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第55話:お父様の想い
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その日は一切部屋から出ず、食事もせずに過ごす。何度もお母様やお兄様、お義姉様が様子を見に来たが、頑なにベッドから出ずにいた。
そして翌日。
ふと外を眺める。今頃カルロス様、魔物と戦っているのかしら?怪我をしたりしていないかしら…て、もうカルロス様なんてどうでもいいのよ。そうよ、もう私は彼と婚約破棄をする事に決めたのだから。
そもそもカルロス様だって、気持ちよく送り出せない様な私に、愛想をつかしたに違いないわ。
この日はどうしても貴族学院に行く気になれず、学院をお休みした。なんだかんだ言って、貴族学院卒業まで後3ヶ月。もうすぐ卒業認定試験もあるというのに…そもそも私、カルロス様と結婚しないのだから、後1年貴族学院に通ってもいいのよね。
そう、カルロス様と結婚しないのだから…
自分で勝手に決めた事なのに、なぜか胸がチクリと痛む。なんだか落ち着かなくて、部屋から出て、中庭へとやって来た。
「ルミナス、学院をサボってこんなところにいたのか。それにしても、どうして昨日カルロス殿を見送ってやらなかったんだ。カルロス殿、悲しそうな顔をしていたぞ」
私の元にやって来たのは、お兄様だ。
「お兄様は黙っていてください。私はもう、カルロス様と婚約を破棄するのですから!」
「何を勝手な事を言っているのだ!そんな事、今更出来る訳がないだろう。ルミナス、冷静になれ。カルロス殿はお前の事を、誰よりも大切にしてくれていただろう。魔物討伐に参加するのだって、最後までルミナスの事を心配して悩んでいたのだぞ」
「それでも結局、魔物討伐に参加する事を決めたではないですか?結局カルロス様も、お父様と一緒で、家族や婚約者よりも、任務の方が大事なのよ!」
「ルミナス、お前、本気でそんな事を言っているのか?父上は…」
「ドリトル、それにルミナスも。大きな声を出してどうしたの?」
私達の元にやって来たのは、お母様だ。
「ドリトル、少しルミナスと話をしたいのだけれど、いいかしら?」
「分かりました…」
お兄様が私たちの元を去っていく。私もその場を去ろうとしたのだが…
「ルミナス、ちょっといらっしゃい」
「私は…」
「いいから」
お母様に腕を掴まれ、そのまま連れて行かれる。お母様、怒っているかしら?私がお父様の事を悪く言ったから。でも、本当の事じゃない!
お母様に連れられ向かった先は、かつてお父様が使っていた書斎だ。一体ここに何の用があるというのかしら?
「ルミナス、これ、お父様の日記なの。読んでみて」
お母様から渡されたのは、古い日記帳だ。お父様が日記を付けていただなんて、意外ね。どうせ騎士団についてのことが、書かれているのだろう。そう思って日記帳を広げたのだが。
そこには私とお兄様の事がびっしりと書いてあった。
“3月24日
今日はルミナスが初めて歩いた。生憎俺は騎士団の稽古に行っていて見られなかったが、俺が帰ってきたら、嬉しそうにヨチヨチと歩いて俺の方にやって来たのだ。なんてルミナスは可愛いんだ。俺の可愛い天使“
“4月26日
今日はドリトルが騎士団に入団した。正直俺は、ドリトルにはやりたい事をやって欲しい、俺の後なんて継がなくてもいい。そう思っていた。でも、ドリトル自身が、俺の様な騎士団長になりたいと言ってくれたのだ。俺は父親として何もしてやれていない。だからせめて、騎士団長として、ドリトルの先輩として、彼を支えて行きたい“
「お父様はね、忙しくてあなた達と一緒に過ごせない事を、とても気にしていたのよ。日記の最後の日を読んでみて」
そう言うと、寂しそうに笑ったお母様。最後の日には
“7月15日
明日いよいよ魔物討伐に行く事になった。厳しい戦いになるだろう。もし俺に何かあったら、妻やドリトル、ルミナスはどうなるのだろう、そう考えると不安でたまらない。それでも俺は、行かないといけない。子供たちには今まで、随分寂しい思いをさせた。この討伐が終わったら、騎士団を引退しよう。そしてこれからは侯爵として、子供たちに寄り添っていこう“
そう書かれていた。
「どうやらお父様は、引退を決めていた様ね。でも皮肉な事に、引退する前にあの人は命を落としてしまった。あの人ね、引退後はあなたとドリトルと一緒に、色々なところに行くつもりだったみたいよ。ほら、ここに行きたいリストが書いてあるでしょう」
