16 / 37
15話「ペナルティを与えるみたい」
しおりを挟む受付嬢の女性と共に商業ギルドへと戻ってきた姫は、彼女にギルドマスターを呼んでくるように指示を出した。
その間に他のギルド職員の案内で応接室にて待機していると、しばらくしてギルドマスターのヘンドラーがやってくる。
「これはこれは姫殿、本日は私に何か用があるとのことだが、なんだね?」
「実は……」
ギルドマスターがやってくるなり、姫は事の顛末を全てヘンドラーに説明した。姫が説明をするにつれ、ヘンドラーの顔が歪んでいくのがわかった。
「ということがあったのだけれど、これは常習的に行われていることなのかしら?」
「そ、そのようなことは決して――」
「そんなことはどうでもいいの。問題は本来伝えるべき情報を故意または過失で伝え忘れたという所にあるわけで、それによって商業ギルドの信頼が損なわれてしまったということにあるわけ、お分かりかしら?」
「そ、それはもちろんだ。おい、誰かいないか!? 誰かパメラを呼んで来い!!」
姫の有無を言わせぬ雰囲気に事の重大性を理解したヘンドラーは、当事者である受付嬢を他の職員に呼んでくるよう指示する。
しばらくしてやってきた受付嬢ことパメラに対し、ヘンドラーは姫から聞いた内容が真実かどうか問い質した。
「お前は自分が何をやったのかわかっているのか!?」
「わ、私はただギルドのためを思って――」
「いい加減にしろ! その行いがギルドの信用を損なう行為だという事に何故気付かないんだ!?」
それからしばらくヘンドラーとパメラの詰問と釈明の応酬が続いたが、これ以上は無駄であると判断した姫が口を挟んだ。
「ヘンドラーさん、あたしは別に自分が騙されたことに対してはそれほど怒ってはいないの。ただ、こんなことが今後も続くようなら商業ギルド自体の信用問題にも関わってくるし、あたしも今後商業ギルドとの関係を考え直さなければならなくなってしまう……この意味わかるわよね?」
「も、もちろんだ」
姫の圧倒的な雰囲気に、ヘンドラーは辛うじてそう答えるしかなかった。
彼女が何を言いたいのか概ね理解できていたからだ。今後も同じことをすれば、ポーションの取引自体を白紙に戻され、二度と納品はしないという強迫にも似たことを言っているということも。
だからこそ、ヘンドラーはギルドマスターとして間違った対応はできない。それは商業ギルドの信用としても、一つの大口の契約がなかったことになるという意味でもだ。
この世界においてポーションを作れる薬師の地位は高く、貴族でも専属で契約している薬師は決して多くはない。
だからこそ、ここで姫にポーションの納品を断られることは、商業ギルドとしてはなんとしても避けなければならなかったのである。
「そこで今回の失態に対する償いという意味でも、あたしからいくつか提案があるのだけれど、どうかしら?」
「き、聞かせていただこう」
姫に対してどのような形で償うかをヘンドラーが頭の中で考えていたその時、姫が意外にもある提案をしてきた。
「現在あたしはとある物件の一月分の家賃として、十五万ゼノをそこにいる彼女に支払ったわ。でもその物件には、今日用品や家具などがまったく揃っていないのよね。もともと商業ギルドに頼むつもりだったけど、あたしが払った十五万ゼノを使って不足している家具を揃えてちょうだい」
「そ、それは……」
姫の提案を聞いて、ヘンドラーは返答できずにいた。つまり彼女が何を言いたいのかといえば、家賃をタダにしてもらいかつ家具も揃えろというものだったのだ。
ヘンドラーが返答に困っている中、さらに姫はこうも続けた。
「で、それだと商業ギルドが家賃分の十五万ゼノをタダにしているのと同じになるからその分損が出るわよね? だからその十五万ゼノをそこにいる彼女に支払ってもらうっていうのはどうかしら?」
「っ!?」
「そ、それはいくらなんでも無理が」
「無理じゃないわよ。どの道今回の件で彼女は何かしらの罰を受けることになるわけでしょ? だったら自分で出した損害は自分で補填させるべきよ。それに何も一括で支払えって言ってるわけじゃないのよ?」
「ど、どいうことだ?」
パメラは、自分の仕出かしたことで生じた十五万ゼノを肩代わりさせられることに顔を青くし、ヘンドラーは姫の説明で不明慮な点があることに疑問の声を上げる。
そこからさらに細かい姫の説明が続いた。彼女の説明としてはごく単純なもので、所謂一つのローンというものである。
パメラの月の給金の一部を借金返済として差し引き、それを長期間に渡って続けるというものであった。
「彼女の給金がいくらか知らないけど、例えば一月の給金のうち250ゼノを差し引いて支払い、その金額は借金の返済分に充てる。そうすることで一年間で支払う金額は3000ゼノになるから、あとはそれを50年続ければ十五万ゼノを返せるわ。簡単な話でしょ?」
「そ、それは……」
「いくらなんでも無茶では?」
「なら彼女の処遇はどうするの? こんなことを仕出かしてこのまま商業ギルドに置いておくなんてことはできないだろうから、当然解雇になるわよね? 商業ギルドを解雇されたなんて話が広まったら、まともな職に就くなんて難しくなると思うのだけれど? だったら、あたしの提案に従って、十五万ゼノを払った方がまだマシだと思うのはあたしだけなのかしら?」
「「……」」
姫の冷静な言葉に、二人ともぐうの音も出ない。ヘンドラーとパメラの二人が押し黙ってしまった理由はただ一つ、姫の言っていることが正しいからだ。
商業ギルドという場所は、信用というものが重要視される。その中で信用を損なうことをした者は、当然ながらそのまま雇い続けることはできないのである。
