11 / 37
10話「図書館で情報収集するみたい」
しおりを挟む翌日、姫は朝食を食べ朝の支度を済ませると、街へと繰り出した。目的はこの世界の情報収集だ。
まとまった収入を得たことで浮かれていた姫だったが、未だにこの世界のことを何も知らないということに気付き、情報を収集すべくこの街の図書館へ行ってみることにした。
「とりあえずは、この世界の情報が第一優先で、他の転移者や転生者の情報と元の世界に戻る方法は二の次かな。せっかく異世界に来たんだ、それを楽しまなくては、オタクの名折れぞ!」
姫としては、元の世界に戻りたいという思いはあったが、絶対に戻りたいというほどその思いは強くない。
異世界転移という自分の頭の中で夢想していた出来事が、現実に起きたのだ。オタクとしては、この状況を最大限に楽しまなければ、損だとすら彼女は考えていた。
彼女にとって幸運だったのは、神から与えられるはずの異世界で生き残るための力、所謂チートを持てたことだろう。
「でも、油断しちゃいけないわよ、あたし。ここで調子に乗って目立つようなことをしてしまえば、馬鹿な王族や貴族の格好の餌食になってしまうわ。なんとしても、それだけは避けないと……」
数多の異世界ファンタジー小説に登場するほとんどの主人公が、ほぼ必ずといっていいほど取る行動がある。それが何かといえば、元の世界の技術を流用する行為だ。
料理ならばプリンやピザなどといった異世界の食材で再現可能な物、小物ならば洗濯ばさみや石鹸などの日用品を異世界で販売するといった具合だ。
そして、そういった文化レベルを一つも二つも押し上げてしまうような行為を、時の権力者が黙って見ているなどあり得ない。
必ず、何らかの形で介入しようとするものだし、場合によっては強権を発動して強引に自分の手中に収めてしまおうとするのが、彼らの常套手段だ。
だからこそ、そういったものを流通させる際には、権力者が介入してきてもそれを押しのけるだけの武力を身につけるか、国の最高権力者の後ろ盾を得た上で行うのが望ましい。
しかし、そういった権力者とお近づきになること自体が稀であり、物語に登場する主人公たちのご都合主義による見えざる力で出会えているに過ぎない。
実際に権力者に会うには、権力者との強いコネを持つ有力商人か商業ギルドや冒険者ギルドのギルドマスター経由での紹介となってくる。
さらに、権力者とのコネを持つ人間と知り合うこともまた、難易度の高いものだろう。
であるからして、ここからは慎重な行動が要求される。そのことを重々承知している姫は、この世界のことを知るための情報収集として、現在拠点としているアラリスの街にある図書館を利用することにしたのだ。
図書館に到着すると、さっそく中に入る。入ってすぐの右手に受付があり、そこで図書館を利用する旨と伝える。
「では、入場料として100ゼノを頂きます」
「え? ああ、はい」
まさか利用するのにお金が掛かるとは思っていなかったので、一瞬言葉を詰まらせる姫だったが、すぐに取り繕うと入場料を支払って本のある場所へと移動する。
中の造りは地球の図書館と同じで、一階部分に大きめのテーブルと椅子がいくつか配置されている。その隣の区画に、一つの本棚の中に数百冊の本が収納されており、それが十数個もある。
二階部分は壁に嵌め込むタイプの大きな本棚の中にいくつもの本が収納されており、その数はざっと見ても千冊は下らない。
「すごく、大きいです……って、意味が違うか」
そのあまりの膨大な数の本に、どこに自分の知りたい情報があるかわからなかった姫は、一度受付に戻り読みたい本がどこにあるか聞いてみることにした。
すると、親切にも受付を担当してくれた人が読みたい本を持ってきてくれ、なんとか情報にありつけることができた。
姫が調べた情報によると、この世界の名前は【ヴァールグラン】といい、三柱の神が存在する世界らしい。
それぞれ、創造の神・破壊の神・運命と時の神という神がおり、人々の生活を見守ってくれているというよくあるものだった。
現在姫のいるアラリスの街がある国は、サリヴァルド王国という名前で、温暖な気候と豊かな大地のお陰で、毎年多くの作物が収穫され、治安も比較的良いとのことだ。
「うーん、今いる世界と国の名はわかったけど、他の転生者や転移者のこととか、元の世界に帰る方法とかはさすがに載ってないか」
転生者や転移者は、御伽噺や英雄譚などを参考に読んでみたが、どれもありきたりな内容で、特に目ぼしい情報はなかった。
元の世界に戻る方法については、古い文献や昔の文化体型が描かれた歴史書などを読んでみたものの、どれもこれも曖昧なことしか書かれておらず、こちらについても得られた情報はほとんどなかった。
「うん? これは……薬学の手引書かな。どれどれ……」
受付の人が持ってきてくれた書物をある程度読み終えたあと、最後に残った書物が気になったので読んでみることにした。
そこに書かれていたのは、この世界の【薬師】という職に関するもので、何でも薬草などを調合し、ポーションと呼ばれる怪我や病気に効く薬を作る者を指す職業のようだ。
《スキル【薬師】を覚えました》
書物を読み終えたその時、脳内に聞いたことのある効果音が響き渡り、新たなスキルを獲得した。
「読んだだけで覚えたってこと? じゃあ他のスキルも覚えられたりするのかな」
薬学の書を読んだことで【薬師】というスキルを覚えたという予想を立てた姫は、他の分野に関する書物を本棚から取ってきて読んでみた。しかし、小説の主人公のようにはいかず、結局覚えられたのは最初の薬学の書で覚えた【薬師】だけだった。
得るべき情報を得た姫は、図書館を出るため受付に向かった。受付にいた職員にもう用は済んだことを伝え、読んだ本はどうするのか聞いたところ、図書館の職員が片付けてくれるとのことだったので、そのまま図書館を出た。
現在の時刻は腹具合から予想して昼前だったので、一度宿に戻り昼食を食べる。その後、図書館で覚えたスキル【薬師】を活用するため、薬屋に向かった。
薬屋に到着し、中にいた店主のおばあさんに薬を調合するための道具が欲しい旨を伝えたところ、基本的な道具をタダで譲って貰えた。
さらに、下級ポーションなどの初歩の薬のレシピが載っている本も押し付けられ、薬が完成したら見てやるから持ってこいとも言われた。
さすがにこれ以上お世話になるのは気が引けた姫は、せめてレシピに必要な素材を3000ゼノ分購入し、店をあとにした。
「な、なんか凄まじいおばあさんだったな……」
おばあさんの勢いに押されたまま店を後にする姫だったが、宿に戻る頃には薬の調合に興味が移る。自分の部屋に戻ると、夕食の時間が来るまで手に入れた調合道具を使い、さっそく調合をやってみることにした。
12
あなたにおすすめの小説
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
異世界へ誤召喚されちゃいました 女神の加護でほのぼのスローライフ送ります
モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎
飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。
保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。
そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。
召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。
強制的に放り込まれた異世界。
知らない土地、知らない人、知らない世界。
不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。
そんなほのぼのとした物語。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!
椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。
しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。
身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。
そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!
召喚失敗!?いや、私聖女みたいなんですけど・・・まぁいっか。
SaToo
ファンタジー
聖女を召喚しておいてお前は聖女じゃないって、それはなくない?
その魔道具、私の力量りきれてないよ?まぁ聖女じゃないっていうならそれでもいいけど。
ってなんで地下牢に閉じ込められてるんだろ…。
せっかく異世界に来たんだから、世界中を旅したいよ。
こんなところさっさと抜け出して、旅に出ますか。
悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。
向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。
それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない!
しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。
……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。
魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。
木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ!
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める
遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】
猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。
そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。
まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる