モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件

こばやん2号

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第4話

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「ふむふむ。まあ、ログイン前と変化なしだな」


 所持品を確認したクラフは、ぽつりとそんなことを呟く。彼が所持しているのはビギニング平原で入手したアイテムでヒーリングプラント、スライムゼリー、ポイズンプラント、セントハーブの四種類だ。


 特にレア度の高いアイテムはないものの、クラフにとっては生産活動を始める第一歩となるアイテムたちであるため、重要な財産である。


「さて、まずはポーションを作ってみようか」


 調合の定番といえば、やはりポーションだ。最初の時点で、初心者用ポーションなどという名前のポーションがあるのだから、初心者用でないポーションが存在しているのは簡単に予想が付く。


 そこで、前回の戦闘で使い切ってしまった初心者用ポーションの代わりとなるポーションを作製できないかと考えたクラフは、さっそく作業台に置いてある器具を使うことにする。


「なるほど。ヒーリングプラントと水で下級ポーションができるのか」


 器具を手に取ると、調合に使うアイテムの選択画面が表示される。そして、必要な素材と調合の結果が表示されており、下級ポーションはヒーリングプラントと水で調合ができるらしい。


 調合については、必要な素材を選択し調合するボタンを押せば自動で調合してくれるのだが、それはあくまでも基本的なアイテムのみであり、レア度の高いアイテムなどは自動ではなく、自らの手で調合作業をしなければならない仕様となっている。要は、オートとマニュアルによる違いだ。


 ひとまずは、調合の結果を知るためヒーリングプラントを選択しようとしたところで、重大なことにクラフは気付く。何かといえば、もう一つの素材となる水がないのだ。


「水はどこだ? ……ああ、あれか」


 作業台を取り囲むように設置された施設の中に大きな古ぼけた瓶が置いてあり、そこには水が入っている。瓶に近づくと、“水を入手しますか?”と表示されたので迷わずYESを選択する。手に入れた水をさっそく鑑定すると、こんな情報が表示された。




【水】:何の変哲もないただの水。飲んで良し、調合に使って良し、何でもありである。 効果:満腹度を1回復 レア度:1 品質:★




 本当にただの水らしいが、ここで新しく満腹度というものについて触れていくことにする。FLOSには満腹度というものが存在し、それがゼロになるとHPが時間経過と共に徐々に減少していき、放っておくと死んでしまう。それを防ぐためにプレイヤーは常に満腹度に注意しておかなければならず、満腹度を回復させるアイテムを所持しておく必要がある。


 満腹度の初期の数値は0から100までとなっており、特定の行動を取ることで減少していく。満腹度はレベルアップなどの特定の条件を満たすことで最大値を増やすことができ、現在トッププレイヤーと呼ばれるプレイヤーの満腹度の最大数値は250を超えている。


 現在レベル2のクラフの満腹度の最大数値は101となっており、残りの満腹度は54となっていることから、もうそろそろ何かで満腹度を回復させた方がいい頃合いだ。


 ちなみに、ビギニング平原で入手したアイテムの詳細は以下となっており、何か調合に使えるものがあるか改めてクラフは模索しているところだ。





【ヒーリングプラント】:ポーションの材料になる薬草。この薬草単体でもHPを回復できるが、効果は薄い。 効果:HPを1回復 レア度:1 品質:★



【スライムゼリー】:スライムから入手できる。これ単体では何の意味もなさない。感触はぷにぷにしている。 効果:なし レア度:1 品質:★



【ポイズンプラント】:その名の通り、毒のある草。食べると、毒になる。……試しに食べてみるか? 効果:微毒状態になる。五秒に一回1ダメージ レア度:1 品質:★



【セントハーブ】:いい香りのするハーブ。料理などの匂い消しに有効。 効果:特定の匂いを消す レア度:1 品質:★





「水は汲み放題らしいな。これは助かる」


 水を入手したクラフは、先ほどできなかったオートでの調合を試みる。手持ちのヒーリングプラントとさっき入手した水が一個ずつが消費され、手元に残ったのは試験管に入ったポーションだった。




【下級ポーション】:格としては最も低いポーション。錬金術師や薬師でなくとも調合が可能なほど手軽に作れてしまう。通称:ちょろポーション。 効果:HPを20回復 レア度:1 品質:★☆




