25歳のオタク女子は、異世界でスローライフを送りたい

こばやん2号

文字の大きさ
16 / 37

15話「ペナルティを与えるみたい」

しおりを挟む


 受付嬢の女性と共に商業ギルドへと戻ってきた姫は、彼女にギルドマスターを呼んでくるように指示を出した。


 その間に他のギルド職員の案内で応接室にて待機していると、しばらくしてギルドマスターのヘンドラーがやってくる。


「これはこれは姫殿、本日は私に何か用があるとのことだが、なんだね?」

「実は……」


 ギルドマスターがやってくるなり、姫は事の顛末を全てヘンドラーに説明した。姫が説明をするにつれ、ヘンドラーの顔が歪んでいくのがわかった。


「ということがあったのだけれど、これは常習的に行われていることなのかしら?」

「そ、そのようなことは決して――」

「そんなことはどうでもいいの。問題は本来伝えるべき情報を故意または過失で伝え忘れたという所にあるわけで、それによって商業ギルドの信頼が損なわれてしまったということにあるわけ、お分かりかしら?」

「そ、それはもちろんだ。おい、誰かいないか!? 誰かパメラを呼んで来い!!」


 姫の有無を言わせぬ雰囲気に事の重大性を理解したヘンドラーは、当事者である受付嬢を他の職員に呼んでくるよう指示する。


 しばらくしてやってきた受付嬢ことパメラに対し、ヘンドラーは姫から聞いた内容が真実かどうか問い質した。


「お前は自分が何をやったのかわかっているのか!?」

「わ、私はただギルドのためを思って――」

「いい加減にしろ! その行いがギルドの信用を損なう行為だという事に何故気付かないんだ!?」


 それからしばらくヘンドラーとパメラの詰問と釈明の応酬が続いたが、これ以上は無駄であると判断した姫が口を挟んだ。


「ヘンドラーさん、あたしは別に自分が騙されたことに対してはそれほど怒ってはいないの。ただ、こんなことが今後も続くようなら商業ギルド自体の信用問題にも関わってくるし、あたしも今後商業ギルドとの関係を考え直さなければならなくなってしまう……この意味わかるわよね?」

「も、もちろんだ」


 姫の圧倒的な雰囲気に、ヘンドラーは辛うじてそう答えるしかなかった。


 彼女が何を言いたいのか概ね理解できていたからだ。今後も同じことをすれば、ポーションの取引自体を白紙に戻され、二度と納品はしないという強迫にも似たことを言っているということも。


 だからこそ、ヘンドラーはギルドマスターとして間違った対応はできない。それは商業ギルドの信用としても、一つの大口の契約がなかったことになるという意味でもだ。


 この世界においてポーションを作れる薬師の地位は高く、貴族でも専属で契約している薬師は決して多くはない。


 だからこそ、ここで姫にポーションの納品を断られることは、商業ギルドとしてはなんとしても避けなければならなかったのである。


「そこで今回の失態に対する償いという意味でも、あたしからいくつか提案があるのだけれど、どうかしら?」

「き、聞かせていただこう」


 姫に対してどのような形で償うかをヘンドラーが頭の中で考えていたその時、姫が意外にもある提案をしてきた。


「現在あたしはとある物件の一月分の家賃として、十五万ゼノをそこにいる彼女に支払ったわ。でもその物件には、今日用品や家具などがまったく揃っていないのよね。もともと商業ギルドに頼むつもりだったけど、あたしが払った十五万ゼノを使って不足している家具を揃えてちょうだい」

「そ、それは……」


 姫の提案を聞いて、ヘンドラーは返答できずにいた。つまり彼女が何を言いたいのかといえば、家賃をタダにしてもらいかつ家具も揃えろというものだったのだ。


 ヘンドラーが返答に困っている中、さらに姫はこうも続けた。


「で、それだと商業ギルドが家賃分の十五万ゼノをタダにしているのと同じになるからその分損が出るわよね? だからその十五万ゼノをそこにいる彼女に支払ってもらうっていうのはどうかしら?」

「っ!?」

「そ、それはいくらなんでも無理が」

「無理じゃないわよ。どの道今回の件で彼女は何かしらの罰を受けることになるわけでしょ? だったら自分で出した損害は自分で補填させるべきよ。それに何も一括で支払えって言ってるわけじゃないのよ?」

「ど、どいうことだ?」


 パメラは、自分の仕出かしたことで生じた十五万ゼノを肩代わりさせられることに顔を青くし、ヘンドラーは姫の説明で不明慮な点があることに疑問の声を上げる。


 そこからさらに細かい姫の説明が続いた。彼女の説明としてはごく単純なもので、所謂一つのローンというものである。


 パメラの月の給金の一部を借金返済として差し引き、それを長期間に渡って続けるというものであった。


「彼女の給金がいくらか知らないけど、例えば一月の給金のうち250ゼノを差し引いて支払い、その金額は借金の返済分に充てる。そうすることで一年間で支払う金額は3000ゼノになるから、あとはそれを50年続ければ十五万ゼノを返せるわ。簡単な話でしょ?」

「そ、それは……」

「いくらなんでも無茶では?」

「なら彼女の処遇はどうするの? こんなことを仕出かしてこのまま商業ギルドに置いておくなんてことはできないだろうから、当然解雇になるわよね? 商業ギルドを解雇されたなんて話が広まったら、まともな職に就くなんて難しくなると思うのだけれど? だったら、あたしの提案に従って、十五万ゼノを払った方がまだマシだと思うのはあたしだけなのかしら?」

