転生してもノージョブでした!!

山本桐生

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お仕事頑張るぞ編

溢れる金貨と老執事

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「お父さん、お母さん……どうしよう……お金が……」
 俺は鉄で補強された木箱を見下ろした。
「まさか……こんなに……」
「シノブ、あなたって子は……」
 木箱の中に溢れる金貨。
 ガララント石を使ったランタンが信じられない程に大当たりした。
 短期間のうちにミツバの工房も増築、そして人も増やした。
 贅沢しなければ俺が死ぬまで生きていけそう。
「ちなみにランタンは予約いっぱいで半年待ちだ」
 ヴォルフラムの言う通り、これはまだまだ稼げそうだぜ……
「みんなで豪邸に引っ越して遊んで暮らす?」
「今の生活に不満は無いぞ」
「確かにそうよね」
 基本的にエルフという種族は自然との共存に優れた種族で、あまり贅沢な生活に価値を見出していない。
「じゃあ、とりあえず貯めるだけ貯めておくね」
 まぁ、後で旅行に行ったりしても良いしな。

 そんなある日である。
「それじゃミツバさん、お店を頼みますね」
「本当は俺も行きたいんすけど、分かりました。姐さんのいない間、店は俺が守ります」
「じゃあ、ヴォル。行こっか」
「ああ」
 ヴォルフラムは本来の大きさに戻っていた。いつもは大型犬程度だが、今は元の世界で言うなら象程の体格。俺や荷物を乗せる事に何の苦も無い。
 俺とヴォルフラムは仕入れの旅に出る。往復で十日程度になるかな。
 ヴォルフラムが一緒という事でお父さんとお母さんの了承も得た。二人ともかなりの難色を示していたが、まぁ、ヴォルフラムっていう半端ねぇボディーガードがいるからね。
 アバンセに頼めば半日で済むんだけどな。俺達の商売に巻き込むわけにはいかん。自分達の事は自分達で!!

 ヴォルフラムは道無き森の中を駆け抜ける。
 そして俺は振り落とされないようにヴォルフラムにしっかりと掴まる。本来なら馬車を使い往復二十日間なのだが、ヴォルフラムの足でこの森を突っ切る事により半分で済むのだ。
 そしてしばらく走った辺りで。
「なぁ、シノブ。そんなに金を貯めてどうするんだ? まだ必要なのか?」
 ヴォルフラムは言う。
「お金はいくらあっても良いからね。それとね、お金がいっぱいあったら孤児院とかも出来るじゃん」
「孤児院? どうして急に?」
「いやさ、ふと思ったの。私って捨て子だったでしょ? たまたまアデリナさんやヴォルに拾われて、良い両親に恵まれたけど、そうじゃない子もいっぱいいるでしょ」
 この世界は前世のように社会福祉がしっかりと整備されていない。孤児も比較的に多く、人身売買なども存在していた。
「あれ? 本当にシノブ? 俺の印象だと最近のシノブは守銭奴なんだけど」
「ふふっ、そいつは間違いねぇ。オイラは守銭奴、孤児院設立も金持ちの道楽、我が商会のイメージアップの為なのさ、ふっふっふっ」
「それでこそシノブ」
「おいっ!!」
 ヴォルフラムは笑った。
「そう言えばこの辺りだ。シノブが捨てられていたの」
「……そうなの?」
 あまり考えた事は無かったな。
「ねぇ、ヴォル。ここから近い所に交易都市があるよね?」
「ああ、俺の足で半日くらい」
 馬車だと一晩か……
 商業、交易、交通を中心とした大きな都市が近くにある。王族に連なる者が治める大都会。ちなみに大陸全土に名を馳せる大商会、お母さんの実家でもあるモア商会も交易都市。
 俺を捨てたのも交易都市の住人かもな。
「気になる?」
「気にはなるけど、めちゃくちゃ気になる程じゃないよ。でも記念に私が捨てられたトコは見とこうかな」
「何の記念だ……」
 俺の存在が邪魔で捨てたんだろうから、都市には近付かない方が良いだろ。どんな面倒に巻き込まれるか分からんからな。
 そこから少し走り、日が暮れ掛けたその時。
「この辺だったと思うけど」
「めっちゃ森じゃん。ここに捨てられたら普通は助からないよね」
「……シノブ、誰かいる」
「こんな所に? ヴォルは見える?」
 辺りは薄暗く、俺に相手の姿は見えない。
「見える。老人。細身だけど体付きはしっかりしている。服装は良い身分。それとここから見えない離れた位置に二人」
「合計三人か。何をしているか分かる?」
「分からない。けど不味い。魔物が近くにいる」
「魔物? こっちを狙ってるの?」
「こっちには俺がいるから大丈夫。向こうもこっちの気配に気付いている。だから狙いは離れた二人」
「ヤバイね。助けるよ」
「分かった」
 そうして俺達は老人の前に飛び出した。

 突然の登場に老人は驚く。
 そして俺はヴォルフラムから飛び降りる。
「とりあえず聞いて下さい!! 近くに魔物がいます。狙いは離れた所にいる二人です。ヴォル。そっちをお願い」
「分かった」
 遠くから女性の悲鳴が響くのと、ヴォルフラムが飛び出すのは同時だった。間に合ってくれ!!
「あ、あなたは……」
「私はエルフの町のシノブ。近くに魔物がいるって気付いたので。まぁ、突然で信じられないと思いますけど」
「その目と髪……」
「あっ……」
 これはもしかして面倒臭ぇ事になるか?
 俺の見た目はエルフや獣人には女神アリアの姿として人気があるが、普通の人間には裏切りの邪神アリアとして蔑まれる。
 そして老人は普通の人間だ。
「珍しいとは思うんですけど、中身は普通の人間なんですよ!! 邪神の生まれ変わりとか言われても困りますし、そんな事は全くありません!!」
 下手したら魔物を使っての自作自演で陥れる為の罠とか勘違いされる!!
 なんて所にヴォルフラム登場。
 その横には魔物に襲われそうだった二人の女性。
 良かったぜ。間に合って。
「無事で良かったという事でさようなら」
 俺はヴォルフラムの背中に跳び乗る。早々に立ち去ろう。
 だが老人は……
「待って下さい。助けられたのは確かなようです。何かお礼をさせて下さい」
「あの、心遣いは嬉しいのですが、そろそろ完全に日が暮れますし、あなた達は戻らないとこの森で野宿になりますよ?」
「シノブ様はどうなさるつもりなのですか?」
「私はこの子、ヴォルフラムと野宿です」
「野宿!!?」
「ヴォルがいますから。一緒に寝ると暖かいし、ベッドみたいで心地良いんです」
 俺は笑った。
 老人は女性二人に何かを耳打ちした。そして……
「……分かりました。では私もご一緒します」
「うっそ!!?」
 どうして? お礼をしたいからって普通そうなる?

★★★

「改めまして。私はレオ・トライドン。シノブ様、ヴォルフラム様、よろしくお願いします」
 灰色の髪をオールバックにして、口ひげも綺麗に整えられていた。老人でありながら体は細く締まり、姿勢も良い。黒を基調にした姿は執事の姿そのもの。
 そう言えば先に帰らせた女性二人もメイド姿だったもんな。
 どこか良い家の使用人、老執事って感じか。
「シノブ様って、そんな風に言われるタイプじゃないんですけど」
 それに対してレオは微笑むのみ。
「お二人はどうしてこんな所にいらしたのですか?」
「ちょっとお仕事で。近道として森を突っ切っていました」
「仕事? その歳で働いているのですね」
「そうなんです。これ知っていますか?」
 そうして取り出したのはガララント石を使ったランタン。
「これは最近、売り出されたガララント石のランタンですね? 交易都市でも話題になっている品物ですが……」
「これが我が商会の品物です。レオさん、お礼としてこれをもっと広めて下さい!! あげますので!!」
 ランタンを押し付ける。
 これや!! こうやって人脈と販路を増やしていくんやで!!
「まさか……これをシノブ様が?」
「そうです」
「信じられないだろうけど本当。シノブはこういう事に凄い頭が回る」
「……魔力を流してみても?」
 俺が頷くと、レオはランタンに魔力を流した。ランタンが明るく輝く。
「素晴らしい……模倣品も多く、それらに魔力を流した時の反応はもっと悪かった。これはまさに本物……装飾も繊細で美しい……本当に素晴らしいです、シノブ様、ヴォルフラム様」
「ありがとうございます。レオさん達はどうしてこんな所に?」
「……命の恩人に対して心苦しいのですが、主人がいますので……申し訳ありません」
 確かに内容云々ではなく主人がいるなら簡単には話せないか。
「でも何か大事な用があるなら、無理してお礼しなくても大丈夫ですよ?」
「いえ、私がどうしてもお礼をしたいのです。先に帰らせた二人には言付けを頼みましたので、主人も許してくれるはずです」
「だったら良いですけど……」
 一緒に付いて来てどんなお礼をするつもりなのか……まさか何か裏があるんじゃ……とはいえ、出会ったのは全くの偶然。何かを仕組む事など出来ないだろ。それにヴォルフラムがいるから襲われる可能性も低い。
 ……まぁ、良いか。

★★★
 
 数日後。
 緑が豊かだった森の景色は、やがて岩だらけの姿をした山へと変わる。
 地表の草木は焼き払われ、ゴツゴツとした岩が露出した山。
 スゲェな。まだ麓だってのに熱風がここまで届いてやがる。その頂上には煮え滾るマグマが満たす火口がある。
「シノブ様、ここがどういう所か分かっているのですか?」
「やっぱり驚きますよね」
「こういう熱い所は苦手だ」
「もしかして……お仕事とは……パル鉄鋼に関係があるのでしょうか?」
「その通りです」
 パル鉄鋼……それは火口付近で取れる特殊な鉱石であり、武器防具の素材としては最高級品。
 そしてその名の通り、この火山を根城とするのは轟竜パル。
 轟竜パルの影響を受けた特殊な鉱石、パル鉄鋼。そしてその入手難易度の高さから市場に出回る事はほぼ無い。
「……パル鉄鋼は轟竜パルが居ない間に少量盗むのが精一杯と聞きます。仕事としてあの竜と対するのは無謀と思われますが」
「盗もうとするからパルが怒るんですよ。今回、私は仕事としてパルと話し合うつもりなんです」
 そもそもみんな勘違いしてる。
 パルの馬鹿は乱暴、馬鹿、粗暴、馬鹿、高慢、馬鹿かも知れないが悪い奴では無いんだよ。馬鹿なだけで、多分。竜の罠の時も助けに来てくれたし。
「轟竜パルと話なんて……通じるわけがありません。シノブ様、考え直して……」
 なんてレオが言っている途中だった。
 俺達の上に巨大な影が覆い被さる。そこを見上げると……
 赤い鱗。
 燃える炎のような真紅の竜。轟竜パルがそこにいた。
 その光景にレオは言葉を失った。
「匂いがしたから来て見れば、シノブじゃねぇか!!」
「久しぶりだね」
「ヴォル公も良く来たな。歓迎するぜ、ゆっくりしてけよ」
「ゆっくりしたら干からびそう」
「はっはー、確かにお前には辛そうだ。ここは熱いからな」
 笑い声と共にパルは空から舞い降りた。
 そして俺の前ではヌイグルミのような姿の小型竜に変身する。
「で、このジジイは誰だよ?」
「レオ・トライドンと申します。轟竜パル様、お初にお目にかかります」
 これが出来る執事なのか。
 レオから驚きの表情は消え、日常の何気ない顔に変わっていた。
「ジジイ、てめぇ、シノブとはどんな関係だ? 場合によってはブッ殺すからな」
 俺はパルの頭をポコッと叩く。
「ちょっとパル、レオさんに失礼でしょうが」
「なっ、お、お前、俺は世界の頂点に君臨するパル様だぞ? その頭を叩くとか正気かよ?」
「頂点なら頂点らしい対応しなよ。さっきの台詞とかめっちゃチンピラじゃん」
「チンピラ!!?」
「もっとちゃんとした対応をするの。そんな態度だと誰も世界の頂点とか認めないよ。パルだって、ただの乱暴な厄介竜とか陰口叩かれたくないでしょ?」
 俺は調子こいてるパルにハッキリと言ってやる。
 逆ギレされても返り討ちにすりゃ良いだけだしな!!
 しかしパルの反応は……笑っていた。
「くはっ、はははははっ、面白ぇ、シノブ、お前は本当に面白いな。この俺様に説教するなんてよぉ」
 そんな俺とパルを交互に見て、レオは言う。
「ヴォルフラム様、シノブ様はパル様と随分親しいようですが?」
「そう。シノブはパルから求婚されているから」
「求婚!!?」
 さすがにレオの声も大きくなる。
「私は断ってるけどね」
「今じゃねぇ。いつかは手に入れてやるからな」
「はいはい」
 俺は笑った。
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