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第16話:なぜあなた様がここにいるのですか?

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ゆっくり声の方を振り向くと、そこには騎士団の服を着たデイビッド様の姿が。

「アンジュ、会いたかった」

真っすぐ私の方に向かって走って来るデイビッド様。どうしてデイビッド様がここにいるの?全く理解できずに、無意識に後ずさってしまう。

すると

「アンジュ嬢に何の用ですか?」

そう言って私を庇う様に立ったのは、ダルク様だ。さらにスカーレット様や他の令嬢たちも、私の元に駆けつけてくれた。皆がデイビッド様を睨みつけている。

「あの…皆様、彼はその、私の幼馴染のデイビッド様です。デイビッド様、一体どうされたのですか?急にミラージュ王国までいらして」

デイビッド様に声を掛ける。

「アンジュ、俺、先日無事騎士団長になる為の試験に合格したんだ。貴族学院を卒院したら、俺は騎士団長になる事が決まった」

「そうでしたか。それはおめでとうございます。あなた様は、ラミネス様との婚約が決まっているとお伺いしております。やっとあなた様の想いが報われるのですね。わざわざその知らせを伝えるために、私に会いに来たのですか?」

私の話を聞いたスカーレット様が、私のすぐ隣にやって来た。

“アンジュ様、もしかして彼が、その…アンジュ様がおっしゃっていた幼馴染ですか?”

“はい…そうですわ…”

なるほど!と言った顔をしている。

「アンジュ、それは誤解だ。俺とラミネス嬢とはそういった関係では…」

「あなた様がアンジュ様を傷つけた令息だったのですね!何の御用でミラージュ王国にいらしたのかは知りませんが、これ以上アンジュ様を傷つける様なら許しませんわ!さあ、アンジュ様、学院に戻りましょう」

「そうですわ!あなたのせいで、アンジュ様がどんな思いでこの地に来たか!わざわざ騎士団長になった事と、婚約をした事を自慢しに来るだなんて!とにかくアンジュ様は今、ミラージュ王国の留学生です!どんな理由があろうと、彼女に近づく男は許しませんわ!さあ、参りましょう」

スカーレット様とさらにマリン様が、私の両腕をしっかりガードし、そのまま馬車へと誘導してくれる。

「待ってくれ!アンジュ、話を…」

「しつこいですわよ!」

それはそれは恐ろしい顔で、マリン様がデイビッド様を威嚇している。マリン様は敵に回すと厄介だが、味方に付けるとこの上なく心強い。

デイビッド様を睨みつけながら、すかさず私を馬車に乗せた。そして、すぐに馬車が出発する。

「待ってくれ、アンジュ。俺の話を聞いてくれ!」

必死に馬車を追いかけてこようとするデイビッド様。わざわざミラージュ王国までいらしたのに、こんな風にあしらってよかったのかしら?気になってデイビッド様を見つめてしまう。

奥の方では、令息たちも馬車に乗り込み、令嬢たちの馬車を追いかけるように走り出した。

「デイビッド様…何か言いたそうにしていらしたけれど、よかったかしら?」

ポツリとそんな事を呟く。

「確かに、必死に何か訴えていらしたわよね。私、あの方がアンジュ様を傷つけた張本人だと思ったら、なんだか頭に血が上ってしまって…やはり彼と話をした方がよかったかしら?」

ポツリとスカーレット様が呟いた。

「スカーレット様もアンジュ様も、何をおっしゃっているのですか?アンジュ様を傷つけた張本人なのですよ。あしらって大丈夫です。そもそも、あんな場所で待っているだなんて、一体どこで情報を仕入れたのかしら?」

確かに、学院ではなく船乗り場にいたのよね。一体どこで情報を仕入れたのかしら?

「とにかく、またあの男がアンジュ様に接触を図ってくるかもしれませんから、くれぐれも気を付けましょう」

マリン様が力強くそんな事をおっしゃっている。

「マリン様、貴族学院は部外者は入れませんので、大丈夫ですわ。用事があるなら、面会に来るくらいでしょう」

面会か…

「アンジュ様、デイビッド様でしたっけ?もしも面会にいらしたら、私も付き添いますわ。1人だと不安でしょう?彼が一体何しにこの地に来たのか、アンジュ様も気になるでしょう?」

確かにデイビッド様が一体何をしに来たのか、私も気になる。

「ありがとうございます、スカーレット様。あなた様が傍にいてくれると、心強いですわ。ただ、このまま諦めて帰るかもしれませんし。もしかしたら本当に騎士団長になった事と、婚約が決まった事を報告しに来ただけかもしれませんので…」

デイビッド様はとても律儀な方だ。何度も婚約を断られた私にけじめとして、報告に来たのかもしれない。

「わざわざそんな事で、他国に来るかしら?アンジュ様、何か困った事があったら、私たちにも相談してくださいね。出来る限り力になりますから」

皆が私の方を向いて、頷いている。

「ありがとうございます、皆さまがいらっしゃるだけで、本当に心強いですわ」

いつの間にかミラージュ王国にも、沢山の友人が出来た。それも皆が、私を心配してくれている。それが嬉しくてたまらないのだ。

デイビッド様が何をしに来たのかは分からない。でも、彼女たちがいてくれるから、私は大丈夫。なんだかそんな気がした。


※次回、デイビッド視点です。
よろしくお願いします。
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