王太子に転生したけど、国王になりたくないので全力で抗ってみた

こばやん2号

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第二十五話「あっけない決着と予期せぬ拉致」

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「よっと」


 十数メートルの高さから飛び降りたレイオールが華麗に地面に着地する。そして、鋭い視線をジャイアントオーガに向けると、腰に下げていた剣を抜き放った。


 護身用の剣として装飾が施されてはいるものの、剣の性能自体はただの鉄製の剣であり、見た目に重きを置いた装飾武具に近い代物だ。一流の職人の手によって仕立てられてはいるが、逆を言えばそれだけであり、業物とはとても言い難い。


 しかしながら、今のレイオールからすれば例え刃の短い短剣であろうがそもそも戦闘用でない料理に使う包丁であったとしても、同じように相手を屠るために用いただろう。


「とりあえず、様子見で身体強化だけ掛けておくか。……よし、じゃあ見せてもらおうか。異世界のボスクラスモンスターの性能とやらを、なっ!」


 そう言い切ると同時に、地面を蹴ってジャイアントオーガに向かっていく。身体強化を施した彼の膂力は尋常でなく、数百メートルの距離がものの十数秒でなかったことになるほどのスピードで接近し、その勢いのままにジャイアントオーガの左足に剣の一閃を放つ。


「グオ?」

「硬いな。俺の一振りがまるで通じていない。ではこれならどうだ? 【一点五連突き】!!」


 初撃がまったく効果を為していないことを見るや否や、レイオールはすぐにジャイアントオーガの後方に回り込み、肉の薄そうな膝の裏側に向け刺突に特化した剣技を放つ。


 寸分違わぬ正確な五連の刺突攻撃がジャイアントオーガの膝裏に命中するが、返ってきた手応えは先ほどとまったく同じものだった。だが、先ほどとは明らかに異なる点が一つだけある。それは、レイオールが攻撃したことでジャイアントオーガが呻き声を上げながら片膝を付いたことだ。


 防御力の高いジャイアントオーガといえど、全身がまったく同じ硬さをしているかというと、答えは否である。人型のモンスターである以上、柔らかい部分となる弱点は人と同じであり、ジャイアントオーガにとって膝裏は最も柔らかい部分の一つになっている。


 そこを正確に狙って打ち抜くレイオールの実力は本物であり、かく言うライラスですら同じことができるかというと、本人としても難しいと答えざるを得ない。それほどの芸当をぶっつけ本番でやってのけたのは、流石と言うよりほかない。


 一体どれだけの鍛錬をすればその境地にたどり着けるのか、それは常人には計り知れない。と、普通であれば考えるのだろうが、レイオールは元々持っている才能自体が尋常ではなく、前世の経験をフルに活用し、僅かな期間で上達していったのだ。


 だからこそ、剣としての性能が低い装飾用の剣でジャイアントオーガに斬りかかるという離れ業をやってのけて見せているのだ。


「ガアアアアア」

「どうやらお怒りらしい。まあ、膝裏に剣なんてものを突き立てて怒らない奴はいないか……」


 死闘を繰り広げているとはとても思えない物言いに、どこかから突っ込みをもらいそうだが、残念というべきか幸いというべきか、今彼の近くに人はいないため、誰にも彼の言葉が届くことはなかった。


「おっと」


 ジャイアントオーガは、その巨体を生かし両腕を天高く振り上げると、そのままレイオール目掛けて叩きつけてきた。


 圧倒的な体格差から繰り出される理不尽なまでの攻撃は凶悪で、直撃すればひとたまりもない。しかしながら、それはあくまでも直撃すればの話であり、小回りの利くレイオールがその直撃をもらうことは万に一つもない。


 ジャイアントオーガもレイオールを捕らえようと大振りな攻撃を仕掛けているが、彼を捕らえることはできていない。一方のレイオールは、回避行動を最小限に抑えつつ確実にダメージを蓄積させていく。


 ジャイアントオーガにとってレイオールの攻撃は、蚊に刺された程度のダメージしかない。だからこそ、彼の反撃を歯牙にもかけずに突撃してきているのだが、ジャイアントオーガは気付いていなかった。それこそが彼の狙いであると。


 いくら攻撃一回当たりのダメージが少ないとはいえ、ノーダメージではないのだ。そのダメージは確実に蓄積されていく。


 有名な国民的RPGに登場するモンスターの中にメタルなスライムが存在する。プレイヤーが与えられる基本ダメージが一であるため、メタルなスライムが逃げる前に相手のライフをゼロにして倒さなければならない。今回もそれと同じ原理だ。


 尤も、今回の相手は逃げないしライフもメタルなスライムよりも遥かに高いとは思うが、レイオールが与えるダメージを無効化できない以上、どこかで必ず綻びが生じる。


「グオオオォォォォ」

「よし、ようやく部位破壊できたようだな。討伐報酬とは別に部位破壊報酬もこれでいただきだな」


 かつて前世でプレイしたことがあったハンティングゲームを彷彿とさせるシチュエーションに、思わずそんなことをレイオールは口走ってしまう。どうやら、彼の前世はゲーム好きだったようだ。