「下級ポーションの方が回復量が少ないのか……。だとするなら、初心者用ポーションを使い切ったのは痛かったかな」


 下級ポーションの効果が初心者用のポーションと比べて低いことに気付き、クラフは初心者用ポーションを使い切ってしまったことを後悔する。だが、素材さえあればこの下級ポーションを無限に量産できるのであれば、回復については問題ないだろうと気を取り直し、今度はマニュアルによる下級ポーション作製を試みることにする。


 先ほども説明したが、FLOSの生産作業は自動的に素材を消費して目当ての品を作るオート操作と、一から手作りで品を作るマニュアル操作の二パターンの製作方法が存在する。


 この二つの作業の違いは、オートの場合確実に失敗することなく目的の品を作り出せるが、高品質のものはできず、逆にマニュアルの場合だと間違った工程を踏んでしまうと、失敗して何も生み出せなかったり品質が低いものが出来上がってしまう。その代わりに、成功すれば高品質の品物を作り出すことができるという点がメリットとして存在している。


 ちなみに、こういった回復系などの消耗アイテムは、下級・中級・上級・超級・特級・最上級という位に分類され、当然だが上位のものになればなるほど与える効果や持続時間などが高くなったり長くなっている。


「他は……【ポイズンプラント】と【セントハーブ】と【水】で【下級解毒薬】ができるな。これもオートで作製しておこう」


 クラフは、他に何かできる組み合わせはないのかと模索してみた。その結果、【下級解毒薬】なるものができそうだったので、これもオートで作製した。そして、即座に鑑定してみると、こんな結果が得られた。





【下級解毒薬】:微弱な毒を解毒する効果のある薬。調合はそれほど難しくはない。むしろ簡単。 効果:20%の確率で微毒状態を回復 レア度:1 品質:★☆





 基礎の中の基礎ということもあってか、“下級”と付くポーションや薬は錬金術師や薬師でなくとも調合スキルがあれば調合は可能なようだ。ただし、調合のための素材があるのならという注釈は付くが……。


「なんで、料理用のハーブで解毒薬ができるんだ?」


 そんな疑問を抱いたクラフは、試しにポイズンプラントを手に取って匂いを嗅いでみた。すると、少し癖のある青臭い香りがすることがわかり、この臭いをセントハーブが消すことで解毒作用を発揮するという解釈らしいことを発見する。


 臭いを消せば解毒効果が出る毒草とはこれ如何にという突っ込みをもらいそうだが、そこはゲーム&ファンタジーという常套句を使い、クラフはそのことについてはあまり気にしないことにした。


 とりあえず、この二つのアイテムを量産することにしたクラフだが、もちろんオートでやるつもりはない。ここからが生産の面白いところなのだから。


「よし、ここからはマニュアルで作っていこう」


 クラフがそう呟くと、さっそくマニュアルによる調合を開始する。手始めに、ヒーリングプラントを茎と葉の状態に分離し、一旦葉の部分だけを使って調合してみる。すると、出来上がった下級ポーションに変化が見られた。




【下級ポーション】:格としては最も低いポーション。錬金術師や薬師でなくとも調合が可能なほど手軽に作れてしまう。通称:ちょろポーション。 効果:HPを27回復 レア度:1 品質:★☆☆




 なんと、回復量と品質が向上したのである。


 下級ポーションの材料となるヒーリングプラントは、部位としては葉と茎とで別れており、現実世界の葉に例えるなら見た目的にヨモギに近い見た目をしている。


 そこに目を付けたクラフは、一度葉の部分のみを用いて調合することを思い付き、試しに実践してみた。そうして出来上がった下級ポーションは、オートで調合したものよりも効果が高いという結果をもたらしたのだ。


「いいぞ。次は茎の部分のみを使ってやってみよう」


 続いて残っていた茎の部分を使ってみると、今度は回復量が10、品質が★を割り込み☆☆☆にまで低下してしまった。どうやら、茎の部分が不必要な部位であり、そこを取り除いて調合することで高い効果を発揮できるようになっているらしい。


『初級鑑定・下がレベル2に上がりました』


 そんなことをしていると、鑑定スキルのレベルが上がった。それなりに鑑定スキルを使っているにも関わらず、今の今までレベルが上がらなかったことを考えると、レベルアップまでに必要な経験値はかなりのものだと推察できる。


