転生してもノージョブでした!!

山本桐生

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天空の城は本当にあったんだ編

オークとドンドゥルマ

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 塔400階。
 建造物として可能なのか……なんて考えるのは無粋か。ダンジョンの外観と中身が違うなんて、たまにあるしな。
 俺達はただひたすら上を目指すのみだぜ。
 そしてここが塔内の地図に記された最終階。これより上は地図に無い未知の階……と言っても、ただ情報が少なく地図になっていないだけで、実際にはかなり先まで行っている者もいるらしい。
 しかしもう人影はほとんど見えない。
 そしてこの階にあるのは雑貨屋と宿屋だけ。この宿屋をベースとし、雑貨屋で消耗品を補充しつつ、行ったり来たりを繰り返し、少しずつ先に進む事になるのだ。

「じゃあ、みんな、ここからが本番だよ」
 そして挑むのは401階。
 前方をドレミドとミラン、真ん中に俺とヴォルフラムとシャーリー。後方にはベルベッティアとアリエリ。
 ヴォルフラムは足を止めた。
「何かが来る」
 通路は一本道。
 ドレミドとミランは剣を抜く。
「どっちから?」
「両方」

 ガアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァッッッ!!

 うわーすっげー嫌な予感がするんだけど……
 獣の雄叫びである。
 そして足音が塔を震わせているようでもあった。

 それは獣人。
 豚とも猪とも言える顔。巨躯の体を鎧に包み、巨大な武器を手に持つ。オークとも呼ばれる獣人だった。しかしその大きさが普通じゃねぇ!!
 普通のオークはビスマルクと同じくらいの体格だが、このオークは巨大化したヴォルフラムよりデケェ!! 身長は5メートルを余裕で超える。
 それが前後から一体ずつ。
「アリエリ!! 一人で少しだけ抑えて!! ベルベッティアお願い!!」
 アリエリは防御力が高い、敵の程度にもよるが、ある程度の時間は稼げるはず。そして状況によってはベルベッティアが指示を出す。
 アリエリは両手を前に出した。
 突進するオーク。その太い腕に握られるのは巨大な鉄柱。オークはそれをまるで小枝のように振り回し、そしてアリエリへと振り下ろした。
 ドズンッという鈍い音。
 鉄柱はアリエリの眼前で止められていた。まるでそこに見えない楯があるように。
 そしてアリエリは言う。
「行かせないよ」

「シャーリー、膝を撃ち抜ける!!?」
「任せて!!」
 ドレミドとミラン、二人に迫るもう一体のオーク。その手には巨大な戦斧。ミツバが持つ戦斧も俺の体を隠すくらい大きいが、オークが持つ戦斧はその何倍もの大きさをしていた。
 そのオークに向けて、シャーリーが魔弾を放つ。
 クルクル回した指先から放たれた青く光る小さな弾。それは以前ドレミドに放ったのとは比べ物にならない速さだった。まるでレーザー光線。一瞬にしてオークの膝を撃ち抜いた。
 そして俺は声を張り上げる。
「止まりなさい!!」
 オークは魔物ではない。俺達と同じ、ただの一種族。知性があり、言葉だって通じる獣人だ。
 しかしオークは止まらない。膝関節が破壊されているのに、全く意に介さない。
「ガアアアアアァァァァァッ!!」
 怒号と共に突進、その巨大な戦斧を振り下ろした。
 鉄の鈍器がぶつかり合う重い音。それは空気さえ震わせる衝撃だった。
 巨躯のオークに比べれば、小さ過ぎる体のドレミド。しかしドレミドの剣は、オークの一撃を真正面から受け止めていた。
 その光景にシャーリーは思わず呟く。
「凄っ……」
 そしてその隙にミランの剣が一閃。オークの足を斬り裂く。それはシャーリーの魔弾が貫いたのとは逆の足。これで両足。理性があれば簡単には動けないはず。
 しかしそれでもオークは止まらない。手に持つ戦斧を振り回す。
「撃つよ!!」
 シャーリーから連続で放たれる魔弾。致命傷を避けつつ、何箇所もオークの体を貫通する。
 これでも止まんねぇ、バケモノかよ!!?
 生半可な攻撃ではオークを止められない。それをドレミドとミランも分かったのだろう。その剣の威力、速さが段違いに跳ね上がる。
 二人の激しい攻撃に晒され、さすがのオークもなすすべもなくその場に崩れ落ちた。
 崩れ落ちると同時にオークの体が霧散する。まるで煙のように空気に溶け消えた。それは生物ではない。これは塔に設置された罠の一つ。
 それに気付き、俺は叫ぶ。
「アリエリ!! 相手は普通じゃないから遠慮無く叩き潰しちゃって!!」

「うん。叩き潰した」
 はい、アリエリ、強過ぎ。マジで叩き潰したわ。
「本当にアリエリって強かったんだ?」
「そうだよ、シャーリーはね、信じてなかったの?」
「うん。だってアリエリお子様じゃん。普通は見るまで信じられないって」
 そう言ってシャーリーは笑う。
 とりあえず全員無事でオークは倒せた。しかしこれから上はこんなんばっかりなんだろ? 気合入れてかんとな。
 俺は改めて気を引き締めるのだった。

★★★

 オークだの何だの、次々と出て来やがる。
 しかしそれを次々と撃破していく俺達。
「ねぇねぇ、ちょっと、めっちゃ順調じゃない? このまま最上階まで行けちゃうんじゃないの?」
 嬉々としてシャーリーは言うのであるが……
「この程度の相手しかいないなら、過去に他の奴がもう最上階に辿り着いているだろ」
「うわーミラン、ノリ悪ぃー」
「お前、ノリで言っていたのかよ……」
 と、シャーリーとミラン。
「ねぇ、ベルベッティアは天空の城を見た事があるんだよね?」
 と、アリエリ。そのアリエリの頭の上に乗るベルベッティアは言う。
「ええ。ただハッキリとは見えないの。天空の城は雲に包まれているから」
「そうなの? それでお城って分かるの?」
「雲の向こうに少しだけお城の形が見えたわ」
「私も聞いた事がある。誰が造ったのか分からない天空の城。何十年も掛けて空を周るんだ。女神アリアが住んでいるなんて話も聞くぞ」
 ドレミドは言う。
 そんな話をしている隣での俺とヴォルフラム。
「ねぇ、ヴォル~塔の中ってさ、景色が変わらなくてつまんなくない?」
「同じようで何階だか分からなくなる」
「さて今何階でしょう?」
「459階」
「正解だし。ちなみに語呂合わせで『地獄』だね」
「そういうのすぐ出るのがシノブっぽい」
 しかしそんな雑談をしていても……
「シノブ」
 ヴォルフラムは足を止める。同時にドレミドとミランの表情が変わる。その変化に気付きシャーリーも表情を引き締めた。
 いつもと変わらないのはアリエリ。しかしその頭の上でベルベッティアが周囲に視線を走らせる。

「さすがに勘が良い。隠れて何かをするのは無理そうだ」
 そう言って目の前に男が一人。
 年齢は三十代だろうか。感情を読み取れない無表情、そして鋭い視線が俺達を観察している。
 ミランが俺に小さく呟く。
「強いぞ」
 俺は視線だけで頷く。
「どなたでしょうか?」
「六戦鬼」
「私の知っている六戦鬼は女を狙うダメパーティーなんですけど?」
「困った奴等だ。勝手に人の名前を使いやがって、こっちにまで迷惑が掛かる」
「自分が本当の六戦鬼だと?」
「そうだ。信じられないなら戦ってみるか? 救国の小女神」
「それ良い案だと思う。でもボッコボコにするけど大丈夫ですか?」
 そこで男の顔に初めて感情が表れる。小さく笑った。
「赤い目に白い髪、お前がシノブなんだろう? 面白い女だ。でも良いのか? シノブは知略で戦うと聞く。ここはやり辛いだろう?」
 確かにやり辛ぇな。この男はよ。
 構造の分からない塔内。使える物も少なく地形や立地の利用が出来ない。通路は狭く一本道が多い。出来る事が極端に少ない。
 事前に計画を立てて行動する俺にとっては戦い辛い場所だ。それをこの男は見抜いている。ただそれは相手も同じ条件。
「うん、やり辛い。けど負けるとは思わない。だよね?」
「当たり前だろ」
 ミランが男の前に立つ。そして剣を抜く。
「やる気だな、青年」
 男も剣を抜く。そしてミランの構えを見て言葉を続ける。
「どこかの騎士団にでも所属していたか? 訓練をされた正統派に見えるが」
「力ずくで聞き出してみたらどうだ?」
「ああ、そうさせてもらおう」
 二人の間合いが一瞬で詰まる。
 交わる剣戟。
 ミランも強いが、相手の男も相当に強い。
 俺の目では捉えられない程の速さ。激しい打ち合いが繰り返される。
「……視線を感じる」
 ヴォルフラムだ。
 まぁ、仲間がいて当然だろ。
「近い?」
「そこそこ距離はある」
「アリエリ、そういう事なんで何かあったら防御はお願い」
「うん。分かったよ」
 俺達には見えないが、アリエリは見えない盾を周囲に展開しているのだろう。
「んじゃ、ドレミド、ミランの加勢に行って」
「良いのか? 一対一の戦いを邪魔してしまうぞ?」
「いや、別にルールのある試合しているわけじゃないし」
「シノブ、悪役みたい」
「むしろこれこそシノブ」
「シャーリーもヴォルも……良く分かってんじゃん」
 俺は笑う。
 激しい剣戟の中にドレミドが割って入った。強烈な一撃が男の体勢を崩す。そして体勢を崩した男の喉元にミランの剣が突き付けられた。
「シノブってのは思っていたより卑怯な奴だな」
 男は剣を捨てる。
「だってもう分かったでしょ?」
 俺の言葉に男は少し驚いた表情を浮かべる。そして次にまた笑った。
「ああ、分かった。お前達は本物だ」
 俺達を害するつもりなら、姿を現す必要は無い。気付かれたとしても、もっと仲間を近くに配置するだろう。つまりこの男が直接に出向いて偵察する必要があったのだ。
 わざわざ剣を合わせる流れを作ったのだから、もちろんそれは俺達の戦力を測る為。
「六戦鬼、ドンドュルマ・アイストルコだ」
「偽者は?」
「殺してはいない……俺達の名前を騙った事を死ぬ程に後悔させてやったがな」
「その六戦鬼が私達にどんな用で近付いたんですか?」
「簡単な話だ。お前達が本当に救国の小女神なら協力をしたい」
「パーティーを組んで最上階を目指そうって事ですか?」
「違うな。即席のパーティーで攻略が出来る程にこの塔は甘くない。それにお宝があれば揉める要因にもなるだろう」
「……つまりどちらかが窮地になった時は助けに行く……そんな協力でしょうか?」
「さすがだ、話が早い」
 もちろんドンドゥルマも脱出魔法道具は塔の入口で貰っているだろう。ただどんなアクシデントがあるかは分からない。保険は多い方が良いに決まっている。
「協力している間はお互いの邪魔をしない。そして何かあった場合、助けられた方はそこで終わりだ。この塔から撤退する。命あるのが一番だからな、俺達は少しでも多くの保険を掛けたい」
 つまり助けた方は競争相手が減るわけである。助けたメリットはそれ以外に無いわけだが、援軍という保険があるのはありがたい。
「構いませんよ。それで」
「随分とあっさり受けるんだな?」
「元から無かった保険だと考えれば、その申し出を受けても、断っても大差は無いですから」
「随分と厳しい」
 ドンドゥルマの言葉に俺は笑う。
「本当は『お互いの邪魔をしない』ってのが重要なんでしょうし」
 目指す場所が一緒ならば、最後は必ず競合になる。実際にミランと手を合わせて、ドンドゥルマはその競合相手が俺達になると思ったのだろう。
 だからもし戦うなら最後まで引き伸ばしたい。その間に相手が脱落するかも知れないから。
 それがドンドゥルマの本音だろう。
 まぁ、ライバルを早めに落として、この先のお宝独り占め……なんて考えもあるだろうが、現時点でお互いのパーティー全体の力がハッキリと分からないのでリスクが大きい。
「……隠す必要も無かったな」
「はい。では最上階で会いましょう」
「それと……」
 ミランに視線を向けるドンドゥルマ。
「ミランだ」
「今度は本気を見せてくれ、ミラン」
「そっちが見せてくれるならな」
 そしてドンドゥルマはその場から離れるのであった。

 ドンドゥルマが本当に六戦鬼なのかは分からない。ただ相当な戦力を持っているのは分かった。
 全く、天空の塔を登るのも大変だぜ。
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