25歳のオタク女子は、異世界でスローライフを送りたい

こばやん2号

文字の大きさ
29 / 37

27話「カモに見られているみたい」

しおりを挟む


「二人ともお腹空いたでしょ? ちょうどお昼だし、昼食にしましょうか」


 何事もなくリムの街を脱出することに成功した姫たちは、道なりに続く街道を走行していた。緊迫した状態から少し落ち着いたところで、時刻は昼時になっていることもあって昼食を摂ることにした。


 アイテム袋から作り置きのパンと以前手に入れたファングボアの肉で作ったポークステーキ、骨で出汁を取った野菜たっぷりの自家製スープを取り出した。


 あれからいろいろと料理に関して試行錯誤を繰り返しており、特に現在の主食であるパンは姫が地球にいた頃に食べていたものに近づきつつあった。


 その他にも市場で入手した調味料やこちらの世界のファンタジー野菜などにも手を付けていて、それなりにレパートリーも増えてきていた。


 余談だが、姫が料理をするとその匂いが外に漏れてしまい、スラムの人間が集まって来てしまうことがあったのだが、その件は風魔法を使って匂いを外に漏らさないように対処したため、幸いにも貴族たちに噂が流れることはなかった。


「ミャー、やっぱりご主人の作った料理は最高だニャ!」

「……」


 姫の料理を絶賛するミャームの隣では黙々と食べ続けるミルダがいた。ミャームの言葉に反論しないところを見る限り、彼女も同じ意見なのだろう。


 彼女たちが奴隷になりたての頃には、主人である姫と同じテーブルで食事をすることを遠慮していたが、今では姫の意志を尊重する形で自然に食事に参加できている。


 手早く食事を済ませ、次の街にたどり着くまでの間やることがなく手持ち無沙汰になるため、魔力の操作や制御を行ったり身体強化を施しその状態を維持したりという修行のようなことをして過ごしていた。


 景色はただひたすらに舗装されていないあぜ道が続いており、時折街道の凹凸部分に車輪が嵌り込みガタガタと荷馬車が揺れることがあった。


 地球出身の姫にとって荷馬車での旅というのは過酷なものだったが、こんな時のための体作りと心構えはできており、想像していたよりも苦にはなっていない。


 そんな中、リムの街を出立してから数時間が経過した頃、ファンタジーでよくあるイベントの一つが起こってしまった。


「……主、野盗の連中が襲ってきます」

「テンプレが来たみたいね。人数は?」

「ひー、ふー、みー……七人だニャ」


 まず最初に気付いたのは御者をしていたミルダで、姫の問いに答えたのはミャームだ。猫の獣人であるミャームの視力は人間よりも優れており、数キロ先の木に生っている果実の種類が識別できるほどの目を持っている。


 ミャームが盗賊の人数を数えている間にも盗賊たちは接近してきており、二人に方針を伝える前に気付けば取り囲まれてしまった。


 仕方なく荷馬車から降り、わかりきってはいるものの念のため連中の目的が何なのか知るため相手の出方を窺う。


「よおよおよお、こんな人気のない場所を女三人で旅とはなぁ。襲ってくれと言ってるようなもんだぜ? ええ、お嬢ちゃんたち」


 リーダー格のスキンヘッドの男が醜悪な笑みを顔に張り付け、姫たちを舐めるように観察する。何日間も体を洗っていないのだろう、男たちから漂ってくる悪臭という名の体臭に三人とも顔を顰める。


 男たちのいやらしい視線に性的不快感を露わにする姫たちにお構いなく、男の一人が口を開く。


「お頭、オレぁもう我慢できねぇ。早くやっちまいましょうぜ!」

「そう急くな。こういうのはなぁ、できるだけ相手に嫌われる努力をするんだ。そうすりゃあ、あとのお楽しみがより気持ちよく感じられる」

「なるほど……さすがお頭だぜ!」


 姫たちの事などお構いなしに勝手に語り始めた男たちを六つの冷たい眼差しが捉えていたが、その視線に誰一人として気付く者はいない。


 いい加減嫌気が差してきた姫だったが、その思考はミルダの問い掛けによって遮断された。


「主、どういたしましょうか?」

「当然、ヤるに決まってるニャ!!」

「そうね、生かしておいてもいいことはないだろうし、殺してしまいなさい」


 主からの許可が出たことで、二人とも完全にやる気スイッチが発動してしまう。その殺気に気付いた男たちだったが、時すでに遅くミルダの抜き放った棍棒に盗賊の一人の頭が潰される。


 亜人の中でも特に物理的な戦闘能力に特化しているオーガ族は、その腕力も凄まじく人間の十倍以上とも言われており、数トンある重さの物を片手で持ち上げることができるほどだという。


 そんな圧倒的な力を弱点部位である頭部に食らってしまっては、無事で済むはずもない。


「こ、こいつらやべぇぞ!」

「狼狽えんじゃねぇ! 数ではこっちが上なんだ、取り囲んでやっちまえ!!」


 リーダー格の男の指示に従い動こうとしたが、その内の二人の首筋からおびただしい量の血が噴き出し、糸の切れた人形のように地面に倒れ伏した。


 それを行った犯人は、身軽な体を翻しポーズを決めるかのように自身の得物である短剣を構える。そう、猫人族の亜人ミャームである。


 猫人族は亜人の中でも瞬発的な力を発揮する俊敏性に優れており、その速さは最速で時速七十キロにまで到達する。地球にいた人間の限界が四十五キロだということを考えれば、猫人族がどれだけ俊敏性に優れているかが理解できるだろう。


「お前ら臭いニャ! だから死んで詫びるニャ!」


 言動が些か滑稽な言い草だが、やっていることは非道と言わざるを得ない。


 そうこうしているうちにミルダが二人目の盗賊の頭を潰したところで、ミャームに向かって挑発的な言葉を投げかけた。


「ミャームは非力だな。それでは力でねじ伏せられておしまいだぞ」

「何言ってるのニャ。どんな攻撃も当たらなければ意味ないニャ!」


 お互いにいがみ合いまるで自分の方が強いと言わんばかりに相手の戦闘スタイルを否定する。最終的に姫が気付いたときには追加で二人の盗賊が死体に変わり、残りはリーダー格の男を残すだけとなった。


 その圧倒的なまでの強さと速さに逃げる隙もなく、ただ目の前で起こったことを呆然と眺めるしかなかったが、自分がとんでもない相手に喧嘩を売ったことをようやく理解し、顔面が青白くなっていく。


 そんな中姫が男にゆっくりとした歩調で歩み寄る。魔法を使って男に止めを刺すためだ。男にとってその一歩一歩が死神の歩みに感じ、死に対する恐怖から膝から崩れ落ちた。


「た、頼む! 俺が悪かった。い、命だけは助けてくれ!!」


 先ほどまでの強気な態度はどこに行ったのか、両手を組みまるで祈るようなポーズで命乞いをする男だったが、彼にとっての不運はその相手が姫であったということだろう。


「そんなこと言って、どうせここで助かったらまた他の人たちを襲うつもりなんでしょ。そんな奴を生かしておくと思う?」

「た、頼む後生だ。見逃して――」

「さよなら《プリズンウォータ》」


 姫が魔法を使うと男の頭を水の玉が覆う。当然その玉を取ろうとするが、水でできた玉は男の手を突き抜けてしまい取ることができない。


 そうしている間も男の息が上がってしまい、呼吸ができなくなっていく。最終的に他の盗賊たちとは違い散々もがき苦しんだ挙句、息ができなくなり溺死してしまった。


 この世界にやってきて初めて人を殺めてしまった姫だったが、感想としては何も感じなかった。もともと他人に対しての興味も薄かった彼女が、地球とは別の世界にいる人間を殺したところで何も思うことはなかったのである。


 増してや相手は盗賊という極悪人である。地球の尺度から見て異世界の盗賊である彼らが犯した罪は、殺人・強盗・脅迫・暴行・傷害・恐喝・強姦と思いつくだけでもこれだけの罪を犯しているのだ。


 日本の法律なら強盗殺人の罪を犯した場合、課せられる刑罰は無期懲役・終身刑・死刑のどれかしかない。それに加えて盗賊の経験が長ければ長いほど複数回に渡って強盗殺人という大罪を犯していることになり、その罪の重さは計り知れない。


 従って、この場で姫が盗賊を殺すことはこの先盗賊たちが襲うはずであった人間を助けることになり、慈善活動と言えなくもない。


 しかしながら、それでも人を殺めるという行為に忌避感を感じなかったのは、彼女が普段から異世界にやってきたらどう行動すべきかというイメージトレーニングの賜物だろう。


 そのイメージの中に盗賊を殺すというものも含まれており、人を殺すことに対して少しでも忌避感を無くすため、FPSの戦争ゲームをやりまくったり現実に近いTVゲームで慣らしてきたことも要因の一つとなっていた。


「主、盗賊の掃討が完了しました」

「久々に暴れてすっきりしたニャ」

「お疲れ様。じゃあ死体を処理して先に進みましょうか」


 こうして、一つの盗賊団が滅びこの世界が少し平和に近づいたのであった。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

若返ったオバさんは異世界でもうどん職人になりました

mabu
ファンタジー
聖女召喚に巻き込まれた普通のオバさんが無能なスキルと判断され追放されるが国から貰ったお金と隠されたスキルでお店を開き気ままにのんびりお気楽生活をしていくお話。 なるべく1日1話進めていたのですが仕事で不規則な時間になったり投稿も不規則になり週1や月1になるかもしれません。 不定期投稿になりますが宜しくお願いします🙇 感想、ご指摘もありがとうございます。 なるべく修正など対応していきたいと思っていますが皆様の広い心でスルーして頂きたくお願い致します。 読み進めて不快になる場合は履歴削除をして頂けると有り難いです。 お返事は何方様に対しても控えさせて頂きますのでご了承下さいます様、お願い致します。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

異世界に落ちたら若返りました。

アマネ
ファンタジー
榊原 チヨ、87歳。 夫との2人暮らし。 何の変化もないけど、ゆっくりとした心安らぐ時間。 そんな普通の幸せが側にあるような生活を送ってきたのにーーー 気がついたら知らない場所!? しかもなんかやたらと若返ってない!? なんで!? そんなおばあちゃんのお話です。 更新は出来れば毎日したいのですが、物語の時間は割とゆっくり進むかもしれません。

オバちゃんだからこそ ~45歳の異世界珍道中~

鉄 主水
ファンタジー
子育ても一段落した40過ぎの訳あり主婦、里子。 そんなオバちゃん主人公が、突然……異世界へ――。 そこで里子を待ち構えていたのは……今まで見たことのない奇抜な珍獣であった。  「何がどうして、なぜこうなった! でも……せっかくの異世界だ! 思いっ切り楽しんじゃうぞ!」 オバちゃんパワーとオタクパワーを武器に、オバちゃんは我が道を行く! ラブはないけど……笑いあり、涙ありの異世界ドタバタ珍道中。 いざ……はじまり、はじまり……。 ※この作品は、エブリスタ様、小説家になろう様でも投稿しています。

死に戻ったら、私だけ幼児化していた件について

えくれあ
恋愛
セラフィーナは6歳の時に王太子となるアルバートとの婚約が決まって以降、ずっと王家のために身を粉にして努力を続けてきたつもりだった。 しかしながら、いつしか悪女と呼ばれるようになり、18歳の時にアルバートから婚約解消を告げられてしまう。 その後、死を迎えたはずのセラフィーナは、目を覚ますと2年前に戻っていた。だが、周囲の人間はセラフィーナが死ぬ2年前の姿と相違ないのに、セラフィーナだけは同じ年齢だったはずのアルバートより10歳も幼い6歳の姿だった。 死を迎える前と同じこともあれば、年齢が異なるが故に違うこともある。 戸惑いを覚えながらも、死んでしまったためにできなかったことを今度こそ、とセラフィーナは心に誓うのだった。

処理中です...