 そんなこんなで、執拗に狙い続けていた弱点部位の膝裏が破壊され、どす黒い血を垂れ流しながらジャイアントオーガの左脚が岩が砕けるように切断された。たまらず体のバランスが崩れ、片手を地面に付き辛うじて倒れることは避けられたが、誰が見てもそれ以上の戦闘は困難なのは明白だ。


 それでもジャイアントオーガの戦意は衰えておらず、その状態のまま空いているもう片方の手を振り上げてレイオールに攻撃しようとする。


「ああ、残念だがその手はもう使えないぞ」

「グゴッ」


 振り上げられた片手がレイオールに向かって振り下ろされる刹那、腕の肘から下の部位が突如として粉砕され、残った腕の部分は上腕から肩の部分となっていた。


 一体何が起こったのか訳がわからず、ジャイアントオーガが自身の腕が無くなっていることを理解するのに数秒の時間を要した。何もしていないのに腕がそんな状態になるはずはない。その状態にした犯人……即ちレイオールが膝裏と同じように腕の内側の窪んだ部分、ちょうど肘の裏側の部分を攻撃し続けた結果によるものだ。


 短時間で脚と腕を一本ずつ失う結果になって、ようやくジャイアントオーガは理解した。目の前にいる小さな生物は自分を殺すことができる敵であると。だが、それを理解したところで待っている結末は何も変わらない。


「まあ、肉弾戦の状態も確認できたことだし、もう終わらせよう。弱い者いじめする趣味はないしね」

「グゥ……」


 この時ジャイアントオーガは、生まれて初めて死に対する恐怖を感じた。だが、レイオールが言った言葉の通りそれを感じていた時間は僅かでしかなかった。次の瞬間には魔力を纏った彼の剣によってジャイアントオーガの首から上が胴体と永遠のお別れをする結果となっていたのだから。


 こうして、圧倒的な強さを持つジャイアントオーガはたった一人の少年によってあっけなく倒されてしまった。


「うっ、どうやら魔力を使い過ぎたようだな。体が思うように動かない」

「……か! ……殿下ぁー!!」


 魔力を使い過ぎてしまったことによる魔力欠乏状態に陥ってしまったレイオールの元に、城壁から降りてきたレイラスとさらに後方にガストンがやってくるのが遠目から見えた。だが、彼らがレイオールの元へたどり着く前に横槍を入れるように魔物の大群が現れる。


 その群れはスタンピードの後続組で、そのほとんどがウルフやホーンラットといった四足歩行型のモンスターだった。その数は二千ほどもおり、普段のレイオールであれば問題なく対処できた。だが、今彼は魔力欠乏によって体の自由が利かない。


「で、殿下! 今お助けいたします!!」

「……俺のことはいい。自分の命を優先しろ!」


 突然の奇襲にレイオールを救出しようとするレイラスであったが、その距離は数十メートルの隔たりがあり、その間を埋めるようにモンスターの群れがひしめいている。


「ええい、邪魔だ! どけぇー!!」


 すぐにレイオールの元へ向かおうとするレイラスだが、それを邪魔するかのようにモンスターたちが立ち塞がる。しばらくして合流したガストンも彼を救出しようとレイラスに加勢する。


「仕方ない。『風よ集え。そして、我が身を護れ』 ……ウインドシールド」


 このままではモンスターの奇襲を受けてしまうと判断したレイオールは、残った最後の魔力すべてを風の障壁を張る魔法につぎ込み、自身の周りに球体状の風の障壁を展開する。


 レイオールに風の障壁が展開されると同時に、モンスターたちが押し寄せる。だが、彼が張った障壁によりその攻撃は届くことはない。そして、ここで予期せぬことが起こった。


「な、に……。このままではモンスターに障壁ごと運ばれてしまう。……予定とは違うが、これを利用する手はないな。よし!」


 魔力欠乏の状態でレイオールは懐から紙を取り出し、それに何か書き綴っている。書き終えた紙を重し代わりの石に括り付けると、それをレイラスに向けて投げた。


「レイラス、受け取れ!!」

「殿下!」


 放物線を描いて飛んで行った石を見事にキャッチすると同時に、モンスターの勢いがさらに激しくなったため、これ以上は危険と判断したガストンがレイラスを担ぎ上げモンスターから遠ざかった。


「ガストン殿! 降ろしてください!! 殿下が、殿下をお救いせねば!!」

「あのモンスターの群れでは無理だ! みすみす死にに行くようなものだぞ!!」

「それでも私は殿下の護衛なのです!! 殿下をお救いするためにはこの命など――」

「レイラス!!」


 レイオールを救おうとガストンに食って掛かるレイラスを呼ぶ声が響き渡る。その相手に顔を向けたレイラスに彼の最後の叫びが耳に届く。


「いいか、その手紙を父さんに必ず届けるんだ! できないとは言わせない。俺のことは心配するな。なんとか切り抜けてみせる!!」

「殿下!!」

「わかったなレイラス! 必ずその手紙を父さんに届けるんだぞ!!」


 その言葉を最後に、モンスターの群れはレイオールが展開した風の障壁と共にそのまま連れ去ってしまった。レイオールも最後の力を振り絞るように叫んだため、そのまま意識を手放し気絶してしまう。


 こうして、スタンピードは防がれたものの、レイオールが予期せぬ拉致に遭ってしまい、ここから彼の苦難の道が続くの……だろうか?
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