オンラインゲームしてたらいつの間にやら勇者になってました(笑)

こばやん2号

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2部【アース大陸横断編】 第1章 「目指せドグロブニク 漫遊編」

70話:「一騎打ちの観戦者たち」

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大和とベルゼが飛び立った後、その場に残された者たちは沈黙する。
別に相手と仲良くする義理もなく増してや以前に戦ったことのある相手だ。
だからこそこの場に流れる空気はすこぶる悪くなるのは自然だ。
風が吹き抜ける音のみがその場を支配し、誰も口を開こうともしない。

だがしばしの沈黙ののちその場の空気を変える一言を発言する人物がいた。

「それであたしたちはどうすればいいのでしょうか?」

エルノアが二人に問いかける。
ベルゼと大和が一騎打ちで戦うことに関しては異存はないのだが
彼らの戦いが終わるまでじっとしていることが
正しいことなのか分かり兼ねるといった心情なのだろう。

その是非を二人に問いただすことで今後自分が取るべき行動を見定めたい腹積もりだ。
その問いに答えたのは意外にもリナだった。

「ヤマト様が一騎打ちを望まれた以上私たちは黙って見守るほかありません。
 おそらく相手の魔族も同じ考えなのでしょう、その証拠にリリスに手を出すなと命令を出しています」

リナは少し離れたところで待機しているリリスを一瞥すると視線をマーリンに向ける。

「マーリン様のお考えはどうなのですか?」
「マーリンも概ねその判断が正しいと思うですのん
 おそらくヤマトさんが4対2の戦いを避けたのは私たちを守りながら戦うのが
難しいと判断したためではないかと思いますのん。
 下手にここでリリスと戦ってしまえばヤマトさんの行為を無駄にしてしまいかねないですのん」

二人の結論は大和たちの戦いの決着が付くまで見守るという判断であった。
エルノアとしてはリリスを倒して、自分も大和のもとに向かいたかったが
二人の意見と自分では足手まといにしかならないという判断から
彼女も黙って大和たちの一騎打ちを見守るという結論に至った。


一方リリスはというと

(どうしよう・・・・なんかすごく気まずい・・・・)

この場にとても居づらいと感じていた。
そもそもベルゼが大和を抹殺するという任務が決定した時点で
リリスは城で待機するつもりでいた。
目も前で好きな人が死んでいく様など誰しも見たくはないだろう。
だからこそせめて自分の目の届かないところで死んでほしいという願望だったのだが
その願望はベルゼのこの一言で打ち砕かれた。

「リリス、勇者の正確な位置がわからないから道案内を頼めるかしら?」

何とか断ろうと思ったのだが正当な理由を見つけることができなかったため。
こうして特等席での勇者が殺されるところを見せられる羽目になったのだ。
このときほど姉であるベルゼを憎らしいと思ったことはなかった。

(とにかく姉さまにも言われた通り他の三人には手を出さないけど
向こうから攻撃してきたりはしないわよね?)

そう思い相手に気取られぬよう様子を窺う。
どうやら向こうも大和たちの一騎打ちを見守るという結論になっているらしく
こちらではなく大和の飛び去った方角を見ている様だった。

(ひとまずは敵対する意思はないみたい、よかったわ・・・・)

相手に敵対の意思がないとわかりほっと胸を撫でおろす。
そして親切心からリリスは三人にとある提案をするため近づく。
当然のことながら警戒し臨戦態勢を取る三人だったが気にも留めず話しかけた。

「ねえ、ちょっといいかしら?」

かなり警戒されているがこちらに戦う意思がないのを認めるとリナが返答する。

「何か?」

明らかに敵意をむき出しにしている声色での返答だったが
リリスは続きを話し出す。

「ここにいても一騎打ちの様子は見れないし
かと言って近づくわけにもいかないじゃない?
 だからこれで二人の一騎打ちを見ようと思うんだけど、あなたたちも見るかと思っ・・・・」


「「「見せて!!!!!」」」


懐から取り出した水晶を見せながら話していると
言い終わる前にリリスの言葉を遮って三人が同時に叫んだ。
びっくりして一瞬目を見開いたが元の顔に戻ると

「分かったわ、じゃあ映すわよ?」

そう言うとリリスは水晶に魔力を込め始める。
淡い光を放ちながら空中で浮遊する水晶が徐々に強い光を放ち出し
目が眩むほどの光を放出すると、水晶には大和とベルゼが戦っている姿が映し出される。

「ヤマト様!!」
「頑張ってくださいヤマトさま!!」
「負けちゃダメですのん!!」

三人が大和に向かって声援を送る中、リリスも内心では大和に声援を送っていた。
姉には悪いが惚れた男が死ぬのは女であれば誰しも嫌なのだ。
そしていよいよ戦いが始まる。
最初はお互い様子見といった感じで相手が放った魔法を
効果的な魔法で打ち消すといった攻防が幾度が行われた。

(ってちょっと待ってよ!? なんなのこのレベルの高い攻防は!!)

リリスは思わず心の中でそう叫んでいた。
二人がぶつけ合っているのはギガント級即ち超級クラスの魔法なのだ。
この世界において魔法には階級である程度ランク付けされており
それぞれ初級 (ファースト)、中級 (セカンド)、上級 (サード)、超級 (ギガント)、超絶級 (テラント)、
そして最高クラスの最上級 (マキシム)の6段階にクラス分けされている。

ヤマトとベルゼが使っている魔法のクラスはギガント級の魔法であり
その力はサード級以下の魔法とは比べ物にならないほど強力な力を持つ。
そんな魔法を様子見でホイホイ連発している時点で
この戦いが常識を逸脱した戦いということは誰の目にも明らかだった。

これはリリスだけでなく戦いを見ていたリナたちにも理解できたようで

「ヤマトさま・・・・こんなに強かったのですか!?」
「流石は私の未来の旦那さまですぅ~」
「リナさんまた【だらしのない顔】になってますのん!!
 それにしてもやっぱりヤマトさんはかっこいいですのん・・・・」

思い思いの感想を漏らす三人であったが
大和たちの高レベルな戦いに呆気に取られている様だった。

そして、均衡を保っていた戦いに変化が生じる。
ベルゼが勝負を仕掛けたのだ。

「そっそんな!? 姉さまテラント級の魔法なんて!!」

リリスが驚くのも無理はない。
もともとテラント級の魔法は一発放てば中規模の町を一つ壊滅させるほどの威力を持っているからだ。
あれほどの攻防があったあとにそれほどの魔法を行使できる時点で
姉の強さと今まで手を抜いて戦っていたのだということが理解できる。

リナたち三人も絶望の表情で叫び声を上げる。
だがそんな思いもむなしくベルゼの放った魔法は大和に直撃する。
リリスを含めたその場にいる全員が目を伏せた。
最悪の状況を想像しながらも恐る恐る目を開けると。
そこには無傷の大和がいた。
全員が安堵の表情を浮かべ一安心していると大和がベルゼに話す声が聞こえてきた。

「じゃあ次はこちらの番だな。
 いくぞっ・・・・まき・・・・まじっ・・・・らーう゛ぁ・・・・・・」

突然映し出す水晶の映像が乱れ、大和の声も途切れ途切れで
何を言っているのかわからないまま映像が切れてしまった。

「ちょっと! どうなってるんですか!!」
「見えなくなっちゃったですのん!!」
「壊れたんじゃないんですか?」
「そっそんなはずは・・・・」

その後いろいろと試してみたが結局その後大和たちが戻ってくるまで
映像が回復することはなかった。
その後何があったのか、それを知るのは本人たちだけだった。
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