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第七章 レベル上げ目的のダンジョン攻略

75話

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「あれがダンジョンのある街か」


 秋雨がそう呟きながら、進行方向に存在する街を注視する。グリムファームの街を出発してから四日後、次の目的地となる街【ラビラタ】の街へと到着する。


 秋雨が魔族と遭遇したことで、自分の力不足を痛感させられたことから、彼は本格的にレベル上げをしようと考えていた。


 そのためには、強力なモンスターが出現する狩り場のような場所を探していたのだが、街の住人やマーチャントなどから得た情報からダンジョンがおすすめだと言われていたのだ。


 さらに詳しい情報を調べていくと、グリムファームから馬車で一週間ほどの距離に小規模ではあるがダンジョンを管理する街があるということがわかった。


 その情報を元に徒歩で向かっていたのだが、秋雨の化け物染みた身体能力と転移魔法を駆使することで、僅か四日という日数で到着してしまったのだ。


 その四日の間何もイベントなどはなかったのかといえば、それなりには起こっていた。具体的には、盗賊だったり盗賊だったり、盗賊だったりだ。


 秋雨がラビラタの街に到着する四日間の間に遭遇した盗賊の数は六組で、その尽くが誰かが襲われていたところに遭遇するというものであった。


 彼の行動理念は面倒事に巻き込まれたくないというスタンスを貫いているが故に、盗賊に襲われるという失態を犯すことはなかったのだが、他の人間が襲われているところに遭遇しないように立ち回るということはしていないため、かなりの頻度でそういった場面に出くわしていた。


 いくら秋雨が人との接触をできるだけ避けているとはいえ、目の前で人が死んでいくのを黙って見ているほど冷酷な人間ではない。そのためいつもの手で秋雨が盗賊を撃退していたのだが、そこで彼は新たな能力を編み出した。


 その能力というのは“透明化”の能力である。


 今までの彼の救出スタイルは、目にも止まらぬ高速移動で盗賊を撃退し、自らの姿を誰の目にも見られないようすぐさまその場を後にするようなやり方であった。しかし、このやり方にはいくつかの欠点が生じるため、彼は頭の中でいろいろと試行錯誤を行った。


 その結果、結界魔法を使った透明化の能力を思いつき、さっそくそれを実行に移したところ、これが見事に嵌ったという訳だ。


 透明化の原理としては実にシンプルなもので、薄い結界を体のまわりに纏うことで自分以外には見えないようにする光学迷彩のような能力だ。


 この能力を手に入れてから誰も秋雨の姿を視認することができなくなったため、盗賊が油断するタイミングを狙って不意打ちでの無力化が可能となり、以前のようなダッシュしてすぐ離脱するという方法を取らなくて済むようになったのである。


 そんなこんなで、目についた盗賊たちを蹴散らしつつ目的地を目指してきたのだが、ようやく目的の街に到着することができたのであった。


 門の前にたどり着くと、そこには数十人の行列ができており、街に入るための手続きを行っているようだ。


 列に並ぶ者の形姿は様々であり、バラエティに富んでいる。荷馬車を轢く行商人や軽装に身を包んだ旅人、武装した冒険者や妖艶漂う表面積の少ない服を着た娼婦、中には盗賊と見間違うほどに人相の悪い者もいる。


 種族自体もグリムファームの街と比べると多様で、ケモ耳を頭に生やした獣人、逞しい髭を生やしたドワーフや見目麗しいエルフ、人間の半分ほどの背丈しかない小人族など様々だ。


(おおー、これぞまさしくファンタジーって感じだな! いやー、実に素晴らしい。特にエルフと娼婦が素晴らしい!!)


 などと内心で賞賛をしている秋雨であったが、結局のところその思考が異性に偏っているのが彼らしいといえば彼らしい感想であった。


 しばらくして秋雨の番となり身分証の提示を求められたため、冒険者ギルドで発行したギルドカードを兵士に見せた。特にこれといった指摘もなくすんなりと街に入ることができたので、兵士の目がザルなのかと内心で訝しんだが、秋雨の後ろに並んでいた人相の悪い男が詰め所に連行されていたので、兵士の目が節穴というわけではないようだ。


 まずは拠点となる宿の確保を優先したかったが、時間帯が昼時ということもあって秋雨は腹が空いていた。腹が減ってはなんとやらという言葉に従い、街に入ってすぐの露店で何か買うことにした。


 露店で売られていたのは何かの肉を串に刺して焼いただけのものだったが、漂ってくる肉の匂いと空腹に抗う事などできるはずもなく、二本ほど購入する。肉串の値段は、一本銅貨2枚で合計銅貨4枚だった。


「はいよ、坊主」

「ども。ところで、この街のおすすめの宿って知ってるか?」


 肉の代金を支払い、露店の店主から肉を受け取りながらこの街のおすすめの宿がないかと問い掛ける。店主の話では【月の光亭】という宿がおすすめだということで、その道のりも教えてもらった。


「もぐ、もぐもぐ……まあ、それなりだな」


 腹が減っている時はなんでも美味く感じるとはよく言ったもので、肉の味の感想は可もなく不可もないという具合であった。二本の肉串をあっという間に完食した秋雨は、店主の教えてくれた道を進み目的の【月の光亭】を目指す。


 宿に歩を進めながらラビラタの街並みを観察すると、基本的に前にいたグリムファームとあまり代わり映えはしなかった。強いていうのなら、冒険者の割合が多く人間以外の他種族が多いというところだ。


 しばらくラビラタの街並みを目に映しつつ、教えてもらった目的の宿に到着する。見た目は他の建物と同じく二階建ての木造だが、入り口に掲げられている看板に三日月の絵が描かれていた。


「邪魔をする」

「邪魔するのであれば、お帰りください」

「ああ、お疲れさん……っておい!!」


 少し堅苦しい口調で建物内に侵入したところ、日本の“なんでやねん”な人たちによる某喜劇に登場するような答えが返ってきたため、秋雨は思わずノリツッコミをしてしまった。


 秋雨の態度に吹き出しながらも「冗談です。いらっしゃいませ【月の光亭】にようこそ」と受付の女性が改めて接客してくる。


 女性の見た目は二十代前半で、赤い長髪を後ろでまとめた所謂ポニーテールの髪型で、瞳の色も赤である。町娘風の地味目なワンピースに年季の入ったエプロンを身に着けており、年相応に胸もそれなりにあるようだ。


「ちょっとお客さん、どこ見てるんですかー?」

「え? おっぱいだけど? それが何か?」

「そこ正直に言っちゃうんだ!? 普通謝る所でしょそこ!!」


 どこを見ているのか聞いてきたので正直に答えたにも関わらず、訳の分からないことを宣ってくる女性に秋雨は内心で怪訝な感情を抱く。これがまともな人間であれば、女性に対し不快に思うような視線を向けたことを謝罪していただろう。だが、秋雨にとって女性の体を見るという行為は綺麗な景色や風情のある建築物を眺めるのと同じ感覚で見ているため、それがいけないことだとは欠片ほども感じていない。


 それどころか、体の各部位を丹念にチェックし内心で総合的な点数まで付けている始末である。


「そんなことより、泊まりたいんだけど部屋は空いてるか? 六十八点」

「そんなことってなによ! しかも六十八点ってどういう意味なのかしら?」


 無意識に女性の総合点数を口にしてしまったことに内心で焦りながらも、秋雨はなんとかそれをごまかす。ちなみにどうでもいい情報だが、この世界で出会った女性の点数を挙げるなら、ケイトの母親が八十六点でケイトが八十三点、ピンクちゃんことローズが八十一点に女魔族のマリアナが七十九点である。


 そのあとも女性の追及をのらりくらりと躱し、これ以上は時間の無駄だと諦めた女性に受付を再開させることに成功した。


「まあいいわ、うちは素泊まりなら一泊大銅貨2枚と銅貨5枚、食事付きなら大銅貨3枚だけどどうする?」

「なら食事付きを十日分で頼む(さすがにダンジョンがある街だけあって、グリムファームよりも宿賃が高いな)」


 内心で文句を言いつつ、大人しく十日分の銀貨3枚を支払う。女性もこれといって特に何も気にしていなかったため、鍵を秋雨に渡す。


「部屋は二階の真ん中の部屋よ。それと、昼食はどうするの? 今行っても食堂は満席だから、食べたいならしばらく待つことになるけど?」

「それは大丈夫だ。じゃあ、これから世話になる」

「待って、あたしはナタリーヌよ。あなたの名前は?」

「俺か? 俺は秋雨だ」

「そう、じゃあこれからよろしくね」


 最初こそあれな感じではあったものの、なんとか宿を取ることができた秋雨。受付の女性ナタリーヌと軽く自己紹介を済ませた後、秋雨は宿の二階に向かった。
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