言って特にチートや魔法には興味がなかった。自分や身の人のためになるならと前世の知識を借りる時はあるが、特に自分から知識を振りまくことはしていないので『実際にいるんだな~天才って』としか思っていなかった。
 ゲームのエリックは上級騎士まで上り詰めたが内政に関しては、からきしダメだったということを私は忘れていた…………。



 「今年はまだ収穫もしていないですし、一度視察に行ってどのような状況か確認してみましょう。
 考えるのはそれからにして、もし収穫が少ないようなら資金を調達して国内から買うか他国買うかでもしましょう
資金繰りには考えがあります」

 「エリック~」


 エリック兄様は下見に行くとなるとすぐに使用人に的確な指示を出した。

 ——エリック…………単なる妹バカじゃなかったんだ…………。

 そう思ってエリックを見ていると、エリックがこちらを向いた。


 「リリも一緒に行くかい?」

 「えっ、いいんですか?」



 「もちろん!」

 「ご一緒いたします」


 「そうかそうか!私のかっこいい姿を見てほれなおすといい!」


 前言撤回。単なる妹バカだった。




 ◇◇◇◇◇◇◇◇



 アルマニャック家の領地はでっかい鉱山がある。もともと王都に面している土地なのだが王都との間に鉱山がある為、王都に行く際はノルマンディー領を経由してから王都に向かうことになる。王都と反対方向には海があり、海風が鉱山に遮られアルマニャック領に残る為、夏は涼しく冬は寒さが厳しい地形だ。温度が低いということもあり作物がよく育たない。3年前エリックが大規模な領地改革を行い革新的に良くなってきたのだが、この気候の為父の備蓄を増やして置きたいという気持ちをわからないわけでもなかった。


 私たちは、今日一日でたくさんの村や街を回った。
 お父様はまだ、やることがあるみたいだったので今はエリックと二人でお家に帰る馬車の中だった。


 「うーーーん。やっぱりギリギリの数の収穫になりそうかな…………。
 だとしたら…………確認…………見てみ…………」



 エリックが何かを考えながらブツブツ話している。


 私はエリックの9歳とは思えない知識や上に立つものの言動の数々に触れることになった。
 まず、農地だ。私は国内でも豊かとされるノルマンディー領とも違う方法で耕された畑を見て驚きを隠せなかった。それに道路は整備され、見る街見る街活気付き栄えているのがわかった。
 エリックは領民一人一人に近頃の様子を聞いて回り、ある人は楽しそうにエリックと会話をし、またある人はすごい勢いでエリックに感謝し、そしてある人は拝むように手を合わせていた。父様よりエリックの方が領主なのではないかと思うくらいだった。


 私は今日を振り返りなんだか引っかかる想いを抱えていた。


 ——本当にエリック…………なの…………?


 私はゲームでのエリックのことを思い出した。エリックは上級騎士になった後、小さい領地を王からもらうのだが自分には内政には向かないとその権利を返上し生涯騎士であることを願い出たのだ。
 今のエリックにはそのようには見えない。

 それにゲームでの兄はリリアンヌが修道院送りになった際、特に何もしなかった。今のエリックはバカがつくほどの妹想いで私のことを溺愛している。私が修道院送りになろうものなら他国に攫ってまで私をかばってくれる気がしないでもない…………。



 エリックの設定と違う部分を分析していくうちに私はある人を思い出した。
 その人は幼い頃からとても優秀で、なんでも華麗にこなし、知らないことがないんじゃないかって思うほど生涯を終えるまでは研究の虫になりひたすら学び夢を追いかけていた。幼い頃からその背中を見て育ち、その背に守られて育ってきた…………。

 …………その世に生まれる前の話。


 前世での兄、朝倉陸あさくら りくの面影をエリックに映していた。



 「お、お兄ちゃん…………」



 「ん?何、梨々(リリ)?」


 お兄ちゃんとエリックの姿が重なる。



 「陸お兄ちゃん…………なの?」


 エリックは少し驚いたような表情を浮かべ、表情が柔らかくなる。


 「梨々、今頃気付いたの?」


 ニカっとエリックは笑った。
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