さらに一度商業ギルドを解雇された者は、信用のない者としての誹りを受け、まともな職場で雇ってもらうことは難しくなってしまう。
そのことに思い至った二人は、姫の言っていることに反論できなかったという訳なのだ。
「それでどうするの? あたしはどっちでもいいわよ。あたしの提案を受け入れて彼女が借金を支払っていくか、提案を拒否して彼女はくび、あたしとの取引もなかったことにするかのどっちかをね」
姫の問い掛けに、二人は複雑な表情を浮かべる。もはやヘンドラーとパメラにとって取るべき選択肢は一つしかなかったからだ。
偽りのジレンマという言葉がある。それは一見正しそうで実は理不尽な選択を強いられているというもので、例えるならコンビニの発注ミスがそれに当たる。
店長の指示で発注したにも関わらず、発注ミスを指摘され店長に「お前が責任とって全部買い取るか、損失分次の給料から減給するか、どちらか選べ!」と言われてしまうが、どちらの選択にせよ自分が弁償しなければならないという理不尽を強いられている。
今回の場合もその偽りのジレンマに相当するように見えるのだが、姫の言っていることは至極まともなのだ。
ミスを犯したパメラに借金を肩代わりさせるか、責任を取って辞めさせるかという二択を迫っているだけなのだから。
結局パメラ自身が借金を背負うという形を取り、このままギルドに残るという選択に落ち着いたのは言うまでもない。
「ヘンドラーさん、今後彼女にそれなりに重要な仕事を割り振ってあげてね」
「え?」
「それはどういうことだろうか?」
「彼女が出世すれば、その分給金も上がるだろうし、それならすぐに借金も返せるでしょ。これから忙しくなると思うけど頑張ってね」
そうパメラに言うと、家具はできるだけ早めに届けてねと最後に言葉を残し、姫はその場をあとにした。残された二人はただ姫が去っていくのを呆然と見送るしかなかったのであった。
12
あなたにおすすめの小説
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
異世界へ誤召喚されちゃいました 女神の加護でほのぼのスローライフ送ります
モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎
飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。
保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。
そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。
召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。
強制的に放り込まれた異世界。
知らない土地、知らない人、知らない世界。
不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。
そんなほのぼのとした物語。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!
椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。
しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。
身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。
そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!
召喚失敗!?いや、私聖女みたいなんですけど・・・まぁいっか。
SaToo
ファンタジー
聖女を召喚しておいてお前は聖女じゃないって、それはなくない?
その魔道具、私の力量りきれてないよ?まぁ聖女じゃないっていうならそれでもいいけど。
ってなんで地下牢に閉じ込められてるんだろ…。
せっかく異世界に来たんだから、世界中を旅したいよ。
こんなところさっさと抜け出して、旅に出ますか。
悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。
向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。
それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない!
しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。
……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。
魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。
木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ!
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める
遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】
猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。
そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。
まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる