34 / 37
32話「☆2になったみたい」
しおりを挟むダンジョンから帰還した姫たちは、その足で冒険者ギルドへと向かった。時刻は夕方になったばかりでその日の依頼の報告のため、冒険者たちが受付カウンターに長蛇の列を作っていた。
姫たちもそれに倣い最後尾に並ぶ。しばらく列に並び続けていると、ようやく自分たちの番がやってきた。
担当してくれた受付嬢は、栗色の髪に翡翠色の瞳を持つ少女だった。年の頃は十代中頃とこの世界でいう所の成人したての年代である。
身長は百五十半ばと小柄ながらも女性として均整の取れた身体つきをしており、胸部は明らかに姫よりも大きいことが窺える。
自分よりも優れた武器を持っていることに一瞬受付嬢に対し殺意を覚えかけた姫であったが、相手は自分よりも年下であると言い聞かせ辛うじてその殺意を抑え込むことに成功する。
「ようこそ、依頼の報告でしょうか?」
「あら、あなたは確かあたしたちの登録をしてくれた」
「サリーヌです。改めてよろしくお願いします」
「よろしくね。それで用件なんだけど、☆1ランクで攻略可能な階層をクリアしたからそれの報告をしたいのだけど」
「……はい?」
姫の用件を聞いたサリーヌが怪訝な表情を浮かべる。だが、彼女がそのような態度を取ってしまったのには理由がある。
毎年冒険者ギルドには冒険者を目指す者が星の数ほどやってくる。その規模は数万人とも数十万人とも言われているが、その中で冒険者として大成する人間は数千人、あるいは数百人程度しかいないとされている。
ダンジョンがある都市にある冒険者ギルドで新規登録をしたその日に、最下位ランクである☆1が攻略可能な階層を踏破する者などはっきり言って特異な存在なのだ。
低階層といえど広大な広さを誇るダンジョンを僅か一日で駆け抜け、ボス部屋にまでたどり着き尚且つボスを撃破して戻ってくる事などそれこそ中位冒険者でさえ簡単にはいかないのである。
それをあろうことか今日登録したばかりのそれも女性のみのパーティーで編成されている姫たちが、五階層までたどり着きボスを攻略したなど何の冗談かと思ってしまうのは至極当然のことなのだ。
「おい、嬢ちゃん。さっきから聞いてりゃ、冗談も大概にしておけよ」
姫の後ろに並んでいた男性冒険者が、話の内容を聞いて剣呑な雰囲気で話し掛けてきた。彼がそういう態度を取るのも無理な話で、冒険者とは常に死が付きまとう命懸けの職業なのだ。
そして、上に行くためにはありとあらゆる依頼をこなし、ギルドに認められなければならない。時には死を覚悟して遂行しなければならない依頼もあり、それがもとで死んでしまう冒険者も少なくない。
その中で努力と研鑽を積み、命懸けの依頼を達成できて初めて上位のランクになれるものなのだ。そして、その資格を得ることができるのは選ばれた人間だけだ。
そんなサラセウムにあるダンジョンの最初の五階層は、選ばれた人間を選定するための試練であると同時に資格を持たない人間を振るい落とす場所でもある。
姫に絡んできた男とて冒険者になって数年の時間が経過しているが、最初の五階層にたどり着くことができたのは冒険者ギルドで登録してから数か月以上の月日が掛かっている。
だというのに、どう見てもか弱い女性である姫が登録したその日に五階層を踏破したというなどと口にすれば誰だって最初から信じる方が無理な話だろう。
「あたしは別に嘘はついてないわよ。五階層まで行ってホブゴブリンを倒してきたわ」
「ふん、その話が本当なら討伐証明の頭部を出してもらおうか」
「討伐証明?」
「それはですね……」
男の言葉に聞きなれないものがあったので聞き返すと、すぐにサリーヌが説明してくれた。討伐証明とは各モンスター毎に設定されている討伐したことを証明するためのものであり、基本的にはドロップアイテムの魔石がそれに当たる。
しかし、特定の階層に存在するボスの場合討伐時に必ずドロップするアイテムが存在する。冒険者ギルドはそのアイテムをボスを討伐したことを証明する証としているのである。
そして、討伐証明のアイテムは基本的に加工品として取り扱われるため、お金を払ったとしても手に入らず、また他のものに譲渡しようとするとどういうわけか光の粒子となって消滅してしまうのだ。
だからこそ、討伐証明であるドロップアイテムは、その者が実際にボスと戦って入手したということを証明できる十分な証拠となり得るのである。
「ふーん、なるほどね」
「嬢ちゃんが本当にホブゴブリンを倒したっていうのなら、その証拠である【ホブゴブリンの頭部】を出してもらおうじゃねぇか!」
「はいどうぞ。これでいいんだよね? ホブゴブリンの頭部って」
「「え?」」
まさか本当にホブゴブリンの頭部を持っているとは思っていなかったのか、サリーヌと男性冒険者が素っ頓狂な声を上げる。
すぐに正気を取り戻したサリーヌが姫からホブゴブリンの頭部を預かると、鑑定作業に入る。しばらくその場に沈黙が漂っていたが、その沈黙がサリーヌの言葉によって破られた。
「間違いありません。本物のホブゴブリンの頭部です」
「ば、馬鹿な! 偽物なんじゃないのか!?」
「冒険者ギルドの職員の名に懸けて、このホブゴブリンの頭部が本物だと断言します」
「どんな手を使ったんだ!?」
姫が提出した五階層のボスの討伐証明であるホブゴブリンの頭部が本物であるとサリーヌが宣言すると、男性冒険者は姫に食って掛かる。
登録したばかりの駆け出しである姫たちが、ホブゴブリンを撃破した事実を受け入れられなかったのだろう。何か不正をしたのではないかと詰め寄ってくる。
しかしながら、不正をしていない姫たちからすればとんだ言いがかりなため、男性冒険者の言葉を否定する。
「ホブゴブリンと戦って手に入れたに決まってるじゃない。それ以外にこのアイテムを手に入れる方法があるっていうの?」
「そ、それは」
「とにかく、五階層のボスの討伐証明であるホブゴブリンの頭部の確認が完了しましたので、今から姫様たちを☆2にランクアップします」
「なっ!?」
姫の言葉に男性冒険者が反論できずにいると、サリーヌが三人のランクアップの宣言をする。それを聞いた男性冒険者がさらに驚愕の表情を浮かべる。
さらに男性冒険者がなにか言おうとしてきたが、サリーヌの“これ以上仕事を増やさないでくれ”という非難めいた視線に押し黙る事しかできなかった。
そんなサリーヌを見て、見た目よりもなかなか場慣れした受付嬢だと姫は感心する。
☆2になるための手続きを手短に終え、姫たちは一度宿屋へと戻ることにする。
宿に戻った姫たちは、一度今回のダンジョン攻略で手に入れた報酬の分配について話し合うため二人に話を振ったのだが、すぐに返ってきた答えは報酬は要らないの一言であった。
「どうして要らないの? 基本こういうのって山分けなんじゃ?」
「それはパーティーメンバーが一般的な冒険者である場合です。アタイもミャームも主の奴隷ですので、基本的に奴隷が得た収入は全て主人のものとなります」
「ミルダの言う通りだニャ」
ミルダの説明に首を縦に振りながら同意するミャーム。しかし、そんなことを説明されて「はいそうですか」と納得できるほど姫の性根は良くはない。
「それじゃああたしがいない時にお金が必要になった時に困るでしょ? だから二人には報酬は受け取ってもらうから」
「……主がそう言うのでしたら」
「ニャーはどっちでもいいニャ。ご主人の美味いご飯が食べられれば、それで満足ニャ」
それからいろいろと話し合った結果、ダンジョンで得た金額の3%を二人にそれぞれ支払うということで決着した。
今回のダンジョン攻略で手に入れたモンスターの魔石や骨などのドロップ品などを換金した合計額は11100ゼノだったため、ミルダとミャームにはそれの3%に相当する330ゼノが報酬として支払われた。
ちなみにこの合計額は三人編成でのパーティーの報酬としてはかなり多く、一般的な1階層から5階層を攻略したパーティーの報酬額は4000から5000ゼノ程度が相場なことを見ても、姫たちの異常性がよくわかる。
その後、宿の食堂で食事を済ませダンジョンでの疲れも手伝ってかすぐに眠気がやってきたので、すぐに寝る支度をして就寝することにしたのであった。
11
あなたにおすすめの小説
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
異世界へ誤召喚されちゃいました 女神の加護でほのぼのスローライフ送ります
モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎
飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。
保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。
そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。
召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。
強制的に放り込まれた異世界。
知らない土地、知らない人、知らない世界。
不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。
そんなほのぼのとした物語。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!
椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。
しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。
身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。
そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!
召喚失敗!?いや、私聖女みたいなんですけど・・・まぁいっか。
SaToo
ファンタジー
聖女を召喚しておいてお前は聖女じゃないって、それはなくない?
その魔道具、私の力量りきれてないよ?まぁ聖女じゃないっていうならそれでもいいけど。
ってなんで地下牢に閉じ込められてるんだろ…。
せっかく異世界に来たんだから、世界中を旅したいよ。
こんなところさっさと抜け出して、旅に出ますか。
悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。
向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。
それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない!
しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。
……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。
魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。
木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ!
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める
遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】
猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。
そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。
まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる