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第九章 王都バッテンガム
101話
「さて、今日はダンジョンに行ってみようかな」
予期せぬ出会いをしてしまった翌日、秋雨は主目的であるダンジョンに行ってみることにした。
ダンジョンは、王都から馬車で三十分程度の距離にあり、そこからモンスターが溢れ出さないよう厳重に警備態勢が敷かれている。
王都のダンジョンの規模は、ラビラタで入手した情報によると最深部は百階層を超えるらしく、未だに最深部のラスボスまで辿り着いた人間はいないとのことらしい。
「その前に、ネズミどもの対処が先か……」
そう言いながら、部屋の窓を開け換気をするふりをしつつ、外にいる人間をつぶさに観察する。間の抜けた表情を浮かべながらも、その視線は目まぐるしく動いており、こちらに意識を向けている存在を探り出す。
(一人、二人、三人か。いたいけな少年冒険者にそれだけの人員を割くとは……この国には暇人が多いのか、それともそれだけ俺を警戒しているのか。判断に困るな)
自分のことをいたいけと宣ってしまうのはいかがなものかと思うが、正体不明の存在とはいえ、無名の冒険者風情にそこまでの人員を送ってくることに秋雨は訝し気な顔を浮かべる。
それだけライラが秋雨を警戒しているのか、それともこの国の見張りの基本人数が三人一組のスリーマンセルだっただけなのかなど、疑問は尽きないが、とりあえず四六時中見張られてはかなわないので、さっそく策を講じることにした。
「惑わしの術【幻惑の霧(コンヒューズミスト)】。行け」
秋雨は精神魔法を応用し、幻覚作用を引きお起こす霧を発生させ、バレないよう光学迷彩を使って見張りの人間に密かに飛ばした。そのことに気づかず霧を頭から被ってしまった三人は幻惑状態に陥る。
幻惑といっても、そこにあるはずのないものが見えていたりといった程度のものであり、今回の場合、宿に秋雨が滞在しているという認識を引き起こさせるものであった。
「よし、これで俺が外に出ていることはバレないだろう」
監視の人間をだまくらかすことに成功した秋雨は、意気揚々と外へと出かける。見張りたちは、彼が外出してもそれに気づいておらず、相変わらず宿の部屋に意識が向いている様子だ。
「俺に見張りをつけるなど十年、いや二十年早いね」
などと大口を叩きつつ、彼は急ぎ足で王都の外へと向かった。
現在の時刻は日が昇ったばかりの早朝であり、行きかう人々は日中と比べても少ない。それでも、王都というだけあってすでにかなりの人の往来があり、小さくない喧騒に包まれている。
王都はかなりの規模を誇るバルバド王国の主都であるため、都市内を馬車の定期便が頻繁に走っている。それを使うことで徒歩の移動よりも早く目的地に着くことができ、利用する人数が多いため一人当たりの運賃も割安となっている。
「北門前行きの馬車、もうすぐ出発するよ! お乗りの人はお急ぎをー!!」
御者の乗車を促す声が聞こえたため、秋雨は馬車を利用することにする。徒歩であればかなりの時間が掛かる道のりも馬車の移動によりかなり短縮できた。
北門に到着し、王都で作ったギルドカードを兵士に見せ王都の外にあるダンジョン行きの馬車乗り場へ移動する。早朝だがかなりの冒険者が利用しているようで、まるで都会の満員電車を彷彿とさせる。
ちなみに、王都からダンジョンまでの馬車の運賃はタダであり、ダンジョンへ向かう人間であれば誰でも利用が可能である。ただし、ダンジョンで手に入れた報酬の一割または二割をギルドに納めるという決まりがあるらしく、馬車の運賃もここから出ている。
「うっ、き、きつい」
「へへ、坊主王都は初めてか? なら、この窮屈な馬車には早めに慣れておいた方がいいぞ」
「バッテンガムの冒険者にとっちゃあ、よくある風物詩みてぇなもんだからな」
「くっ」
ダンジョンに向かう馬車に乗り込んだのはいいものの、本当に満員電車のような人が密集しており、ぎゅうぎゅうに人が押し込まれているといった様子だ。
「あんっ、ジョージ。きついわ」
「でもそのお陰で、こうしてアンジェラとくっつけるから俺としては役得だな」
「まあ、ジョージったら」
((((けっ、見せつけやがって! 爆発しやがれ!!))))
馬車に乗り込んでいたバカップルがいちゃいちゃし始めたことで、その場にいた独身の冒険者たちの心の声が一つとなる。
(爆発しやがれ!!)
