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第20話:心が折れそうです
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その後お互い泣きながら別れを告げた。そして部屋に帰ってからも、ずっと泣き続けた。泣いて泣いて泣き続けたら、気が付くと朝になっていた。
さすがに極度の寝不足と酷い顔だったので、この日は貴族学院をお休みする事にした。人間、涙というものは無限大に出る様で、一晩中泣いたのに、また目が覚めると涙が溢れる。
何もやる気が起きないし、食欲もわかない。ただベッドの上で、窓の外を見て過ごす。そして思い出したかのように、涙を流すのだ。そうしているうちに、夕方になった。
「お嬢様、マッキーノ侯爵令息様がお見えですが…」
メイドが申し訳なさそうにやって来た。
「エディソン様が?寝間着姿だし酷い顔をしているから、申し訳ないのだけれどお帰り願えるかしら?」
そう伝えた時だった。
「アンリ、体調が優れないそうだね。大丈夫かい?」
メイドたちを押しのけてやって来たエディソン様。さすがに令嬢の部屋に勝手に入ってくるのは、いかがなものか…そう思ったが、そんな事は言えない。
「エディソン様、お見苦しい姿をお許しください。お陰様で、随分とよくなりましたわ」
と言っても、仮病みたいなものなのだが…
「そうだったんだね。でも、顔が随分とむくんでいるよ。目も赤いし。とにかく、今日はゆっくり休むといい。そうそう、3週間後には僕たちが婚約を結ぶことが決まったんだ。嬉しくてつい君の顔が見たくなってね。それで来たんだよ。一応後3週間はグレイズの婚約者だけれど、でも君たちの婚約破棄は決まっているのだから、あまりグレイズに近づいてはダメだよ。それにしても、2週間後の夜会は、グレイズの婚約者として出席するだなんて!君は僕の婚約者なのに!」
そう言って怒っているエディソン様。
「まあ、グレイズも君に未練があるみたいだし。グレイズからアンリを無理やり奪ってしまった節はあるからね。1日くらい、君をグレイズに貸してあげてもいいかなって思っているよ」
どうだい?僕って優しいだろう?そう言わんばかりに、ほほ笑んでいる。
「それじゃあ、僕はもう帰るよ。本当は口づけくらいはしたいけれど、一応まだ君はグレイズの婚約者だからね。我慢するよ。そうそう、母上がね、君が立派な次期侯爵夫人になれる様、母上自身の手で教育してくれると言っていたよ。母上が直々に教育してくれるなんて、よかったね」
あの気の強そうな夫人自ら、私を教育するですって…間違いなく虐められるわね…
昔の私なら、それでも喜んでエディソン様の元に嫁いだだろう。でも今は…
エディソン様が部屋から去って至った後、また涙が込みあげてきた。自分の今までの浅はかな行動を考えると、間違いなく私はマッキーノ侯爵夫人に嫌われているだろう。まあ、自業自得なのかもしれない…
あれだけ周りの状況も顧みず、エディソン様に付きまとっていたのだから。きっとはしたない令嬢と思われているだろう。
エディソン様の元に嫁ぐと決めたのに、逃げ出したい、グレイズと一緒にいたいという思いが溢れ出してきた。
ダメよ、そんな感情を抱いたら。グレイズの幸せの為に動くと決めたのだから。そう頭では分かっていても、心が付いて行かないのだ。
その時だった。
「お嬢様、グレイズ様がいらっしゃっておりますが…」
今度はグレイズが様子を見に来てくれた様だ。
「分かったわ、すぐに行くわね」
本当はこんな顔をグレイズに見せたら、心配されるだろう。でも、どうしてもグレイズに会いたかったのだ。
「グレイズ、いらっしゃい。よく来てくれたわね」
「アンリ、大丈夫か?お前、酷い顔をしているぞ。目も腫れているし、とにかく冷やせ」
近くにいた使用人にぬれタオルを持って来るように指示し、すぐに私の顔を冷やしてくれた。やっぱりグレイズは優しいわね。
「ありがとう、グレイズ。さっきエディソン様もお見舞いにいらしてくれたの…」
「そうか…貴族学院でも、俺とお前が婚約破棄をして、マッキーノ侯爵令息と再度婚約を結び直すという話題でもちきりだったよ。皆がお前の事を、すごく心配していたぞ」
「そう…皆にも心配かけちゃったみたいね。ごめんなさい、明日は学院に行くわ」
極力笑顔でそう伝えた。
その後は2人で他愛もない話しをして、足早に去っていたグレイズ。きっとエディソン様に気を使っているのだろう。グレイズの顔を見られただけで、心が少し軽くなった気がした。
グレイズもきっと辛いだろう。それなのに、私の様子を見に来てくれるだなんて…やっぱりグレイズは優しい。グレイズも頑張っているのだから、私もいつまでも泣いてばかりいられない。明日は学院に行かないと!
翌日、いつもの様に制服に身を通し、学院へと向かう。エディソン様が校門で待っていらっしゃると気まずいので、早めに登校する事にした。
やはり早めに登校したおかげか、学院内には人もまばら。ほとんど生徒はいなかった。このまま教室に行く気にはどうしてもなれず、人気の少ない校舎裏に腰を下ろす。
そういえばこの場所、私がエディソン様にあしらわれショックを受けていた時、定期的にここに来て、心を落ち着かせていたのよね。あの頃の私は、ここで一度心をリセットさせていた。自分で言うのも何だが、本当に図太い神経をしていたわ。
エディソン様を諦めてからは、この場所に来ることもなかったな…
それくらい、嫌な事もなく楽しく過ごしていたからだ。グレイズが私の為に、動いてくれていたから、私はこの場所に来ることもなかったのね。
考えたくないのに、ついグレイズの事を考えてしまい、涙が出てしまった。
その時だった。
「アンリ様、大丈夫ですか?」
さすがに極度の寝不足と酷い顔だったので、この日は貴族学院をお休みする事にした。人間、涙というものは無限大に出る様で、一晩中泣いたのに、また目が覚めると涙が溢れる。
何もやる気が起きないし、食欲もわかない。ただベッドの上で、窓の外を見て過ごす。そして思い出したかのように、涙を流すのだ。そうしているうちに、夕方になった。
「お嬢様、マッキーノ侯爵令息様がお見えですが…」
メイドが申し訳なさそうにやって来た。
「エディソン様が?寝間着姿だし酷い顔をしているから、申し訳ないのだけれどお帰り願えるかしら?」
そう伝えた時だった。
「アンリ、体調が優れないそうだね。大丈夫かい?」
メイドたちを押しのけてやって来たエディソン様。さすがに令嬢の部屋に勝手に入ってくるのは、いかがなものか…そう思ったが、そんな事は言えない。
「エディソン様、お見苦しい姿をお許しください。お陰様で、随分とよくなりましたわ」
と言っても、仮病みたいなものなのだが…
「そうだったんだね。でも、顔が随分とむくんでいるよ。目も赤いし。とにかく、今日はゆっくり休むといい。そうそう、3週間後には僕たちが婚約を結ぶことが決まったんだ。嬉しくてつい君の顔が見たくなってね。それで来たんだよ。一応後3週間はグレイズの婚約者だけれど、でも君たちの婚約破棄は決まっているのだから、あまりグレイズに近づいてはダメだよ。それにしても、2週間後の夜会は、グレイズの婚約者として出席するだなんて!君は僕の婚約者なのに!」
そう言って怒っているエディソン様。
「まあ、グレイズも君に未練があるみたいだし。グレイズからアンリを無理やり奪ってしまった節はあるからね。1日くらい、君をグレイズに貸してあげてもいいかなって思っているよ」
どうだい?僕って優しいだろう?そう言わんばかりに、ほほ笑んでいる。
「それじゃあ、僕はもう帰るよ。本当は口づけくらいはしたいけれど、一応まだ君はグレイズの婚約者だからね。我慢するよ。そうそう、母上がね、君が立派な次期侯爵夫人になれる様、母上自身の手で教育してくれると言っていたよ。母上が直々に教育してくれるなんて、よかったね」
あの気の強そうな夫人自ら、私を教育するですって…間違いなく虐められるわね…
昔の私なら、それでも喜んでエディソン様の元に嫁いだだろう。でも今は…
エディソン様が部屋から去って至った後、また涙が込みあげてきた。自分の今までの浅はかな行動を考えると、間違いなく私はマッキーノ侯爵夫人に嫌われているだろう。まあ、自業自得なのかもしれない…
あれだけ周りの状況も顧みず、エディソン様に付きまとっていたのだから。きっとはしたない令嬢と思われているだろう。
エディソン様の元に嫁ぐと決めたのに、逃げ出したい、グレイズと一緒にいたいという思いが溢れ出してきた。
ダメよ、そんな感情を抱いたら。グレイズの幸せの為に動くと決めたのだから。そう頭では分かっていても、心が付いて行かないのだ。
その時だった。
「お嬢様、グレイズ様がいらっしゃっておりますが…」
今度はグレイズが様子を見に来てくれた様だ。
「分かったわ、すぐに行くわね」
本当はこんな顔をグレイズに見せたら、心配されるだろう。でも、どうしてもグレイズに会いたかったのだ。
「グレイズ、いらっしゃい。よく来てくれたわね」
「アンリ、大丈夫か?お前、酷い顔をしているぞ。目も腫れているし、とにかく冷やせ」
近くにいた使用人にぬれタオルを持って来るように指示し、すぐに私の顔を冷やしてくれた。やっぱりグレイズは優しいわね。
「ありがとう、グレイズ。さっきエディソン様もお見舞いにいらしてくれたの…」
「そうか…貴族学院でも、俺とお前が婚約破棄をして、マッキーノ侯爵令息と再度婚約を結び直すという話題でもちきりだったよ。皆がお前の事を、すごく心配していたぞ」
「そう…皆にも心配かけちゃったみたいね。ごめんなさい、明日は学院に行くわ」
極力笑顔でそう伝えた。
その後は2人で他愛もない話しをして、足早に去っていたグレイズ。きっとエディソン様に気を使っているのだろう。グレイズの顔を見られただけで、心が少し軽くなった気がした。
グレイズもきっと辛いだろう。それなのに、私の様子を見に来てくれるだなんて…やっぱりグレイズは優しい。グレイズも頑張っているのだから、私もいつまでも泣いてばかりいられない。明日は学院に行かないと!
翌日、いつもの様に制服に身を通し、学院へと向かう。エディソン様が校門で待っていらっしゃると気まずいので、早めに登校する事にした。
やはり早めに登校したおかげか、学院内には人もまばら。ほとんど生徒はいなかった。このまま教室に行く気にはどうしてもなれず、人気の少ない校舎裏に腰を下ろす。
そういえばこの場所、私がエディソン様にあしらわれショックを受けていた時、定期的にここに来て、心を落ち着かせていたのよね。あの頃の私は、ここで一度心をリセットさせていた。自分で言うのも何だが、本当に図太い神経をしていたわ。
エディソン様を諦めてからは、この場所に来ることもなかったな…
それくらい、嫌な事もなく楽しく過ごしていたからだ。グレイズが私の為に、動いてくれていたから、私はこの場所に来ることもなかったのね。
考えたくないのに、ついグレイズの事を考えてしまい、涙が出てしまった。
その時だった。
「アンリ様、大丈夫ですか?」
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