25歳のオタク女子は、異世界でスローライフを送りたい

こばやん2号

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9話「薬草を買い取ってもらった帰りにテンプレイベントが発生したみたい」

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 薬草採集から戻ってきた姫は、トルネルコ商会へとやって来た。その目的は収集した薬草を査定してもらうためだ。


 そのまま商業ギルドに持っていってもいいのだが、一応念のため商人のトルネルコに確認してもらおうということにしたのだ。


 商会に到着すると、そのまま応接室に通され、しばらくしてトルネルコがやってくる。


「これは姫様、薬草採集はいかがでしたか?」

「そのことなんですが、採集した薬草が間違っていないかどうかの確認をして欲しいのですが」

「わかりました。では、ここへ出してください」


 トルネルコに言われた通り、姫はアイテム袋に収納していた薬草を応接室に設置してあるテーブルへと置いていく。すべての薬草や茸を出し終わると、さっそくトルネルコが一つ一つ鑑定していく。


 尤も、鑑定といっても姫のように鑑定スキルによるものではなく、長年の経験からくる彼自身が持っている物を見る方の鑑定だ。


「ほほう、これは珍しい。この茸をどこで見つけたのですか?」

「それは……確か川沿いに生えている木の根元に生えていたものですね。それは、なんですか?」

「これはマクレラ茸といって、稀にしか手に入らない珍しい茸でしてな。薬の効能を高める効果があって、薬師の間で何かと重宝されている茸なのですよ」

「へぇー」


 特に興味のない情報だったので、右から左に聞き流す姫。そんなこんなで、トルネルコの鑑定が終わり、いよいよ鑑定結果が発表される時がきた。


 結果から言えば、どれも薬草で間違いなく問題ないとのことだった。寧ろ、これだけピンポイントで見つけてくること自体珍しく、トルネルコとにとってマクレラ茸よりもそのことの方が驚きが大きかったようだ。


「姫様、物は相談なのですが、こちらの薬草を全てうちで買い取らせていただけないでしょうか?」

「トルネルコさんのところで?」

「はい。商業ギルドでも買い取りは行っておりますが、ギルドで売却すると取引額の15%が手数料で取られてしまいます。ですが、私のところで売れば手数料は掛かりません。買い取り金額丸々姫様の取り分になるので、姫様にとってかなり得な話かと思いますが」


 確かにトルネルコの話が本当であれば、手数料の掛かるギルドで売却するよりも利益は出る。だが、一つだけ解せない点が姫にはあった。


「あたしにとっては得な話ですが、トルネルコさんにとっては得にならないんじゃないんですか?」


 そう、姫にとってトルネルコに買い取ってもらうことは得な話でも、トルネルコにとってただ素材を買い取るだけというのは、得な話になり得ない。


「なに、単純な話です。姫様とはいい関係を築いておきたいという損得勘定というやつですな。それに今回姫様が持ち込んだマクレラ茸だけでも、買い取る価値は十分にあるかと思います」

「わかりました。買い取りの方お願いします」


 いろいろ勘ぐったりもしたが、どうやら姫との関係を良好にしておきたいという彼のごますりだったようだ。商人らしい彼の言葉に、内心で苦笑いを浮かべつつ、姫は買い取りをお願いすることにした。


 鑑定の結果、各薬草および茸類の一本当たりの値段が、メディク草が5ゼノ、ベノム草が13ゼノ、ライズ草が15ゼノ、マジックマッシュルームが20ゼノ、ペッパー茸が25ゼノという金額になった。


 最も買い取り金額が高かったのは、マクレラ茸で一本当たり3000ゼノという値が付けられた。


「それでは、お金を取ってきますので少々お待ちください」

「はい」


 そう言って、トルネルコが部屋を後にした瞬間、姫は全力でガッツポーズを取った。


「おっしゃあああああ!! まさか、最初の仕事の報酬が生活費一月半分のお金になるとは……マクレラ茸、グッジョブ!!」


 トルネルコが部屋からいなくなった途端、いつもの調子に戻る姫。この状況を見ている人間がいたならこう思っただろう。“調子に乗ってると、あとで痛い目見るぞ”と……。


 しばらくして、トルネルコがお金の入った袋を持って戻ってきた。ちなみに今回の薬草採集で得た金額は、9754ゼノだった。平民の一月の生活費が6000ゼノくらいなので、姫の言った通り今回の買い取り金額は、平民の生活費一月半の報酬となる。


 トルネルコからお金を受け取り、また薬草を採ってきたら持ってきて欲しいというトルネルコの言葉を聞いたのち、彼に礼を言って商会をあとにした。


 それから、一度宿に戻るため比較的人通りの少ない路地を歩いていると、何者かが姫の後ろを追いかけてきていた。


(さて、どうしますかねぇー。できれば荒事は避けたいんだけど、このまま泊ってる宿までついてこられると、寝込みを襲われそうだし。イケメンの夜這いは大歓迎だけど、金目当ての強盗は願い下げだわー)


 などと、このあとどうすべきか悩みながら歩いていると、人気のない場所へと差し掛かったところで、相手が動いた。


「そこの女、待ちやがれ」

「あたしのこと?」

「おめぇの他に誰がいるってんだ?」

「何か用? 急いでるんだけど?」

「おめぇ、トルネルコ商会から出てきたってことは、何か売ったんだろ? その売った金を俺に寄こせ」


 どうやら姫の予想通り物取りだったようで、薬草を売った金を要求してきた。姫の前に姿を見せたのは、彼女よりも一回りも体格の大きな男で、その体も無駄に筋骨隆々としている。


 その筋肉が善行に使われていないことに落胆しながらも、どうやってこの場を乗り切るか姫は思考を巡らす。


 とりあえず、目の前にいる男と争って兵士がやってきた場合、いろいろと説明するのが面倒臭いと思った姫は、短期決戦でいくことにした。


「断る、と言ったら?」


 ひとまず、こういった状況になった時の常套句を相手に投げかけてみることにした。といっても、この状況でその台詞を口にした場合、ほとんどと言っていいほど結果はこうなる。


「なら、てめぇを殺して奪うまでだ!!」

(ですよねー。まあ、そうなることがわかってて言った台詞だから、想定内っちゃあ想定内だけどね)


 男が叫んだあと、懐に忍ばせていた短剣を取り出し、こちらに向かって襲い掛かってきた。当然その動きを予想していた姫にとっては、テンプレ通りだと思いつつ襲い来る相手の対処をすることにした。


「《ライト》」

「うおっ、な、なんだ!? 前が見えん!」

「《ヒート》」

「あちちち、か、体が急に熱くなって――」

「ラスト《アクアバレット》」

「ごぼぉ」


 姫が行った動作は、主に三つ。一つはこちらに向かってくる相手の動きを止めるため、光属性のライトの魔法を使い、相手の目をくらませる。


 次に生活魔法のヒートを使い、男の体温を急激に上昇させる。ちなみに、このヒートという魔法は水などをお湯にする時などに使うものなのだが、人に向けて使うと体温を上昇させることができるのだ。


 最後に水属性のアクアバレットを使って男を吹き飛ばせば、ミッションコンプリートである。


 状況が呑み込めない相手に対し、不意打ち気味に水の弾丸が男の腹に直撃し、吹き飛ばされたあと路地を囲う石壁に激突する。


 そのあまりの衝撃と激痛に男は昏倒し、頭の周囲にヒヨコが飛んでいる幻が見えたような気がした。


 見事ミッションを達成した姫は、人がやってこないうちにそのままその場を離れて行った。


 それから、騒ぎを聞きつけてきた兵士に取り押さえられた男は、詰め所に連行され、その後の証言で「女を襲おうとしたら、ピカッと光って体が熱くなって何かに吹き飛ばされた」という奇妙なことを言っていたが、女を襲おうとしたということを馬鹿正直に答えてしまい、未遂だったが数日間牢屋に閉じ込められることとなった。


「ふう、酷い目に遭った。いくらあたしが美人だからって、無理矢理襲おうとするなんて、けしからん奴め……何だバカヤロウ!」


 宿に戻った姫は、部屋でいきなり実際とは事実が異なる自分にとって都合のいいことを宣う。しかもその台詞を第三者が聞いていると仮定したツッコミ付きという、誰に向けて言っているのか最早理解不能な言動をする始末だ。


 その後、襲われたことで不安定だった精神状態を治めるべく、夕食の時間までリラックスして過ごし、夕食後は特にすることもないので自分に生活魔法のクリーンを掛け、その日は眠りに就いた。
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