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第四十四話「出立」
しおりを挟む「では、これが今回の報酬金になるわ。一人頭大銀貨八枚よ」
「ああ」
ギルドマスターとの話を終えたサダウィン達は、受付カウンターに戻って報酬金を受け取っていた。今回の報酬金は全体で小金貨四枚で、Cランクの依頼報酬としてはかなりの破格だ。
ゴリス達を入れて五人で割れば、大銀貨八枚と銅貨換算で八千枚という膨大な数になるが、ここでもゴリス達は報酬金の受け取りについて思うところがあるのか、受け取りを渋っていた。
サダウィンとしては、別段五等分しても問題なかったが、彼らには彼らの考えがあるということで、代案として小金貨二枚をサダウィンに残りの二枚をゴリス達で四等分するという方向で決まった。
「それでも俺たちが貰い過ぎな気がするんですが……」
「それ以上はびた一文負けんぞ」
「それ使い方が逆なんじゃないですか?」
などと突っ込まれてはいるが、彼らとて大金がもらえるに越したことはないため、サダウィンの提案を受け入れることにしたのである。
マルティナに頼み、小金貨一枚と大銀貨十枚で受け取りたい旨を伝え、小金貨二枚分の報酬金が入った皮袋を受け取る。
「それから、サダウィンさんのEランク昇級が決定まったからギルドカードを提示してちょうだい」
「ん」
マルティナに促され、彼女にギルドカードを渡す。手続きはすぐに完了し、Fの文字がEに書き換えられたギルドカードが返却された。
ゴリス達も「おめでとうございます」と素直に称賛してくれたが、サダウィンとしてはゴブリンの群れと直接戦っていないため、苦労した実感が湧かなかった。
それから、ゴリス達に打ち上げに誘われたが、今日は大事を取ってこのまま休む旨を伝え、サダウィンはギルドを後にする。
ギルドを出たサダウィンが向かった先は、もちろん宿などではなく、旅の物資を調達できる露店や店を巡り、その日のうちに次の街に向かえる状態にした。
「マルコフの話から推測すると、王都の追っ手は大体半分くらい進んできているはずだ。ここにきて六日が経過していることを差し引けば、あと三日か四日くらいでロギストボーデンにやってくる可能性が高いか」
サダウィンがロギストボーデンにやってきてすでに六日が経過している。彼の情報が王都に渡ったことを鑑みて、すぐにロギストボーデンに出立したと仮定すれば、現在追っ手は王都とロギストボーデンの中間くらいの場所にいると彼は予想を立てた。
通常王都とロギストボーデンの距離は、王都が所持している伝令用の早馬を使っても二週間から二十日ほどかかる。通常の馬車だと一か月の行程であることも珍しくない。
しかし、それはあくまでも相手がただ目的地に向かっている兵士や旅人や行商人の場合であり、今回は少し毛色の違う相手が向かってきている。
物理的に十日以内に王都からロギストボーデンに到着するのは不可能だが、うちの家族や部下たちが本気になれば、その不可能を可能にしてしまう可能性があると考え、サダウィンは明日の朝一番にロギストボーデンを出ることを決めた。
☆ ☆ ☆
翌日、まだ人々の往来も少なく賑わっていない大通りを歩き、ロギストボーデンを出立する。昨日は、すでに引き払っていた【太陽の馬車】という宿の部屋を一泊だけ借り、しばらく野宿になるであろうことを予想しながら、サダウィンはベッドとお別れをしてきた。
門の外には、物資を都市や街に運ぶ行商人の姿や、少数ではあるが街にやってきた旅人や冒険者がロギストボーデンに入るため列を成している。
そんな人たちとは真逆に、サダウィンはロギストボーデンを出立する。もちろん、今日街を出ることは誰にも伝えていない。
「これで、俺の足取りは掴めなくなったが……さて、どっちに向かうか」
サダウィンが発したこのどっちに向かうという言葉は、街という意味ではなく、国という意味のものだった。レインアークにいる以上、王都からの追っ手や国内の包囲網から完全に逃れることは不可能といっていい。だが、これが国外であれば話は別だ。
国を治めている人間が他国の国王である以上、いくら一国を預かる身の国王といえど自分以外の他の国で無茶はできない。サダウィンはそれを知っているため、彼の次の目的地はレインアーク王国以外の国ということになる。
「選択肢としては二つ。一つはロガット王国。そして、もう一つはウインブルグ王国だな」
レインアーク王国は三つの国と国境を同じくする国であり、その三つの国とはロガット王国、ウインブルグ王国、フレイマル帝国である。
レインアークの西と南西をロガットが、北と北西と北東をウインブルグが、そして残った東、南東、南をフレイマルの国境がそれぞれ隣接している。
三国のちょうど真ん中に位置するレインアークは、フレイマル帝国にとってはその先のロガットとウインブルグを進攻するのには要所であり、領土をめぐり長年に渡って帝国はレインアークと度重なる戦争を行ってきた。
そして、間接的に帝国からの侵攻を防いでいるレインアークは、残りの二国にとっては帝国に対する重要な防壁であり、なくてはならない存在なのだ。だからこそ、ロガットとウインブルグはレインアークに対し同盟関係を結んでおり、いつぞやの飢餓と流行り病がレインアーク国内で蔓延した際も、自国の食料を削ってまでもレインアークに支援したのだ。
尤も、同面関係といえど二国も自給自足が完全でない国であるため、無償で食料の提供をするという訳にもいかず、少々割高な支援となってしまったが、それでもロガットとウインブルグがレインアークを重要視していることに変わりはなかった。
そんな事情があるため、現在停戦協定が結ばれている帝国といえども、仮想敵国であることに変わりなく、現王太子である自分が帝国の手に堕ちれば、不利な条約を結ぶための交渉材料にされかねないため、サダウィンは帝国に行くことを最初から選択肢として入れてはいない。
となってくると、残るのは同盟国であるロガットとウインブルグということになるのだが、はっきり言えばこれはどちらでも状況は変わらないだろうというのがサダウィンの感想だ。
違いがあるとすれば、主な特産品や国民性による職業の偏りで、ロガットは鉱石がよく採れるため、炭鉱夫や鍛冶職人が多く、ウインブルグはその美意識の高さから、芸術家や音楽家が多い国柄となっているのだ。
「そういえば、グロムベルクで剣は新調したけど、防具に関してはアイテムリングに入れていた粗末なものしかなかったな……。よし、決めたぞ。新しい防具のため、ロガット王国に行ってみよう!」
冒険者としてさらに高ランクの依頼をこなすためには、強力な装備が必要になってくる。サダウィンの現在の装備はグロムベルクで新調した質はいいがただの鉄の剣と、アイテムリングに入れていた新人の兵士や駆け出し冒険者が身に着けるような粗末な装備しか持ち合わせていない。
ランクもEに上がり、ここで一つ強力な装備を手に入れて戦力アップを図りたいと考えたサダウィンは、ロガット王国に行くことを決めたのである。
「ここからロガット王国の国境まで、二週間くらいか? いやもう少しかかるか」
レインアークの王都は、レインアーク王国から見て北寄りに位置しており、そこから南西方面にロギストボーデンがある。ロガット王国はロギストボーデンから更に南西にある国であるため、レインアークとロガットの国境付近にたどり着くにはもう少し時間がかかる。
もちろん道中にある街や村に立ち寄り物資の補充はするつもりだが、二週間以上ともなればかなりの長旅となる。特にロガット王国にある王都までの道のりは遠く、少なくても二か月はかかる道のりだ。
サダウィンはいずれロガットの王都に向かうつもりでるため、今のうちに通常の長旅に慣れるという意味でも、自由な一人旅という意味でも、今回の旅を楽しむつもりだ。
「今回は何事もなく、無事に隣国までたどり着きたいもんだな」
そんなフラグめいた発言を零しながら、ゆっくりとした歩調でサダウィンは国境までの道のりをひたすら歩いていた。
だが、そんなときに限って厄介事というのは舞い込んでくるもので、サダウィンの進行方向の先に一人の女性を取り囲んでいる集団が目に飛び込んでくる。
遠目でもわかるほどに彼らの柄は悪く、明らかに盗賊の格好をしている。それだけを確認すると、サダウィンはすぐに彼らに悟られないよう近くの草陰に身を隠す。
(人を見た目で判断してはいけない。もしかしたら、悪者は女の方で盗賊の方に正義があるかもしれない)
昔からよくある言葉だが、大抵の場合良い方に使われることが多い。果たして、今回はどうなのかといえば……。
「おうおう、こりゃあ久々の上玉だな」
「へへへ、今からこいつをひぃひぃ言わせられるかと思うと、ゾクゾクするぜ」
「は、早くやっちまおうぜ」
(……)
残念ながら今回は人を見た目で判断して良いシチュエーションだったらしく、自身の言葉を翻す結果になってしまって心の声が掻き消えてしまうサダウィン。
とりあえず、このまま黙って素通りという後味の悪い選択肢はないため、未だ取り囲まれている女性を助けに行くことにした。
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