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11話「ポーションを調合するみたい」
しおりを挟む「重御寺姫。これより調合に着手する!!」
宿に戻った姫が、珍妙な叫び声を上げる。これもまた、オタク故なのだろうか?
何はともあれ、備え付けのテーブルに薬屋のおばあさんから譲ってもらった調合道具を並べていく。
姫が貰った道具は、よくある薬草を細かくするための薬研とすり潰して混ぜるための乳鉢と乳棒のセットだ。
その他にも、調合したものを保管しておくための薬瓶や瓶に薬液を詰めやすくする漏斗などもあった。
「さて、ひとまず下級ポーションからいってみようかな」
そう独り言を呟きながら、初歩の調合レシピが載っている本を開く。レシピ本に掲載されている薬は三つでそれぞれの名称が【下級ポーション】・【下級解毒ポーション】・【下級治癒麻痺ポーション】だ。
下級ポーションは、その名の通りランク低い回復薬で、ちょっとした怪我や病気などに効果がある。
それと同様に、下級解毒ポーションは毒の治療に、下級治癒麻痺ポーションは麻痺の治療に効果があるのだが、猛毒や重度の麻痺には効果が薄いとレシピ本には載っていた。
とりあえず、この世界の薬の調合の基本を覚えるため、姫は下級ポーションから調合することにした。
レシピに必要な素材はメディク草と水のみという安易なものだが、最初から複雑なことを求められても困るので、これはこれとして姫は納得する。
薬研と呼ばれるアーモンドの形の容器と円盤の両面に取っ手の付いたものがセットになった道具を使い、メディク草を細かくしていく。ある程度細かくなったところで、それを乳鉢に移し乳棒ですり潰していく。
別の容器に魔法で出した水を溜めておき、そこにすり潰したメディク草を投入し、薬師のスキルを使って姫の魔力を注いでいく。
最初なので少し手間取っていた姫だったが、すぐに魔力を注げるようになった。水の入った容器に浮かんでいたすり潰したメディク草が、姫の魔力に反応してたちどころに水に溶け込んでいく。
淡い緑色に発光しながら、水とメディク草が混ざり合っていき、しばらくして薄い青緑色の液体が出来上がった。
「これで完成のはずだけど、試してみるか」
出来上がった液体に鑑定をかけたところ、このような結果となった。
【下級ポーション】:最もランクの低い回復薬。ちょっとした怪我や病気に効果がある。
初めての調合だったが、なんとか上手くいったようだと安堵する姫。鑑定の結果では、この下級ポーションがこの世界で存在する一番効果の低い薬のようだ。
それから、調合に慣れるため素材の許す限り下級ポーションを量産していき、最終的に十本の下級ポーションが完成する。
続いて、下級解毒ポーションの作製と下級治癒麻痺ポーションにも挑戦した。作り方は下級ポーションと同じで、メディク草の代わりにベノム草とライズ草を使うことで、毒と麻痺を治療することのできるポーションが出来上がる。
解毒と麻痺の素材はそれほど購入していなかったため、解毒は四本、治癒麻痺は二本しかできなかった。しかし、大体の調合のプロセスは今回の分で理解できたため、次からはスムーズに調合できると姫は判断した。
三つのレシピを調合できたタイミングで、宿の従業員が夕食ができたことを告げに来た。ちょうど切りも良かったので、今回の調合はこれで終了し、夕食を食べに姫は一階へと下りた。
夕食を食べた後、生活魔法のクリーンを使って体を清める。それから、眠くなるまでひたすら魔法の修行を行い新しい魔法を覚えた。
ちなみに覚えた魔法は以下の通りだ。
【火魔法】:ファイアランス
【水魔法】:プリズンウォータ
【風魔法】:ウインドシールド
【土魔法】:アースクエイク
【生活魔法】:アイシング
【光魔法】:ライトアロー
【闇魔法】:ダークジャベリン
【回復魔法】:ディスペル
相変わらず、魔法との親和性が高いのか頭の中でイメージすれば、思い描いた魔法を覚えることができるようだ。しかしながら、いくら頭でイメージしても覚えられない魔法はあるようで、その条件は今のところわからない。
「いずれ空間魔法とか覚えて、転移魔法で街から街の移動を楽にしたいなー」
などと都合のいいことを言いつつ、集中力も途切れ眠気が出てきたので、その日はそのまま眠りに就いた。
次の日、朝食と朝の支度を済ませ一階の受付へと姫は向かう。今日で三日目なので、宿の延長をするためだ。
「宿の延長をお願いしたいのですが」
「わかりました。何日延長いたしましょうか?」
「うーん、とりあえず十日分でお願いします」
そう言うと、姫は受付に800ゼノを支払う。その後、受付に鍵を預け街へと出掛けた。
今日は、前日作ったポーションを見てもらうため、薬屋へと向かっていた。薬屋に到着すると、挨拶もそこそこに用件を伝え、さっそくできた薬を見てもらうことになった。
前日に作った下級ポーション十本、下級解毒ポーション四本、下級治癒麻痺ポーション二本をアイテム袋から取り出す。
姫が取り出したポーション類をしばらく眺めていたおばあさんが、姫の方に視線を寄こしながら口を開く。
「この薬、ホントにお前さんが作ったのかい?」
などとこちらを勘ぐるような視線をおばあさんが向けてくるも、姫としてはやましい事など無いため、物怖じせずはっきりと肯定する。
「そうですけど、なにか間違ってましたか?」
「いいや、完璧な調合さね。これなら通常よりも高く買い取らせてもらうけど、どうするんだい?」
「いくらですか?」
「下級ポーションが350ゼノ、解毒が550ゼノ、治癒麻痺が700ゼノになるね。わかってると思うが、もちろん一本当たりの値段だからね。合計金額が……えーと」
「7100ゼノですね」
「さすが若いだけあって、計算が早いね。それでいいかい?」
「はい」
交渉が成立し、おばあさんからポーションの買い取り金7100ゼノを受け取る。二日連続で平民の一か月以上の生活費を稼げていることに、姫は内心でほくそ笑む。
(なーんだ。異世界って、超楽勝じゃん。でもこれって、あたしだからこんな簡単に稼げてるんだと思った方がいいよね……実際)
“世の中そんなに甘くはない”という言葉があるように、実際のところ姫が予想した通り、前回と今回の高額な報酬は“姫だからこそ”というところが大きい。
まず、薬草採集は目的の薬草を手に入れてくること自体が難しく、ちゃんとした知識のあるものですら採集してきた薬草の四割がなんの役にも立たない雑草が混じっていることが常だったりする。
さらに加えて、発見自体困難なレアな素材を採集することができていたため、高額買い取りという結果に繋がっただけであった。
今回のポーションも同じように、図書館でたまたま薬学に関する本を読んだ結果【薬師】というスキルを覚えることができただけであり、もしこのスキルを覚えていなければ、薬草採集で採れた薬草や茸を売却して生計を立てていたことだろう。
「まいどあり。また薬ができたら持っておいで。お前さんの薬なら、いつでも買い取りは歓迎だからね」
「はい、ありがとうございました」
この世界に来てからの自分自身のリアルラックに感謝しつつ、おばあさんに礼を言って姫は薬屋をあとにした。
時刻はまだ九時の鐘が鳴ったばかりなので、時間的にはかなり余裕がある。しばらくお金に困ることはないため、このまま数日宿でのんべんだらりと過ごしても問題ないが、せっかくの異世界に来てやることがそれだけだと、何か侘しいと姫は考えていた。
かといって、命がけの冒険に出るほど血気盛んでもないため、ちょっとしたバカンス気分でマイペースにまったりのほほんというのが、姫の理想とする異世界での生活だった。
「現在の所持金が、盗賊の褒賞金の残りを合わせて……七万六千ちょっとってとこか。普通に生活してれば、一年は働かなくてもいいってことだね。……いやいや、ニートはだめだよ姫。働かざる者食うべからずの精神は大事なのですよー」
誰にともなく呟く姫だったが、スローライフを理想としつつもニートにだけはならないようにしなければいけないという気持ちを新たに、歩くスピードを少し早めるのであった。
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