 今後は、さらにも増して積極的に鑑定を使っていこうと心に決めたクラフは、次に葉の部分を使った調合法の実験を行うことにする。


 調合といっても、様々な工程や技術が用いられ、素材をそのままの状態で使用する場合もあれば、すり潰したりちょっとした加工をした状態で混ぜ合わせたりと、その方法は多岐に渡る。


「次は結構踏み込んでみるか」


 今までプレイしてきたクラフト系ゲームの経験を活用し、クラフはそれらしい工程を一気に踏んでみることにした。


 まず、効果の高い葉の部分を使い、ペースト状になるまですり潰す。すり潰したそれを濾すための器具を使って滑らかな状態になるまで濾していき、葉の破片などの異物となるものを取り除いていく。


 それを十数回ほど繰り返し、サラサラとした液状に近い状態となったところで、水と掛け合わせてみた。そして、出来上がったもの鑑定してみると……。




【下級ポーション+】:格としては最も低いポーションだが、錬金術師や薬師が専門知識を用いて調合しており、通常よりも効果が高くなっている。 効果:HPを40回復 レア度:1 品質:★★




「うん、いいね」


 調合の結果にクラフは満足そうに頷く。やはり葉の部分を加工して調合すれば、かなり効果を高めることができるようだ。しかし、クラフはこれで満足していない様子で、さらに上のポーションができるのではないかと模索する。


 その結果、調合に使用する水を煮沸し、不純物を取り除くという方法を発見したことで、最終的にこんなポーションが生まれた。




【下級ポーション++】:格としては最も低いポーションだが、錬金術師や薬師が専門知識を用いて調合しており、通常よりも効果が高くなっている。 効果:HPを60回復 レア度:1 品質:★★☆☆




「こんなもんかな」


 最終的な調合の結果に、クラフも満足したようで、残った分のヒーリングプラントを使用してこのポーションを量産していく。なんと、一度調合したアイテムは調合リストに登録される仕様となっており、そこから選択することでマニュアルによる調合過程をすっ飛ばして調合が可能となっていた。


 もちろん、調合に必要となる素材を消費することになるが、いちいち複雑な工程を踏まなくて済むようになったのは大きく、すぐさま下級ポーション++が十個以上量産されることになった。


「一応、ヒーリングプラントは何個か残しておこう」


 またビギニング平原で取りに行けばいいにしても、ある程度余裕を持った素材管理をしておくことが癖づいているクラフは、手持ちのヒーリングプラントをすべて消費せずに何個か残しておいた。


 次にクラフが手を付けたのは、二つ目に調合した下級解毒薬である。元となった素材の残りが少ないが、都合三回分の調合が可能であるため、いい結果を得られなくともその足掛かりになるヒントが得られればということで、調合を開始する。


「ヒーリングプラントはヨモギで、こっちはドクダミか。まあ、実際ドクダミに毒はないんだけどな」


 ポイズンプラントの見た目は、紫の筋が通ったハート形の葉をした植物で、本家のような白い花はないが特徴的な葉の形はドクダミそのものだ。クラフも言っていたようにドクダミ自体に毒はなく、むしろ【十薬】と呼ばれる生薬として用いられ、名前とは逆に解熱や解毒効果がある。


 ヒーリングプラント同様茎の部分と葉の部分に分離させ、同じようにすり潰したものを幾度か濾してサラサラの状態にする。もう一つのセントハーブは、ひと昔前に流行った病原菌によってゾンビ化した街から脱出するサバイバルホラーゲームに登場する回復アイテムのような見た目をしており、こちらも同じようにすり潰そうかと考えたが、何か違うような気がしてクラフは思い留まった。


『生産職人見習いがレベル3になりました。スキル【乾燥】を習得しました』

「うん? 乾燥?」


 ポイズンプラントを何度かすり潰したところで、経験値が溜まったらしく、生産職人見習いのレベルが上がり、クラフは新しく【乾燥】というスキルを手に入れた。


 【乾燥】は名前の通り乾燥させるスキルだが、水気のあるものを取ったりするという意味合いも含まれているため、木材の水分を無くし薪を生成することにも使えるスキルだ。


 某サバイバルゲームでも【調合したハーブ】という効果の高い回復アイテムの見た目は粉状となっており、おそらくは乾燥させたハーブを使っていることは容易に想像できる。
 となってくれば、今回の場合においてもセントハーブの処理については、乾燥させ粉状にしたものを使えばいいのではとクラフは考え、さっそく新たに手に入れた【乾燥】スキルを使用してセントハーブを乾燥させ粉状に加工する。


「この二つを混ぜ合わせて、後は煮沸した水をここに入れれば……」


 処理が終わった素材をすべて調合するとあるアイテムへと変化する。ちなみに、煮沸した水は【蒸留水】という不純物の少ない水の上位アイテムに変化していた。


 そして、出来上がった下級解毒薬は下級解毒薬+となり、その効果は微毒または毒を50%の確率で解毒するというものだった。


 ここで毒についての説明をしよう。FLOSにおける毒は微毒・毒・中毒・猛毒・劇毒・大劇毒の六段階に設定されており、それぞれ以下のような効果を持っている。




【微毒】:大したことのない毒。 五秒に一回1ダメージまたは最大HPの3%ダメージ 持続時間:二十秒



【毒】:それなりの毒。 三秒に一回1ダメージまたは最大HPの5%ダメージ 持続時間:三十秒



【中毒】:それなりに強い毒。 一秒に一回1ダメージまたは最大HPの10%ダメージ 持続時間:四十五秒



【猛毒】:強い毒。 一秒に一回3ダメージまたは最大HPの20%ダメージ 持続時間:六十秒



【劇毒】:かなり強い毒。 一秒に一回5ダメージまたは最大HPの30%ダメージ 持続時間:九十秒



【大劇毒】:ヤバい毒。 一秒に一回10ダメージまたは最大HPの50%ダメージ 持続時間:百二十秒




 毒には遅効性と即効性のものがあり、遅効性の場合○○秒に一回〇ダメージという効果が適応され、即効性の場合だと最大HPの〇%という効果が即座に適応される。


 前者の場合、モンスターの攻撃による追加効果や一部のアイテムを使用することで、効果が発揮される場合が多く、後者の場合、ダンジョンの罠やクエスト・イベントなどのギミックとして登場する傾向にある。


 そして、遅効性と即効性の違いはそれだけではなく、解毒薬系のアイテムが使用可能なのは遅効性の毒に対してのみであり、即効性の毒については毒耐性などの耐性系のスキルを習得することで、その効果を軽減させることができる仕様となっている。


「+ということは、まだ上があるってことだよな? うーん……あっ、思いついた」


 調合の結果が思っていたものと違っていたクラフは、さらに上の解毒薬を作るべく思案する。それほど長くない時間を思考を研ぎ澄ませることに費やし、クラフト系ゲーマーとしての経験がすぐにその答えを導き出す。


「ポイズンプラントのペーストにヒーリングプラントのペーストを足して、そこにハーブの粉と水を混ぜればいいんじゃないか?」


 クラフが出した答え。それはポイズンプラントをサラサラのペースト状にし、そこにセントハーブの粉を追加する前にヒーリングプラントのペーストを混ぜ込むことだった。そうすることで、HP回復効果を追加させることができ、さらに上の効果を持つ解毒薬が作れるのではと考えたのだ。


 さっそく実行してみると、案の定というべきか出来てしまった。そして、確認のために鑑定してみると、そこにはクラフの思ったと通りの結果が映し出される。





【下級解毒薬++】:微弱な毒を解毒する効果のある薬。錬金術師や薬師が専門知識を用いて調合しており、解毒効果にHP回復効果が追加されている。 効果:50%の確率で微毒または毒状態を回復。解毒判定後、HPを15回復 レア度:1 品質:★★





「やったぜ!」


 思った通りの結果になり、クラフは思わずガッツポーズする。だが、彼は気付いていなかった。出来上がったこのアイテムが、FLOSの中で未だ発見されていない初出のアイテムであるということを。そして、その初出のアイテムをVRMMOを始めたばかりの初心者が生み出してしまったという事実を。


 そんな大事を引き起こしてしまったとは露知らず、すべての調合が完了したところで、手に入れた素材の大半を使い果たしてしまったクラフは、次なる行動へ移ることにした。その行動とは……。


「販売だな」


 そう、生産系のゲームはアイテムを作り出すのはもちろんのことだが、作ったアイテムを販売または売却することもまた楽しみの一つなのだ。自分が苦労して生み出したものが一体いくらの価値を持っているのか、クラフト系ゲーマーとしては気になるところであり、価値の高い品を作れた時の達成感は、何物にも代えがたい楽しみだったりするのである。


 それ故に、生産活動を終えた彼の次の行動は、当然のように生み出した品物の販売または売却であり、自分の生み出した作品がどれだけの価値になるのかの確認である。


「ええと、このゲームでアイテムを売る方法はと……ふむふむ、マーケット市場による簡易店舗の販売が主流と。後は、NPCや既に店舗を出しているプレイヤーに買い取ってもらう方法もあるのか」


 アイテムを販売または売却する場合、自分の店舗を作成してそこでアイテムを出品する方式がメインとなっている。【マーケット市場】という場所に専用の簡易的な店舗を設営することが可能で、それ以外となってくると、クラフが独り言ちた内容と同じく、NPCに売却または既に店舗を設営しているプレイヤーに買い取ってもらう方法になる。


 その他にはプレイヤー個人個人での売買として、品物と金品をトレードするというやり方もあるが、この手の方法は信用のおける相手との取引が前提条件であるため、運営としてはあまり推奨できない方法だ。


「まあ、物は試しということで、行ってみるか」


 ひとまずは、何事も経験してみないことにはわからないため、クラフは一度生産活動に一区切りをつけ、マーケット市場へと向かおうとしたのだが、ここであることに気付いてしまった。


「生産工房のレンタル時間。四時間もいらなかったな……」


 実際クラフが生産工房を利用していた時間は、実質的に二時間も経っておらず、まだ残り半分以上もある。生産工房の利用は、一度施設を出てしまうと再利用するためには再びレンタルしなければならないのだが、当然その際にはレンタル代金が発生するので、今外に出ると残りの二時間分の200ゼニルが無駄になってしまう。


「背に腹は代えられんか。まあ、作ったアイテムが売れれば金が手に入るから、それで無駄になった金を取り戻そうではないか」


 などと、自分の失態にフォローを入れつつ、クラフは生産工房から外に出るため入ってきた扉に向かって行く。すると、ウインドウが出現し、“街に戻りますか?”という選択肢からYESを選択する。


 生産工房の受付に戻ってくると、受付をしてもらった男が「またのご利用待ってるぜ」と言われ、クラフは男に礼を言うと、生産工房を後にする。


 それから、一度広場へと転移し、そこから生産工房とは逆の方向に歩を進める。すると、大きなアーチ状の垂れ幕が視界に映り込んでくる。垂れ幕には“ようこそ、マーケット市場へ”という文字がでかでかと記載されており、一目でそこがマーケット市場だということがよくわかるようになっていた。


 目的の場所に近づいていくと、入り口に女性NPCがおり、簡単なマーケット市場についての概要を説明してくれた。プレイヤー専用の店舗を設営できる場所であり、街とは別の場所にある特殊なエリアらしい。基本的にどの街にもマーケット市場に行くための入り口が備わっているが、マーケット市場から一度も訪れたことのない街に行くことはできないため、不正なショートカットはできない仕様になっている。


「おお、人が多い。まるでごm……いや、やめておこう」


 かなり昔に流行った、某アニメ制作会社が手掛けた作品の某キャラクターの台詞を言いそうになったが、寸でのところで思い留まった。クラフの中で何か嫌な予感がしたらしい。


 それはそれとして、マーケット市場は今まで見て回った場所の中でもプレイヤーの数が尋常ではなく、すべてのプレイヤーがここに集結しているのではないかと錯覚するほどだ。


 出店している店舗は自動販売機型の簡単なものもあれば、祭りなどで見かける露店タイプの店舗も存在しており、大きなところだと六世帯ほどが住めるアパートくらいの規模の店舗も存在していた。


「とりあえず、相場の確認からいくか」


 クラフはまず自分の作品の価値を知ることではなく、他のプレイヤーがどのアイテムをどの程度の値段で販売しているのか確認することにした。手近に設営されていた見た目が自動販売機のような店舗に近寄ると、販売されているリストがウインドウに表示される。


「どれどれ。下級ポーションが150ゼニルで、下級解毒薬が200ゼニルか。思っていたよりも安いぞ」


 クラフの予想していた相場よりもかなり安い値段だったことに少し期待外れを感じつつ、さらに他の店舗を回っていろいろと情報を探ってみた。


 そこで判明したのが、下級ポーションと下級解毒薬の材料となるヒーリングプラント・ポイズンプラント・セントハーブも販売されており、その平均販売金額はそれぞれ30ゼニル、50ゼニル、40ゼニルだった。


