8 / 180
第一章 冒険者に俺はなる
8話
しおりを挟む「さてさて、少し小腹が空いたな」
この異世界に飛ばされて、まだ一時間と少ししか経過していないが、どうやら腹が減ってきたようでお腹をさする秋雨。
彼が歩を進めている道中でもちょっとした軽食を販売する露店はちらほらあるが、数が多いためどれを選ぶべきか迷いあぐねていた。
そうこうしている間に、少し開けた広場のような場所にたどり着いたところで、不意に声を掛けられた。
「おう坊主、お使いか? 何だったら俺が焼いた肉串でも食っていくか?」
「肉串?」
三十代中頃の男が売っていたものは串に肉を刺し、軽く塩を振って焼いたこの街ではごくありふれた軽食だった。
秋雨が好んで読んでいた異世界転生物の小説でも度々登場する軽食だったので、覚えていたのだ。
「何の肉なんだ?」
「フォレストボアの肉だ。珍しい肉じゃねえけど、それだけによくある食ベもんだから小腹が空いた時にはちょうどいいぜ? 銅貨2枚でどうだ?」
「じゃあ一つ貰おうかな」
俗に言う庶民の味という奴なのだろうと当たりをつけた秋雨は、せっかくの彼の厚意を無下にするのもどうかと考え、庶民の味を堪能することにした。
庶民と言っても別に秋雨は貴族や王族ではないのだが、この世界に来てまだまだ知らない事の方が多いため、いろいろな体験をする事は今後の糧になると考え肉串を購入し食べてみることにした。
「あむ、もぐもぐ……うーん、普通だ!」
「だからフォレストボアの肉で軽く塩を振って焼いただけのものなんだから、不味くはないがこれといって珍しいものでもないからな」
「そんなものか……ところでこの辺りで“そこそこ”な宿屋はないか?」
「そこそこって……宿屋の連中からすりゃ失礼極まりない発言だなっ。まあ俺は宿屋の店主じゃないからいいんだが……坊主の言うそこそこな宿なら一件心当たりがある。この広場を左に進んで突き当りの大通りを右に曲がってしばらく歩くと、左手に【白銀の風車亭】っていう宿が見えてくるはずだ。普通の宿より料金は多少高いが、料理も美味いしこの辺りの宿と比べりゃだいぶマシな宿だ」
「そうか、教えてくれてありがとう」
「礼ならうちの肉串をもう一本買ってくれればいいさ」
その後店主に礼の意味も込めもう一本肉串を買い、それを食べながらその場を後にした。
とりあえず腹を満たした秋雨だったが、ここで今日の予定を立てるため頭の中で整理することにした。
(とりあえず、さっきの店主が教えてくれた【白銀の風車亭】っていう宿で部屋を取って、真夜中……午前三時半くらいになった後で冒険者ギルドに登録しに行くってところか)
この世界の一年が三百六十日で一か月三十日を十二回繰り返すことで一年が経過するというのは知っていたが、時間の概念はどうなのかと言うと、秋雨のいた元の世界と同じで二十四時間で一日が経過する。
現在の時刻は朝と昼の中間の時間帯である午前十一時を回ったところで、秋雨の考えている午前三時半までかなりの時間がある。
ではなぜ今から冒険者ギルドに登録をしにいかないのかと言えば、これもまた秋雨が読んでいた異世界転生物の小説の知識からくるものだった。
冒険者ギルドに登録している冒険者という存在は、モンスターを相手取ることが多いため、戦場で戦う傭兵と同じく荒事にはとかく慣れている。そのような連中が集まる場所であるからこそ、おのずと人当たりが強い人間が集まってくる。
これから冒険者を始めようという人間に対し、先輩冒険者からの有難い(?)講釈を聞かされることになってしまうのだ。
場合によっては、冒険者登録自体を妨害しようとしてくる者がいることも少なくなく、面倒臭い事この上ない。
そんな連中を相手にしないようにスムーズに冒険者登録を行うために、仕事を終えて宿に戻っていたり、酔いつぶれて眠りこけているであろう時間帯を狙って冒険者登録を済ませてしまおうという腹積もりなのだ。
仮に秋雨が冒険者に絡まれたところで対処できないわけではないが、それだと他の冒険者に目を付けられてしまう可能性が高い。
そうなると他の冒険者にも絡まれることになってしまい、似たようなことを何度も経験する事になるのは想像に難くない。
そして、最初は絡んできた連中も秋雨の実力を知り、絡んでこなくはなるだろうが、その時にはすでにギルドの職員にも悪い印象を与えることになってしまう。
特に注意すべきはギルドの最高責任者であるギルドマスターの存在だ。
他の職員であれば多少荒っぽい冒険者として認識されるだけだが、これがギルドマスターとなってくると違った見方をする可能性がある。
すでに冒険者として活躍している連中でも歯が立たないほどの実力者として、指名依頼という名の面倒事を押し付けてくるのだ。
しかもその依頼を完了してしまった日には、もはや秋雨にとってギルドマスターという存在は面倒事を持ってくるだけのトラブルメーカーに成り下がってしまうのだ。
だからこそ、他の冒険者に絡まれるという事態は絶対に避けなければならない。
(そうはいっても、今が午前十一時という事は、今から宿を取ったとしても目的の時間まであと16時間もありやがるのか……長いな)
どうやってその長い時間の暇つぶしをしようかと考えを巡らせながら、秋雨は目的の【白銀の風車亭】へと向かうのだった。
234
あなたにおすすめの小説
辺境伯家次男は転生チートライフを楽しみたい
ベルピー
ファンタジー
☆8月23日単行本販売☆
気づいたら異世界に転生していたミツヤ。ファンタジーの世界は小説でよく読んでいたのでお手のもの。
チートを使って楽しみつくすミツヤあらためクリフ・ボールド。ざまぁあり、ハーレムありの王道異世界冒険記です。
第一章 テンプレの異世界転生
第二章 高等学校入学編 チート&ハーレムの準備はできた!?
第三章 高等学校編 さあチート&ハーレムのはじまりだ!
第四章 魔族襲来!?王国を守れ
第五章 勇者の称号とは~勇者は不幸の塊!?
第六章 聖国へ ~ 聖女をたすけよ ~
第七章 帝国へ~ 史上最恐のダンジョンを攻略せよ~
第八章 クリフ一家と領地改革!?
第九章 魔国へ〜魔族大決戦!?
第十章 自分探しと家族サービス
辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月@2025/11月新刊発売予定!
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。
《作者からのお知らせ!》
※2025/11月中旬、 辺境領主の3巻が刊行となります。
今回は3巻はほぼ全編を書き下ろしとなっています。
【貧乏貴族の領地の話や魔導車オーディションなど、】連載にはないストーリーが盛りだくさん!
※また加筆によって新しい展開になったことに伴い、今まで投稿サイトに連載していた続話は、全て取り下げさせていただきます。何卒よろしくお願いいたします。
初期スキルが便利すぎて異世界生活が楽しすぎる!
霜月雹花
ファンタジー
神の悪戯により死んでしまった主人公は、別の神の手により3つの便利なスキルを貰い異世界に転生する事になった。転生し、普通の人生を歩む筈が、又しても神の悪戯によってトラブルが起こり目が覚めると異世界で10歳の〝家無し名無し〟の状態になっていた。転生を勧めてくれた神からの手紙に代償として、希少な力を受け取った。
神によって人生を狂わされた主人公は、異世界で便利なスキルを使って生きて行くそんな物語。
書籍8巻11月24日発売します。
漫画版2巻まで発売中。
没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます
六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。
彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。
優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。
それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。
その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。
しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。
※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。
詳細は近況ボードをご覧ください。
【コミカライズ決定】勇者学園の西園寺オスカー~実力を隠して勇者学園を満喫する俺、美人生徒会長に目をつけられたので最強ムーブをかましたい~
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】
【第5回一二三書房Web小説大賞コミカライズ賞】
~ポルカコミックスでの漫画化(コミカライズ)決定!~
ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。
学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。
何か実力を隠す特別な理由があるのか。
いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。
そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。
貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。
オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。
世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな!
※小説家になろう、カクヨム、pixivにも投稿中。
1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!
マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。
今後ともよろしくお願いいたします!
トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕!
タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。
男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】
そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】
アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です!
コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】
マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。
見てください。
素材採取家の異世界旅行記
木乃子増緒
ファンタジー
28歳会社員、ある日突然死にました。謎の青年にとある惑星へと転生させられ、溢れんばかりの能力を便利に使って地味に旅をするお話です。主人公最強だけど最強だと気づいていない。
可愛い女子がやたら出てくるお話ではありません。ハーレムしません。恋愛要素一切ありません。
個性的な仲間と共に素材採取をしながら旅を続ける青年の異世界暮らし。たまーに戦っています。
このお話はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
裏話やネタバレはついったーにて。たまにぼやいております。
この度アルファポリスより書籍化致しました。
書籍化部分はレンタルしております。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる