25歳のオタク女子は、異世界でスローライフを送りたい

こばやん2号

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5話「アラリスの街でお買い物するみたい」

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 あのあとすぐに広場で情報収集した結果、宿とは反対方向の通りの先に日用品を取り扱う店があるということが判明し、その情報に従ってそれらしき店へと足を向ける。


「服が売ってるのは、ここかな」


 そう呟く姫の見上げる視線の先には、看板があった。看板には“サリー服飾店”と書かれているが、もちろんその文字は日本語ではない。


 しかしながら、こちらの世界にやって来た際に修得していた【異世界言語学】というスキルのお陰で、問題なく意味を理解できる。


「この歳で、外国語の言葉と文字の読み書きなんて、とてもじゃないけど覚えられないから助かるわー」


 などとなんとも情けないことを口にしている姫だが、TVゲームに登場する言葉や文字などの攻略とは全く関係のないどうでもいいディティールをすぐに覚えてしまうことを思えば、彼女のオタクとしての業の深さが窺い知れる。


「いらっしゃいませ、本日はどのようなものをお探しで?」


 店内に入ると、そこには姫と同世代くらいの妙齢の女性がおり、にこやかな笑顔で出迎えてくれた。店内には、棚やテーブルなどに綺麗に折りたたまれて積み重ねてある、数十着の古着が陳列されている。


 地球にある販売店と比べ、その品質は天と地ほどの差があれども、今の姫にとっては十二分に有難いと感じていた。


「一般的な女性服を数着と、数日分の下着をください」

「かしこまりました、少々お待ちください」


 そう言いつつ、店員が姫の背格好から数パターンの女性服を見繕ってくれた。ちなみに下着類は、試着してしっくりくるものを選んだ。


 店員の対応も丁寧で、この点は地球の店となんら遜色はなかった。肝心のお値段だが、たくさん購入してくれたということで、いくらか値引いてもらい、締めて2000ゼノという値段に落ち着いた。


 満足した姫は、気持ちよく支払いをしようとしたが、持っているお金は小金貨しかなかったので、それを出したらびっくりされた。当然だが、きっちりおつりは貰ったようだ。8000ゼノ、大銀貨八枚のお返しである。


 女性のリアクションが大きかったのを受け、大銀貨二枚分を小銀貨二十枚と両替してもらった。これで次からは驚かせることなく買い物ができるだろう。


「お買い上げありがとうございました」

「も、持てるかなこれ」

「お客様は、アイテム袋はお持ちでないのですか?」

「アイテム袋? 持ってないけど、なんですかそれ?」


 店員の説明によると、見た目は小さいがたくさん物が入り、入れた物の重さを感じることなく持ち運びができるという、とても便利な魔法の鞄らしい。


 持っていれば便利だが、その分値が貼ってしまい、平民の間では贅沢品として知られている。尤も、安いものだと5000ゼノ程度で買える品も存在しているらしい。


 その程度の金額であれば、平民でも一か月分の生活費程度なので入手は不可能ではないが、その分入る容量が少ないので一概に良いとは限らない。


「そのアイテム袋はどこに行けば、手に入りますか?」

「ちょうど、お隣の店が道具屋なので、そちらで手に入ると思いますよ」

「わかりました。あと、ここで買った服に着替えてもいいですか?」

「どうぞ、こちらでお着替えください」


 さっそく購入した服に着替え服屋を出ようとすると、女性店員に呼び止められた。どうやら姫が着ていた服が気になったようで、見せて欲しいと頼んできた。


 仕方なく見せると、何かぶつぶつと専門用語のような言葉を呟いたあと、姫にこう投げ掛けてくる。


「とても縫い目が細かくて、丁寧な仕上がりですね。どこのお店で購入されたのですか? やはり王都で?」

「ええ、まあ……」


 店員の追及に、曖昧に姫は返答する。本当のことを言えないということもあり、そういった返事しかできないのは致し方ない事だとわかっていても、どこか後ろめたさを感じずにはいられない。


 罪悪感から逃れるため、テキトーな相槌を打ちながら早々に隣の店へと向かった。


 両手一杯の服を抱えながら隣の店に入ると、そこにいたのは中年の男性だった。大量の服を抱えていることに、訝しげな視線を向けながらも客だということでぶっきらぼうに口を開く。