 つまりは、最低レベルの下級ポーションを作った場合の差額は120ゼニルで下級解毒薬については二つ素材を消費するため、110ゼニルが実質的な儲けとなることがわかったのだ。


 店舗の中には、下級ポーション+や下級解毒薬+もそこそこあったが、クラフが値段を確認している傍から売れていき、その値段はそれぞれ300ゼニルと400ゼニルだった。


「やっぱ、効果の高い方が値段が高い傾向にあるけど、それでも1000ゼニルとかいかないのか」


 このFLOSの相場に釈然としない部分があるクラフだったが、今自分がプレイしているゲームが必ずしも今まで自分がやってきたゲームと同じだとは限らないということを改めて痛感したところで、いよいよ自分の作ったアイテムを売りに行くこととなり、少しでも高く買ってくれそうな店舗を求めて彷徨い歩いた。


 マーケット市場での店舗については、自身の不要になった装備やアイテムなどを処分したり資金を得たりする目的のプレイヤーもいるため、店舗を設定する際他プレイヤーからアイテムを買い取るか否かの設定があらかじめできるようになっている。


 生産職でないプレイヤーは、そのほとんどが売買に興味がない者ばかりであるため、他プレイヤーからの買い取りをやっている店舗は珍しい傾向にある。


 そんな中、クラフが探し回ってようやく見つけた店舗は、露店型で規模としては自動販売機型の次の段階の店舗だった。


「すみませーん。誰かいませんかー?」


 声を掛けてみるものの、その声に反応する者はおらずどうしたものかとクラフが思っていると、目立つ場所に張り紙がされていることに気付く。そこには“ログアウト中です。買い取り希望の方は、右手にある【買い取り申請ボックス】にアイテムを納品しておいてください”という記載があった。


「買い取り申請ボックス? ……ああ、あれか」


 張り紙に記載されていた通り、クラフが視線を右に向けると、手前に引っ張ることで入り口が現れるダストシュート型のゴミ箱のようなボックスが設置してあった。おそらくこれが【買い取り申請ボックス】であることを予想したクラフは、さっそくそれを使って買い取りを申請してみることにする。


 ボックスに近づくとウインドウが表示され、“買い取りたいアイテムを選んでください”というメッセージが表示される。


「そうだな。自分用にも回復アイテムは確保しておきたいから、とりあえず……これとこれとこれとこれとこれぐらいにしとくか」


 そう言いながらクラフが選んだのは、下級ポーション++を製作する過程で出来上がった、回復量が20と27の下級ポーションに回復量が40の下級ポーション+。そして最終完成品の下級ポーション++が十二個あるうちの五個を自分用として確保し、残った七個と下級解毒薬+と下級解毒薬++をそれぞれ一個の合計十二個を買い取りに出すことにした。


「これでよしと。……うん? “この買い取り申請ボックスを買い取り先ショートカットに登録しますか?”だって?」


 FLOSでは、買い取りをやってもらいたいがマーケット市場にいちいち足を運ぶのは面倒だというプレイヤーのために、特定のプレイヤーが所持する店舗の買い取り申請ボックスをショートカットに登録することができる機能がある。


 この機能により、メニュー画面から買い取ってほしいアイテムを選択することで、わざわざマーケット市場に赴かなくとも買い取りを申請することができるのだ。


「へえー、便利じゃん。とりあえず、登録料もかからないようだし、登録しておくか」


 マーケット市場と生産工房を往復する手間が省けるのならという理由から、クラフはこの店舗の買い取り申請ボックスをショートカットに登録した。あとは、店舗の持ち主であるプレイヤーが戻ってきて買い取りの査定を行ってもらうのを待つだけなのだが、ただ待っているだけでは時間がもったいないということで、まだ見ていない他の店舗も見て回ることにした。


「いくらになるのか楽しみだな」


 そんな期待の籠った思いをクラフは抱きつつ、うきうきとした気分で彼は店舗を後にした。だが、彼は知らなかった。彼が買い取り申請を出した店舗の持ち主が、販売を専門に行う商人プレイヤーの中で現トップの立ち位置にいるプレイヤーだということを。そして、この買い取りが発端となり、停滞していたFLOSに新たな旋風を巻き起こすということを……。
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