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第54話:意地と後悔

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「ルミタン、頼む、話を聞いてくれ」

ドアをドンドン叩きながら、カルロス様が必死に話し掛けてくる。

「ルミナス、出てこい!ルミナス」

お兄様も私に声を掛けてくる。でも、どうしても部屋から出る気がしない。

「ルミタン、俺は7歳の事、王都の街で誘拐されたんだ。そんな俺を助けてくれたのが、元騎士団長、ルミタンの父親だった。一瞬にして大柄な男を倒すその姿に、俺は彼の様になりたい、そう強く思い、騎士団に入ったんだ。ルミタン、俺は君の父親を今でも尊敬している。だからこそ、今回の魔物討伐にも参加したいと強く思ったんだ。きっと元騎士団長なら、迷わず参加するだろうと…」


「その事でルミタンを傷つけている事は分かっている。でも俺は、困っている人を放っておく事なんて出来ないんだ。だからすまない。必ず生きて帰って来るから。明日、朝7時に出発する。もしよかったら、見送りに来てくれると嬉しい。我が儘を言っている事は分かっているから、もし気が向いたらでいいから」

カルロス様がお父様に憧れているのは知っていた。でも、まさかお父様が、カルロス様を助けていただなんて…

お父様はいつもそうだった。私達家族よりも、困っている人を最優先に考えて。そのせいで私たち家族が、どれほど寂しい思いをしたか…お父様にとって家族とは、一体何だったのだろう…

ふとお父様の事を考えてしまう。物心ついた時から、騎士団長として、さらに侯爵としてとても忙しくしていたお父様。

結局カルロス様も、私が一番大事と言いながら、お父様の様に民たちの為に家族を犠牲にするのだわ。きっとそうよ。

そう思ったら、カルロス様を見送りに行く気になんてなれない。でも…

明日カルロス様に会いに行かなかったから、もう二度とカルロス様に会えないかもしれない。そう考えると、やっぱり行った方がいいのかもしれないとも思ってしまう。

もう頭の中がグチャグチャだ。

結局この日は一睡もできずに夜を明かした。

翌朝

「お嬢様、カルロス様は7時にご出発されるのですよね。本当に行かなくてよろしいのですか?」

「ええ…行かないわ。私、カルロス様の前であんな酷い事を言ったのよ。どの面下げて今更会いに行けるというの。それに私、もう嫌なのよ。不安な夜を過ごすのが。もしかしたら今頃魔物に大切な人が殺されているかもしれないと、怯えながら暮らすのは…私、カルロス様と婚約破棄をしようと思っているの」

「お嬢様、あなた様は何を!」

「もう放っておいて!とにかく、私はカルロス様のお見送りにはいかないから!」

布団をすっぽりかぶり、そう叫ぶ。

「お嬢様は、変なところで頑固なのですから…後で後悔しても知りませんよ!」

はぁ~っとため息を付きながら、部屋から出ていくミリー。

しばらくすると、

「ルミナス、本当にお見送りに行かないのかい?本当にそれでいいのかい?」

「ルミナス、変な意地を張っていないで、出て来なさい」

「ルミナスちゃん、きちんと会っておいた方がいいわ。これが今生の別れになるかもしれないのよ」

「縁起でもない事を言うな!でも…可能性はゼロではない。後悔しないためにも、一緒に行こう」

お兄様たちが、私の部屋へとやって来た。でも…

「私は行きません。どうか放っておいてください!」

布団をもっこりと被り、そう叫ぶ。

「本当に頑固な子ね。後で後悔して泣いても、知りませんからね」

そう言って皆が出て行った。そっと窓の外を見ると、お兄様とお母様、さらにお義姉様とドリーが馬車に乗り込む姿が見えた。きっとカルロス様のお見送りに行くのだろう。

その姿を見た瞬間、どうしようもなく胸が痛む。

やっぱり私も、カルロス様を見送りに行けばよかった…そんな後悔が私を襲う。でも、今更行きたいだなんて言えない。

私ってどうしてこうも意地っ張りなのだろうか…

「はぁ~」

ついため息が漏れる。

「お嬢様、そんなに気になるのなら、行って来たらいかがですか?今ならまだ間に合いますよ」

いつの間にか現れていたミリーに声を掛けられた。

「私はお見送りにはいかないと言っているでしょう。もう放っておいてよ」

再び布団をかぶり、ミリーに向かって叫ぶ。

「本当にお嬢様は…」

はぁ~っと再びため息を付きながら出て行ったミリー。自分でも面倒な性格だという事は理解している。でも…どうしてもカルロス様のお見送りに行けないのだ。

変な意地のせいで…

既に大後悔をしている事は言うまでもない。

結局その後、悶々とした気持ちのままベッドの中で過ごしたのだった。
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