そう言うと、泣きながらお母様が、日記帳のメモページに書かれているリストを見せてくれた。
そして翌日。
ふと外を眺める。今頃カルロス様、魔物と戦っているのかしら?怪我をしたりしていないかしら…て、もうカルロス様なんてどうでもいいのよ。そうよ、もう私は彼と婚約破棄をする事に決めたのだから。
そもそもカルロス様だって、気持ちよく送り出せない様な私に、愛想をつかしたに違いないわ。
この日はどうしても貴族学院に行く気になれず、学院をお休みした。なんだかんだ言って、貴族学院卒業まで後3ヶ月。もうすぐ卒業認定試験もあるというのに…そもそも私、カルロス様と結婚しないのだから、後1年貴族学院に通ってもいいのよね。
そう、カルロス様と結婚しないのだから…
自分で勝手に決めた事なのに、なぜか胸がチクリと痛む。なんだか落ち着かなくて、部屋から出て、中庭へとやって来た。
「ルミナス、学院をサボってこんなところにいたのか。それにしても、どうして昨日カルロス殿を見送ってやらなかったんだ。カルロス殿、悲しそうな顔をしていたぞ」
私の元にやって来たのは、お兄様だ。
「お兄様は黙っていてください。私はもう、カルロス様と婚約を破棄するのですから!」
「何を勝手な事を言っているのだ!そんな事、今更出来る訳がないだろう。ルミナス、冷静になれ。カルロス殿はお前の事を、誰よりも大切にしてくれていただろう。魔物討伐に参加するのだって、最後までルミナスの事を心配して悩んでいたのだぞ」
「それでも結局、魔物討伐に参加する事を決めたではないですか?結局カルロス様も、お父様と一緒で、家族や婚約者よりも、任務の方が大事なのよ!」
「ルミナス、お前、本気でそんな事を言っているのか?父上は…」
「ドリトル、それにルミナスも。大きな声を出してどうしたの?」
私達の元にやって来たのは、お母様だ。
「ドリトル、少しルミナスと話をしたいのだけれど、いいかしら?」
「分かりました…」
お兄様が私たちの元を去っていく。私もその場を去ろうとしたのだが…
「ルミナス、ちょっといらっしゃい」
「私は…」
「いいから」
お母様に腕を掴まれ、そのまま連れて行かれる。お母様、怒っているかしら?私がお父様の事を悪く言ったから。でも、本当の事じゃない!
お母様に連れられ向かった先は、かつてお父様が使っていた書斎だ。一体ここに何の用があるというのかしら?
「ルミナス、これ、お父様の日記なの。読んでみて」
お母様から渡されたのは、古い日記帳だ。お父様が日記を付けていただなんて、意外ね。どうせ騎士団についてのことが、書かれているのだろう。そう思って日記帳を広げたのだが。
そこには私とお兄様の事がびっしりと書いてあった。
“3月24日
今日はルミナスが初めて歩いた。生憎俺は騎士団の稽古に行っていて見られなかったが、俺が帰ってきたら、嬉しそうにヨチヨチと歩いて俺の方にやって来たのだ。なんてルミナスは可愛いんだ。俺の可愛い天使“
“4月26日
今日はドリトルが騎士団に入団した。正直俺は、ドリトルにはやりたい事をやって欲しい、俺の後なんて継がなくてもいい。そう思っていた。でも、ドリトル自身が、俺の様な騎士団長になりたいと言ってくれたのだ。俺は父親として何もしてやれていない。だからせめて、騎士団長として、ドリトルの先輩として、彼を支えて行きたい“
「お父様はね、忙しくてあなた達と一緒に過ごせない事を、とても気にしていたのよ。日記の最後の日を読んでみて」
そう言うと、寂しそうに笑ったお母様。最後の日には
“7月15日
明日いよいよ魔物討伐に行く事になった。厳しい戦いになるだろう。もし俺に何かあったら、妻やドリトル、ルミナスはどうなるのだろう、そう考えると不安でたまらない。それでも俺は、行かないといけない。子供たちには今まで、随分寂しい思いをさせた。この討伐が終わったら、騎士団を引退しよう。そしてこれからは侯爵として、子供たちに寄り添っていこう“
そう書かれていた。
「どうやらお父様は、引退を決めていた様ね。でも皮肉な事に、引退する前にあの人は命を落としてしまった。あの人ね、引退後はあなたとドリトルと一緒に、色々なところに行くつもりだったみたいよ。ほら、ここに行きたいリストが書いてあるでしょう」
そう言うと、泣きながらお母様が、日記帳のメモページに書かれているリストを見せてくれた。
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