当然、その声の一つに秋雨の声が含まれていたことは言うまでもなく、いつになったら彼が女の子とそういった関係を築けるのかは現時点では不明のままである。
そんな中、馬車に揺られること三十分。予定通りダンジョンへと到着した。
ダンジョンを中心にちょっとした宿場町のようなものが形成されており、中には鍛冶場や雑貨屋など冒険者に必要な施設も多く建ち並んでいる。
「いらっしゃいませ。ギルドカードのご提示をお願いします」
ダンジョン入り口手前の受付カウンターに足を運ぶと、職員がギルドカードの提示を求めてくる。素直にカードを見せ、それを確認した職員がカードを秋雨に返す。
「王都は初めてですか?」
「はい」
「では、簡単にダンジョンでの注意事項を説明します。まず、冒険者のランクによって立ち入ることのできるダンジョンの階層が決まっていて、フォールレイン様のランクですと五階層までの立ち入りが認められております。例外はありますが、基本的にはランクに応じて立ち入れる階層が決まっていると思ってください。そして、ダンジョンで得られた素材や魔石などはあちらの買取カウンターで換金を行っておりますが、手数料として買取金額の一割から二割を徴収しておりますのでご了承くださいませ。他に何かご不明な点はございますでしょうか?」
「大丈夫です」
「かしこまりました。それでは、担当はこの私キャロルが承りました。怪我のないようお気を付けくださいませ」
そう言って、職員から説明を聞き終えた後、秋雨は受付カウンターから離れた。
それから、宿場町の施設を見て回ろうかとも思ったが、ここに来た目的がダンジョンであることを思い出したため、一度ダンジョンに行ってみることにした。
「ここにも、転移魔法陣があるらしいな」
ダンジョンの入り口付近に見覚えのある青白く光り輝く魔法陣があり、ここにも転移魔法陣が存在していることが確認できた。
ひとまず、一階層から挑戦するため、秋雨はダンジョンの中へと入っていく。
ダンジョンはラビラタのダンジョンとは異なり、洞窟型のものではなくフィールド型のダンジョンで、一階層は見渡す限りの平原が広がっている。
一体どういった原理でそうなっているのかは不明だが、難しいことは考えずダンジョンとはそういったものであると無駄な思考を破棄して前へと突き進む。
遠目から冒険者がモンスターと戦っている様子が見えるが、あまり他の連中と関わることを避けるため、大きく迂回する形で秋雨は歩を進める。
「ぷるぷる」
「スライムか。まあ、一階層だし、出てくるモンスターはその程度だろうな」
そう口にしつつ、速攻でスライムを倒しドロップしたスライムの素材と魔石を回収する。低ランクの冒険者にとってそれが貴重な収入源となるため、取りこぼしのないようしっかりと回収していく。
それから、何度からスライムやらゴブリンといった低階層に出現するモンスターを倒していき、ようやく一階層の端まで辿り着く。二階層に行くための階段がある場所は特に入り組んだ場所ではなかったため、意外に早く二階層に行けた。
一階層から二階層に行く道中、青白く光っている場所があり、どうやら転移魔法陣があるようだったので、秋雨はそこで魔法陣を使えるようにしておいた。
二階層も同じく一見すると一階層と似た構造のつくりになっているのだが、出現するモンスターが一匹や二匹ずつではなく、三匹やら四匹という一定のグループを組んで動いているのが見て取れた。
といっても、所詮は低ランクのモンスターであることに変わりはなく、特に苦戦せずに倒すことができた。
そして、それほど時間もかからず二階層を踏破し、転移魔法陣に触れた後、三階層へと順調に進んでいく。
少しハイペースな気もするが、低階層にいるモンスターと戦ったところで大きく稼ぐことはできないため、先に進めるのであれば先に進んだ方がいいと秋雨は判断する。
「キャ」
「ダンジョンバットか」
ここで新たなモンスターが姿を現す。飛行型モンスターのダンジョンバットだ。
飛んでいるため攻撃を当てにくい相手であるが、特に毒などの状態異常を誘発させる攻撃などはしてこないため、秋雨は特に問題なく討伐する。
ダンジョンバットのドロップは蝙蝠の羽と魔石で、たまにレアドロップで蝙蝠の大羽などが手に入るため、駆け出し冒険者としては積極的にレアドロップを狙っていきたいモンスターでもある。
ちなみに、蝙蝠の羽は薬師の間で薬の材料として取り扱われており、一定の需要があるため、ギルドでも常設依頼が出されている。
秋雨はそのまま順調に三階層、四階層と進んでいき、今彼が立ち入ることができる五階層へと一気にやってきた。
五階層の出現モンスターは今まで出現したモンスターに加えて、頭に一本角を持つ一角ウサギや冒険者たちの間では【半人前オーク】と呼ばれるスモールピッグマンと呼ばれるモンスターが新たに出現するようだ。
一角ウサギやスモールピッグマンからは食材となる肉類が出るため、駆け出しの冒険者にとってはいい稼ぎになる。食材であるため、自分たちの食料としても重要な役割を担ってくれ、大抵の駆け出し冒険者たちは五階層に集まっていた。
「キュウ」
「ブヒブヒ」
「ふん、大人しく我の糧となれ! そいっ」
などと、どこか中二病染みた言葉を発しつつ、一角ウサギとスモールピッグマンを撃破する。
ちなみに、スモールピッグマンは名前にスモールという言葉が使われているが、その体格は一メートル半と他のモンスターと比べて大きな体格をしている。そのため、駆け出し冒険者にとっては侮れない相手であるはずなのだが、それを鎧袖一触に斬り捨てている秋雨はどこからどう見ても駆け出し冒険者とは言い難かった。
そして、そんなスモールピッグマンからは稀に【ピッグパール】という素材がドロップし、これがなかなかの値段で売れるため、駆け出し冒険者からすればかなり美味しいモンスターだったりする。
「パールって、豚に真珠かよ……」
そこはかとなく洒落のような気がするのは、秋雨が元日本人だからだろう。豚に真珠という言葉を知っていなければ、豚から真珠が出てくることの異常さは理解できないのだから。
それから、襲ってくるモンスターを狩りつつ前に進んでいくと、複数人の冒険者たちが固まっている場所へと辿り着いた。
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