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第四十五話「いざ、国境へ」
しおりを挟む「あの、助けていただいてありがとうございました」
「いや、気にしないでいい」
「また会いましたね」
「まさか、こんな形で再会することになるとは思っていなかったけどな」
「あはは……」
盗賊に襲われていた女性を助けたところ、なんとロギストボーデンに到着した初日に暴漢から助けた女性ロゼッタだったのだ。
何かと男に襲われるところを見るに、あまり男運には恵まれていない様子だったが、もちろんサダウィンはそんなデリカシーのないことは口にしない。だが、ロゼッタ本人もその自覚があるのか、自分からそのことについて話を振ってきた。
「私って小さい頃から悪い男の人に絡まれることが多くて、あまりいい男の人に会ったことが少ないんです」
「なら、俺もその悪い男かもしれんな」
「い、いえ! 決してそんなつもりで言ったわけじゃあないんですが……」
「まあ、そういうのって星の巡り会わせとかそういう星のもとに生まれたとか言うから、体質みたいなものだと思って付き合っていくしかないかもしれんな」
「はあ、そうですよね」
などと、他愛もない会話をしながらあるくことしばらく、話題が盗賊に襲われていた経緯の話になった。
ロゼッタの話では、元々仲間と共に旅をしていたのだが、用事があると言ったきり帰ってくることがなかった。仲間を知る人間に話を聞いても、返ってくるのは“見かけていない”という返事ばかりだったそうで、途方に暮れていた。
しかし、ロゼッタにはいきたい目的地があり、その仲間の帰りを待っている余裕はなかったらしく、強硬的に一人で旅に出たのだが、案の定というべきかなんというべきか、盗賊に襲われてしまったということらしい。
「そりゃあ、若い女が一人で歩いていたら、盗賊からすれば襲ってくれと言っているようなもんだからな」
「行けると思ったんですけど」
「何を根拠にそう思ったのかは知らないが、次からは護衛を付けた方が賢明だ。ところで、ロゼッタの目的地っていうのはどこなんだ?」
「実は、ロガット王国に行きたくて。私は元々ロガット王国出身なんです」
「ほう」
まさか、盗賊から助けた女性が今から自分が向かおうとしているロガット王国出身者とは思わず、サダウィンは曖昧な返事をしてしまう。何か神がかり的な力が働いているとしか思えない状況に、天を見上げロゼッタに聞こえない声で呟く。
「……まさか、神が仕組んでるんじゃないだろうな」
こんな偶然をあらかじめ用意できるのは、人ならざる神の仕業以外考えられない。そう考えたサダウィンは、神がいると言われている天に向かって呟いたのだ。
結果的にはただの偶然だったのだが、本当にサダウィンの世界に神という存在がいるのであれば、とんだとばっちりを受けた形になるため、神に対し多少の同情を禁じ得ない。
兎にも角にも、サダウィンが目的地としているロガット王国の出身者が目の前に現れたことは僥倖であり、彼としてもこの状況を素直に喜んでいた。
「ロゼッタ。俺と取引をしないか?」
「取引ですか?」
「実は俺もロガット王国に向かうところだったんだが、ロガット王国までの道がわからない。方角はわかるからその方向に進めばいいんだが、それでも案内があれば楽に進むことができるだろ?」
「その案内を私がすればいいんですね」
「そういうことだ。その代わり、ロガット王国までの道は俺が護衛をするということで、お互いに損はない話だと思うんだが、どうだろうか?」
「そうですね。私としても、また盗賊に襲われるのはこりごりなので、よろしくお願いします」
サダウィンは、ロガット王国の道案内と引き換えに護衛を買って出ることを提案する。ロゼッタとしても、また盗賊やモンスターに襲われるのは避けたいので、彼の提案を快く了承した。
それから、彼女の道案内によって最短のルートでロガット王国に入るための国境の街までたどり着くことができた。道中に襲ってきた盗賊やモンスターたちも、圧倒的なサダウィンの前では何もできず、返り討ちにあっていた。
☆ ☆ ☆
ロギストボーデンを出立してから十五日が経過し、ようやくロガット王国の国境付近の街【ロンド】に到着する。
ロンドまでたどり着く道中いくつかの街と村を経由したが、特に問題となるような厄介事も起きず、実に順調な旅だったと言える。
ちなみに、ロゼッタとの間に何もなかったのかと言われれば、当然何もなかった。いくら見た目が美形とはいえ、まだ十歳のサダウィンにそういった感情はなく、前世の記憶を持っているといってもそっち関連は今の体に引っ張られているようで、彼自身ロゼッタと寝食を共にしても何も思うところはなかった。
ロゼッタが彼に対してどう思っているのかという問題もあるが、基本的に楽しい旅路ではあったのは間違いないにしても、そういったロマンス的な展開になることは皆無だった。
それはそれでどうなのだと思わなくもないサダウィンだったが、今は恋にうつつを抜かしている状況ではなく、迫りくる追っ手からの逃亡を優先すべきだと結論付けたのだ。
ロンドの街は今までのように石畳が基本の街並みだったが、国境の街であるためなのか、城壁が他の拠点と比べて分厚く強固な造りに感じる。外壁の高さも十メートルを優に超え、ちょっとやそっとではその高い壁を登りきるのは至難の業だ。
守備についている兵士たちも、一般的な装備とは異なりれっきとした鉄製のしっかりとした造りの装備となっていて、他の街よりも厳重な警備網が敷かれている。
いくら同盟国といっても、中世ヨーロッパ程度の文明力しかないこの世界において、同盟という関係は脆くすぐに破られる可能性がままある。自国の利益や他国との軋轢などの様々な理由から、同盟というものは“お互いに利益があるうちは仲良くしておきましょう”という程度の認識でしかないのである。
それでも、その同盟の期間が何十年、何百年と続けば、その絆はより固くはなっていくもので、ロガット、レインアーク、ウインブルグの三国間で結ばれている同盟は、フレイマルがレインアークに侵攻を開始したとされる三百年前から続いており、その同盟期間はこの世界の歴史から見てもかなり異例の長さである。
「これからどうします?」
「そうだな。とりあえず今日は、宿を取って旅の疲れを残さないよう体を休めて。次の日は、旅の物資の補給をしてから昼過ぎに国境越えの手続きをしよう」
「わかりました」
サダウィンの提案に、ロゼッタも頷いて了承する。さすがに休憩を挟みつつここまでやってきたとはいえ、女性の身で旅はかなり堪えたのだろう。すぐに手ごろな宿を二部屋取り、今日はこのまま明日に備えて休むことにする。
「さて、もう休むとはいえ日課の魔力操作の鍛錬はやっておこうか」
魔法を習得してからというもの、サダウィンはこの魔力操作のトレーニングを欠かしたことはなく、就寝前や時間潰しをする時などに暇を見つけては体内の魔力を操作している。
魔法を発動させるのに重要なのは、魔力の制御と頭の中で思い描いたイメージの二つだ。そのため、魔法使いにとって自身の魔力を自由自在に操れることは大きなメリットになる。
ところが、この世界のほとんどの人間が、魔力を操作するトレーニングを魔法を習う最初の時点で、簡単に済ませてしまう程度で終わらせてしまっている。
これでは、大きな魔力を操作する時に思うようにいかず、そのためにほとんどの人間が下級魔法程度しか操れないでいるのが現状だ。
「んー、よし。今日はこれくらいにして、明日に備えて寝るとしよう」
日課の鍛錬も終わり、いよいよやることがなくなったサダウィンは、アイテムリングに収納されているものの確認や、剣の手入れなどで時間を潰し、宿の食堂で夕食を食べた後すぐに就寝した。
翌日、ロゼッタと共に街の市場へとやってきていたサダウィンは、露店で旅の物資を手早く補充し、予定通り昼過ぎに国境を越えるための手続きを待っている人の列に並んだ。だが、ここにきてロゼッタがとんでもないことを言い出したのだ。
「ところで、サダウィン君?」
「ん? なんだ?」
「国を越えるための許可証は持っているんですか?」
「……なんだそれは?」
彼女の話によると、隣の国に行くためには国の機関に申請を出し、審査が行われたのちに許可証が発行される。審査といっても大したものではなく、精々が罪を犯していないかなどの簡単な素行調査と、小銀貨五枚という庶民にはそこそこ痛手な発行手数料を払えば簡単に許可証を発行してもらえる。
そんなことは初耳であるサダウィンが、その許可証を持っている訳もなく、どうしたものかと戸惑っていると、ロゼッタが仕方がないという顔を浮かべながら、手に持っていたカード型のようなものを左右に振る。
「この許可証なら、三人までであれば国境越えができます。あまり使う機会はないのですが、今回は役に立ちそうですね」
「助かった。ここにきて足止めを食らうところだった。ロゼッタには感謝しないとな」
「いいんですよ。ここまで護衛してくれた分の追加報酬だと思ってくれれば」
笑いながらそう言うロゼッタに、サダウィンは「本当にありがとう」とにこやかな笑顔を向けて感謝する。その美形の顔から繰り出される微笑みは、いかなる女性も見惚れさせるほどに美しく、それはロゼッタも例外ではなかったようで、しばらく彼の顔をボーっと眺めていた。
「さ、さあ。そろそろ私たちの番ですよっ! 行きましょう!!」
「あ、ああ」
サダウィンの顔に見惚れていたのを誤魔化すように、ロゼッタが前に歩いて行く。無駄にテンションの高い彼女に戸惑いつつも、サダウィンも彼女の後ろをついていく。
「次、許可証の提示を」
「これです」
「っ!? こ、これはっ!?」
ロゼッタが提示した許可証を見た瞬間、担当の兵士が驚きの表情を浮かべていたが、ロゼッタの「後ろの彼も一緒に行けますか?」という問いに対し、「は、はいっ! もちろんであります!!」と大きな声で返事をする。
「お返しいたします」
「ありがとうございます」
「いえ。では、道中お気をつけて!」
「……」
明らかに最初とは違う態度に、何か嫌な予感を感じつつも、サダウィンたちは国境を越える手続きを完了し、ロンドの街を出立する。
「なあ、明らかにあの兵士おかしかったよな?」
「そうですか? この許可証が珍しかったんですかね?」
「まあ、今はいい。とりあえず、今日中にロガット王国側の国境の街に入ってしまおう」
「はい」
この時サダウィンは気が付かなかった。彼女の持つ許可証にある家紋が刻まれていたことを。そして、なぜ彼女がその許可証で三人までなら国境を通れると勘違いしていたのかを。
この先のロガット王国で、彼女を巡る厄介事が待ち受けていることなど、今の彼は知る由もなかったのであった。
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