「「……」」


 姫の冷静な言葉に、二人ともぐうの音も出ない。ヘンドラーとパメラの二人が押し黙ってしまった理由はただ一つ、姫の言っていることが正しいからだ。


 商業ギルドという場所は、信用というものが重要視される。その中で信用を損なうことをした者は、当然ながらそのまま雇い続けることはできないのである。


 さらに一度商業ギルドを解雇された者は、信用のない者としての誹りを受け、まともな職場で雇ってもらうことは難しくなってしまう。


 そのことに思い至った二人は、姫の言っていることに反論できなかったという訳なのだ。


「それでどうするの? あたしはどっちでもいいわよ。あたしの提案を受け入れて彼女が借金を支払っていくか、提案を拒否して彼女はくび、あたしとの取引もなかったことにするかのどっちかをね」


 姫の問い掛けに、二人は複雑な表情を浮かべる。もはやヘンドラーとパメラにとって取るべき選択肢は一つしかなかったからだ。


 偽りのジレンマという言葉がある。それは一見正しそうで実は理不尽な選択を強いられているというもので、例えるならコンビニの発注ミスがそれに当たる。


 店長の指示で発注したにも関わらず、発注ミスを指摘され店長に「お前が責任とって全部買い取るか、損失分次の給料から減給するか、どちらか選べ!」と言われてしまうが、どちらの選択にせよ自分が弁償しなければならないという理不尽を強いられている。


 今回の場合もその偽りのジレンマに相当するように見えるのだが、姫の言っていることは至極まともなのだ。


 ミスを犯したパメラに借金を肩代わりさせるか、責任を取って辞めさせるかという二択を迫っているだけなのだから。


 結局パメラ自身が借金を背負うという形を取り、このままギルドに残るという選択に落ち着いたのは言うまでもない。


「ヘンドラーさん、今後彼女にそれなりに重要な仕事を割り振ってあげてね」

「え?」

「それはどういうことだろうか?」

「彼女が出世すれば、その分給金も上がるだろうし、それならすぐに借金も返せるでしょ。これから忙しくなると思うけど頑張ってね」


 そうパメラに言うと、家具はできるだけ早めに届けてねと最後に言葉を残し、姫はその場をあとにした。残された二人はただ姫が去っていくのを呆然と見送るしかなかったのであった。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

若返ったオバさんは異世界でもうどん職人になりました

mabu
ファンタジー
聖女召喚に巻き込まれた普通のオバさんが無能なスキルと判断され追放されるが国から貰ったお金と隠されたスキルでお店を開き気ままにのんびりお気楽生活をしていくお話。 なるべく1日1話進めていたのですが仕事で不規則な時間になったり投稿も不規則になり週1や月1になるかもしれません。 不定期投稿になりますが宜しくお願いします🙇 感想、ご指摘もありがとうございます。 なるべく修正など対応していきたいと思っていますが皆様の広い心でスルーして頂きたくお願い致します。 読み進めて不快になる場合は履歴削除をして頂けると有り難いです。 お返事は何方様に対しても控えさせて頂きますのでご了承下さいます様、お願い致します。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

異世界に落ちたら若返りました。

アマネ
ファンタジー
榊原 チヨ、87歳。 夫との2人暮らし。 何の変化もないけど、ゆっくりとした心安らぐ時間。 そんな普通の幸せが側にあるような生活を送ってきたのにーーー 気がついたら知らない場所!? しかもなんかやたらと若返ってない!? なんで!? そんなおばあちゃんのお話です。 更新は出来れば毎日したいのですが、物語の時間は割とゆっくり進むかもしれません。

オバちゃんだからこそ ~45歳の異世界珍道中~

鉄 主水
ファンタジー
子育ても一段落した40過ぎの訳あり主婦、里子。 そんなオバちゃん主人公が、突然……異世界へ――。 そこで里子を待ち構えていたのは……今まで見たことのない奇抜な珍獣であった。  「何がどうして、なぜこうなった! でも……せっかくの異世界だ! 思いっ切り楽しんじゃうぞ!」 オバちゃんパワーとオタクパワーを武器に、オバちゃんは我が道を行く! ラブはないけど……笑いあり、涙ありの異世界ドタバタ珍道中。 いざ……はじまり、はじまり……。 ※この作品は、エブリスタ様、小説家になろう様でも投稿しています。

死に戻ったら、私だけ幼児化していた件について

えくれあ
恋愛
セラフィーナは6歳の時に王太子となるアルバートとの婚約が決まって以降、ずっと王家のために身を粉にして努力を続けてきたつもりだった。 しかしながら、いつしか悪女と呼ばれるようになり、18歳の時にアルバートから婚約解消を告げられてしまう。 その後、死を迎えたはずのセラフィーナは、目を覚ますと2年前に戻っていた。だが、周囲の人間はセラフィーナが死ぬ2年前の姿と相違ないのに、セラフィーナだけは同じ年齢だったはずのアルバートより10歳も幼い6歳の姿だった。 死を迎える前と同じこともあれば、年齢が異なるが故に違うこともある。 戸惑いを覚えながらも、死んでしまったためにできなかったことを今度こそ、とセラフィーナは心に誓うのだった。

処理中です...