王太子に転生したけど、国王になりたくないので全力で抗ってみた

こばやん2号

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第二十七話「気が付くと、そこは森だった」

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「う、うぅん……」


 レイオールが目が覚めると、そこは王都周辺ではなかった。時間的には、彼が張った風の障壁がまだ発動していたことから、まだ精々数時間程度しか経過していないことが窺える。


 彼の思惑通りの結果とはいかなかったが、ひとまずは王都から脱出できたという事実だけでさしたる支障はないとすぐさま判断したレイオールは、これからの予定について思案を巡らすことに意識を傾ける。


 レイオールの人生の目標は悠々自適なスローライフという極々ありふれた平凡なものであり、特別なことを望んではいないため、これからの目的と言われてもあまり具体的なことは考えていない。


「とりあえず、セオリー通りに進めるなら、冒険者になるっていうのが手っ取り早いか」


 前世に小説家の娘がいた彼は、娘の小説でファンタジーのお決まりの行動を一通り把握している。まずはそれに倣って、冒険者として生活基盤を確保しようということにした。


 だが、今レイオールのいる場所は何処とも知れない深い森の中におり、風の障壁の外は数十匹というモンスターが取り囲んでいる。彼をここまで運んできたモンスターの残党らしく、何とか彼を捕食しようとしているようだが、彼自身が展開した風の障壁によって守られているため、下手に手が出せないようだ。


「ここまで俺を運んでくれたことには感謝しているが、だからといってお前らの腹の中に納まってやるわけにはいかないんでな。【ファイアーボール】」


 などと言葉を理解しないモンスターにそう投げ掛けると、レイオールは火属性の中級魔法のファイアーボールをお見舞いする。その際、無詠唱で唱えることを忘れない。


 この数年間の間にレイオールの魔法の腕も上がっており、上級魔法の無詠唱とまではいかないものの、中級以下の魔法であれば呪文名のみ口にすればちゃんと発動できるようにまで上達している。


 その威力も、常人が使うファイアーボールのそれとは一線を画した性能を秘めており、今の魔法を他の者が見れば、ファイアーボールと似た何かの魔法と勘違いするほどだ。


 そんな魔法が直撃すれば、ただの低級モンスター程度では耐えられるはずもなく、レイオールを取り囲んでいたモンスターたちは瞬く間に掃討されることとなった。


「さて、一番近い街はどっちだろう」


 第一の目的である冒険者になるためには、冒険者ギルドがある街で冒険者登録をする必要があり、当面の生活基盤を整えるためにもどこか適当な街を目指す必要がある。


 だが、今レイオールは目が覚めたばかりであり、今自分がどこにいるのかわかっていない。それどころか自分がどのくらいの間気絶していたのかすら把握できておらず、まずは周辺を調査する必要があった。


 現状わかることといえば、風の障壁が展開していたことから気絶していた時間は長くとも数時間程度であり、深い森の中といっても、彼の体力でも数時間を掛ければ人里近くの街道までは出られるといったところだ。


「一応、王都に逆戻りは避けたいから、太陽から垂直方向に進むとしよう」


 王都の地形的に北門から向かって東門から太陽が昇り、西門に沈んでいくことはわかっているため、太陽が昇る東方向か沈む西方向に進んでしまうと、王都にたどり着いてしまう可能性がある。それを彼は嫌ったため、太陽とは垂直に位置する北方向か南方向に進むことを決めた。


 しばらく森の中を進んでいると、小動物や図鑑でしか見たことのない植物が覆い茂っており、この世界で初めて目にするものとしてレイオールは新鮮味を感じていた。


 道中ちらほらとスタンピードで生き残ったモンスターの残党を見かけたが、レイオールを襲うそぶりは見せてこなかったため、彼も無駄な体力を消費しないためにもいたずらに命を奪うことはせずに歩を進めて行く。


 未だ十歳の体でしかない彼の体力は多いとは言い難く、魔力欠乏の状態から復帰して数時間しか間が空いていないというダブルパンチ状態が続いており、本来であればもう少し休息が必要なのだが、それをなんとか身体強化の魔法でごまかしつつ、レイオールはさらに移動をする。


 途中で川を発見したため、そこで小休止を取ることにする。川の水を手で掬い上げ、手に溜まった水をそのまま飲み干す。冷たい水が体に染みわたっていくのを感じながら、ぽつりと言葉を呟く。


「美味い。これだけ綺麗な川は日本だと田舎くらいしかないだろうな」


 などと前世の記憶を振り返りながら、しばらく丁度いい大きさの岩に腰を下ろし体力の回復に努める。少し落ち着いたところであることを思い出したレイオールは、懐から小さな箱を取り出す。まるで婚約指輪を入れるような紫色の箱に入ったそれは、リング部分は何の変哲もない鉄製だが、石座に嵌め込まれた中石は魔力を帯びている。