「らっしゃい、なにをお求めで?」

「アイテム袋を見せて欲しいのですが」

「ああ、なるほど。少し待っててくれ」


 姫がアイテム袋を買いに来たとわかった男性は、なぜ彼女が服を両手に抱えていたのかという疑問が晴れたらしく、店の奥へと引っ込んでいった。


 しばらくして、男性が腰に付けるタイプのポーチのようなものを複数個持って出てきた。おそらく、そのポーチがアイテム袋だと姫は当たりを付ける。


「これが、アイテム袋だ。それで、どいつにする?」

「容量と値段はいくらですか?」

「おう、そうだったな。値段はお嬢さんから見て、左から5000・二万・五万のアイテム袋だ。容量はそれぞれ3㎏・30㎏・100㎏だな」


 値段と容量の比率が合っていない気もするが、入れられる量によって値段が高くなるのは至極当然だ。


 姫は少しの間思考を巡らせ、真ん中の容量が30㎏で値段が二万ゼノのアイテム袋を購入することにした。


「お嬢さん、疑う訳じゃねぇがちゃんと払えるのか? 二万ゼノだぞ」

「大丈夫です。ちょっとこれ置かせてもらいますね。えっと……うーん、はい小金貨二枚」


 姫が本当にお金を持っているかどうか疑う男性の言葉に、安心させるかのように小金貨二枚を取り出してみせる。最初は疑っていた男性も、現物を見せられては自分の疑念が杞憂だったことを思い知らされると同時に、目の前の女性に罪悪感を感じずにはいられず、彼の二の句は謝罪の言葉であった。


「すまない、まさかお嬢さんくらいの若さで、二万ゼノもするアイテム袋を買える金を持ってるとは思わなくてね。それじゃあ、さっそく登録を済ましちまおう。この布に触れてくれるかい」

「こう、ですか」


 その言葉に、内心で仕方がないことだと思いながら、姫は苦笑いを浮かべる。二十代そこそこの平民の女性が、三ヶ月分の生活費に相当する二万ゼノという大金を持っている方が稀であり、何か良からぬことをして手に入れたのではないだろうか、という邪推すら思い描いてしまうだろう。


 しかし、男性はそれ以上の追及はせず代金を受け取ると、アイテム袋の登録作業に移った。ただでさえ、商売人としてあるまじき失態を犯しているのにも関わらず、この上さらに疑いを向けるような真似をすれば、最悪の場合姫がこのまま何も買わず店から去ってしまうことを嫌ったためだ。


 姫としても、余計なボロを出さないようにするためにも、必要以上のことを聞かれたくはなかったので、何も言わず素直に男性の指示に従う。


 アイテム袋というのは、使用する際に持ち主となる者の魔力を登録することで、本人以外使用することができなくなるという機能が存在する。


 この機能のお陰で、他人の持つアイテム袋を盗もうなどという輩はおらず、セキュリティの甘い異世界では珍しく、防犯対策は完璧である。


 ちなみに、アイテム袋の所有者が死んでしまった場合は、アイテム袋に入れている中身ごと消滅するらしい。それだけ聞けば、別な犯罪の手口に使われそうだが、それはそれである。


 姫が男性の差し出した布に触れると、仄かに光を放ちしばらくして発光しなくなる。そして、その布を徐にアイテム袋の中に入れると、その袋を姫に差し出してきた。


「はいよ、これでこのアイテム袋はお嬢さんのものになった。入れた布はあとで自分で取り出すなり、なんなりしておくれ」

「わかりました。ありがとございます」


 意外と呆気ない登録方法だなと思いつつ、男性からアイテム袋を受け取る。そして、前の店で購入した服をさっそくアイテム袋に収納する。


 小さなポーチに大量の服が吸い込まれていく様子は、まるで何でも吸い込んでしまうブラックホールのように思えた。


 すべての服を収納すると、姫は改めて男性にお礼を言って店を後にした。


 これで緊急に必要なものは揃ったので、今晩泊まる宿を確保するため、門の兵士に勧められた【白い歯車亭】という宿に向かうことにした。
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