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第九章 王都バッテンガム
102話
「ソロか。お前もボスに挑む気か?」
「そうです」
最後尾に並んでいる冒険者が声を掛けてきたので、秋雨は短く答える。どうやら、ここはボス部屋になっているらしく、冒険者たちが順番待ちをしていた。
王都のダンジョンもまた一定階層ごとに階層主となるモンスターがおり、そいつを倒さなければ次の階層に進むことはできない仕様になっている。
ボス部屋は大きな扉で区切られており、どういう原理かは知らないが、冒険者が中に入るとボスとの戦闘が始まり勝敗に限らず再びボスが再配置され、再戦が可能となるようだ。
今扉の前に並んでいる冒険者たちはボスと戦うための順番待ちをしており、今か今かと待ち受けていた。
「ここまでやってくるからには、それなりなんだろうけど、一人で大丈夫なのか?」
「大丈夫です。問題ありません」
なにやら、フラグっぽい発言をしてるように聞こえるが、果たして本当に問題ないのかは戦ってみないと秋雨にもわからない。
そこから、三十分ほどして秋雨の番が回ってきたので、油断せずにボス部屋の扉を開ける。
中は意外と広く、二十五メートルプールより一回りほど大きな広さをしており、戦うには十分な場所になっている。
「さて、何がいるやら。……ん? あれは、狼。ウルフか? こんなときの【鑑定先生】だ。てことで、よろしく~」
そこにいたのは、体長が二メートルほどある狼型のモンスターであった。すぐに鑑定を使って調べると、こんな結果が表示される。
【ダンジョンウルフ】
ステータス:
レベル3(ランクF)
体力 51
魔力 33
筋力 45
持久力 36
素早さ 69
賢さ 25
精神力 34
運 22
スキル:体当たりLv1、連帯行動Lv2、かみつきLv1、嗅ぎ分けLv2
モンスター名はダンジョンウルフといい、どうやらダンジョン固有のモンスターらしい、ステータスはそれほど大したことはないのだが、いかんせん数が多く、二十匹ほどの群れを作っている。
一匹の強さはそれほどでもないが、数の暴力というものは実際かなり厄介であり、駆け出し冒険者であれば苦戦は必至である。
「暴風の鎌鼬(サイクロンスラッシュ)」
だが、それはあくまでも駆け出し冒険者であればという注釈が付き、今回の場合において秋雨には当て嵌まらない。すぐさま斬撃を発生させ、相手に飛ばす風魔法を使って器用にダンジョンウルフの首だけを切断していく。
いかなる生物においても、脳と直結している首を切断されては生命を維持することはできず、即座にその動きが止まり、ダンジョンウルフたちが再び動いてくることはなかった。
「まあ、こんなもんだな」
当然のようにあっさりと片づけた秋雨は、光の粒子となって消えていくダンジョンウルフのドロップ品である皮やら牙やらを回収し、次のフロアへと歩を進める。
今彼が持つフォールレイン名義のギルドカードで攻略可能な階層は五階層までであり、本来であれば攻略はここまでとなる。だが、ラビラタのダンジョンで使った裏技を使えばダンジョンのシステム上の穴を突くことができると踏んでいた。
「おっ、見ない顔だな。新人か?」
「……」
だが、そうそう上手くいくはずもなく、六階層に行くための扉のすぐ横に仮設的なカウンターが備え付けられており、そこにはギルドの職員が在中している。
どうやら、次の攻略可能階層に行くための許可を出すためなのと、許可なく勝手に次の階層に行かないよう見張りを兼ねた人員が配置されているようだ。
(さすがに、二度同じ手は通用しないってわけか)
秋雨は内心でそう思いながらも、カウンターに近づいていく。すると、彼が一人であることを怪訝に思った職員が片眉を吊り上げながら問い掛けてくる。
「君だけ? 他に仲間は?」
「今はソロでやってます」
「そうかい、そりゃあいろいろと大変そうだ。この先に進むのなら、パーティーを組んだ方がいいよ。実入りは下がるけど、確実な安全を確保できるのは間違いないからね。おっと、少ししゃべり過ぎたね。ギルドカードの提示を」
職員からすればただの親切で言ったようだが、秋雨の特異性から見て今後パーティーを組むという選択肢は最初からない。ラビラタでは、一時的にミランダとパーティーを組む羽目になってしまった彼だが、そのとき嫌というほど痛感した。
自分の実力を隠した状態で行動するというのがどれだけ窮屈かということを……。
そんな状態が継続すれば、ストレスでどうにかなってしまうことは想像に難くなく、かといって相手に実力を知られれば面倒事を押し付けられる可能性が高くなる。
隠しておきたい秘密というのは、できるだけそれを知っている人間が少なければ少ない程いいとされており、知っている人間が多くなればなるほどそこから秘密が漏れる可能性が高まる。
だからこそ、秋雨はソロでの冒険者活動にこだわっており、他の誰かと行動するという選択肢を最初から除外してしまっていたのであった。
「これでよし。これで、六階層以降の攻略できるようになったよ」
「ランクが上がったってことですか?」
「いいや、攻略の許可だけだよ。ランクはそのまま」
職員の話によると、ランクによって攻略できる階層を決定する方式は、実力があるのにランクによって冒険者の活動の妨げになるのではないかという意見が出た。
もちろん、実力が伴っていなければならないという前提条件があるが、ギルドの上層部でいろいろと話し合った結果、特例措置として一時的に攻略できる階層数の許可を出すということに落ち着いた。
ギルドによって許可の出し方は様々だが、王都の場合はランクごとに区分けされている攻略可能階層の手前に関所的な施設を設置し、その都度攻略階層の許可を申請するという方式を取っているらしい。
そして、ランクによる区分けとは別の許可を出すことによって、低ランクの冒険者でも自分の実力に見合った階層まで攻略することができるようになったのだ。
ただし、この許可はあくまでも一時的なものであり、今まで通りランクを上げる必要がある。
「とりあえず、八階層まで攻略許可は出しておくけど、それ以降の階層を攻略したかったらランクを上げてね。まあ、七階層を攻略できれば自然とランクは上がるから問題ないと思うけど」
「わかりました。とりあえず、七階層を目指してみます」
そう言って、ギルドカードを受け取り、転移魔法陣に触れた後、秋雨は六階層に繋がる階段を下りていく。
六階層は今までの平原フィールドとは打って変わって、所々に木々が生えた雑木林のようなフィールドとなっており、その分視界が制限されているため遠くまで見通すことが難しい。
もっとも、それはあくまでも一般の冒険者であるならばという話であり、秋雨はそれに当て嵌まりはしない。
「ふむふむ、近くにモンスターの気配と冒険者の気配がちらほらあるな。じゃあ、こっちに進むか」
彼の持つ索敵能力を使えば、どこにどんな存在がいるのかが手に取るようにわかり、それを駆使してできるだけ人気のない方へと進んでいく。
その道中、木の根元や岩の日陰になっているところを見てみると、薬の材料となる薬草や茸などが生えており、一種の群生地となっているようだ。
冒険者たちの間でも、この六階層は採集が可能なエリアとして人気のスポットであり、冒険者だけでなくたまに薬師も護衛を雇って訪れることがある。
そして、ダンジョンの仕様として根こそぎ薬草を引っこ抜いたとしても、一定時間経過すると再び同じ場所から薬草が生えてくるため、王都ではポーションの価格が他の都市よりも安いというのが有名な話として知られている。
「そうだ。薬草と茸を採集がてら、ここらへんで偽装工作を行っておこう」
そう言いながら、秋雨は腰に下げた魔法鞄に偽装したアイテムボックスからあるものを取り出した。
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