「こんなこともあろうかと、持ってきてよかった【アイテムリング】!」


 アイテムリングとは、魔法指輪とも呼ばれる大きな荷物を入れておける魔道具で、入れた荷物の重さを感じることなく持ち運べる便利なものだ。入れることができるものは生物以外であれば何でも入り、指輪に入れている間は時間の経過による劣化がないため、食材など腐らせてしまうようなものも問題なく管理できる。


 それ以外にはアイテムバッグと呼ばれる魔法の鞄も存在しているが、そちらは時間経過による劣化があり、アイテムリングと比べると収納できる量も少ないため、市場に出回っている多くはアイテムバッグがほとんどだ。


 伊達に王族の肩書を持つレイオールだけあって、高価なアイテムリングを所持しており、あの親バカな両親が買い与えたものだということは想像に難くない。


 今となっては旅をする時にとても便利なアイテムであるため、アイテムリングを買い与えてくれた両親にレイオールは珍しく感謝している。


「うーん、歩いたから腹が減ったな。たしか、アイテムリングに食べ物を入れていたはずだけど……」


 そう言いながら、アイテムリングを嵌めて魔力を流しながら、取り出したいものを頭の中でイメージする。すると、まるでブラックホールのような真っ暗な渦が出現し、レイオールは躊躇いなくそこに手を突っ込むと何かを取り出した。


「ホントに便利だよなこれ。いただきます。はむ、もぐもぐ……サンドイッチうまうま」


 レイオールの手にあったのは、日本にあったものと何ら遜色のないサンドイッチだった。この世界にも彼以外の転生者か転移者がいたのか、はたまたこの世界の食文化が地球のそれとたまたま酷似していたのかは定かではないが、こちらの世界でも彼が日本で食べていた料理がいくつか存在していた。サンドイッチもそのうちの一つである。


 挟んである具は、この世界のよく食用にされているモンスターの肉で、淡白だが臭みもなく、庶民の間でもよく食べられている。


「うん? あれは、モンスターか。どうやら、サンドイッチの匂いに釣られて出てきてしまったらしいな」


 晴れた昼下がりの川のせせらぎをBGMにレイオールがサンドイッチを堪能していると、彼の前にモンスターがやってくるのが見えた。見たところ、低級のファングボアという猪型のモンスターで、体長は大きいものでも一メートルを超えることはなく、肉は食用に牙や皮などは冒険者が扱う装備品などに加工される。


「ブモォォー」

「そうだな。一応生活費なんかは今までもらった小遣いがあるから問題ないが、これからは自分で生活費を稼がないといけないだろうしな。うっし、腹も膨れたし、食後の運動といきますかね」


 そう言いながら、腰に下げていた剣を引き抜くと、ファングボアと対峙する。レイオールが臨戦態勢になったのを感じ取ったファングボアも、同じく威嚇の咆哮を上げながらこちらに突進するため、地面に足を擦り付けるような動作を繰り返している。


 互いににらみ合いが数秒続いたが、先に痺れを切らしたのはファングボアだった。レイオールが向かってこないことに焦れたファングボアが、突如として勢い良く突進してきた。


 だが、その動きは直線的であり、突進のスピードも、レイオールからすれば止まって見えるほどにお粗末なものであるため、ファングボアがレイオールを捕らえることはできなかった。


「どうした。これじゃあ腹ごなしにもならないぞ?」

「ブモォォォォオオオオオオ」


 人の言葉を理解していないモンスターでも、レイオールの態度から馬鹿にされていることだけは理解できたらしく、今までにない咆哮を上げながらさらに勢いをつけて突進してきた。


 だが、それでもレイオールからすれば避けられない危険な攻撃とは程遠く、すれ違い様にカウンターで剣の一閃をお見舞いする。


「ピギィィィ」

「悪いが、今日中に森を抜けなきゃならないんだ。お遊びはここまでだ」


 そう言うが早いか、レイオールはファングボアとの間合いを一気に詰めると、目にも止まらぬ剣の一撃を加える。ファングボアは自分がどこに攻撃を受けたのかさえ理解できずに、そのままこてりと体を地面に横たえ、再び動き出すことはなかった。


「よし、討伐完了っと。解体はできないからこのままアイテムリングに保管して、街に着いてからギルドにでも売り払おう」


 などと呟きながら、倒したファングボアをすぐさまアイテムリングに収納し、再び街を目指して歩き出す。


 それから、レイオールが森を脱出し人の手が加わった街道に出たのは、数時間後のことであった
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